ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジャイアントキリングの7月

 

 サマードリームトロフィーが終わり、トレセン学園に通う生徒たちは夏休みに入った。

 多くの生徒たちは夏合宿へ突入するが、今年のチーム『ジャイアントキリング』は全員がサマードリームトロフィー決勝まで勝ち進んだこともあって、夏合宿は8月になってから入る予定。

 なのでそれまではみんな休養がメインの軽い調整メニューだ。

 そして今日は、

 

「みんな揃ったな?」

『はーい!』

「では出発!」

『しゅっぱーつ!』

 

 みんなで遠足へ行く。

 

 遠足。その名の通り遠くまで足を伸ばすこと。

 先日のサマードリームトロフィーのお疲れ様会ということで、田添が大きく七夕祭りを行う地域に連れて行くことにしたのだ。

 なのでみんなはそれぞれの寮に外出届を事前に提出済みで、今日はとことん遊ぶ所存。

 みんなは早速田添が運転する車の後部座席に乗り込み、既に買ってきたお菓子やらジュースやらを開けながら雑談している。

 

「七夕祭りか〜。商店街でもちょっとしたイベントあるってネイチャが言ってたけど、こっちの方が断然楽しみだなー!」

「ターボも! ネイチャとイクノとマチタンにお土産買うから、お小遣い多めに持ってきた!」

 

 あとはイナリとヒシアマと〜……なんてどんどんお土産を渡す者たちへの名前を挙げていくターボ。

 相変わらず底抜けの天使さを見せるが、

 

「そんなにお土産買えるの? 屋台で自分が食べたいの買える?」

 

 マーベラスからの素朴な疑問により、ターボはピタリと固まってしまった。

 つまるところ、お小遣いを多めに持ってきたのはいいが、本当にみんなに渡せるだけ買えるのか分からなくなってしまった模様。

 なので、

 

「トレーナー、どうしよ〜……」

 

 ターボは今にも泣きそうに弱々しく田添に助けを求める。

 

「何も高価な物じゃなくて気持ちが大事なんだから、質より量で考えればターボが渡したい子たちに行き渡るんじゃないか?」

 

 バックミラー越しに田添がアドバイスすると、ターボの表情はすぐにぱぁっと本来の明るさを取り戻した。

 田添がターボの代わりに買ってあげられなくもないが、それではターボの思い遣りに水を差してしまう。

 なので出来るだけターボが自分一人で解決出来るようにしてあげたのだ。

 

「ねぇねぇ、今から行くお祭りって何があるのかなー?」

 

 一番後ろの後部座席に座るウララがみんなへ質問する。

 

「いつも通ってる商店街と似てるけど、今から行く商店街が主催する結構大きな七夕祭りなんだって。商店街を天の川に見立てて、そこら中に大きな七夕飾りを施して、色んな屋台があって、そこの商店街の丁度中央に位置するとこにある広場で夕方になるとみんなで大竹のお焚き上げするみたい」

 

 テイオーが田添から事前に受け取っていた七夕祭りのパンフレットを広げながら簡単に説明すると、ウララだけでなくターボやフラワー、マヤノにマーベラスも目を爛々に輝かせ、嬉しさと興奮で耳も尻尾も震えた。

 カレンに至っては田添とどんな風に過ごそうか考え中なので、他のメンバーの話は聞き流している。

 

「お客さんが多いだろうし、逸れないようにしないとな。万が一逸れてしまった場合は慌てずに俺のケータイに電話すること」

『はーい♪』

「気になった屋台や出し物があった場合は必ず俺に声をかけてからにすること」

『はーい♪』

 

 こうして田添との事前のお約束もし、あとは現地に到着するまでみんなしてパンフレットを見ながらあれをしようこれをしようと意見を出し合うのだった。

 

 ◇

 

