ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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冬と言えば

 

 季節は冬。

 日に日に寒さが身に沁みてくるこの時期。

 吉部はチームのトレーニングがオフということもあって、それを利用してオフに予定が無いメンバーを部室に集合させた。

 当然、彼からのお誘いであれば何を差し置いてでも駆けつける全メンバー。

 

「みんな本当に予定は無かったのか?」

 

 集めておいて言うのもあれだが、と少々困惑気味に吉部が言えば、みんな口を揃えて『無い』と言う。

 そもそもトレーニングがオフだということは、吉部もオフであることが濃厚。彼に差し迫った仕事や個人的な用事が無い限りは何かしら自分たちのために時間を割いてくれるとみんな知っているし、事前に彼が仕事をオフにするということもシービー経由でみんなが把握済み。

 ならばメンバー全員、予定を空けておくのが当然の流れなのだ。

 

「まあいい。これからすることは人数が多い方がいいからな」

 

 これからすること。それは冬の定番、鍋パーティである。

 

「これからみんなで食材を買いに行って、何鍋がいいか決めたいと思う。勿論、費用は全て俺が持つからな」

 

 ドンと胸を叩く吉部がお茶目で、メンバーは思わずキュンと来た。

 

「では食材を買いに行くぞ」

『おー♪』

 

 ◇

 

 吉部がみんなを連れてきたのは、大型スーパー。

 学園とウマ娘たちが過ごす寮の中間に位置する場所にあるため、学園に通うウマ娘たちにとってはお馴染みの場所だ。

 

「うーん、一通りスーパーの中を見て回ってみたけど、みんな何鍋がいい?」

 

 シービーがみんなに問うと、

 

「時期が時期なんで練り物安かったですし、おでんなんてどうです? おでんも鍋ですし」

「私もウオッカさんの意見に賛同します。様々なさつま揚げがありましたし、お値段もお手頃価格かと」

 

 ウオッカとブルボンがおでんを提案。

 その意見に他のメンバーも頷き、今度こそ食材確保ということでカートを持って、それぞれがおでんに入れたい種をカートへ入れていく。

 

「そういえば、みんなそれぞれ好きな種があるよな? 何なんだ?」

 

 カートを押しながら吉部がふと浮かんだ質問をみんなにすると、

 

「アタシはこんにゃくが好きー♪ 食感が楽しいから♪」

「私は大根が好きだね。あの出汁が染みたのがなんとも言えない」

「私はなんでも好きだが、必ず入れてもらいたいのは餅巾着だな。それとはんぺんがあれば完璧だ」

「私はさつま揚げが好きです、マスター。さつま揚げは様々なバリエーションがあって無限の可能性があります」

「俺は……やっぱ卵かな〜。あとはしらたきとちくわ!」

 

 それぞれ好きなものを答えていく中、

 

「牛すじとフランクフルト」

 

 ブライアンだけはブレない。

 そもそもフランクフルトをおでんの種として答えられる彼女は強者だろう。

 

「フランクフルト? ソーセージじゃなくッスか?」

「それはブライアンさんのお家では必ず入るもの、なのでしょうか?」

 

 なんだかんだこのメンバーでおでんを突くことになったのは初めてのブルボンとウオッカは、当然ブライアンの好きなおでんの種を初めて耳にし、それが普通のおでんの種とは違ったことから小首を傾げると、

 

「ほら、ブライアンは肉が好きだろう? だから実家で親御さんが最初はウインナーを入れてたみたいなんだ。それで最終的にブライアンが満足するのがフランクフルトになって、フランクフルトを入れるのが定番になったみたいだ」

 

 事情を知る吉部が説明し、二人はすぐに納得してしまった。

 

「でもブライアンはトレーナーが作るロールキャベツは好きだよな」

 

