ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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一ヶ月以上空いてしまってごめんなさい!
今日から新チームのお話になります!
楽しんでもらえるように頑張っていきます!


チーム『不屈』の日々
幸せは歩いてこない


 

 幸せとはなんだろう

 

 富を得ることか

 

 名声を得ることか

 

 異性からモテることか

 

 辛いとはなんだろう

 

 乏しい思いをすること

 

 苦しい思いをすること

 

 寂しい思いをすること

 

 人生とは幸せと辛さが常に隣り合わせで、細やかな幸せに喜んでいても、次に来た辛さでその幸せを覆してくる。

 "辛い"とはそれだけ頭に、心に刻まれやすい。

 だから何か辛いことがあると、人は『ついてない』や『不運だ』なんて思ってしまう。

 そして悲しいことに不幸というのは続いて起こることが多く、よりネガティブに陥ってしまいやすい。

 そうすることで人は『自分は不幸だ』、『自分は不運だ』と思ってしまう。

 

 しかしそんな辛い日々を人が生きていけるのは、またあの幸せを、どんなに小さな幸せでも、また味わいたいと思うからではないだろうか。

 

「よーし、みんなが来る前にこの資料をまとめてしまおう」

 

 学園から賜ったトレーナー室のデスクで気合を入れ直すのは、南田勝一(みなみだ かついち)。

 年齢28。線が細く、影が薄い印象の塩顔男性。

 学生時代、友達はちゃんといたがいつも何故か周りからは忘れられがち。

 耳も隠れる長めの癖毛で襟足も長め。基本的にいつも寝癖を直すだけのもっさりヘアだが、メディアの前やレース時には項が見えるように髪を団子にまとめ、前髪もセンター分けにする。

 昔から人の気持ちを敏感に察知する上、微笑むとその破壊力が凄まじいので隠れガチ恋勢が多く、学生時代に本命チョコを受け取った数が通った中学、高校で同級生最多記録を持つ隠れモテ男だ。

 身長はオグリキャップと同じ。

 本人は少食ながら幼い頃から共働きである両親のために家事をこなしてきたので、家事上手の料理上手。

 トレセン学園のトレーナーになってからは実家を出て借家暮らし。

 引っ越ししてすぐにたまたま近所で産まれた雑種犬を飼うことになって、室内犬として共に暮らしている。パッと見は北海道犬のようだが、耳は垂れていて毛も長め。毛色は茶色く、お腹側は白。名前はアンデルセン。名前を役所に届けたあとで獣医に診せたところ性別がメスだと判明し、本人としてはオスだと言われて迎え入れたのにと思わず項垂れた。

 

 そんな南田は盾マスターと呼ばれる名トレーナー。

 担当しているウマ娘の全員が天皇賞の春秋制覇もしくは春秋どちらかを勝利しているのだ。

 彼が担当しているウマ娘は加入順で―――

 

 タマモクロス

 ゴールドシチー

 オグリキャップ

 ライスシャワー

 ナリタタイシン

 フジキセキ

 マチカネフクキタル

 

 ―――の七人。

 言わずもがな、どのウマ娘もトゥインクルシリーズを盛り上げた名バたちだ。

 中でもタマモクロスとオグリキャップは大人気で、ドリームシリーズに移った今でも決勝レースに出走する常連である。

 

 チーム名は『不屈』。

 己の不幸に負けず、不屈の精神で走り続けられるよう、南田が付けた名前だ。

 チームリーダーはタマモクロスで、副リーダーはゴールドシチー。

 

「あれ、あの資料どこやったっけ? 確かここら辺で見かけたのに……」

 

 デスクの上で資料を広げ、欲しい資料を探す南田。

 すると一枚、また一枚と他の資料が床へ落ちていく。

 

「ああ、拾わなきゃ……痛っ」

 

