本日は節分なのもあって学園内もいつもより賑やかだ。
カフェテリアでは本日限定ランチも提供されているし、豆撒きを行う生徒やチームもある。
チーム『ジャイアントキリング』もトレーニングのあとで田添宅へ直行して、豆撒きをしている真っ最中。
「鬼はー外!」
『鬼はー外!』
「福はー内!」
『福はー内!』
二階の奥の部屋から階段、一階に降りてその奥の部屋から玄関という順番で福豆を田添の掛け声と共にテイオーたちが撒いていく。
福豆は田添が前日から炒った豆を近くの神社でお祓いしてもらい、それを神棚に供えておいた物を使用。
本来豆を撒くのは家長である田添の役目だが、天使たちに撒いてもらった方が効果がありそうなのでテイオーたちにお願いしていたりする。
「それじゃあ福豆を拾って、頂こうか」
『はーい!』
豆撒きが終われば今度は福豆を拾って食べるテイオーたち。
福豆とは撒く直前まで神様にお供えしていた物であることから縁起物ということで、それを捨ててしまうのは良くないこと。
なので撒く際に変なところへ入り込まないよう、事前に田添が天井から紐で吊るしておいたバスタオルに当てるようにし、下に新聞紙を敷いておけば拾うのも簡単で衛生面的にも大きな問題はない。
因みに外に撒いた豆は邪気(鬼)を払ったあとの豆ということで拾ったあとで捨てる。
「みんなちゃんと外出届は提出して来たんだよな?」
田添の問いにテイオーたちは福豆を食べつつ、揃って頷いて見せた。
今の時刻は夜の七時。本当なら寮の門限だ。
しかし豆撒きは夜に行うことが大切であるため、みんな朝一で各寮長へ外出届を提出して田添宅へ来ているのだ。
時間帯を気にせずにやってもいいが、田添はこういうことは正式にやりたい派なのである。
「それより、早く節分パーティーしようよ! 時間もったいないもん!」
テイオーがそう言えば、他のメンバーも『そうだよ!』と言わんばかりに田添を急かした。
なので田添は「ああ、分かった」と笑顔で返して、キッチンから節分パーティー用の料理を持ってくる。
まずは今では定番となった恵方巻き。
「トレーナーさんの恵方巻きって毎年可愛いですよね♪ 私大好きなんです♪」
「ターボも好きだぞー!」
「わたしも好きー!」
「用意した甲斐があるよ」
満面の笑みを浮かべるフラワーたちに、田添もつられて笑みを浮かべる。
「トレーナーの恵方巻きってカラフルだよね♪」
「オシャレで可愛いし、美味しいよね♪」
「まさにマーベラスな恵方巻きだね!」
「ウマスタにあげよっと♪」
田添特製の恵方巻きは普通の恵方巻きとは少し違う。
太巻きの中央にある具材は赤ウインナーと甘く茹でたニンジンのみ。
一方それを包む周りの酢飯が変わっていて、桜でんぶ、黒すりごま、白炒りごま、炒り卵、ワカメをそれぞれ一色の酢飯にする。
あとはそれを一色ずつ海苔で巻き、最後に中央に添えるウインナーとニンジンを乗せてまた海苔で巻いてしまえば出来上がり。
こうすることで太くなり過ぎずに彩り鮮やかな巻き寿司になるのだ。
「今年の恵方はあっちだな。みんな喉に詰まらせないように、良く噛んで食べるんだぞ?」
『はーい♪ 頂きまーす!』
むぐむぐと仲良くみんなで、今年の恵方へ向かって恵方巻きを食べ始める。
田添は田添で黙々と食べながら、テイオーたちが怪我なく過ごせることを願うが、テイオーたちは田添の恵方巻きが美味しくて耳も尻尾もご機嫌に揺れていた。
「食べ終わったぞ!」
「ウララも!」
ターボ、ウララが食べ終わり、
「ご馳走様ー♪」
「美味しかったー♪」
「マーベラース♪」
続いてテイオー、マヤノ、マーベラスが食べ終わる。
一方、食べるのがどうしても遅いフラワーは一生懸命食べている。
しかしちゃんと田添とカレンがフラワーのペースに合わせてあげていた。
「ご馳走様でした!」
「ご馳走様ー♪ 今年もとっても美味しかったよ、お兄ちゃん♪」
「ご馳走様。うん、それは良かった」
こうしてみんな恵方巻きを食べ終えると、今度はニンジンジュースで乾杯し、パーティー料理を堪能する。
「トレーナー、これ何?」
