ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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夏の災難?

 

 季節は夏真っ盛り。

 普通の学生なら夏休みで青春を謳歌しているだろう。

 一方でトレセン学園の生徒たちにとっては秋からのGⅠ戦線に向けて勝負の夏という、特殊な青春だ。

 チーム『不屈』も次のウィンタードリームトロフィー予選に向け、本格的に夏合宿を行っていた。

 

「みんな、休憩だ」

 

 南田が言えば、みんな呼吸を整えながら設置されたパラソルの下へ向かう。

 

「いやぁ、やっと休憩かいなー! キンキンに冷えた麦茶が染みるわぁ!」

「暑い日には麦茶ですねー!」

 

 タマモとフクキタルは南田が用意した麦茶で喉を潤し、夏の風物詩を堪能。

 

「あんま日焼けしないけど、念の為もう一度塗っとこ……」

「なら背中やってあげようか?」

「アリガト。お願い」

 

 一方でシチーはモデルという職業柄、日焼けしないようにフジに手伝ってもらって追加で日焼け止めクリームを塗ることに。

 ウマ娘の肌は普通の人間とは違い、あまり日焼けしないのだが、モデルという職業柄、念には念を入れないといけないのだ。

 

「休憩に食べるスイカは格別だな……!」

「とっても甘くて美味しいね♪」

「セリフは普通だけど、食べてる量が普通じゃないよね、二人は……」

 

 オグリとライスが南田の用意したスイカを頬張る横で、呆れ気味のタイシン。

 しかしそれもそのはずで、二人は休憩の度にスイカ半玉をぺろりと平らげているからだ。本日は既にもう5玉は食べている。

 それでいてお昼も先程平然といつも通りに食していたのだから、タイシンとしては見慣れていても胸焼けしてくる感覚を覚えた。

 

「次のタイヤ引きが終わったら今日のトレーニングは終わりだから、もうひと踏ん張りだよ。夜は昨日タマが提案した通り、花火をするからね」

「ホンマか!?」

「うん。今日で夏合宿は最終日だから、ご褒美だよ」

「うっひゃー! トレーナー、ホンマ愛しとるで!」

「あはは、ありがとう。僕もタマを愛してるよ」

「っ……おう……うへへへ♡」

 

 ついテンションが上がって口にしてしまった心の声に対し、南田にそのまま返されるとその破壊力に破顔するタマモ。

 しかしいくら浪花魂を持つタマモでも、愛する男からの愛の言葉の前では乙女になってしまう。それが親愛からくる愛の言葉だとしても。

 

「トレーナーさん、私もトレーナーさんのこととっても愛してるんだけどなぁ? 相性もピッタリだし」

「もちろん、フジのことも愛してるよ」

「ふふっ、今はそれで満足してあげるよ♡」

 

 すかさずフジが割り込んで来て南田から愛の言葉を頂戴すれば、満足そうに尻尾を揺らしながらピタリと南田に身を寄せる。

 

 しかし、

 

「わんっ」

 

 二人の世界に割り込む門番こと番犬がいるのだ。

 番犬とは南田の愛犬であるアンデルセン。

 1日や2日といった短期間の出張であれば南田も愛犬をペットホテルに預けるのだが、夏合宿のような長期間になる場合はこうして連れてくるのだ。

 当然学園側の許可も得ているし、アンデルセンも大人しく利口だからこそ同行が許されている。

 ただ宿泊施設にペット同伴可能な場所がないため、南田だけはこの時期だけキャンピングカーをレンタルし、メンバーが使う宿泊施設に駐車させてもらっているのだ。当然宿泊施設側からの許可は得ているし、施設側も南田と学園側から事情は聞いているので快く了承している。

 また南田が同じ施設内に居なくてもタマモとシチーがバッチリ他メンバーを見ているので、南田も安心して夜はアンデルセンと車中泊出来るのだ。

 

「アン、ええで。もっと吠えたれ」

「ホント、アンは優秀」

 

 タマモとシチーに褒められ、アンデルセンは嬉しそうに舌を出す。フジに至っては苦笑いだが、アンデルセンに嫌われるわけにはいかないので大人しく引き下がった。

 