 資料を拾おうと屈んだ拍子にデスクの角に額をぶつける。

 丸みのあるデザインなのでそこまでの痛みはない。ただそれだけなら良かったのだが、勢い良くぶつかったせいで積み上げていた別の資料がバサッと床に崩れ落ちてしまった。

 

「……んー、やっちゃったなぁ」

 

 ぶつけた額を擦りながら、零すようにつぶやく南田。

 パソコンが全く使えない訳ではないのだが、アナログの方が性に合っているので、毎回資料は印刷し、最後はしっかりとファイルにまとめているのだ。

 あと前にデータで管理していた際に落雷からの停電で、パソコンにまとめた資料が全てパーになってしまったという経験も影響している。

 

「おーい、トレーナー! アンタのかぁいいかぁいいタマモクロスが来てやったでー……って、ぬぁっ!? なんやこの惨状!? 空き巣にでも入られたんか!? ああ、ええて、ええて! アンタはそこ座っとき! ウチがパパッとかたしたるからな!」

 

 やって来たタマモクロスが慣れた手付きで素早く資料をまとめてくれた。

 彼女としては南田のこういうところも慣れているのだ。

 

「ありがとう、タマ」

「ええて……しっかしホンマ、アンタはウチがおらへんとダメダメトレーナーやなー♪」

「そんなことないよー」

「あるから言うとんねん、アホ♡」

 

 タマモクロスは南田が初めて契約したウマ娘。

 故に付き合いも長く、お互いのことは熟年夫婦並みに通じ合っている。

 

 そして、

 

「相変わらずの大声ですね、タマモ先輩」

 

 若干呆れ気味でトレーナー室に入ってきたゴールドシチーが二番目に契約したウマ娘だ。

 二人と契約したのは確かにタマモクロスの方が先なのだが、ほぼ同時期にゴールドシチーも担当することになった。

 なかなか同時期に契約するというのは少ないが、ゴールドシチーのお眼鏡に適うトレーナーが南田しかいなかったのが大きい。

 

 ゴールドシチーというウマ娘は現役で読者モデルの仕事をしている。

 故に二足のわらじでトレーニングする時間も限られているとなれば、トレーナー側も契約したところでメニューが組みにくいのだ。

 しかし南田は言い方は悪いが器用貧乏なので、彼女が仕事をしながらでも出来ることをコツコツと積ませることが出来た。

 よって彼女はクラシック期の結果こそ振るわなかったものの、秋の天皇賞とジャパンカップを勝利した。

 

 タマモもシチーもライバルでありながら、親友。

 そしてこれまた同じく南田を心から愛していて、『この人には自分がいないと』と思っている。

 

「トレーナー、これシャンプーとリンスね。どうせそろそろ今使ってるの切れる頃っしょ?」

「わぁ、いつもありがとう」

「別にいいって。アンタは身の回りのことは基本的におざなりだし、アタシは自分の買うついでだしさ」

 

 本当は自分と同じブランドのシャンプーらを使って、南田が自分と同じ香りなのを他のウマ娘たちにアピールしているシチー。

 

「あれ、シチーたちがいるってことは……」

 

 言葉を口にした瞬間、ガラガラとトレーナー室の扉が開く。

 すると、

 

「来たぞ、トレーナー」

「こんにちは、お兄さま」

「あれ、二人はもう来てたんだ?」

「早いね、二人共。そしてこんにちは、トレーナーさん」

「こんにちはですー!」

 

 他のメンバーがやって来た。

 

「ありゃりゃ、もうこんな時間か。みんなこんにちは。じゃあ早速ミーティングを始めよう。みんな席について」

 

 今年からチーム『不屈』のメンバーは今年からマチカネフクキタルがドリームシリーズへ昇格したため、晴れて全員がドリームシリーズ参戦ということになった。

 なので今年からドリームシリーズ一本に絞ってのミーティングになる。

 