 シリウスがにやりと笑って言えば、ブライアンはチラリと彼女へ視線をやってから「食べると頭を撫でてくれるからな」と言葉を返す。

 ブライアンは自他共に認める野菜嫌い。前まで唯一許せるのは姉であるビワハヤヒデが作るとろとろになるまで煮込まれたカレーの野菜とニンジンくらいだった。

 しかしそれだとどうしても栄養バランスが偏ってしまうため、吉部が試行錯誤して野菜を食べさせる努力を今もしているのだ。

 嫌嫌ながらも野菜を食べたブライアンを吉部は〇ツゴロウの如く撫で回して褒め、それがブライアンにとっては『野菜を食べればワシャワシャしてくれる』ということになっている。

 ロールキャベツも同じ理由で本当はキャベツを剥ぎ取って食べたいのをワシャワシャされたいがために食べているのだ。

 

「ブライアンの野菜嫌いは筋金入りだからね。まるで前世で野菜に何かされたのかと思ってしまうほどだ」

 

 ルドルフが苦笑いしてそんなことを言えば、

 

「前世のことなど知らん。嫌いなものは嫌いなんだ。野菜だって嫌嫌食われるより、好んで食われた方が嬉しいだろ」

 

 プイッとそっぽを向いて返した。

 

「知り合った当初よりは野菜食べるようになったけど、未だにピーマンはダメだよね♪」

 

 シービーが可笑しそうに言えば、ブライアンは見るからに不機嫌そうに耳を絞る。

 

「ピーマン? ああ、あのミドリゴ〇ブリのことか。あんなものヒトが食べるものじゃない。何がピーマンの肉詰めだ。わざわざあんなものに詰めなくてもそのまま焼いて食べる方が何億倍も美味い。比べるのすらおこがましい。そもそもなんであんな青臭くてクソ苦いものに肉を詰める? 肉への冒涜だ。ピーマン農家はみんなニンジン農家になった方が富を築けるぞ」

 

 珍しく個人的な意見を早口に並べ立てるブライアン。

 皆はそれを見て、彼女はやはりあの姉の妹なのだと思わずほっこりしてしまう。

 

「まるでピーマン農家に恨みがあるみたいですね……」

「聞いてくれるか、ブルボン?」

 

 ブルボンのつぶやきにギュインッと首を回して彼女へ詰め寄ると、彼女の返答も無しに語り始め、もう理由を知っている吉部・シービー・ルドルフ・シリウスの四人は苦笑いをした。

 

「あれは私が小学生の頃だ。当時も私は野菜が嫌いでな。そんな時に学校の体験授業で近所の農園へ野菜の収穫の手伝いをしに行った」

「私もそういう経験はあります。私の場合は田植えでしたが」

「俺はさつま芋掘りだなぁ」

「それで収穫している時に、農園の案内人がこう言った……『これは苦味の少ない品種のピーマンだから、生でも食べられる。収穫されたばかりの新鮮な物だから、試しに食べてご覧』とな。みんなが食べるから、私もその空気に流されるがまま食べた。しかし案内人の言ったことは嘘だった」

 

 そう言いながら悲しそうな悔しそうな複雑な表情をして拳を握るブライアンを見て、ウオッカは勿論だが流石のブルボンも同情してしまった。

 

「不味かったんだ。死ぬほど。失礼だろうとなんだろうと目の前で吐き出したほどだ。それ以来ピーマンは二度と口にしないと信仰もない神に誓ったんだ。何が苦味の少ない品種だ。ニオイも味もそのままだったんだぞ? 嫌いだと言っているのに、そんな品種改良如きで克服出来るならとっくに克服してるんだよ。そもそも品種改良するなら全て無味無臭にしてから世に出せと言いたい。というか品種改良しないと売れないと分かっていてどうしてそんな無駄な努力をするのか理解に苦しむ。完全に努力の方向性を間違えてるだろ」

「そ、そうッスね……」

「私が何故野菜が嫌いなのか分かるか? 不味いからだ。あれは虫や草食動物が食べるものだ。それを何故他に主食がある我々まで食べる必要がある? おかしな話だと思わないか? そもそも我々が野菜を食べてしまってはそれを主食とする動物が食べられなくなるだろう。我々が食べるなら芋類や根菜類で十分だ」

「ブライアンさんは、もう食べられる野菜を食べたらいいと思います」

 

 ブルボンが率直な意見言えば、ブライアンは「ああ、そうするつもりだ。だがミドリ〇キブリは二度と食べない!」と、まるで決意表明のように宣言する。

 

