梅雨に入り、雨が降り続く日々。
敢えてこういう日に悪天候時のレースを想定して走り込みをしたりもするが、ジャイアントキリングの面々はもうすぐサマードリームトロフィー予選を控えているため、今日は休養日だ。
そんな日は当然、
「トレーナー、遊ぼー!」
「映画観よー!」
テイオーたちは田添のもとへまっしぐら。
真っ先にやってきたテイオーとマヤノはそれぞれ田添の右腕と左腕に抱きついて、誘惑している。(田添からすればただ甘えられているようにしか思えないが……)
「ちょっと待っててくれな。みんなの予選で当たる相手ウマ娘たちの情報収集しておかないといけないんだ」
優しい笑顔で断りを入れる田添。
そうすればテイオーもマヤノも素直に頷いて、田添の邪魔にならないようにソファーへ移る。
するとトレーナー室の扉がノックされた。
田添が作業しながら返事をすれば、
「ターボがぁぁぁ! 来たぁーっ!」
「失礼します、トレーナーさん」
「マーベラァァァス!」
「こんにちはー、トレーナー!」
「失礼しまぁす♪」
他のメンバーが続々とやってくる。
一気に賑やかになったものの、テイオーとマヤノが大人しくソファーにいることから、みんなそれだけで田添が作業中だということを察して、みんなも二人に倣って定位置に。
「みんな、こんにちは。悪いが今の内にやっておきたいことがあるから、それが終わるまで待っててくれ」
田添の言葉にみんなは返事をし、作業が終わったら何をするかを話し合うことにした。
「ボクは雨だから何か室内で遊べることしようかなって思ってるんだー」
「マヤは映画のBD持ってきたの! この前上映されてたウマ娘と担当トレーナーの大恋愛ストーリー!」
「マヤノ、それキスシーンあるから見れないって騒いでたじゃん」
テイオーのツッコミにマヤノは「うっ」と怯みつつも、両手の人差し指を突き合わせながら「だって、トレーナーちゃんと観たいんだもん……」と頬を膨らませる。
「ターボは映画でもいいぞ!」
「私もです。キスシーンは見ていられないかもしれませんが……」
「アタシは恋愛映画よりサスペンスとかアクションがいい!」
「ウララはみんなでするならなんでもいいー!」
「映画ならスプラッターかホラーがいいな〜」
カレンがそう言えば、みんな声を揃えて『無理ッ!』と拒絶。
でもみんなのこの反応は予想していたので、カレンは「だよねー♪」とあっけらかんと返した。
みんなでその後もああでもないこうでもないと意見を出し合っていると、何処からか「くぅ」と可愛らしい音がする。
「えへへ、お腹減っちゃったー」
その音はウララのお腹の音。
すると当然、
「んー、ボクもちょっと小腹空いたなぁ」
「ターボも何か食べたいぞ……」
「マーベラスも〜……」
他のメンバーもウララにつられてしまう。
「前にトレーナーちゃんに連れてってもらったイタリアンのお店また行きたいなー」
「オシャレで美味しかったですよね。私もまた行きたいです」
「お兄ちゃーん、みんなこう言ってるけどー?」
カレンがそう催促すれば、
「あそこは予約制だからな。今日はダメだが、今度予約入れておくよ」
田添はしっかりとみんなのリクエストに応えた。
みんなはその優しさにお礼を言い、話題はすっかりそのイタリアンレストランのことに。
「マヤノが言ってるイタリアンのとこってアレでしょ?」
「そーそー! 合コンの時に行ったとこー!」
合コン。それは独身の男女がグループで参加する出会いを目的としたお食事会。
実は独身の男性トレーナーたちの間には定期的に合コンが開かれる旨のメールが届く。
日頃からウマ娘という容姿端麗な異性と接するトレーナーという職業でも、全員が全員担当ウマ娘と結ばれることはない。
