ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジャイアントキリングの5月

 

 本日からゴールデンウィーク。

 それはトレセン学園も同じで、ウマ娘やチームによって予定は様々だ。

 羽を伸ばしたり、トレーニングに精を出したり、小旅行へ行ったり、何処かへ強制連行されたり……。

 

 田添率いるチーム『ジャイアントキリング』はというと、

 

「では点呼」

 

「いちっ!」

「にーっ!」

「さ、さん!」

「よーん!」

「ごマーベラス!」

「うっらら〜♪」

「なな♪」

 

「うん、全員いるな。それじゃ、キャンプ場へ出発だ!」

 

『おー!』

 

 これからみんなでキャンプへ向かう。

 キャンプと言っても本格的なキャンプではなく、コテージを借りてというキャンプの雰囲気を味わうという方が強い。

 場所はマヤノが小さい頃にパパに連れてってもらった湖畔が見渡せるところ。

 マヤノパパが特別に予約を入れてくれたので、格安で利用出来ることになったのだとか。(マヤノパパとしては娘が将来の旦那(確定事項)と結ばれるためのアシストを全力でしている)

 

 コテージまでは田添の安全運転で移動し、途中で道の駅やらで食材やお菓子も確保。

 今は受付も終わり、荷物も全て降ろし終えたので、日が沈む前に湖畔をぐるりと一周しようとしているのだ。

 

「うん、全員いるな。他の人の邪魔にならないように二列になって一周しよう」

『はーい!』

「ウララは俺と一緒に最後尾な」

「うっらら〜♪」

 

 何故ウララが田添の隣なのか。

 それは彼女がいつも自由奔放なため、何かに目を引かれて迷子にならないようにするためである。

 かと言って田添がウララを力いっぱい押さえようとしても、力では敵わないのだが。

 

 ◇

 

「ボートある!」

「明日はボート乗るのもいいね!」

 

 散歩を開始してまだ数分。先頭を歩くターボとテイオーは早速スワンボートを見て目を輝かせている。

 

「散策コースもあるみたい! タヌキとかシカもいるんだって!」

「マーベラス! 見てみたーい!」

 

 その後ろを歩くマヤノ、マーベラスはパンフレットを見ながら明日からの遊び候補を吟味中。

 

「フラワーちゃん、あれはなんていうお花かな?」

「あれは……ジャケツイバラっていうみたいです! キレイですね!」

 

 田添とウララの前を歩くカレンとフラワーはパンフレットに載っている植物と見比べつつ、この時期に咲いている花々を見たり、写真に収めたりしている。

 

 そして、

 

「あ、チョウチョさんだー!」

「そうだな、ウララ。嬉しいのは分かるが追いかけないぞー」

 

 田添は色んなものに興味を引かれて道を外れそうになるウララを上手いこと制御していた。

 鳥が飛んでいればそれを見上げるので転ばないように誘導したり、魚が見えたと湖畔の方へ行くので落ちないように支えたり……。

 相変わらずのウララであるが、田添のウララへの対応もこれまでも付き合いから慣れたのもあって、見事なものだ。流石にトレーニング中のよそ見はしないが、プライベートとなると未だに色んなものに興味を引かれてしまう様子。

 

「カエルさんだー!」

「模様的にトノサマガエルかな?」

「お殿様!? じゃあお城に住んでるんだね! お水の中にあるのかなー!?」

「どうだろうな。呼吸のこともあるから、水辺にあるんじゃないか?」

「なるほどー! あれ?」

「どうした?」

「このカエルさん、お殿様なんだよね?」

「……トノサマガエルだからな」

「じゃあ、なんでお城にいないんだろう?」

「……さあ、なんでだろうな?」

 

 ウララワールド全開の会話に田添もなんと返すのが正解か分からず、そしてその可愛さに笑いを堪えつつ返した。

 因みに他のメンバーも二人の会話は聞こえているが、田添が珍しく困っているのでその反応が新鮮でときめいている。

 