「アンデルセンちゃんは辛いトレーニングの癒やしですねぇ」

「うぅん?」

「トレーナーさん、アンデルセンちゃん、絶対自分がどうしたら可愛いと思ってもらえるか知ってますよ」

「いや、本気でフクの言ってる意味が分からないだけだと思うよ」

 

 南田の言葉にフクキタルは「そうですかねー?」なんて返しつつムムムと零す。

 

「アンデルセン、スイカ食べるか?」

「わんっ」

「そうか。ならタイシンが残したやつをあげよう」

「自分の取り分から分けてやれや!」

「それは……くっ、私には出来ない! もう私の分はなくなってしまったんだ……!」

「食うの早過ぎんねんアホ!」

「まあアタシはもう食べないからいいよ。それに本当なら自分が食べたいのにアンデルセンに譲るだけ偉いって」

「タイシン、麻痺したらあかんで。既にコイツは5玉食っとんねんで?」

 

 タマモのツッコミにタイシンは「それもそうだ」と納得した。

 納得はしたが、アンデルセンがお座りしてタイシンの目の前でスイカを待っているため、しっかりと種を取った上で可食部を与えてあげた。

 

「オグリさんの気持ち、ライスも分かるよ。ライスも食べちゃったもん。本当ならライスが分けてあげれば……」

「ライス〜、そこでヘラるんはなしや。というかオグリとライスが大食い過ぎるだけの話やからな」

「あぅ〜」

「僕はいっぱい食べるライスが好きだよ」

「ふぇ〜、お兄さま〜♡」

 

 南田からのストレートな言葉にライスは破顔。

 

「よし、水分補給も終わったし、ラストのメニュー行こうか」

『おお!』

 

 こうしてみんな気合十分で夏合宿最後のトレーニングメニューに励むのだった。

 

 ◇

 

 昼間とは打って変わり、夜の海は月明かりに照らされて、幻想的な光景を見せている。

 夏合宿の最終日ということもあり、チーム『不屈』だけでなく、他のチームも思い出作りに浜辺へやってきている様子。

 

「それじゃあ始めようか。危ないから離れてね」

 

『はーい♪』

 

 南田の言葉に素直に従うメンバーたち。

 もちろんアンデルセンも大人しくタマモの隣に座っている。

 

 南田が用意したのは市販されている家庭用打ち上げ花火。

 筒形の10連発花火や赤・緑の星や流星群、炸裂星などのバリエーションに富んだ花火が43連発で打ちあがるという豪華な花火まで用意した。

 海水で砂を固め、花火を固定し、設置した端から順番にチャッカマンで点火していく。

 

 パンパンパンと花火が夜空へ上がっていった。

 

「おお、ええ感じやんか!」

「市販のでも迫力あるじゃん♪」

「花火を見ながら食べるアイスは最高だな」

「合宿前に行った花火大会思い出しちゃうね♪」

「アタシはこういうこじんまりしてる方が好きかな。混雑しないし」

「綺麗ですねぇ。福を呼んでくれそうです!」

 

 打ち上がる花火を見ながら、夏合宿の思い出を目に焼き付けるタマモたち。因みにオグリとライスは業務用アイスを仲良く半分子している。

 

「? 今、なんか叫び声しませんでした?」

「ああ、なんかしたなぁ。ルドルフの声っぽかった気ぃするわ」

 

 シチーの疑問にタマモが返すと、メンバーは気になって聞こえた方を見た。

 

「何やらルドルフが綺麗に浜辺で膝を突いているように見えるね……どうしたんだろう?」

「きっと何か食べ物を落としてしまったんだろう。かわいそうだな」

「いや、オグリ先輩じゃないんですから……」

「何してんのかは謎だけど、別に困ってる風でもなくない?」

「タイシンさんの言う通りですね! あ、ほら、なんだか和気あいあいとしてます!」

「よく分からないけど、大丈夫そうなら良かったね」

 

 ルドルフの様子が大丈夫なことを確認して視線を戻せば、タマモが「続き頼むわ、トレーナー!」と促す。

 南田はそれに軽く手をあげて返すと、再び設置した花火に火を点けていった。

 

「花火越しに見えるトレーナー……最高の絵面やな♡」

 

 花火が再開される中、タマモは思わず南田への愛が零れてしまう。

 すると当然、聞こえていた全員が一斉に頷いて返した。

 