 現地に到着し、会場から離れたコインパーキングに車を停め、そこから徒歩で目的の商店街入口へとやってきたチーム『ジャイアントキリング』一行。

 入口では既に色鮮やかな七夕祭りが来場者たちを出迎えており、早速テイオーたちは『おー!』と感動の声をあげる。

 田添の指示に従い、テイオーとターボを先頭に二列縦隊で人の流れに沿って商店街を練り歩くことに。

 

「トレーナー! あれ飲みたい!」

 

 ターボの言葉に田添は頷き、みんなでターボが見つけた出店へ歩を進める。

 

「いらっしゃいませ! 本日限定! 七夕コーラ! 他にも彦星サイダーに織姫ドリンクもありますよー!」

 

 店先にいるアルバイトらしき青年の声に、ターボだけでなく他のメンバーも目を引かれた。

 まず七夕コーラはその中に黄色く着色し星型にした3ミリサイズのナタデココを入れた物。タピオカドリンクとかで使う太めのストローでコーラをかき回すと、流れ星のように見える。

 彦星サイダーは青く着色したサイダーの中に彦星の星とされるワシ座に因んだとされる、ワシの頭を模した型抜きでくり抜かれたリンゴが入った物。最後に食べるか、途中で食べるか、最初に食べてしまうか……楽しみ方は人それぞれ。

 そして織姫ドリンクはタピオカドリンクだ。しかし黒蜜がプラスチック製コップの内側の上部に塗られており、それが重力で下に滴っていくのが見ていて楽しいところ。織姫星のこと座に因んでこと線を表現しているのだとか。

 

「ボク、コーラ!」

「ターボはコーラとサイダー!」

 

 テイオー、ターボが元気に注文していくと、続いてマヤノ、マーベラス、ウララとそれぞれ注文していく。因みにマヤノがコーラでマーベラスがサイダー、ウララはドリンクである。

 

「フラワーちゃんはいいの?」

「はい。私は皆さんのようにあんまり入らないので、飲んでしまうとすぐにお腹いっぱいになりそうなので……」

 

 注文しようとしないフラワーにカレンが質問すると、そんなことを言うので、

 

「じゃあカレンとはんぶんこする? カレンもドリンク飲みたいんだけど、一つは多いと思ってたんだよねー」

 

 カレンは優しく提案した。

 するとフラワーは「是非♪」と頷いて、二人して半分ずつ出し合ってドリンクを注文するのだった。

 

 ◇

 

 ドリンクを堪能しつつ、また練り歩く田添たち。

 定番のニンジン飴やら綿飴、フランクフルトや唐揚げ等々の出店に寄り、みんなうんと七夕祭りを満喫している。

 

「みんな、広場が見えてきた。一回ここで休憩を入れよう」

 

 田添がそう言うと、みんなはそれに従って広場へ入った。

 ここはメインイベントの大竹が飾られているが、休憩スペースにもなっているため多くのテントとパイプ椅子が設置されている。

 

「トレーナー、おしっこ!」

「ああ、ここで待ってるから行っておいで」

「ターボも!」

「ウララも行ってきまーす!」

 

 空いている席についた途端、マーベラスが席を離れると、そのあとを追うように二人も広場のお手洗いへ。

 

「お兄ちゃん、カレン写真撮ってきていい?」

「ボクも撮ってきたーい! パパやママに送る! あとカイチョーとマックイーンにも!」

「私もブルボンさんにお見せしたいので、撮ってきてもいいですか?」

「ああ、気をつけて行っておいで」

 

 カレンたち三人は田添の了解を得て広場の大竹を撮影しに向かった。

 残ったのは珍しくマヤノ一人。

 

「マヤノは撮影してこなくていいのか?」

「んー、マヤは日が暮れてから撮りたいかなーって」

「そうか。なら俺とここで少し待ってような」

「は〜い♡」

 

 マヤノは返事をすると、スルスルと田添の膝の上へ座る。

 今に始まったことでもないので、田添は拒むことなくマヤノの腰に手を回して危なくないように支えてあげた。

 

