ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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量は適切が一番

 

 ある休日の昼。

 チーム『不屈』はみんな揃って今日は都内某所で主にスターウマ娘やそのウマ娘が出走したレースの内容・成績を紹介しているウマ娘専門誌の独占インタビューを受けていた。

 質問内容は主に『普段はどんなトレーニングを行っているのか?』、『どのようなことを考えてトレーニングを考案するのか?』といった真面目なもの。

 しかしそればかりではなく、『オフの過ごし方』や『最近ハマっていること』など、ファンが身近に思えるような質問もある。

 

 ただ、

 

「……疲れた」

「……緊張して何度も噛んじゃったよぉ」

「……話の途中でトレーナーさんに止められてしまいました」

 

 南田を含め、タマモたちのチームは七人もいるため、インタビューをするとなると長時間となるのだ。

 今日も登校時間とほぼ同じ時刻……移動時間も入れてしまえばいつもよりも早起きし、インタビューが終わった現在の時刻は13時を過ぎている。

 

「アタシはこういうの仕事で慣れてるから余裕だわ」

「私も余裕かな。ポニーちゃんたちと過ごす時の方が忙しいくらいだね」

「ウチも喋るんは得意やからまだまだ余裕やで」

 

 タイシン、ライス、フクキタルが疲労感を表す一方で、シチー、フジ、タマモはどこ吹く風。

 

「みんなお疲れ様。いい記事にしてくれるって」

 

 南田もこういうことにはもう慣れてしまっているので余裕。

 問題は、

 

「……餓死しそうだ」

 

 先程からずっと空腹で腹の虫が大号泣しているオグリ。

 それも当然で、いつもなら10時のおやつが彼女の日課なのに、今日はインタビューのせいでそれが満足に味わえなかった。

 記者の人も気を利かせてみんなに飲み物とお菓子は多めに用意したものの、そんな量はオグリにとっては微々たるもの。みんなもオグリが絶対に足らないと思って自分の分も全て彼女へ譲ったものの、それでもいつものおやつに比べたら到底足りない量だ。

 それでいていつもは12時ピッタリにカフェテリアに現れ、大量のご飯をもりもり食べるオグリが今の今まで耐え凌いでいる。

 サバイバルで言えば彼女はもう丸一日は水分しか摂取していない状態に近いのだ。

 

「ああ、大丈夫だよオグリ。さっき記者さんからドカ盛りで有名な中華のお店教えてもらったから」

「っ!? 早く行こうトレーナー!」

「分かったから落ち着いてね? それとオグリはよく迷子になるからちゃんと誰かと手を繋いでね?」

「ああ、もちろんだ!」

 

 オグリは早速南田の左腕に抱きつく。

 みんな一瞬……ほんの一瞬だけ眉の角度が上がったが、天然且つ本能に忠実なオグリ故の行動なのでお咎めはなしにした。

 残る右手は、

 

「むっふーん♪」

 

 フクキタルが確保。

 しかしこれはちゃんとほんの1秒で決着がついた公正なジャンケンの結果である。

 今日のフクキタルは運勢大吉なのだ。

 

「フクも手を繋ぐのかい?」

「はい!」

 

 元気なお返事を返すフクキタルは早速南田の手を指と指を絡めるように繋ぐ。いわゆる恋人繋ぎなのだが、南田は鈍感なのでこういうことをしても特に何も言わない。

 みんなからの(主にフジからの)視線は容赦なく突き刺さるが、愛する南田と恋人繋ぎが出来た幸運を噛み締めるフクキタルはニヤニヤしているのみだ。

 

 こうして南田はみんなを連れ、両手に花の状態で記者から教わった飲食店へと歩き出した。

 

 ◇

 

 そこは昼過ぎでも人気で行列が出来ていてオグリが絶望感に打ちひしがれたが、それでも並んでいる途中で南田がタマモに頼んで、向かいにあった喫茶店でサンドイッチを10人前テイクアウトしてきたので、席に通されるまでなんとかなった。それでいてちゃんと10人前の内1人前はライスに分けてあげたのだから、オグリは優しい子である。

