麗日な春日和。
春といえばトレセン学園ではビッグイベントのファン感謝祭がある。
年に一度、ファンに日頃の感謝を伝える大切なイベントであるため、多くのウマ娘たちが一人でも多くのファンに感謝を伝えられるように心からのサービスを提供。
南田率いるチーム『不屈』もそうなのだが、
「……暇や」
タマモがポツリと零すように、出し物をするも閑古鳥だ。
「……いや、暇っていうか」
「……そもそも嫌がらせかよって話ね」
シチー、タイシンがそう言うのも当然。
何故ならチーム『不屈』が割り当てられた場所が屋上だからだ。
出し物をする場所は毎年くじ引きで決まるのに、チーム『不屈』は4年連続で屋上を引き当てている。
それでいて提供しているものが占いとくれば、継続的に客が来ることはない。
なので客足がすっかり途絶え、今は交代で店番している状態。
占いが出来るのはフクキタルだけ。
そのフクキタルにタマモが『どうせ客なんて来ぃひんから行って来てもええで』と送り出したため、仮に今客が来たとしても待ってもらうことになる。
「こうも屋上が続くと、くじ引きという名の出来レースだったりせんか疑いたくなるわ……」
「いや、それは流石になくないですか?」
「というか、占いしてく客自体そういないよね」
「占いはいいです。って人が殆どだもんね。なんかフクキタルの反応見に来てるファンが多い感じ」
「リアクション芸人と間違えられてるんちゃうか?」
タマモの言葉にシチーもタイシンも『あり得る』と苦笑い。
感謝祭が始まってすぐの頃はここにも多くのファンたちが集まるのだが、フクキタルの占いは彼女のカルト的ファンしか頼まないし、フクキタルや他メンバーが勧めても普通はお断りされ、フクキタルが『ぎゃぽん!』、『しょんなぁ!』と断られる度に謎の悲鳴をあげるのである意味で楽しんではもらえている。
「たこ焼き屋でもお好み焼き屋でもイカ焼き屋でもウチがやったるんやけど、フクキタルに泣かれたらなぁ。そないにやりたいなら隣でやるくらい許したるのに」
「食べ物系はオグリ先輩いる時点で無理ですって」
「腹の音で営業妨害になるのが目に見えてるし、食べ物を目の前に置いとくのはオグリにとって拷問だしね」
「そうなんよなぁ。あいつ匂い嗅いだだけで腹減らすスキル持っとるし」
タマモが肩を落としながら愚痴を零すように言えば、シチーもタイシンも思わず納得してしまった。
そもそもタマモが『今年は粉物屋でもやるか?』なんてチーム会議で提案しただけで盛大に腹の虫が本能スピードを合唱し出したのだから。
「やぁ、どうかな、調子は?」
暇潰しにしりとりでも始めようかとしている時、見回りを終えた南田が差し入れの飲み物を持って現れた。
すると、
「トレーナー! めっちゃ暇やってん! 構ってやー!」
「いいタイミングで来たじゃん。てことで構え♪」
「……ん」
みんな揃って構って攻撃を繰り出す。
あのタイシンですら、南田に向けて頭を差し出して『撫でろ』アピールしているのだ。
南田は「くじ運悪くてごめんね」と謝りつつ、三人の頭を順番に撫でてやる。
「騒がしくなくてアタシはいいよ」
「これくらいの方がいいって。屋上なのに人が集まり過ぎるのもアレだし」
「ウチららしくてええやん。謝ることやないで」
南田を前に手のひらクルーするタマモたちだが、それを知らない南田は「ありがとう」とにっこり笑顔。
その笑顔にタマモたちはいい意味でグッと胸が締め付けられた。
「今戻ったぞ」
「戻ったよ」
「ただいまー♪」
「戻りましたー!」
背後からする馴染みある声に南田が振り向くと、
「……食べ物が喋ってる?」
そこにはエベレスト盛りにされた焼きそばがそびえ立っていたので、南田は思わず手を叩く。
「オグリとライスは分かる。でもなんでフクまで山盛り持ってんねん!」
タマモの鋭いツッコミが炸裂すると、
