ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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秋の多難?

 

 季節は秋。秋と言えばスポーツの秋。

 トレセン学園の大運動会が明日に迫った。

 ウマ娘たちのやる気はバッチリで、早く明日にならないかと運動会を心待ちにしている。

 

 そんな中、チーム『不屈』のメンバーはトレーナー室に集まっていた。

 南田に至っては明日の運動会のことで、トレーナー陣へ学園側から確認や注意事項の会議でトレーナー室を留守にしている。

 タマモたちは南田が帰って来る前にどうしても決めなくてはいけないことがあった。

 それは、

 

「ほな、『特別オープン・芝1500m・トレーナーズラン』で誰がトレーナーと走るか決めよか?」

 

 余興レースで南田と誰がペアになるかである。

 明日に行われる運動会の余興レースである『特別オープン・芝1500m・トレーナーズラン』は、理事長代理以外のトレーナーが必ず参加しなくてはいけないレース。

 ダートレースもあるが南田は既に芝で走ると決めていて、あとは誰と走るかだ。

 

「みんながトレーナーと走りたいのはよう分かるで。ウチかてそうや。でもな、ウチは今年こそ結果が欲しいねん」

 

 タマモの言葉にメンバーは真剣な眼差しで頷きを返す。

 一昨年、昨年とチーム『不屈』は理不尽にも多くの不幸が重なり、怪我はせずとも成績が振るわないでいた。

 だからこそ今年は勝ちたいという思いが強い。

 しかし本音のところは、

 

「絶対トレーナーにソロ曲やってもらわなあかんねん!」

 

 南田にソロ曲を熱唱してほしいのだ。

 今回、南田が走る組はどのトレーナーも担当しているウマ娘たちにソロ曲があるため、この組で勝ったトレーナーはセンターではなく曲そのものを一人で熱唱しなくてはいけないのである。

 因みに負ければバックダンサーとまではいかないが、ステージで手拍子なりタンバリンなり叩くという謎の役割があるので負けてもステージに立つのは変わりない。

 

「勝たせるのは大前提として……ソロ曲は誰のを熱唱してもらいます?」

 

 シチーの言葉にタマモが「んなもん決まっとるわ」と静かに返した。

 

「ライスの『ささやかな祈り』一択やろ。トレーナーのバラードは至高やからな」

 

 その言葉にメンバー全員が目を輝かせて激しく頷く。

 実は南田は歌が上手く、学生時代は街ののど自慢大会に出場して優秀賞を取ったこともあるのだ。

 その際に彼の歌ったバラードとその美声に胸を撃ち抜かれた女性もいたほど。

 

 ウマ娘もウイニングライブのために歌が必須となるため、トレーニングとは別で歌やダンスのレッスンも行う。

 担当して初めてお手本として南田が歌った際に、タマモもシチーもその美声と歌に込めた気持ち等々に衝撃を受け、いつの間にか涙を流していたほどだ。

 故にチームのみんなはなんとかして南田の美声を他の生徒たちに自慢したいのである。

 

「ほな、誰がトレーナーと走るかっちゅう問題に戻るんやが、まずウチとライス、タイシンは除外や」

「ど、どうして!?」

「……なんとなく分かってたけど、はっきり言われるのもいい気分じゃないね」

 

 タマモの宣告に思わず声を荒げてしまうライスだが、タイシンは不服そうにしながらも冷静だ。

 何故なら、

 

「ウチらはトレーナーと身長の差があり過ぎんねん。そのせいで視野が遮られて上手くトレーナーをサポート出来へん可能性が出てくるやろ?」

 

 こういうことだ。

 そもそも『トレーナーズラン』はトレーナー同士が勝ち負けを争うレースだが、1500mを走るというのは普通の人間にとって滅多にない。

 しかも組分けは年齢別(例えば20代後半組や30代後半組)となるため、トレーナー個人の運動能力は加味されずに行われる。

 そこにアスリートウマ娘のトレーナーになるために学生時代を勉強に捧げた南田とくれば、勝てる確率は下がるのだ。

 故に南田をサポートするならばまずはパートナーの視界の確保が必要となる。

 