「トレーナー、いつものを」

「はいはい」

「ここはバーちゃうねんぞ、オグリ……」

「? 何を言っているんだ、タマ。そんなの誰だって知っていると思うが……? そもそもタマも私もバーに入れない年齢のはずだ」

「ものの例えや、アホ! トレーナー室入ってきて『いつもの』で話通じるんはおかしいやろ! 普通は通い慣れた店で通じるもんや! あと! トレーナーも当然のようにそのスイカサイズのおにぎり出すなや! どっから出したん!? そもそも毎回どうやって握っとんねん!」

 

 南田から特大おにぎりを受け取り、タマモに真面目に言葉を返すのは、怪物ウマ娘且つアイドルウマ娘ことオグリキャップ。

 タマモ、シチーに次ぐ三人目のメンバーで、トレセン学園では転入生組であり、天然気質なウマ娘。

 しかし芝、ダート関係なく、マイル・中・長距離で活躍し、チームナンバー1の実力者でタイトルホルダー。

 南田にとても懐いていて一見餌付けされていると思われがちだが、実のところ彼女が南田を見る眼は恋する乙女そのもので、オグリ本人も自覚している。

 

「お兄さま、ライスもお腹減っちゃった……」

「ライスの分もあるよ。たんとお食べ」

「わぁ、ありがとう、お兄さま♡」

「ホンマ、ここは飯屋かいな!」

 

 南田からバレーボールサイズのおにぎりを受け取り、幸せいっぱいに微笑むのはライスシャワー。

 大記録を阻止する黒い刺客であり、メジロマックイーンすら凌駕するステイヤーだ。

 ミホノブルボンのクラシック三冠阻止やメジロマックイーンの春天三連覇阻止で、一部ファンやメディアから批難されたものの、あの温厚な南田が―――

 

『それが勝者へかける言葉でしょうか? 空気を読めとか無理ですよ。彼女たちアスリートウマ娘はレースに命をかけています。あなた方は命をかけて走れますか? 命をかけて勝ったレースで、罵声を浴びせられたらどう感じますか?』

 

 ―――と絶対零度の笑みを受けて撃沈した。

 そんな絶対的味方でいてくれた南田をライスは愛して止まない。

 

「うぇ、見てるこっちがお腹いっぱいになる……」

「当たり前や、タイシン」

「タイシンはあんまり食べないからね。あ、ニンジンシフォンケーキ作ってきたけど、食べる?」

「ん、それなら貰う」

 

 南田からカットされたシフォンケーキを受け取ってもひもひ食べるのはナリタタイシン。

 小柄でストイック。当初は南田をお節介者と毛嫌いしていたが、自分の走りを当時唯一認めてアドバイスをくれたことがきっかけでチーム入りした。

 今でも素っ気ない態度やぶっきらぼうな物言いはするが、南田を愛する気持ちは直線一気並みに本気である。

 

「なら私はお茶を淹れてこよう」

「私もお手伝いします! 因みに今日のラッキーアイテムはほうじ茶なので、ほうじ茶を淹れますね!」

「ありがとう、二人共ー」

「火傷せんようになー」

 

 お茶の用意をするために立ち上がったのはフジキセキで、お手伝いを申し出たのはマチカネフクキタル。

 

 フジキセキは栗東寮の寮長でサプライズ好きなウマ娘。

 しかし自分の弱さを誰かに見せることが責任感の強さから出来ないでいたが、唯一南田にはその弱さをさらけ出せるため、実はチーム1の甘えん坊。

 本職はマイラーであるが、ダート以外どの距離を走らせても安定した走りを見せる。

 タマモやシチーからは頼れる後輩として可愛がられているが、度々南田の私物をナチュラルに持って帰るためそっち方面ではチームで一番警戒されているとか。

 

 マチカネフクキタルに至ってはチームのトラブル&ムードメーカー。

 しかしそんな彼女も菊花賞、春天を勝利したステイヤーだ。

 プライベートでは何かと幸運グッズを買い漁るものの、南田に無慈悲にも処分される。その度に断末魔の叫びをあげ、度が過ぎると南田にアイアンクローが炸裂してしまう。(でもされるとどこか嬉しそうにしている)