 

「いらっしゃいませ! お冷です! ご注文がお決まりになりましたらお声かけください!」

 

 キビキビとしたウマ娘店員さんが去ると、みんなはメニュー表を手にどれにしようかと見比べた。

 

「……トレーナー、いつものことだけど半分にしない? アタシ、絶対一人で食べ切れる自信がないんだけど」

 

 メニュー表と他のテーブルで既に食べている客たちの前にある料理の量を見て、タイシンは南田にSOSを出す。

 オグリが満足するためと南田の懐のためにチームで外食する際は、基本的に今日のようなドカ盛り店かバイキングレストランが多い。

 バイキングレストランならタイシンも自分に合った量を食べれば済むが、今日みたいなドカ盛り店だとそうはいかないので、いつも南田とシェアしている。

 ただ、

 

「アタシ、明日撮影あるからシェア希望」

「私も今回のお店はシェアがいいかな」

「私もシェアしたいです!」

 

 普段から平均の量で満足するシチー、フジ、フクキタルも今回は店内の様子を見てシェアを希望した。シチーに至っては仕事の関係もあるが。

 

「ほんなら、ウチらはシェアしやすい物頼もうや。この炒飯ともやし肉炒めでどや? あと羽付き餃子! にんにく入っとらんから安心やで!」

 

 タマモの提案に南田は勿論、他のメンバーも頷く。

 一方でライスはまだ悩んでいるようなので、南田は「ゆっくりでいいからね」と優しく声をかけた。

 

 ライスがメニューを決めかねていると、

 

「お待たせしましたー! お通しの豚バラ炒めでーす! ご飯もどうぞー!」

 

 店員さんがお盆に大皿の豚バラ炒めと人数分のご飯を持ってくる。

 まさかのサービスに思わずぽかんとしてしまう南田たちだが、

 

「なんていいお店なんだ!」

「美味しそう!」

 

 大食いのオグリとライスからすればとても嬉しいサービスのようだ。

 

「お通しが大皿と丼飯て、どないなっとんねん!」

「? 少ないんだが? ちょうどいいと思う」

 

 タマモのツッコミにオグリは首を傾げつつももりもりと食べ始める。

 横ではライスもオグリの意見に賛同なのか、コクコクと頷いて食べ始めていた。

 

「アタシらのご飯も食べていいからね、オグリ先輩」

「なら私とトレーナーさんのはライスさんにあげますね!」

 

 他のメンバーは自分の丼飯をオグリとライスにパス。

 しかし圧倒的にご飯の方が多くなってしまった。

 

「お通しで白飯だけもろうてどないせいっちゅうねん!」

「塩や醤油があるじゃないか」

「天ぷらや刺し身食うのとちゃうねんぞボケオグリ!」

 

 しかしオグリもライスも余裕綽々。

 タマモは性分でツッコミを入れてしまっているが、南田含め他のメンバーはいつもの光景だとスルーした。

 

「それで、ライスは決まったかな?」

「っ……ゴクン。うん、決まったよ、お兄さま」

 

 ライスが答えると、南田は手をあげて店員さんへ声をかける。

 そして注文を終え、料理が来るのを待つ間、南田はぼんやりと店内でかかっていたテレビを眺めた。

 すると、

 

『海老反る旨さ!』

『海老を揚げれば気分も上がる!』

『ウマてんの天丼! 500円!』

『キャンペーン実施中!』

 

 オグリが前に行った天ぷらチェーン店のCMが流れた。

 因みにキャンペーンとは期間中にお店で1000円以上お食事をするとオグリのブロマイドが1枚貰えるというもの。全7種で1つはシークレットだ。(因みにシークレットは有馬記念を制した際の南田とのツーショット)

 

