ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジャイアントキリングの11月

 

 肌寒い日が増えてきた。

 ウィンタードリームトロフィーの準決勝が終わり、今回は初めてテイオーが中距離部門の決勝へと勝ち進む。

 他のメンバーは惜しくも決勝戦の切符を逃したが、テイオーが最も競技者層が厚いと言われる中距離部門の決勝進出ということを喜んだ。

 

 そんな嬉しいことがあった翌日。

 

「トレーナー、おっはよー♡」

「おはよう。朝から元気だな、テイオー」

 

 テイオーは気分上々で田添宅へやってきた。

 トレセン学園のジャージ姿であるため、ここまで走ってきたのだろう。

 田添はテイオーに「朝飯の準備しとくから、風呂入ってこい」と告げて、招き入れた。

 

 ◇

 

 田添のお手軽ながらもバランスの取れた朝食をご馳走になったテイオー。

 因みに今の彼女は私服だ。私服は田添宅にメンバーたちが揃って何着か置かせてもらっている。

 

「にしても約束の時間までまだあるのにどうしたんだ? そんなに待てなかったのか?」

「うん! だってボク、すっごく頑張ったんだよ? そのご褒美が遊園地デートとか寝てる場合じゃないよ!」

 

 そう、今日はテイオーにとって待ち切れない日。

 遊園地デートとは言うが、当然チームのメンバーと一緒に行く。

 テイオーの場合は決勝進出のご褒美で、他メンバーの場合はお疲れ様のご褒美。

 田添としては休養してからみんなを誘おうと思っていたのだが、目ざといマヤノとマーベラスに遊園地の優待券を見つけられてしまったため、急かされるように今日の予定が決まってしまった。

 しかしみんなレース後とはいえ、中等部。

 元気が有り余っているお年頃だ。

 なので田添は彼女たちのために遊ぶことでリフレッシュしてもらおうと、今日の予定を組んだのである。

 

「最初は何にしようかな〜♪ やっぱりジェットコースターかな! でもコーヒーカップも乗りたいし〜、垂直に落ちてくのもやりたいし〜……どうしよ〜♪」

 

 田添の膝上に横抱きされながらパンフレットを見つつ、足をパタつかせるテイオー。

 

「みんなが来てから決めたらいい。それと嬉しいのは分かったから、落ち着け。テーブルに足をぶつけたら大変だ」

「えへへ、は〜い♡」

 

 どこまでも優しい田添にテイオーはピタリと身を寄せて、メンバーが集合するのを待った。

 

 ◇

 

 それから程なくして他メンバーがやって来た。

 当然、我先にと田添の家に来ていたテイオーにみんなは『ズルい!』と文句をつける。特に強く文句を言っていたのは、同室なのに抜け駆けされたマヤノ。

 しかしチョロいで有名なマヤノはテイオーから「コーヒーカップは譲るよ」と言われて、飛び跳ねて喜んだ。

 

 そして電車に乗ってやって来た遊園地。

 

「ねぇねぇ、入り口に『ナイトスカイ』の皆様って看板と写真があるよ!」

 

 絶対的王者チーム『ナイトスカイ』の写真を見つけたテイオーがみんなに言えば、みんなも『うわぁ』と声が弾む。

 テイオーたちだって人気はあるが、ナイトスカイはその更に上の存在。

 故に自分たちよりも有名なナイトスカイの写真に夢中になっている。

 

「みんな、受付してきたからもう入れるぞ」

『はーい!』

 

 こうして田添の言葉に返事をし、みんなして遊園地へと繰り出した―――

 

 ◇

 

 ―――のだが……。

 

「いやはや、まさか『ジャイアントキリング』の皆様まで来園して頂けるとは! 本当に嬉しい限りです!」

 

 入場ゲートをくぐってすぐ、田添たちは遊園地の責任者に声をかけられてしまう。

 責任者の壮年の男性はウマ娘レースの大ファン。

 そして、

 

