とある日のこと。
晴天で青々とした空。風もほぼなく、穏やかな天気で、過ごしやすい。
しかしとあるウマ娘の断末魔がトレセン学園内に響いていた。
「イギャアハワハァァァァァ!!!!!」
断末魔の声をあげるのはフクキタル。
何故フクキタルがこんなことになっているのかというと、
「これもゴミだね」
「それはご利益があると言われた巾着袋です!」
「これもゴミ」
「それは珍しく笑顔の招き猫なんですぅ!」
南田による断捨離という名のフクキタルご自慢の勝手に置いていくトレーナー室のラッキーアイテムの処理中だから。
フクキタルにとっては福を招くアイテムだとしても、そうした類の品を一切信じない南田にとっては不要の物でしかないのだ。
寮の部屋に置けないからと置くことを許可したものの、トレーナー室のスペースを圧迫しているとなると、いくら優しい南田も鬼となる。
フクキタルとしては南田やチームの運気を上げるためにという純粋な思いで置いていくのだが……ありがた迷惑になってしまっては本末転倒なのだ。
「毎度毎度騒がしいやっちゃなぁ」
「私は置物よりも食べ物の方が幸せになれるんだが……」
「オグリはそうやろな。一日五食は当たり前やし」
「? 朝食……おやつ……昼食……おやつ……夕食……晩御飯……夜食……寝る前のおやつ……八食だが?」
「そんな食っとんたんか!? 同じ部屋やのに今の今まで知らんかったわ!」
相変わらず絶妙なコンビ漫才をしているタマモとオグリ。
ただ他メンバーとしては『夕食と晩御飯は同じなのでは?』という疑問が浮かんでいるが、ツッコミを入れてはいけない。
「ねぇ、捨てられるのが嫌ならフリマとかで欲しい人に譲ればいいんじゃない?」
フクキタルが断末魔の叫びをあげ始めてから一切気にする素振りを見せなかったタイシンの言葉に、フクキタルは「ふぇ?」と静まった。
するとタイシンは自身のウマホ画面を南田に見せる。
「ほらこれ。明日近くの公園でフリマイベントあるんだって。売り手として参加するのも当日主催者に手数料払えばあとは自由みたいだから、捨てるよりはいいんじゃない? そもそもフクキタルが自分で買ってきた物だし、捨てたらそれで終わりだけど、売れば少しは戻ってくるじゃん?」
タイシンの説明に南田は「そうだね」と優しく頷き、興味ない素振りをしつつもちゃんとメンバーのことを考えているタイシンの優しさに、彼女の頭を撫でる。
タイシンはそれにフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向くが、南田の手を払い退けようとはしない。
「それならどうだ、フク?」
「ここに置いておくのはダメなんですよね……?」
その問いに南田が「ん?」と満面の笑みで訊き返すと、フクは「ギッ!?」と小さく悲鳴をあげて高速で首を縦に振った。
「ならこの日にみんなでフリーマーケットへ参加しようか。シチーには僕から連絡を入れておくよ。みんなももう必要ないもので売ってもいい物があれば持ってくるといい」
南田がそう言うと、みんなは『分かった』と頷く。
ただ、
「トレーナーさんも何か私物を売るのかい?」
フジは平常運転だ。
「うん? んー、特に売れそうな物はないな」
「使用済みのシャツとかハンカチとかタオルとか布団とか下着とか……私が言い値で買い取るよ?」
「使用済みのなんて売れないよ。何に使うの、そんなの……」
「ナニに使うんだよ」
「こら」
ペシッと南田がフジのおでこに軽くチョップを落とすと、フジは一瞬だけだらしない顔をしたがすぐにいつもの顔に戻って「ジョークだよ♡」と返す。しかし南田はフジが言ったことが本心だとは知らない。
「トレーナー」
「どうした、オグリ?」
「トレーナーはまだ私のぱかプチ持っているのか?」
「え、ああ、あの140センチ巨大オグリぱかプチ? 持ってるよ。寝室に置いてある」
「売ろう」
「売らないよ?」
「何故だ!? 本物がいるじゃないか! あれは綿の詰まった布切れだぞ!? トレーナーの言葉に受け答えも出来ないし、私の方が温かいし、抱き心地も申し分ないはずだぞ!?」
「アンデルセンのねんこ用クッションなんだ。頭を乗せるのにちょうどいいらしくて」
「アンデルセン……またお前か……」
悔しそうに拳を握るオグリ。