「イワシで作ったフライだ」
「イワシフライかぁ! ボク好き!」
「トレーナー、このハンバーグとっても美味しいぞ!」
「イワシハンバーグだな。ニンジンもたくさん入れたんだ」
「だから美味しいのか!」
「けんちん汁、とっても美味しいです♪」
「温まるー♪」
「こんにゃくの食感が楽しくてマーベラス♪」
「おかわりもあるからたくさん食べてくれ」
「トレーナー、これなんのお肉なの?」
「クジラだ。山口県では節分に縁起物としてクジラの肉を食べるみたいでな。竜田揚げにしてみたんだ」
「クジラさんなの!? 美味しい!」
「お兄ちゃんって本当にお料理上手だねー♡ カレンもっと好きになっちゃうー♡」
「カレンはお手頃だな」
「お兄ちゃんだけだもーん♡」
こうしてジャイアントキリングの節分パーティーは相変わらず賑やかに過ぎていった。
当然帰りはちゃんと田添がそれぞれの寮まで送っていったそう。
―――――――――
『………………』
「あはは……そんな睨まないでくれよ」
田添は放課後になってトレーナー室に集まったテイオーたちに、物凄く睨まれている。
その理由は簡単に言えば嫉妬だ。
本日はバレンタインデー。
トレセン学園でもみんなが楽しみにしている日であり、友チョコ交換や日頃お世話になっているトレーナーへお菓子を渡している光景が多く見られる。
田添のデスクには女性の同僚や担当以外のウマ娘たちから貰ったお菓子の包みがちらほらあった。
同僚からのチョコは当然義理チョコ。こういうイベント事が好きで、こういう日には良くお菓子を配り歩いているのだ。
そして担当以外のウマ娘からのチョコも義理チョコ……いや、お礼チョコと言うのが正しいだろう。
理由は田添に怪我の早期発見で大怪我を免れたり、捻挫や打撲を治療してもらったり、熱中症や脱水症状でふらついた際に応急処置をしてもらったりなどなど……何かしらしてもらった子たちがその時のお礼として手作りのお菓子や自分の好きなお菓子を買って渡したのだ。
みんなテイオーたちが田添のことを本気で愛しているのを知っているので、今からその輪に加わろうなんて微塵も思っていない。
しかしそれはそれ。これはこれだ。
テイオーたちにとっては田添が自分たち以外からバレンタインのプレゼントを貰っているという事実が許せない。毎年こうだが、許せないのだ。
何故なら、
「ボクたちはあげたいの我慢してるのに……」
テイオーたちは毎年バレンタインデーに愛する田添へ本命チョコを渡さないから。
理由は簡単で、田添が甘い物を苦手としているからである。
本当なら自分たちだって田添に愛情をたっぷり詰めたチョコレートを贈りたい。しかしそうすると田添が困ってしまう。愛する田添を困らせることは将来の妻としてよろしくないのだ。
だからこそ、優しさで受け取っている田添やお菓子を贈る者たちが許せない。
「これは俺にってだけじゃなくて、みんなでどうぞって言われてるんだ。だから怒らないでほしい」
「…………トレーナーのバカ」
フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまうテイオー。
頭では理解しているが、心はそう簡単に理解出来ないのだ。
「ほら、みんなで食べよう。これで購買で好きな飲み物買ってさ」
「……ありがと」
テイオーは不貞腐れつつも田添から千円札を受け取ると、みんなを連れて購買へ走っていった。
それを苦笑いで見送りつつ、田添はブラックコーヒーの準備に取り掛かった。
◇
「わっ! このクッキー美味しい!」
「ターボはこの生チョコが好き!」
「このチョコマドレーヌ、しっとりしていてとっても美味しいです♪」
バレンタインデーのお茶会が始まってしまえば、テイオーたちの嫉妬心は甘いお菓子に掻き消されていく。
「マヤ、このマーブルクッキーが一番好きかなー♪」
「アタシはこのチョコニンジンスティック! シンプルだけど色んなチョコの味があるし、カラフルでマーベラス!」
「ウララはね〜、全部美味しくて好きー!」