「では私が併走するか? 私はトレーナーと同じ身長だからな」

「オグリはあかん」

「っ!? 何故だ!?」

「オグリはトレーナーの走る速度に併せられへんからや」

「なら速歩で……」

「もうその時点で無理や。去年の見とったやろ? トレーナーは思っくそ脚おっそいねん。寧ろ歩いてる方が早いまであるわ」

 

 タマモがそう言うと、オグリも他のメンバーも『あ……』と去年のことを思い出した。

 しかしそもそもの話だが、『トレーナーズラン』に出走するトレーナーたちは『どうやって自然に負けるか』を常に考えている。大の大人になって生徒たちの前で、歌とダンスをするという尊厳破壊はどうしても避けたいからだ。

 なので南田もその例に漏れず、序盤から思い切り遅く走っている。流石に最後の直線になれば速度は上げるが、やはり周りの様子を見ながらだ。

 

「そこで今年はシチーに頼む」

「え、アタシですか? てっきりフクかと思ってたんですけど」

「? シチー、どうして私だとは思わなかったのかな? 寧ろ私の方がエスコート慣れしてるはずなんだけどね? 身長も私の方がトレーナーさんより高いから視界も確保しやすいよ?」

「フジは絶対スメハラするっしょ?」

「……控えめに言ってキレそう♪」

 

 シチーの歯に絹着せぬ物言いにどす黒い笑顔を浮かべるフジ。それでもすかさずタマモが「事実やん」と追撃すれば、フジは「香ってくるなら嗅ぐしかないじゃないか……」と自白したので、訴えは棄却された。

 

「ウチも最初はフクキタルに頼も思おとったんやけど、フクキタルが暴走したら止められへんやん?」

「私、そんなことしませんよ!? というか、何故暴走云々の話が!?」

「自分の胸に手を当ててよぉく考えてみ? トレーナーと併走してるな?」

「はい」

「息切れして、疲れてるトレーナーの顔が隣にあるやん?」

「……んへぇ♪」

「ほらな? 妄想だけでクレヨンのしんみたいな怪しい笑顔になっとる」

「マ"ッッッ!」

「その点、シチーは暴走の心配はあらへんからな」

 

 ということでタマモが結論づけると、他のメンバー(フジ以外)は納得する。

 

「フジは……レース後とウイニングライブ後のトレーナーとのハグする権利をやる。でも3秒や」

「5秒」

「文句言うなら2秒や」

「……3秒で」

「おし!」

 

 ということで大事な大事な作戦会議は終わった。

 そしてレース当日、タマモの読み通りシチーは上手くトレーナーを勝たせることが出来、念願のソロ曲披露で周りの生徒たちに自慢出来た。

 ただ南田はウイニングライブ後、恥ずかしさで暫く顔を赤くして物陰で蹲っていたそう。

 

 ―――――――――

 

 秋も晩秋。

 聖蹄祭も終わって肌寒くなってきたものの、相変わらずウマ娘たちは日々元気に走り回っている。

 

 今日のチーム『不屈』は明日のウィンタードリームトロフィー準決勝に向けて、リフレッシュを兼ねて学園外を軽く走る程度。

 

 ただ、ここのところみんな外周コースが楽しみで仕方がない。

 何故なら、

 

「おう、ゴン吉、元気にしてたみたいやな!」

「クニャ〜」

「タマモ先輩、メスなんですからその呼び方やめましょうよ。そもそもシズカって名前あるんですから」

 

 チーム『不屈』がトレーニングで走る外周コースの中間地点に小さな稲荷神社があり、その社の軒下にキツネがいるのだ。

 このキツネはここの神社の地主であるおじいさんのペット。

 元は知人が飼っていたのだが、諸事情でお別れしなくてはいけなくなり、おじいさんが引き取ったのだそう。

 大変人懐っこく、訪れた参拝者の足に擦り寄って来るので、知る人ぞ知る隠れ癒やしスポット。ペットなのでちゃんと首輪もあるし、その上から稲荷神社のキツネらしく赤い前掛けもしてある。

 ただ、

 

「くぁ〜、くぁ〜、ははははっ」

「こんにちは、シズカちゃん。今日も元気だね」

 

 シズカは南田にとても懐いている。

 もともと南田自身が動物に好かれやすい体質で、初めて会った時から無条件でお腹を触るようねだってきたくらいだ。

 今も両耳を倒し、甘えた声をあげながらお腹を見せつつ、両方の前足で南田の足をガッチリ掴んでいる。

 