世の中、ウマ娘との結婚は本人たちの同意があれば重婚が認められているし、年の差があるのも当たり前。
なので例としてトゥインクルシリーズが終わったと同時にその担当トレーナーと婚約発表をするウマ娘だっているのだ。
ただその一方でトレーナーにだって好みがあるし、選択の自由があるし、担当ウマ娘は確実に自分たちよりも年下になる。
見た目がどんなに年上に見えてもそう見えているだけで、年下なのには変わらない。
なので基本的に合コンは、同い年または年上の異性との出会いを求めている男性トレーナーたちのためにあるのだ。
ただウマ娘と接しているとどうしてもウマ娘たちと過ごす方が圧倒的に多いため、合コンに参加する男性トレーナーはそんなにいない。
トレーナーという職業は個人差はあれど、基本給とは別に担当したウマ娘がレースで入着すればトレセン学園から達成報酬が振り込まれる。
故に世の女性陣たちからすれば、ウマ娘のトレーナー=面倒見が良くて高収入も夢ではないということで、将来の旦那候補に悪くないのだ。
加えてトレセン学園所属のトレーナーともなれば、その狭き門をくぐり抜けたエリートであるため、スペックも自然と高いものとなる。
なので独身男性のトレーナーのもとには幹事側から一方的にメールが来るのだ。
「前にみんなでご飯食べたとこー!」
「わぁ、ウララ、またみんなでご飯食べたーい!」
「皆さん優しかったですもんね!」
前に田添に連れて行ってもらった時のことを思い出し、無邪気に話し出すターボ、ウララ、フラワーの三人。
しかし、
「俺のとこにはもう合コンのメールは来ないんだ。ごめんな」
田添の言葉にターボたちは少しがっかりした。
しかしこれは仕方ない。
何故なら田添が合コンにテイオーたちを連れて行ったことで、本来の目的が達成出来ずに終わってしまったことから、幹事から永久追放されてしまったから。
因みに幹事はトレセン学園の高等部で社会科の教師をしている30代男性で、トレーナー陣と教師陣二つのグループの幹事をしている。
「でもお兄ちゃんにはカレンたちがいるのに、合コンなんて誘う幹事さんの方が間違ってると思うなー」
カレンがいつもよりも黒い笑顔で言えば、テイオーやマヤノもうんうんと頷いて同意した。
そもそも田添は合コンに興味がなく、テイオーたちを連れて行くことにしたのも、テイオーたちが行ってみたいと日頃から言っていたスイーツバイキングで有名なイタリアンレストランだったからだ。
勿論、テイオーたちの分は田添自身が払ったが、合コンで少しでも女性とお近づきになりたかった者たちとしては納得出来なかった。
何しろ女性陣全員がテイオーたちの可愛さに夢中で当初の目的どころではなくなってしまったのだから。
「改めて言うが、俺はあの合コンに参加したのはみんなにスイーツバイキングをご馳走したかったからだ。俺自身はちゃんとみんなとの将来を考えているよ」
田添がハッキリと言えばテイオーたちは安堵するのと同時に、『自分たちの見る目は間違いじゃなかった』と思えて頬が桜色に染まる。
彼が言うように、彼は真剣にテイオーたちとの将来を考えているのだ。
最初は幼い女子が年上の男性に抱くような憧れだと思い、どんなにアピールされても『大人をからかうんじゃない』と諭していた。
しかし何日も何ヶ月も、ちゃんと物心がついた子たちから何回も何十回も『大好き』と言われ続けて、それと真剣に向き合おうとしない男はいないだろう。
流石にみんな中等部(フラワーに至ってはまだ小学生と同じ)なので明確なことは告げていないが、そこはテイオーたちもちゃんと理解している。
大人だからこそ『もっといい人と』、『これから出会う人と』等と諭したものの、本人たちから『貴方じゃないと嫌』なんて言われ続けてしまえば田添だって考えを改める他ない。