オグリは普段の態度から意外に思われるが実は嫉妬深い一面があり、南田の愛犬アンデルセンにも度々嫉妬している。
自身の特大ぱかプチを南田が愛でていないのはいいが、捨てさせようとしたのにアンデルセンが気に入っていては捨てさせることは不可能なのだ。
「んなことより、断捨離は一旦置いといて、今日は解散して寮に戻って、売ってもええもん選抜しよか」
「人に売ってもいい物だからな?」
「抱きしめられたり、一緒に寝られたり、ペロペロされてもいい物ね」
「ペロペロってなんやねん!」
フジの付け足しにタマモがツッコミを入れるが、タイシンが「気にしたら負けだよ」と止めた。
「ライス、何かあったかな?」
「なくてもいいんだよ? それかライスは自分で描いた絵本を売るのはどうかな?」
「ふぇぇ、恥ずかしいよぉ……!」
「そうかな? 僕はライスが描いた絵本好きだけどな」
「お兄さまったら……ずるいよぉ♡」
幸せそうに頬を緩めるライスに南田はとても癒やされ、みんなは『ライスの方がズルい』と嫉妬するのだった。
―――――――――
そしてフリーマーケット当日。
運営チームの役員に割り当てられたスペースに案内され、南田は持ってきたレジャーシートを敷き、みんなが持ってきた物をお客さんたちが見易いように陳列していく。
「もし今日売れない子がいたら、お焚き上げだからね?」
フクキタルに釘を刺すと、彼女は「うっ」と唸りつつも、南田に怒られる方が怖いので渋々ではあるが頷きを返した。
「タマモは無理に持ってこなくても良かったんだよ?」
「いや、みんな持ってくる言うとるのにウチだけ持ってこうへんのは良くないやろ。リーダーやし」
「そういうことじゃなくて、売れるような物持ってるのかって話じゃないですか?」
「なんやと!? いくら貧乏でも売れるもんくらいウチかて持っとるわ!」
シチーの指摘にがなるタマモ。
しかし、
「トイレットペーパーの芯にペットボトルのキャップ……ダンボールや牛乳パックとか売れるのか?」
売り物は全てリサイクル品ばかり。
オグリ同様、他のメンバーもこれにはなんとも言えず、目を逸らす。
「ああ、意外と需要はあるよ? ここに買いに来てくれるかは分からないけど、フリーマーケットのアプリとかでは意外と売れるらしい」
南田が事実を述べれば、みんなは驚き、持ってきたタマモですら「ホンマか!?」と驚愕した。
「なんで持ってきた本人が驚いてるの……」
「いや……ほら、実家のチビ共がこういうので工作しておもちゃ作りよるから、売れればええなぁぐらいの感覚やったんや」
呆れ気味のタイシンにタマモが返せば、みんなはやっと合点がいく。
「アタシ的に一番意外なのってオグリ先輩のなんですよね」
シチーの言葉にオグリは「む、そうか?」と小首を傾げた。
でもそれは他のメンバーも同じようで、南田さえも「確かに意外だね」と言う。
何故ならオグリが持ってきたのはそこそこリアルなステーキを模したクッション。10インチ程度のサイズで持ち運びも簡単。ちょっとした休憩用枕だ。
「ステーキの早食い大会の副賞で貰った物なんだが、リアルで見てるとお腹が減ってくるんだ……だからずっとロッカーに置いてあったんだが、いい機会だと思ってな」
『なるほど』
思わず声が揃う南田たちを見て、オグリは少し恥ずかしそうに顔を逸した。
そうこうしている内にフリーマーケットの開催を知らせるファンファーレが鳴り響き、南田たちはお客さんが来るのを待つことに。
◇
「南田君がいるとは思わなかったな」
「あ、先輩。お疲れ様です」
始まってから数時間が経った頃、チーム『不屈』のブースに来たのはチーム『ナイトスカイ』のトレーナーである吉部克。
南田の先輩トレーナーであり、幼馴染みが師と仰ぐため何度も顔を合わせる機会があったことで会えば親しげに話す間柄だ。
「シービーらのトレーナーやんか。毎度おおきに! 稼いどるんやからパァッと買ってってや!」
タマモが持ち前のコミュ力で接客すると、吉部は「まずは品物を見せてもらおうか」と躱した。
「……このステーキのクッションはいくらかな?」
「オグリ! ステーキクッションいくらや?」
「えっと……500円?」
「疑問系で返すなや! 早食い大会の副賞やろ!? もうちょい欲張らんかい!」