「あ、分かった!」

「ん?」

「きっと暴れん坊な将軍みたいに、城下町を見て回ってるんだよ! グラスちゃんと前にカフェテリアのテレビで再放送やってたの観たもん!」

「……そうか。きっとヨシムネガエルもそうなんだろうな」

「きっとそうだよ! 頑張ってねー!」

 

 トノサマガエルを応援するウララだが、トノサマガエルに至っては気にすることなく茂みの中へ。

 一方で、田添が頑張ってウララに話を合わせていたので、テイオーたちは勿論、フラワーまで声を出して笑っていた。

 なので田添は「笑わないでくれ」と照れ臭そうにテイオーたちにお願いするのだった。

 

 ◇

 

 コテージ宿泊二日目。

 昨晩はコテージ前でバーベキューをし、いつもより遅くまでみんな起きていた。

 田添もそうだったが、これしきのことで生活リズムを狂わすことなく、いつもの時間に目覚め、みんなを起こさないようにリビングへやってきてモーニングコーヒーを嗜む。

 持ってきたノートパソコンを起動させ、メール等の確認という軽作業を済ませると、すぐに電源をオフにした。

 

 今回の旅行はテイオーたちのリフレッシュがメインだが、田添もまた引率者ではあるがリフレッシュを目的としてここにいる。

 ならばここに来てまで仕事をするのは良くないし、何よりテイオーたちに怒られてしまうのだ。

 

「都会から田舎へ移り住む人たちの気持ちがなんとなく分かるな」

 

 いつもは家の中にいても外から色んな音が聞こえてくるが、今居るところは本当に静かで、田添はサンルームから見える穏やかな景色に癒やされる。

 かと言って、東京で育った身としてはそこでの生活になれてしまっているので、他所へ移り住もうとまでは思っていない。

 実際、都会から田舎へ移り住んでも、馴染めずに戻ってしまうというケースもあるのだから。

 

 田添としては休暇や旅行でこういう静かな場所に訪れて羽を伸ばす方が性に合っているのだろう。

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

 そこへメンバーで一番最初に目が覚めたフラワーがやってきて、挨拶した。

 田添が「おはよう、フラワー」と返せば、フラワーは両頬をほんのりと春色に染めてはにかむので、田添は小首を傾げてしまう。

 

「俺、寝癖でもついてたか?」

「あ、いいえ、そんなことありません! 今日もトレーナーさんは素敵です!」

「ありがとう。なら、笑顔の理由を教えてもらってもいいかな?」

「えっと……いつもは朝起きたら、ブルボンさんや他の方に一番に挨拶するんですけど、今日はトレーナーさんと一番に挨拶出来たことが嬉しくて……」

 

 えへへ、と両頬を両手で押さえてもじもじと身をよじるフラワー。尻尾も耳も嬉しさを表す様に、控えめだがピコピコ、ふわりと揺れていた。

 

「俺も朝一でフラワーたちの寝顔が見れて嬉しいよ」

「トレーナーさん……♡」

「みんなまだ起きてこないだろうし、サンルームで一緒にお茶しないか?」

「はい♡」

「じゃあココアでも淹れよう」

「お手伝いします♡」

 

 フラワーはこの時だけでも田添を独り占め出来ることに、他のメンバーに悪いと思いながらも高鳴る胸が抑えられなかった。

 なのでちょっとずるをし、子どもらしく甘えるようにほんの数分だけサンルームで田添の膝上で抱っこしてもらうのだった。

 

 ◇

 

「大丈夫、トレーナー?」

「……大丈夫だ」

「そっか♪ でも無理しちゃダメだからね?」

「ありがとう、テイオー」

 

 楽しかったキャンプも今日で終わり。

 チェックアウトを済ませた田添たちは、荷物を車に乗せたあとでキャンプ場内にあるレストランで朝食を食べながら、帰るまでのプランの会議中。

 