そもそもウマ娘とは、元来『この人』と決めてしまえば余程のことがない限り一途に想い続けるのだから。
「よし、終わったぞ。そんな話より、おやつでも食べに行こう」
作業を終えた田添がそう言うと、テイオーたちは『待ってました!』とばかりに活気づく。
そう。田添は自分たちが適齢期になれば、必ず期待通りの答えをくれる。
だからテイオーたちはなんの不安も感じずに日々を過ごせるのだ。
あるとすれば自分たちの中で、誰が一番になれるかである。
田添に限って誰かを特別扱いすることはないが、テイオーたちにとってはこれはもうアスリートウマ娘としての性なのだ。
◇
昇降口へやってくると朝から降り続いた雨は幸い止んでいる。
田添は職員用の昇降口からなので、校門前で待ち合わせだ。
「雨止んでるぞー!」
「傘差さなくていいからラッキー!」
「ちょっとお空も見えてるよー♪」
「マーベラス♪」
「うっららー♪」
ターボたちはワイワイキャッキャとご機嫌だが、カレンに至っては「ちょっと残念〜」なんて苦笑いで零しているので、フラワーは「カレンさんは雨が好きなんですか?」と質問する。
その質問にカレンは、
「だって雨ならお兄ちゃんと相合い傘出来るもん」
と返した。
するとフラワーは勿論、他のメンバーも『あっ』と声を揃える。
相合い傘。それも大好きな大好きな田添と。
もっとこっちに寄って。
濡れちゃうだろ。
俺は大丈夫だから。
君が濡れないならそれでいい。
君の方が大切だからな。
風邪を引いたら看病してくれ。
それかキスで風邪を移してしまおうか。
みんなは余裕で田添との甘々相合い傘イベントが脳内で再生させる。
是非ともそうなってほしい。寧ろお願いします。
そう思うとターボとウララは何故か空に向かって謎の雨乞い踊りをし始めた。
しかしそんなことをしたところで、御天道様はその可愛さに微笑むのみ。その証拠にしっかりと日差しが差してきた。
「……何してるんだ、ターボとウララは?」
そこへいつまで経ってもテイオーたちが校門へやって来ないので、田添が生徒用の昇降口まで迎えにくる。
しかし謎の踊りをしている二人を見て流石の田添もこれには困惑。
「止んでないよ、お兄ちゃん♪」
カレンがそう言えば、他のメンバーもうんうんと頷いて見せる。
「あ、トレーナーだ!」
「雨乞いしてたらトレーナーが来たぞー!」
わーいわーいと田添の両サイドへやってきて満面の笑みを浮かべる二人。
「雨乞いってなんだ?」
「ターボ、トレーナーと相合い傘したいんだ!」
「ウララもー!」
「だから雨乞いか……そんなことする必要ないだろう。今は梅雨なんだからまた雨は降る。その時にすればいいじゃないか」
田添の言葉にターボもウララも『そっか!』とすぐに納得した。
「それよりほら、みんな空を見てみろ」
『…………わぁ!』
田添に言われて空を見上げるテイオーたち。
すると雲の隙間から一筋の天使の階段が現れていた。
「きっと天使たちがみんなのところへ舞い降りてくれたんだろうな」
田添がそんなこと言うと、テイオーたちは田添のことが素敵過ぎて思わず彼にみんなして抱きついてしまう。
「なんだ、天使は俺のとこに来てしまったのか」
嬉しい。恥ずかしい。照れる。色んな甘い思いをさせてくる田添にテイオーたちは『〜〜♡』と言葉にならない嬉しいうめき声を出しながら、また更に田添への愛を強める。
そして田添から「ほら、時間が限られているんだからもう行くぞ」と言われ、みんなは一旦離れておやつを探しに駅前へと繰り出すのだった。
みんなは当然笑顔だったが、頬はしっかりと夕焼け色に染まっていた。
読んで頂き本当にありがとうございました!