「相変わらず、シズカさんはトレーナーさんにべったりですね!」

「ライスたちと一緒でお兄さまのこと大好きなんだね♪」

 

 フクキタルとライスがそう言って無邪気に微笑んでいる横で、

 

「卑しい雌ギツネだね、いつ見ても」

「絶対、自分が可愛いの知っててやってるよね」

 

 フジとタイシンは思わず湿り気が出てしまう。

 しかしそれも仕方ない。シズカは動物だろうと自分たちと同じ性別で、自分たちと同じ男が好きなのだから。

 

「シズカ。すまないが君では私たちのトレーナーとは結婚出来ない。辛いだろうが、諦めてほしい」

「オグリは何真面目に言っとんねん。んなこと言わんでもええやろ」

 

 真剣にシズカへ言い聞かせるオグリにタマモは呆れたように返す。

 みんなはそれに笑い、シズカと戯れていると、

 

「んぁ? 雨かいな?」

 

 ぽつぽつと小雨が降ってきた。

 みんな取り敢えず社の屋根の下に移り、雨宿り。

 

「晴れてるのに雨だなんて……やっぱりライスのせいかな?」

「そんなことないですよ! きっとキツネの嫁入りです!」

 

 ペタリと耳を垂れさせて申し訳なさそうにするライスに、フクキタルが返せば、

 

「誰の了解を得てトレーナーさんに嫁入りしたんだい、雌ギツネちゃん?」

 

 フジがニッコリとどす黒い笑みを向けてシズカを睨む。

 しかしシズカはそんなこと気にする素振りもなく、南田に抱えられたまま「くぁ〜」とあくびをする始末。

 

「フジは相変わらず妄想が激しいな」

「だね。いちいち反応して疲れないかな?」

「まあ、それがフジ寮長ですからね」

 

 オグリの言葉にタイシン、シチーと続けば、みんなも『フジだもんね』で話はまとまる。

 それだけフジは南田狂いなのだ。

 

「トレーナーさん、いつまでその雌ギツネを抱っこしているつもりだい?」

「フジも抱っこしたい?」

「私はトレーナーさんに抱っこされたいよ。私が抱っこしてあげる方でも喜んで♪」

「シズカで我慢して」

 

 相変わらずのフジの言動に南田は軽くスルーしてフジの両手にシズカを抱かせる。

 そうすればフジは渋々でもシズカのもふもふで我慢した。

 

「それよりこれいつまで降るかな?」

 

 タイシンが空を見上げながら誰へ向けたものでもない問いを投げる。

 

「晴れてはいるから直に止むと思うぞ」

「小雨だから最悪このままでも学園までは戻れるやろ。みんなジャージやし」

 

 オグリ、タマモと言葉を返せば、タイシンは「濡れるのやなんだよね」と零しながら自身のスマホを開いて天気を確認。

 

「シズカさんシズカさん。雨を止ませてはくれませんか?」

「ライスからもお願い。ライスたちは濡れても大丈夫だけど、お兄さまが濡れちゃうと風邪引いちゃうかもしれないから」

 

 フクキタルとライスがシズカにお願いしてみてるが、当然シズカが降らせているのではないので、小首を傾げるばかり。

 

「トレーナーさんが濡れればシャツが……!」

「セクハラって知ってる?」

 

 フジが邪なことを思い描く横で、シチーがすかさずツッコミを入れる。

 

「お?」

「止んだな」

「おお! シズカさん、ありがとうございます!」

 

 小雨が止み、フクキタルがお礼を言いながらシズカの頭をもふもふした。

 みんなが『これで濡れずに済む』と思っているのに対し、

 

「つくづく君は私の神経を逆撫でするね」

 

 フジだけは目論見を阻止されてシズカを睨んだ。

 しかしそんなのシズカにとっては痛くも痒くもない。

 故に気にすることなくフジの腕から飛び降り、南田の足に『またね♪』と言うように一度擦り寄ってから、軒下へ戻った。

 

 こうしてチーム『不屈』は虹が架かった空の下を笑顔で再び走り出す。

 残念そうにするフジを除いて。




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