「何が青椒肉絲だ。肉絲だけで十分だろうが。何が回鍋肉だ。ミドリゴキ〇リを入れるだなんてあり得ない。あとピラフやら炒飯やら彩り目的で何故ソイツをチョイスする? 彩りが欲しいならカニとかエビとかニンジンとか……緑色が欲しいならせめてグリンピースやインゲンやネギでいいだろう。そもそもあんなのを育ててるから経営難になるんだ。あんなものよりニンジンを作った方が何倍も利益になるというのに……」

 

 取り憑かれたかのように恨み辛みをブツブツと死んだ魚のような目をして語り出してしまったブライアン。

 そこへブルボンが「パプリカは許せるのですか?」と訊ねそうだったので、それは吉部がそっと彼女の口を手で押さえて阻止する。

 でないと当然パプリカも大嫌いなブライアンが更に暴走するからだ。

 

「ほら、ブライアン。好きなフランクフルトを選べ」

 

 なので吉部が彼女の気を逸らすために彼女の大好物を口にすれば、ブライアンの目に光りが戻り、尻尾をグルングルン回しながら意気揚々とフランクフルトを選ぶ。

 彼女が選んだフランクフルトは大きくてそこそこ値の張る物だったが、吉部はキラキラな瞳で持ってきた愛バの頭をそっと撫でてカートにそれを入れるのだった。

 

 ◇

 

「では、いただきます!」

『いただきます!』

 

 買い物を終え、部室でおでんを作り、大鍋を囲む吉部と愛バたち。

 大根やこんにゃくといった味が染み込むのに時間がかかる種は圧力鍋で一気に調理し、あとは他愛もないお喋りをしながら全体に味が染み込むのを待った。

 そして時間は丁度夕食時。結局、スーパーではおでんに入れる食材とは別で、おやつやら飲み物やらも買い込み、おでんが出来上がるまで楽しく過ごせた。

 

「うん、いい出来だ」

 

 吉部が大根の味を確かめてから満足そうに頷けば、みんなも満面の笑みでおでんを味わう。

 

「ほら、ブライアン……これが今日のノルマだ」

 

 そう言って吉部は器へロールキャベツや大根、ゴボウ、ニンジンを次々に入れていった。

 ブライアンは舌打ちこそはしなかったが、ムスッとした顔で渋々ながらもそれを食べ、食べる度に吉部から頭をワシャワシャされて尻尾を揺らす。

 

「……なんかズルい」

 

 当然、ルドルフは不満げにつぶやいた。

 

「はっ。出た出た。皇帝様の独占欲(笑)がよ」

「ルドルフだって生徒会長の仕事が終わればワシャワシャしてもらってるんだから、そうやって拗ねない方がいいよ」

「分かってはいるが……見せつけられるとどうしてもな……」

 

 更には、

 

「マスター、私もナデナデを所望します」

「あ、相棒……俺も……」

「お前たちも甘えん坊だな……よしよし」

『〜♡』

 

 甘えることに素直な後輩組はそう申し出て、吉部に撫でられている。

 

「そんなに羨ましいならルドルフもねだれば? おねだりはルドルフの得意技でしょ?」

「得意技ということではないのだが……」

「いいからねだってこいよ。うじうじされてるとこを見せられるのは面倒だからな」

「ぬぅ……」

 

 シリウスに背中を叩かれ、ルドルフはちょこちょこと吉部の背後に回って、控えめに彼の背中に頭を押し付ける。

 すると吉部は快くルドルフの頭を撫で、ルドルフは耳をピコピコと揺らした。

 ルドルフが撫でてもらえば当然、

 

「トレーナー、私のことも頼むぞ?」

「アタシもアタシも〜♪」

 

 シリウスとシービーも撫でられることを望む。

 吉部は「なんだか今日はみんな甘えん坊なんだな」と可笑しそうにしながら、しっかりと愛バたちの要望に答えるのだった。

 

 こうして穏やかにおでんパーティは進み、メンバーは身も心もポカポカになって、また吉部への想いを強くした。




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