「花火よりトレーナーに目が行くのは仕方ないですよね」

「トレーナーは素敵だからな」

「お兄さまは世界一♡」

「アタシらの自慢のトレーナーだからね」

「そして私たちだけのトレーナーさんだ♡」

「まさに運命の人です!」

 

 先程まで花火に感動していたが、今はすっかり愛する南田へ目を奪われているタマモたち。

 アンデルセンに至ってはタマモたちの惚気を聞いてられないのか、浜辺に寝そべっている。

 

「次はパラシュート花火だよ。みんな位置について」

 

 南田のその言葉に先程までの甘い空気は一気にピリッとした空気に変わった。

 当然だ。ここにいる全員がアスリートウマ娘なのだから、勝負事になれば話は別。

 

 パンッと乾いた音と共に白い煙が一直線に真上へ向かって飛び出す。

 そしてぱさりとパラシュートが開くと同時にメンバーの目の色が変わった。

 最初に勢い良くスタートを決めたのはフジ。

 そのあとをライス、オグリと追い、シチー、フクキタル。後方集団にはタマモとタイシンで、二人はみんなの様子を伺っているようだ。

 因みにこのパラシュート花火は特大サイズを買ってきたので、その分飛距離も長い。

 

 何故みんながこんなお遊びに本気で挑んでいるのか。

 それは南田が花火を準備していた時のこと。

 大きなパラシュート花火を見つけたフジが、「そのパラシュートを獲得した人が朝にトレーナーさんを起こしに行く……なんてどうかな?」と提案したからだ。

 そんな特大ニンジンを前にすれば、そういったお遊びに普段なら絶対に付き合わないタイシンも「吠え面かかせてやる」と闘志を燃やした。

 

 しかし、

 

(みんなには悪いけど、勝たせてもらうよ♪)

 

 フジが提案したのだから、その分勝算があってのこと。

 パラシュート花火の距離はどんなに大きくてもウマ娘の脚力なら余裕。

 その上、フジがメンバーの中で一番短距離を得意としているので、その分のスプリント力もずば抜けている。

 故に全部計算しての提案だったのだ。

 しかし、

 

「っ!?」

 

 背後から物凄いプレッシャーを感じた。

 微かに視線を後ろにやれば、他メンバーが既にすぐ後ろに迫っている。

 流石にこんな展開を予想していなかったフジ。

 しかしオグリもライスもレースの時に見せる気迫そのものだ。

 最後尾からはタマモとタイシンの鬼脚も炸裂していて、抜かれるのも時間の問題。

 

「ごめんね、みんな」

 

 それでも勝たせてもらうよ。と続けようとしたフジだったが次の瞬間、背中に軽い衝撃が伝わってくる。

 背中、肩、最後には頭と衝撃が走ると、

 

「わんっ」

 

 フジをジャンプ台にしてパラシュートをアンデルセンが見事にキャッチして見せた。

 これにはフジも「えぇ!?」と驚きの声をあげてしまう。

 しかし、

 

「よっしゃー! でかしたでアンころ!」

「ナイス、アン!」

 

 全てはタマモとシチーの作戦だったようだ。

 タマモもシチーもフジがみんなを出し抜くことを読んでいたので、自分たちをカモフラージュに使ってアンデルセンの気配を消していたのである。

 

「おお、凄いなアンデルセン♪ ウマ娘に勝っちゃうなんて♪」

「わんっ♪ わんっわんっわんっ♪」

 

 大好きな飼い主南田に褒められ、頬を撫で回され、大喜びのアンデルセン。

 それをフジはただ呆然と見つめるしかなかった。

 

「アンタの好きなサプライズっちゅうやつや」

「抜け駆け禁止っていつも言ってるはずっしょ?」

 

 タマモとシチーにダメ押しで注意を受け、フジは「次にするか」と気持ちを切り替える。

 当然二人から『切り替えんなや(し)!』とツッコミを受けるのだった。

 一方、オグリたちは負けはしたが勝者がアンデルセンでホッとしていたそう。

 結局、明日の朝の南田を起こしに行くというのは、みんなでということになったが、南田がアンデルセンに起こされてしまうことを今は誰も知らない。




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