「これのお陰でケッコー評判いいみたいじゃん?」

「みたいだね。ちょっと前に担当者さんから聞いたけど、今度はチーム全員でって話も出てるらしいよ」

 

 シチーの言葉に南田がそんなことを返すと、

 

「ええやんか! あとはギャラ次第やな♪」

「アタシはやりたくないんだけど……」

 

 手を擦りながら怪しい笑みを浮かべるタマモと嫌そうに耳を垂らすタイシン。

 

「私は好きなだけ食べていいからまたやりたいぞ!」

「正式にオファーが来たらの話ね。内容次第では僕だって断るから」

 

 食べる気満々のオグリに南田がトレーナーとしての意見を返すと、オグリは見るからにしょんぼりと耳を垂らす。しかしそれでも食べることをやめないのがオグリだ。

 

 そんな話をしていると、やっと料理が運ばれてきた。お盆ではなく、台車に乗せられて。

 

「いただきます!」

「い、いただきます!」

 

 勢い良く自分が頼んだラーメン・炒飯・餃子・卵スープセット(白米おかわり自由)を食べ始めるオグリとライス。

 ラーメンは麺が伸びてしまわないようつけ麺スタイルだが、麺だけで軽く10玉はある。炒飯に至っては5合はありそうな山盛りで、餃子もライスの耳と同じくらいのサイズ。スープも丼だ。

 二人が美味しそうに食べる中、南田たちはその量の多さに固まってしまっている。

 何しろ、

 

「もやし肉炒め多過ぎひん?」

「大皿にしてもね……ファインモーションが行くようなラーメン屋さんで見るレベルの山盛りだ」

 

「この羽付き餃子ってさ、どう焼いてんだろうね?」

「ウマ娘の店員がいるんだから、鉄板で焼いてひっくり返してもらってるとか?」

「圧倒的な量の暴力です!」

 

 どれもサイズが凄いのだ。

 オグリやライスの餃子と同じく羽付き餃子も5個なのだが、こちらの餃子もやはりサイズは二人のと同じ。

 それでいてもやし肉炒めはもやしと肉のエベレスト山。それ以外にもニラやニンジンも入っているようだ。

 炒飯に至ってもセットではなく単品なのでこちらの方が多く見える。

 

「……とりあえず食べようか。僕らが食べ切れなくても代わりはいるもの」

「せやな。食べるだけ食べよか」

 

 こうして南田たちはそれぞれ取皿に料理をよそって、仲良くシェアするのだった。

 しかしタイシン、南田、シチーと続々脱落し、最後はオグリとライスの胃の中に消えていった。

 

 ◇

 

 食事を終えた一行は、帰る前に食休みとして駅の近くにある公園に立ち寄ることに。

 オグリとライスは余裕だが、タイシンとフクキタルが足元ふらふら状態だから。

 

「お腹が慣れてきたら帰ろう」

「ごめんね、トレーナー……」

「ごめんなさいです……」

「いやいや、気にしなくていいよ。僕も休憩したいし……」

 

 遠い目をして言う南田にタイシンもフクキタルも『この人も自分と一緒なんだ』と感じて、少し安堵する。

 

「量はあれだったけど、味は美味しかったよね」

「おー、確かになー。炒飯もパラパラで、もやし肉炒めもええ塩梅やったし、餃子もカリッじゅわって最高やったわ」

「やめてくれ、タマ。またお腹が減ってくる」

「どんな腹してんねん、アホ! 毎回毎回どこにあんな量入んねん!」

 

 量は物凄かったが、それ以上に味に感動した方が大きかったメンバーたち。

 お会計の際には店主がわざわざ厨房からやってきて、メンバーと記念撮影した。なんでもライスの大ファンらしく、ライスとはツーショットで撮影したくらい。

 

「今度行く時は蹄鉄持ってって、蹄鉄跡を色紙に残してあげような」

「お兄さま……うん、そうする♪」

 

 こうして暫くみんなで他愛もないお喋りをし、南田の引率で中央へと帰るのだった。




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