 ただ田添の疲労の色が心配なので、みんな今日はわがままは言わずに田添の負担が減ることを考える予定。

 一昨日はテイオーたちをそれぞれキャンプ場内にあるレンタルボートで二人乗り用のボートに乗せて七周したり、散策コースで野鳥や野生動物の観察をした。

 昨日はキャンプ場内に設置されたアスレチックゾーンで遊び尽くした。

 

 普段から鍛えてはいるものの、ウマ娘との体力の差は天と地。寧ろついていけた時点でアスリート並だ。

 なので流石の田添も筋肉が悲鳴をあげている。

 しかし田添としてはテイオーたちが楽しめていたことが何よりも嬉しいし、自分も筋肉痛にはなっても楽しかった。

 

「今日はゆっくりするから♪」

「みんなでリラックスするのもマーベラス!」

 

 普段からアグレッシブにあちこち連れ回すマヤノとマーベラスも、本日はまったりする。

 

「てことで、ゆっくり帰りながら、良さそうなところ見つけよう!」

「じゃあターボについてこーい!」

「うっららー♪」

 

 こうして予定は敢えて未定のまま、みんなは席を立った。勿論、筋肉痛の田添をフラワーとカレンが両サイドから支えて。カレンはきっちり田添の左側をキープも忘れてない。

 

 ◇

 

 そんなこんなで車に乗り込み、帰路に着くジャイアントキリング。

 

「トレーナー、あそこ植物公園だって!」

「わぁ、行ってみたいです!」

 

 テイオーが窓の外から見つけた植物公園。

 これにはその名の通り花が好きなフラワーも目を輝かせる。

 他のメンバーも同様だったため、田添はゆっくりと植物公園へ車を進めた。

 

 

「みんな他の人の迷惑にならないようにな」

『はーい!』

 

 入園する前の約束をし、受付を済ませていざ植物公園へ入る田添たち。

 ゲートをくぐって最初に出迎えてくれたのは、アーチ型に配置されて咲き誇るフジ。

 

「わぁ、こんなにたくさん!」

「すごーい!」

「それにいい匂い!」

 

 普段は大人しいフラワーが一番に声をあげると、ウララ、ターボとフジの花に感動の声をあげる。

 テイオー、マヤノ、マーベラスも『凄い凄い!』と声を揃え、他の人の邪魔にならないようにしながら、フジの花をウマホのカメラで撮影。

 当然、

 

「とっても綺麗だね、お兄ちゃん!」

「ああ、見事だな」

 

 カレンも撮影中。しかしそのカメラに収めているのは花だけでなく、田添もしっかりとだ。

 

 アーチをくぐり抜け、ラベンダー、ポピー、バラと今を彩る花々の順路を進んでいくと、ここの名物である大温室が見えてくる。

 

「おー!」

「サボテンだー!」

「バナナとかもあるよー!」

 

 温室内ある熱帯地位にある植物たちを見て、大はしゃぎするメンバー。

 

「ちょっと暑いかも……」

「温室だからな」

 

「サボテンって色んな形があるんですね〜」

「フラワーちゃん、このサボテン触ってもいいんだって!」

 

 暑さが苦手なカレンだが、田添からは絶対に離れない。

 そんな横でウララはフラワーを誘って、サボテンと触れ合って楽しんでいる。

 すると他のメンバーもつられて、みんなしてサボテンを触り始めた。

 

「全然チクチクしない! ボク、もっと痛いのかと思ってた!」

「痛くないから触ってもいいよって貼り紙されてるんでしょ、テイオーちゃん!」

 

 マヤノのツッコミにテイオーは「あ、そっか」と頭を搔く。

 

「じゃあ次にいってみよー!」

『おー♪』

 

 こうしてその後も遊びのスペシャリストことマヤノとマーベラスを先頭に、植物公園を満喫した。

 最後はみんな家族や友達といった人たちへのお土産を買い、田添の運転する車内でぐっすりと寮へ戻るのだった。




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