「私、トウカイテイオーさんの大ファンなんです! よろしければサインを頂いても?」

 

 テイオーの大ファンなのだ。

 

「テイオー、してあげたらどうだ?」

「もちろん、いいよー♪ テイオー様のファンだなんて、おじさんも分かってるねー♪」

 

 熱心なファンにテイオーは得意げに胸を張り、男性から色紙とサインペンを受け取ると、慣れた手付きでサラサラとサインを書いていく。

 ほんの数秒で書き終え、男性へ渡せば、男性は感涙しながら何度も何度も頭を下げた。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! 家宝にします!」

「ウムッ! よきに計らえっ!」

「テイオー、調子に乗るな」

 

 すかさず田添が嗜めれば、テイオーは苦笑いしつつ「はーい」と返事をする。

 

「いえ、本当に……私はトウカイテイオーさんのファンなので、本当に本当に嬉しいんです。トゥインクルシリーズのラストラン……私は会場で叫びましたよ。年甲斐もなく『差せ! テイオー!』って」

 

 当時のことを振り返り、ハンカチで涙を拭う男性。

 それを見て田添はもちろん、テイオーたちも心が温かくなった。

 

 テイオーにとってトゥインクルシリーズのラストランはあのグランプリレース『有馬記念』だ。

 今でも有馬記念が近くなると、色んな記事や雑誌、レースのトーク番組で『トウカイテイオー・奇跡の復活』のことが話題にあがる。

 しかしそれも当然だ。三度目の骨折で一時期は引退も囁かれ、約一年という長い間レースに出走することは出来なかった。

 それでも田添とテイオーが諦めずに準備を進めて迎えた有馬記念。

 当時最高と言われた豪華メンバー。

 出走する14人のウマ娘の内、GⅠ勝利ウマ娘は8人。

 一番人気はビワハヤヒデ、二番人気のレガシーワールド、三番人気にはウイニングチケットと、強敵揃いだ。

 

 そんな強敵揃いの中で、中363日というウマ娘レースの常識を覆す有馬記念を制覇したテイオー。

 そんな奇跡を起こしたテイオーだから、この男性のように今も熱く応援してくれているファンがいるのだ。

 

「私、レースもそうですが、田添トレーナーさんのインタビューも何度も繰り返して観ました! あの涙を浮かべながら、トウカイテイオーさんのことをあの場面でも一番に考えていて……『嗚呼、この人がトレーナーだったからこそ、トウカイテイオーは復活出来たんだ』としみじみ思いましたよ」

「……ありがとうございます」

 

 まさか自分のことまで言われるとは思ってなかった田添。

 なんとかお礼を返したが、思わず田添は照れてしまった。

 そんな彼の珍しい表情を見たテイオーたちは、とても目が輝いている。

 

「この機会に改めてお聞きしたいんですが、一年ぶりにあの有馬という舞台で勝利したトウカイテイオーさんを見て、どう思いましたか?」

「今思い返しても、喜びよりも驚きの方が先ですね。レース展開がどうのとか、作戦通りにどうこうだとか、そんなことより、色んなアクシデントを乗り越えた彼女自身の勝利ですよ」

 

 田添がしっかりと言葉を返せば、男性だけでなくテイオーもわぁっと胸が熱くなった。

 

「嗚呼、やはりそうですよね! はい! 感動しました! あっ、なんか私ばかり盛り上がって申し訳ありません!」

「いえ、今後もどうかテイオーを応援してください。テイオーだけでなく、ここにいる他のメンバーも、私の自慢のウマ娘たちですから」

「はい! はい! もちろんですとも!」

 

 その後、男性は田添たちとの記念撮影。またナイトスカイの時と同様に飾る許可とブログに掲載する許可を田添たちに確認し、スキップでもし出しそうな勢いで去っていった。

 