「ゴルシさんのとこの焼きそばです! 幻の焼きそばなので縁起がいいかと!」
フクキタルの謎ハッピーセンサーにタマモは思わず天を仰いだ。
「にしても相変わらず良く食べられるね。てか焼きそばだけじゃなくてドーナツとかチュロスとかまで……」
「見てるだけで胸焼けする……」
呆れるシチーと胸元を押さえるタイシン。
「やはりしょっぱい物を食べると甘い物が欲しくなるからな!」
「み、みんなの分もあるよ?」
オグリの言葉はさておき、ライスの言葉にはタマモたちも「ありがとう」とお礼は言うが、もう見ているだけで満腹中枢が刺激されてしまっている。
なので三人はドーナツを1つずつ貰うだけにした。
「お兄さまもどうぞ♡」
「ありがとう、ライス。じゃあ焼きそばを少し貰えるかな?」
「うん♡ それじゃあ、えっと……あ、あーん♡」
「あむ……」
「ど、どうかな? ライスが作ったやつじゃないけど……美味しい?」
「ごくん。うん、美味しい! ゴールドシップちゃんの焼きそばはなかなか食べられないから、嬉しいよ」
「良かった♡」
ナチュラルにあーんをするライスとナチュラルにそれを受け入れる南田。
二人の距離感がバグっているだけだが、そもそもエベレスト盛りの焼きそばという絵面のせいで甘さがかなり薄まってシュールな絵面だ。
それに南田とライスはいつもこうなのでみんなもこの距離感に慣れてしまっている上、他のメンバーも基本的に南田との距離感がバグっている。
その証拠に、
「トレーナー、あーんしてもらえるだろうか?」
「いいよ」
「トレーナーさん! お互いにあーんし合うとハッピーになれますよ!」
「分かったよ」
「私のトレーナーさんなら、私の期待に応えてくれるよね?♡」
「もちろん」
オグリもフクキタルもフジも南田に甘え出した。
「これからレースあるんやから程々にしときや?」
「大丈夫だ、問題ない」
「念の為やアホオグリ」
「む、そうか。なら念の為、早く食べて消化しよう」
「いや、んなことせんでも……ってもう食い終わっとる!? マジックショーちゃうねんぞ!」
「ご馳走様」
タマモとオグリのやり取りを見て、南田も他のメンバーも思わず笑みが零れる。
そうしている内に久々のファンが来たので、みんなその対応に回るのだった。
当然、占いはお断りされたそう。
◇
「お兄さま……ごめんなさい。ライスのせいで……ううっ」
「ほらほら泣かない泣かない。かすり傷だよ。それにライスを守れた勲章さ」
「お"兄"さ"ま"〜!」
「お〜、よしよし」
目玉のショーレース『トレーナーリレー』が終わったが、その中でアクシデントが起こってしまった。
それは第四走者のライスがトレーナーを運んでいる途中にバランスを崩したところを、南田が反射神経を活かして抱き止めたのだ。
ただウマ娘の走る速度であるため、南田はライスを抱えて数メートル転がってしまう。
流石にトップスピードではなかったので大怪我には至らなかったし、芝の上だったのもあってそれがクッションの役割をしてくれた。
しかしライスは激しく落ち込み、南田が保健室で治療を受けている間もその隣で泣き崩れていた。
南田が何度も『大丈夫だよ』と告げてなんとか泣き止んだものの、愛する南田に怪我を負わせてしまったということに、ライスはまだまだ立ち直れていない。
それでも南田から優しい言葉となでなででちょっと持ち直した。
「おうおう、いつまでやってんねん」
「二人の世界に入るのもう見てらんないんだけど?」
「ぴぃ!?」
「タマ、シチー……」
至近距離から声をかけられ、思わず尻尾がピーンするライス。一方南田は至って普通の反応だ。
「トレーナー、怪我が軽くて何よりだ」
「焦らせないでよ、バカトレーナー」
「心配したんですよ?」
「流石の私も驚かされたよ。でもこんなサプライズは嬉しくないな」
「みんな、心配かけてごめんね。それとありがとう」