「トレーナーちゃんもリンゴ飴食べる?」

「なら一口貰おうかな」

「いいよー♡ はい、あーん♡」

 

 カリッと田添がマヤノから差し出されたリンゴ飴を頬張ると、マヤノは『恋人同士みたい♡』と思わず頬が緩む。そして『計算通り』と可愛らしく口端をあげた。

 何故ならこれで自然に大好きな田添と間接キスが出来るから。

 

「久々に食べたが、やっぱり甘いな……」

「だってリンゴ飴だもーん♪」

 

 うわぁ、と思わず舌を出す田添。ほんのりとリンゴ飴の着色料のせいで染まった赤い舌を見て、マヤノは思わずドキッと胸の奥が跳ねる。

 普段見せない少年のような表情がマヤノにとっては新鮮でどストライクだったのだ。

 

(こんなトレーナーちゃんを独り占め出来るなんてラッキー♡)

 

 耳も尻尾もご機嫌に揺れ、優越感に満たされながら、マヤノはリンゴ飴を頬張る。ちゃんと田添がかじったところに唇を添えて。

 

「ただいまー☆」

「ターボが来たぞー!」

「ウララも来たぞー♪」

 

 そこへお手洗いに行った三人が戻ってくる。

 しかしその手は水が滴っていた。

 

「おいおい、ちゃんと手を拭きなさい」

「お手拭きなかった!」

「ハンカチ忘れた!」

「拭ききれてなかったみたい!」

 

 マーベラス、ターボの二人はハンカチを忘れ、ウララは持ってきたのに拭きが甘かった様子。

 田添は苦笑いして、二人に自身のタオルハンカチを渡し、ウララのハンカチを借りて甲斐甲斐しくウララの手を丁寧に拭いてやった。

 

「トレーナー、テイオーちゃんたちはー?」

「テイオーたちはあそこの大竹の写真を撮ってるぞ」

「ウララも撮ってくるー!」

「マーベラスも!」

「ターボも行くぞー!」

 

 休憩をしているはずが、相変わらず忙しなくまた田添の元を離れていく三人。

 マヤノは『また二人っきりー♡』と喜びながら、みんなに指摘を受けるまで田添の膝上を占拠するのだった。

 

 ◇

 

 休憩を挟み、みんなそれぞれお土産や欲しい物を購入した後、夕闇の中でライトアップされた大竹がくっきりと照らし出される。

 本日のメインイベントである大竹のお焚き上げが始まるのだ。

 事故を防ぐために実行委員たちがバリケードを張り、その向こうでお焚き上げを行う。

 

『お集まりの皆様、これより竹を横たわらせた後に、火をつけてお焚き上げしていきます。危険ですので、バリケードより下がってご覧ください』

 

 アナウンスが始まると、実行委員たちが大竹をゆっくりと横に倒していった。

 

『これより点火させます。煙を吸わないよう、風行にご注意ください』

 

 十分に配慮して市長や実行委員長らが松明の火を大竹に投げ入れる。

 するとゆっくりゆっくりと大竹は煙をあげて燃えていった。

 

『それでは皆様、天に向かい、お願い事をしてください』

 

 すると集まった人々は夜空を見上げ、願い事をしていく。

 手を合わせる者、ただ空を眺める者、写真撮影をする者と人それぞれだ。

 

「俺たちも願い事をしよう」

『はーい♪』

 

 そして田添たちも周りの人たちに倣って願い事をする。

 

(チームのみんなが怪我なく、伸び伸びと過ごせますように)

 

 田添の願いは当然、可愛い教え子たちのことだ。

 そして―――

 

『(トレーナー(さん)(お兄ちゃん)のお嫁さんになれますように!)』

 

 ―――テイオーたちの願い事はみんな同じであった。




読んで頂き本当にありがとうございました!
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