「テイオーちゃんのことばっかりでなんかズルかったー」

「仕方ないよ、マヤノ。テイオーはそれだけ凄かったんだから!」

 

 ちょっと拗ねるマヤノにマーベラスが宥めるように言えば、マヤノは「そうだね」と返す。

 

「なぁなぁ、そんなことよりもう遊びに行きたいぞ!」

「わたし、ゴーカート乗りたーい♪」

 

 ターボ、ウララが待ちきれないとみんなを急かすと、みんなは『行こう!』とゴーカート乗り場へと早足で向かった。

 

「周りの人に注意するんだぞー!」

『はーい!』

「本当に分かってるのか……?」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん♪ それよりお兄ちゃんも行こうよ♪ カレンと手を繋いで……ね?♡」

「わ、私もはぐれないように手を繋いで行きたいです……」

 

 カレン、フラワーにそんなお願いをされれば、田添は優しく微笑んで手を繋ぐ。

 そしてそのままテイオーたちのあとを追うのだった。

 

 ◇

 

 ゴーカート、メリーゴーラウンド、コーヒーカップ、ジェットコースターと楽しんでいると、時間はあっという間に過ぎていった。

 昼食は遊園地内のおすすめグルメであるホットドッグやハンバーガー、パンケーキを注文してみんなでシェア。

 腹ごしらえが終わればまたアトラクションを堪能し、お化け屋敷やミラーハウス、観覧車……そしてまたジェットコースターと遊園地を満喫した。

 そして、

 

「うーん、カイチョーたちのお土産何にしようかなー?」

 

 今は帰る前のお土産選び。

 本当ならば夜にパレードがあるのだが、寮の門限を過ぎてしまうのでお昼のパレードで我慢した。

 

「マヤ、ブライアンさんにビーフジャーキー買ってこ♪」

「遊園地のお土産なのに?」

「だってブライアンさんってあんまりお菓子食べてるイメージないんだもん」

 

 テイオーの言葉にマヤノがそう返せば、テイオーは「あ、確かに」と納得してしまった。

 

「私はエアグルーヴさんとブルボンさんにこのお花のキーホルダーを買います♪」

「ターボは決めた! ネイチャに遊園地のマスコットのハンカチで、マチタンにはシャーペンで、イクノにはボールペン!」

「マーベラスはローレルにこのマーベラスなお菓子詰め合わせをお土産にしよー! あ、ドーベルには消しゴムがいいかなー!」

「ウララはねー、スペちゃんたちにクッキー買ってくよ! スペちゃん用に大きいサイズのひと箱にするんだー!」

「あ、これふわふわでアヤベさん喜びそう。お土産に買ってってあげよー♪」

 

 みんな思い思いのお土産を選ぶ中、

 

「これとこれとこれとこれと……」

 

 田添はスマホの画面を見ながらかごへ品物をひょいひょいと入れていく。

 昨晩、仲のいい同僚や吉部、桐生院、樫本代理にメッセージアプリで何か欲しいものはないかと連絡しておいたのだ。

 すると朝には各々リクエストが届いていたので、田添は迷うことなく買い物を終えた。

 

「俺は終わったけど、みんな気にせずゆっくり決めてくれ。お金は俺が出すから心配無用だ」

 

 田添の言葉にみんなはお礼を言う中、

 

「トレーナー、ちょっと助けてー」

 

 テイオーに呼ばれた。

 

「どうした、テイオー?」

「マックイーンのお土産何にした方がいいかなって思って……マックイーン、お菓子好きだしお菓子にしようと思ったんだけど、よく減量とかしてるから」

「俺がマックイーンのトレーナーに言われてクッキー買ったから、お菓子以外でいいんじゃないか? 多分あの人のことだから、担当の子たちと分けるだろうし」

「おお、なるほど! ならメモ帳にしよ!」

 

 こうしてみんなお土産を買い、遊園地をあとにした。

 各寮まで田添に送ってもらい、楽しい思い出をまた増やすのだった。




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