ふわりとした笑顔で南田が返せば、みんなその笑顔の前に胸がときめく。
「ほな、さっさと片付けして打ち上げしに行こか!」
「トレーナーは怪我してるし、今回はタマモ先輩がたこ焼き焼いてくれるってよ」
こうしてチーム『不屈』のファン感謝祭は最後は穏やかに幕を閉じるのだった。
―――――――――
本日は休日。
チームのトレーニングもお休みなのだが、早朝から南田は府中のとある公園にやってきていた。
理由は今日、チームのみんなでお花見をするため。
なので朝四時起きして場所を確保しているのだ。
今日はシチーが午後から仕事なのもあって午前中だけだが、それでも南田はみんなにいい思い出が残るのならばどんな労も惜しまない。
(約束の時間までまだあるし、一眠りしようかな……)
そう考え、レジャーシートの上に転がった南田。
すると目の前に朝日に照らされた満開の桜が広がり、その光景に目を奪われる。
「写真撮っとくか……」
自身のスマホのカメラで何枚かその光景を撮影した後、今度こそ一眠りしようと桜の花の香りを満喫しながら意識を手放した。
◇
その日、シチーはとても気合が入っていた。
仕事があるのもそうだが、タマモからあるお願いをされていたのだ。
そのお願いとは、
『明日は早朝からトレーナーに場所取りしてもろてんねんけど、やっぱ暇やと思うねん。ウチはフジやタイシンと花見で食うつまみ作らなあかんから、トレーナーのとこにひと足早く向かってくれるか? 朝弱いんは知っとるんやけど、シチーにしか頼めへんねん』
とのこと。
つまりリーダーであるタマモから早起きボーナスということで南田と二人きりにしてもらえる。
なのでシチーは同室のバンブーメモリーよりも早くに寝て、爆音アラームで朝のトレーニングよりも早く起き、バッチリメイクしオシャレをして南田の元へ。
そして、
「すぅ……すぅ……」
気持ち良さそうに眠っている南田を見つけた。
(は? 何これ? 襲ってくれってこと?)
ついつい邪な思いが心を支配しそうになったが、なんとか耐えたシチー。
(てかホント、素材はいいんだよね、コイツ)
相変わらずボサボサ頭ではあるが、目鼻立ちはいい南田。
今ではほぼほぼシチーコーデが当たり前になってきたことで、ルックスの評判もいい。
(まつ毛なっが。ビューラーしてないのに上下のまつ毛立ってるのマジで羨ましい。あ、トレーナーって左のこめかみのとこにほくろあるんだ)
南田が眠っているのをいいことに、ここぞとばかりに観察するシチー。
(そういえばフクが男で左のこめかみにほくろがあると、夫婦運がかなり良好で、妻に支えられる程、どんどん出世する……とか言ってたっけ。やば、マジで当たってんじゃん!)
南田はレースの作戦やトレーニングでは頼りにしているが、私生活になると頼りない。そこをシチーたちがフォローし、人気チームのトレーナーになっているのだから、フクキタルの言うことも間違いではない。
「んんっ……」
(寝辛い感じ? そうだよね。枕ないもん。なら枕必要だよね? 仕方ないよね? 抜け駆けじゃない。これは日頃の感謝のお節介だから)
そんな言い訳をしつつ、シチーはそっと南田の頭を待ち上げて、自身の膝の上に乗せた。
自分も辛くないようぺたん座りで抜かりはない。
「すぅ……すぅ……」
「控えめに言って最高……♡」
好きな男の寝顔。好きな男の体温。好きな男のニオイ。
そしてまだ人が少ない桜満開な公園の二人きりのロケーション。
全てがシチーにこれでもかと幸福感を与えてくれる。
でもシチーはそれ以上のことはしない。
抜け駆けはご法度だからだ。
それにどうせ自分たちは南田とゴールインする。
なら焦る必要もないのだ。
「だから今はこれで満足しといてあげる♡」
シチーはそうつぶやくと、南田の頭を優しく優しく撫でるのだった。
タマモたちが大量の食料を持ってくるまで。
読んで頂き本当にありがとうございました!