三が日も過ぎ、世の中のお正月ムードが徐々にいつもの日常へと戻っていく。
田添は三が日の夕方まで実家で過ごし、その日の晩からはいつものように借家へ戻ってきた。
何故なら今日はテイオーたちが実家から戻って、夕方になれば田添宅でお正月パーティーをするからだ。テイオーを受け持ってから毎年しているため、田添としても楽しみにしている催し物だったりする。因みにパーティーが終わればテイオーたちはそのまま田添宅にお泊まりするのも恒例。
『明けまして、おめでとうございます!』
夕方になって早速呼び鈴が鳴ったので田添が玄関をガラガラと開ければ、揃った声で新年の挨拶をするテイオーたち。メッセージアプリで既に元旦には新年の挨拶はしているが、やはり面と向かって言うのが大切なのだ。
みんなは防寒対策を施した私服。本当ならば晴れ着姿を田添に見てもらいたいが、そもそもお泊まりするつもりで来ているため私服の方がいいのである。
「明けましておめでとう。みんな今年もよろしくな。寒かっただろう。上がってくれ」
田添はそう促してテイオーたちを招き入れる。
みんなは礼儀正しく『お邪魔します』と上がって居間へ向かった。
「じゃあじゃあ、早速パーティーの準備開始ー!」
『おー!』
テイオーの号令でメンバーは持ち寄った物をテーブルに並べていく。
「ボクはママが『トレーナーさんに』って預かった伊達巻き! パパが伊達巻き好きで、いつも決まったとこで買ってる美味しいやつなんだよ!」
テイオーが持ってきた伊達巻きは太く、長く、見るからにお高いであろう木箱に入っていた。しかもご丁寧に金箔まで添えられている。
旧家とはいえテイオーもそれなりに格式高い家に生を受けたウマ娘。故にこれくらいは当たり前のようだ。
「ターボはね〜……これ!」
続いてターボがドスンとテーブルに置いたのはホワイトハム……ではなく丸々一本のチャーシュー。
「どうしてチャーシューなの?」
テイオーの疑問は当然みんなの疑問でもある。
その疑問にターボは、
「ハムは家で食べ飽きたから! それにこのチャーシュー、お正月セールで近所のラーメン屋が千円で売ってたんだぞ!」
胸を張って答えた。
ターボのその答えにテイオーたちは『ターボ(さん)(ちゃん)らしい』と思わず笑みが溢れ、カレンはみんなに気付かれないように「(千円チャーシュー……)」と小声でつぶやいて何やら思い出し笑いしていた。
「じゃあ次はマヤの番! マヤはね〜……じゃーん!」
マヤノが取り出したのは大きなエビ。シータイガーと呼ばれる大きなものだ。それが八尾もある。
「でっかーい!」
「おっきいー!」
これにはターボもウララも大興奮。
「えへへ〜♪ これねぇ、パパがみんなで食べるようにって持たせてくれたんだ〜♪」
マヤノの父親は娘を溺愛している。そんな愛娘が将来捕まえるはずの男やその仲間たちと過ごすと聞いて取り寄せたのだ。
「次はアタシー!」
そう言ってマーベラスがドドンとテーブルに乗せたのは、立派なマダイ。
「ネイチャに商店街のお魚屋さんに仕入れてもらうように頼んでもらって買ってきたんだー! マーベラスでしょー!」
フフンと得意げに鼻を鳴らすマーベラス。
鮮度もいいが、見るからに脂も乗っていそうで、これには田添も「おお」と感嘆の声が零れる。
「皆さん凄い物ばかりなので、ちょっと恥ずかしいです……」
「ならフラワーちゃんはウララと一緒にせーので出そうよ!」
「はい♪ ありがとうございます!」
ウララと共にせーのでテーブルに並べた二人。
フラワーはお手製のお煮しめで、ウララは日頃ご贔屓にしている商店街のお惣菜屋さんでおすすめされた甘い厚焼き玉子だった。
「二人のだって凄いよ! フラワーの方はニンジンやレンコンがお花の形で可愛いし、ウララの玉子焼きだっておっきくて美味しそう!」
テイオーがそう言えば、他のメンバーや田添も『そうそう』と言うように頷いている。