 南田のことは運命の人として愛しており、末永く共にあれるようにと常に考えている。

 

 ◇

 

「ええと、みんな席についたかな?」

 

 南田はみんなに声をかけ、見渡し、みんなが席についていることを確認すると、改めて挨拶をしてからミーティングを始めた。

 

「まず、みんなも知っての通り、今期からフクもドリームシリーズに入ることになった。となるとフクには当然、得意とする長距離部門に出走してもらう」

 

「なら去年長距離走ったウチかオグリが別の距離行くんか?」

 

「その通り。別にこのままでもいいんだけど、同じ部門に出走するメンバーが増えれば、次のレースへの進出枠を狭めてしまうことにも繋がるからね。去年の場合はタマ、オグリ、ライスに出走してもらったけど、そこに来てフクを入れた四人となると」

 

「全員での決勝進出が難しくなる。ってことっしょ?」

 

「シチーの言う通り。それに昨年出走した三人はもう相手チームには細かく分析されてるだろうから、余計に難しいレースになるはずだからね」

 

「でもライスは外さないでしょ? 昨年のURAドリームクラスのステイヤーブーツ受賞者なんだし」

 

 毎年年末にURAが各部門から最も優れたウマ娘を選び、トロフィーを授与する大きな授賞式。

 ドリームシリーズのステイヤー部門でライスは見事に勝利し、その結果ステイヤーブーツというその年に最も優れたステイヤーの証を得た。

 因みにトロフィーは受賞者の愛用するレース用の靴を模した物が台座に乗せられている。

 

「タイシンが言うようにライスは外さない。前年度の優勝者は引退してなければ特別枠で予選、準決なしで決勝戦への切符が手に入っているからね」

 

「ライス、お兄さまのために頑張るからね!」

 

「ありがとう。でも気負い過ぎないようにね。レースで勝ってくれるのは勿論嬉しいけど、僕はみんな無事に走りきってくれることの方が嬉しいから」

 

 南田の言葉にライスはふにゃりと破顔してしまう。それだけ自分のことを大切にしてくれていると実感するからだ。

 

「ほんなら、ウチとオグリ、どっちが抜けるん?」

 

「今年は二人共別の距離に出走してもらおうかと思ってるよ。最新データを無駄にさせるいい手だと思ってね」

 

「そう来るか」

「アンタってレースになると割とえぐいこと平気でするよね」

 

 フジ、タイシンが零すように言えば、南田は悪戯っ子のように笑って見せる。

 

「今回の長距離部門はライス、タイシン、フクで行きたい。どうかな?」

 

「連覇出来るようにライス頑張るね!」

「アタシは走れればなんだっていいよ。どの距離だろうと負ける気ないし」

「トレーナーさんのご期待に応えられるよう、頑張りますよ!」

 

 三人の意気込みを聞いて南田は力強い頷きを返した。

 

「で、あとのメンバーは? 話聞いてた感じ、今回は一部を除いて別の部門で行くっぽいじゃん?」

 

 シチーが言うと、南田は「そうだよ」と返しながら言葉を続ける。

 

「マイル部門はシチー、そしてフジだ。中距離部門はタマモ。そしてオグリにはダート部門を任せたい」

 

「アタシは問題ないかな」

「私も。寧ろ嬉しいよ、トレーナーさん」

「なんやウチが華の中距離か! それもピンで! ええで、やったるわ!」

「ダートでもどこでも任せてくれ」

 

 みんなのやる気満々な様子を見て、南田は思わず笑みを深める。

 本当に頼もしい教え子たちだ、と。

 

「ならそういうことで、みんなよろしく頼むよ。みんなで幸せを勝ち取ろう」

『おー!』

 

 こうしてチーム『不屈』はチーム一丸となって始動するのだった。




読んで頂き本当にありがとうございました!

ということで、今回から新チーム『不屈』のお話をお送りしていきます!
よろしくお願いします!
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