みんな思い思いの感想を述べつつ、お菓子を頬張る中、
「お兄ちゃん、あーん♡」
「はいはい、ほら」
「あむ……ん〜♡ 美味しい♡」
カレンは抜かりなく田添から構ってもらっていた。
テイオー含め、チームのみんなはまだまだ詰めが甘い。故にカレンは『嫉妬させたお詫び』にアーンをしてもらっているのだ。しかもみんなお菓子に夢中なので邪魔されないという。
それでいてその一回だけで終えてしまうのでバレることもない。
「それじゃあ、俺からみんなにバレンタインデーのプレゼントだ」
カレンへアーンをし終わったあとで、田添がみんなに告げる。
毎年、田添はバレンタインデーになると日頃お世話になった人たちに簡単な贈り物をするのだ。
それは基本的にお菓子なのだが、担当バであるテイオーたちには残る物を贈る。
「トレーナータオルだ!」
「今年はなんだ!?」
田添がテイオーたちに贈る物は毎年タオル。
しかしただのタオルではなく、真っ白なタオルに田添が手ずから刺繍を施した物。
田添の母親は刺繍が趣味で、田添自身も手先が器用なことから幼い頃から母親から良く刺繍の手解きを受けていたのでその腕はプロ級。
ちゃんと手や汗を拭くのに邪魔にならないよう、タオルの一角にワンポイントの刺繍。
一昨年は『FIGHT』や『大逃げ』、『不屈』などの言葉。昨年はニンジンやイチゴといったメンバーそれぞれが好きな物の刺繍。
そして今年は、
「今回はみんなの誕生日の花にしてみた」
それぞれの誕生花。
去年の今頃からコツコツと制作していたのだ。
「ボクの誕生日の花って何?」
「テイオーの誕生花はイキシアだ。花言葉は団結。リーダーらしくていいと思ってな」
「なるほど〜♪ アリガト、トレーナー♡」
田添の解説にテイオーは満面の笑み。しかしイキシアには『秘めた恋』という花言葉もあることを田添とテイオーは知らない。
「ターボは!? この黄色いの!」
「それはハルシャギクっていう花で、花言葉はいつも陽気。ターボらしいだろ?」
「おお! 気に入ったぞ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを爆発させるターボ。そんな彼女を落ち着かせるように、田添は優しく彼女の頭を撫でた。
「私のは……見たことはありますが、お名前はなんなのでしょうか?」
「その花はデルフィニウム。花言葉は――」
「清明ですね! 嬉しいです!」
「ああ、喜んでもらえて何よりだ」
「はい♡」
刺繍の花に負けない大輪の花のような笑みを浮かべるフラワー。しかしこの笑顔の理由にはデルフィニウムの西洋の花言葉に『激しい愛情』というのがあるから。
「トレーナーちゃーん! マヤのは!?」
「マヤの花はコブシという花だな。花言葉は愛らしさだ」
「っ!? そっか……えへ、えへへへへ♡」
愛らしさなんて言われて思わずトリップ状態になるマヤノ。
しかし仕方ない。何より愛する田添からその花言葉を選んでもらえたのだから。
「アタシの花は?」
「マーベラスのはルピナス。花言葉はいつも幸せ」
「わぁ! アタシにピッタリ! マーベラース!」
目をいつもよりも爛々に輝かせて喜ぶマーベラス。
田添は『刺繍した甲斐があったな』と胸の奥が温かくなる。
「トレーナー、わたしのお花さんは何って言うお花なの?」
「ウララのはオーニソガラムという花だ。花言葉は純粋」
「じゅんすい? お水?」
「ウララみたいな何事にもひたむきに頑張る子のことだ」
「そっかー! えへへ、嬉しいなぁ♡」
刺繍を見詰め、頬を桜色に染めるウララ。
田添はそんな彼女に優しく微笑んだ。
「お兄ちゃん♡」
「カレンの花はイチゴの花にした。花言葉は先見の明」
「(尊重と愛情に幸福な家庭って意味もあるよね♡)」
「気に入らなかったか?」
「そんなことないよ♡ 早速ウマスタにアップしちゃおー♡」
上機嫌に鼻歌交じりに刺繍を撮影するカレン。
それを見て田添はホッとした。
こうしてチーム『ジャイアントキリング』のバレンタインデーは笑顔に包まれて過ぎていった。
読んで頂き本当にありがとうございました!