それを見てフラワーもウララも嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「最後はカレンだね♪ 結構悩んだけど、カレンはこれにしてみましたー♪」
カレンが持っていた大きな箱を開ければ、そこには富士山を模した大きなシフォンケーキが現れ、これにはメンバー全員が『うわぁ☆』と目を輝かせる。
「甘さも控えめだからお兄ちゃんもきっと食べられると思うよ♪」
「気を使ってくれてありがとうな、カレン」
「どういたしまして♡ ならあとでこの富士山シフォンの前で写真撮ってね♡」
「お安い御用さ」
「えへへ〜♡」
無条件に了承してくれる田添の優しさに思わず緩む頬を両手で押さえて喜ぶカレン。
「それじゃあ鏡餅を開こうか」
『はーい♪』
そして田添が用意するのは毎年鏡餅とそれを焼いたあとで入れるお雑煮の汁。
醤油ベースの汁で、具は鶏胸肉とニンジンという至ってシンプルな物だが、テイオーたちにとっては特別なご馳走である。
◇
「それじゃあ、今年も怪我なく、無理なく、みんなで頑張ろう! 乾杯!」
『カンパーイ♪』
田添の音頭でジャイアントキリングのお正月パーティーが始まった。
夕方という少し遅い時間に集まり、チームだけの早めの鏡開き。
そしてみんなが持ってきた食べ物をお皿に盛り付け、お餅を焼いたり、マヤノとマーベラスが持ってきた食材をみんなで調理したりと楽しく過ごして、パーティーが本格的に始まったのはすっかり夜になってから。
因みにマヤノが持ってきたシータイガーは特大エビフライになり、マーベラスが持ってきたマダイはホットプレートで豪快に塩焼きにした。
「お汁粉の方も作ってあるから、食べたいなら言ってくれ。きな粉とみたらしもあるからな」
田添がそう言えばマヤノとマーベラスは早速『お汁粉食べたい!』と手を挙げ、他のメンバーも食べたい物をリクエストする。
なので田添は「分かった」と笑顔で頷いて、お汁粉の方の鍋を火にかけた。
「実家のお正月も楽しいけど、やっぱりトレーナーのとこでやるお正月が一番楽しいや♪」
テイオーはそう言ってご機嫌にはちみードリンク(田添特製ブレンド)を啜る。
他の面々もテイオーの言葉に同意しながら、思い思いの料理を堪能。
「ターボね、トレーナーが作ってくれるみたらしが一番好き!」
「私もです♪ 教わって作っても、なかなか同じ味にならなくて……トレーナーさんじゃないとあの味は出せませんから♪」
ターボの言葉にフラワーも続けて言えば、他のメンバーも『確かに』と頷く。
「じっくり弱火でやれば滑らかに仕上がるんだ。まあこれは母さんに教わったんだが、母さんの方がもっと美味いな」
「ターボ食べてみたい!」
「わたしも食べてみたーい!」
「私も一度食べてみたいです!」
ターボ、ウララ、フラワーの三人が言えば、田添は笑いながら「なら今度送ってもらうよ」と返した。
「ねね、トレーナー! ボクいつもの頼んでいいー?」
「そう言うと思って用意しておいたぞ」
「わぁ、やっぱりトレーナーはボクのこと分かってるね!」
テイオーが言う『いつもの』とは、田添がテイオーに振る舞う餅バターのはちみつ掛け。
焼いた餅にバターを塗り、そこへはちみつを掛けたシンプルな物だが、はちみつ大好きっ子テイオーにはお正月と言えばこの田添特製の餅バターなのだ。
「マヤはやっぱりトレーナーちゃんのお汁粉かな〜♪ こし餡でぇ、ただ甘いだけじゃなくてぇ、トレーナーちゃんの愛がた〜っぷりって感じがして好き〜♪」
「アタシもアタシも! マーベラスなお正月を過ごすにはトレーナーのマーベラスなお汁粉が不可欠!」
「カレンはそこにきな粉入れて食べるのが好きかな〜♪」
田添特製お汁粉の香りに思い思いの言葉を述べるマヤノ、マーベラス、カレンの三人。