「しかし、もともとタダの物に値段をつけるのは難しいんだ」
「タダでも副賞の時点でプレミアム価格つけてええ物や! ドドンと5000円にしとき!」
「何!? そんなに高く買ってもらえるのか!?」
「オグリ、お前商売人向いとらんわ……」
オグリとタマモが漫才をしている横で、
「値段を決めていないのか?」
「はい。現持ち主の言い値にした方がいいかと思って」
「なるほどな。そうすればいい経験になるものな」
吉部と南田は保護者の気持ちで会話していた。
「ナイトスカイのトレーナー。限定品価格やから5000円でどや?」
「出せなくはないが……4000円でどうかな?」
「ちょいちょい! 男なんやからドドンと払えや!」
「ない袖は振れない。そもそも現所有者の言い値は500円。ボッタクリは浪花の恥ではないかな?」
「ほぉん? 言うやん? でもなぁ、オグリが体張って獲得した物やからなぁ、価値の分からんオグリの代わりに値段決めてやるのも浪花の優しさっちゅうもんや」
「ほう、ならばその優しさで3000円にしてくれないかな?」
「さっきよりも下がっとるやんか!」
「なら4000円でいいのかな? そちらが誠意を見せてくれれば、そちらの未使用と書いてあるバスタオルも合わせて買わせてもらうよ?」
「…………3500円でどうや?」
「交渉成立だ」
こうして吉部とタマモの値切り合戦は幕を閉じる。
因みにバスタオルはタイシンがゲーセンのクレーンゲームで取れそうだから取っただけで未使用の物。ただプライズ品であるためタイシンの言い値は1000円だった。しかしプライズ品でもタオル自体は黄緑色で肌触りも柔らかく吸水性に優れた素材とのことで、決してボッタクリとは言い難い。
なので吉部も納得して支払った。
「良い買い物が出来た。また学園で会おう。これ、みんなのジュース代だ」
「わざわざありがとうございます」
去り際にスマートにみんなの飲み物代を南田に渡す吉部にみんな揃ってお礼を言うと、吉部は手を振って今度こそその場をあとにする。
◇
その後もタマモやフジの客寄せスキルでお客さんは続々とやってきた。
フリーマーケットを通して人々と交流もしつつ、時間が過ぎ、フリーマーケットの時間も残り僅か。
「フクのも全部売れたが、あとはシチーの持ってきた化粧水だけだね」
「2000円もする化粧水なんて誰も買わへんて……」
「でもこれ一応ブランド品なんですよ? 仕事でたまたま貰って、でもアタシはアタシで好みの化粧水使ってて、周りにもそれぞれ好みのブランドのを使ってる子ばかりなんであげる子もいないですし……」
そこへ、
「ならそれ俺が買おうか?」
「な、なんでここに!?」
南田の幼馴染みであるチーム『ジャイアントキリング』のトレーナー田添文洋が現れた。
「なんでって……買い物の帰りにふらっと立ち寄ったら、知ってる顔がいたからさ」
「くぅ、相変わらず醸し出すイケメンオーラが眩しい……!」
「何言ってんだよ……」
唸る南田に苦笑いする田添。
「あの、このブランドはメンズ物で有名ですけど、この化粧水はレディース用なんです。それでもいいんですか?」
シチーの言葉に田添は「ああ、プレゼント用だから」と返せば、シチーも納得して化粧水を手渡す。
「ちょうどカレンに渡すプレゼントが買えて良かった。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
ナチュラルに担当ウマ娘に渡すプレゼントだと言う田添にシチーは思わず『トレーナーからプレゼントされるとかうらやま』と心の中でつぶやいた。
「ここの近くに安くて美味しいドカ盛り自慢の定食屋があるから、担当の子たちを労うのに連れて行ってやれよ」
「言われなくてもそうするよ……その定食屋どこ?」
「スマホに情報送るよ」
「サンキュ」
こうしてフリーマーケットは無事に終わり、南田は最後に少しだけ恥ずかしそうにしていたが、普段はタマモたちには分からない男友達に見せる顔を見れたことで、タマモたちの気分は絶好調。
田添に教えてもらった定食屋はウマ娘歓迎の店だったので、オグリやライスが満足する量を堪能出来た。
因みにフリーマーケットの売上金はチームみんなのお金とし、今度何かで使おうと決めたそう。
読んで頂き本当にありがとうございました!