「そんな風に言ってくれるなら作った甲斐があるな。火傷しないように食べてくれ」
そこへ田添がお汁粉、餅バター、みたらしを持って戻ってくると、みんなは『待ってました!』とばかりに手を伸ばす。
しかしちゃんと一人一人順番にお行儀良く。
「ん〜♪ やっぱりお正月はこれだよ〜♪ お家でも自分でやったけど、トレーナーが作ってくれた方が何倍も美味しい〜♪」
「褒めても何も出ないぞ」
「嬉しいって顔に書いてあるよ〜?」
「そりゃあ嬉しいからな」
えへへ〜、あはは、と笑い合うテイオーと田添。
テイオーに至ってはもう顔が締まりなく緩みきってしまって、マヤノやカレンから見れば『メスの顔』だった。
「みたらし美味しいな〜♪ ね!」
「美味いぞー!」
「とっても美味しいです♪」
横でウララたちが餅にみたらしをつけてほっぺたを押さえていると、田添は「喜んでもらえて何よりだ」と微笑む。
そして、
「カレンちゃんみたいにきな粉入れたらホントにもっと美味しくなった!」
「マーベラァァァス!」
「えへへ、合うでしょ〜?」
ウララたちの向かい側ではお汁粉組がその味に舌鼓を打っていた。
田添はみんなが喜ぶ顔が見れて、新年早々幸せな気持ちになる。
「良く噛んで食べてくれよ?」
『はーい!』
こうしてお正月パーティーは笑顔に溢れて過ぎていった。
◇
パーティーの後片付けをみんなで終えたあとは、順番にお風呂を済ませる。
寮みたいな大浴場ではないので、一人ずつだ。
その間に田添はテイオーたちの保護者へ報告のため電話していく。
親たちは娘が強く望んで田添宅に泊まる上、田添の人柄を理解しているのでなんの不安もない。あるとすればちゃんと夜ふかしせずに眠れるかくらいだ。ただカレンの母に至っては娘のことを熟知しているため、強攻策を取らないか心配している。が、仮にそうなってもテイオーが止めるだろう。
そして最後にカレンがお風呂から上がってくると、
「あ、やっぱりみんな寝ちゃってる」
テイオーたちは既に大広間に敷いた各自の布団で夢の中。
田添が電話しているので静かにトランプで遊んでいたのだが、ウララが寝落ちするとつられるように一人、また一人と眠り、今に至る。
「たくさん食べて、さっきまで遊んでいたからな。電池切れだろう」
田添がそう言うとカレンは「そうかも」と笑顔を浮かべつつ、田添のすぐ左隣にピタリと身を寄せた。
「お風呂入って来たから、カレン温かいでしょー?♡」
「ああ、ポカポカだな」
「今日はカレンもお兄ちゃんと同じ匂いだよー?♡」
「いつも使ってるやつ忘れたのか?」
「うん、うっかりね♡」
本当のところは田添の色に染まりたくてわざと持ってこなかっただけのカレン。
「なんかカレンから俺が使ってるシャンプーの匂いがするのって不思議だな」
「あはは、そんなことないよー♡」
いずれは毎日そうなるんだから、と心の中で囁いて、カレンは田添の肩に頭を擦り付ける。
「そうか。それじゃあ、俺もシャワー浴びてくるか」
「お兄ちゃんは湯船に浸からないの?」
「俺はシャワー派だからな。だからカレンに湯船の栓は抜いてくれって頼んだんだ」
「そっか♪」
本音を言えば自分が浸かった湯船に田添も浸かってほしいと言いたいカレンだが、それはそれで色々と問題なので胸の内にしまっておく。
「じゃあ、お兄ちゃんがお風呂入ってる間にコーヒーの準備しといてあげるね♡」
「助かる。寝る前だから――」
「ホットで、ミルクも入れるんだよね?♡」
「ああ、頼むよ」
「はぁい♡」
寒い時期にホットのカフェオレは体を温め、リラックス効果を与えて良く眠れるのだ。
田添の好みをしっかり把握しているカレンは、田添に愛情たっぷりのカフェオレを用意して、まるで夫婦になったみたいな幸せな気持ちに浸るのだった。
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