ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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お正月の不屈

 

「あ〜、寝正月が出来る喜びは格別だ……」

 

 新年を迎え、南田は愛犬アンデルセンと共に暖かいリビングで寝そべっていた。

 マイクロファイバー毛布を1枚羽織り、冬毛でふわふわになっているアンデルセンを抱っこすれば、日々の忙しさから今だけ解放してもらえる。

 トゥインクルシリーズ中は新年早々でもレースが開催させるので各レースの情報収集で忙しくしていたが、フクキタルがドリームシリーズに移ったことでスケジュールに余裕が出来、こうして寝正月を過ごせているのだ。

 これには愛犬アンデルセンもご満悦。

 

「アンデルセ〜ン♪ 今日もふわふわもこもこでかわいいね〜♪」

 

 南田に抱きしめられ、猫吸いならぬ犬吸いをされても嬉しそうに大人しくしているアンデルセン。

 アンデルセンとしても今日みたいにたくさん構ってもらえるのはこの上なく幸せなのだ。

 

 ◇

 

「なあ、あっこに入って行ったら空気読めん奴やと思われへんか?」

「……まあ、気持ちは分かりますけど、だったらここまで来た意味なくないですか?」

 

 一方、そんな南田とアンデルセンのイチャイチャ具合を見つめるのは、南田の教え子たちであるチーム『不屈』の面々。

 みんな正月休みは実家で過ごすと南田に伝えたが、実はサプライズで日頃の感謝として新年一発目にお正月パーティーをするつもりでやってきたのだ。

 そして取り敢えず南田がいるのかを確認するために縁側へ回り込んで、リビングの様子を見たところ、先の光景を目撃したということ。

 

「犬になりたいと心から思う日が来るとは思わなかったなー」

「私の方が早く走れるし、ご飯もたくさん食べられるし、抱き心地も負けていないんだが?」

「フンッ、あんなニヤついて……だらしない。尻尾ならアタシにだってあるっての。毛並みだって負けてないし」

 

 そして南田とアンデルセンのイチャイチャを見て、思わず湿度が増すフジ、オグリ、タイシンの三連加湿器。

 

「お兄さま幸せそう♪ 見てて可愛いなって思っちゃった♪」

「お正月から福が来てますね!」

 

 一方でライス、フクキタルに至っては愛する南田の幸せそうな光景が見れて眼福といった様子だ。

 

 ◇

 

「わふっ!」

「? どうした、アンデルセン? 外に誰かいるのかい?」

 

 威嚇ではなく、何かを見つけた時にする鳴き方に南田がアンデルセンの見ている方へ目をやると、

 

『あ』

 

 縁側にいるメンバーたちと目が合った。

 タマモたちは覗き見していたことに若干の後ろめたさがあったので、思わず『ヤバい』と思ったが、

 

「みんな、来てくれたのか」

 

 ふにゃりと破顔して心からの笑みを浮かべてくれる南田に、メンバーは胸を撃ち抜かれる。

 それだけ南田の笑顔は彼女たちの心を掴んで放さない。

 その証拠にみんな尻尾がアンデルセンに負けないくらいブンブンだ。

 

「明けましておめでとう。会えないと思っていたけど、こうしてみんなに会えてとても嬉しいよ」

「わんっ! わんっ!」

 

 南田の心からの出迎えにみんなも笑顔で新年の挨拶を返す。

 ただ、

 

「…………」

 

 フジだけは胸を押さえたまま。

 微かに聞こえてくるのは、

 

「私のトレーナーさん最高素敵ぶちおかキュン死にする大好き愛してるぶちおか寝室で大人のサプライズパーティーしたいてかさせろあの笑顔をとろ顔にして舐め回したいぶちおか―――」

 

 決して乙女が発してはいけない言葉の数々。

 このままでは南田の身が危険で危ない。

 既にそれを察知したアンデルセンはフジに向かって唸り声をあげている。

 

「トレーナー、悪いんやけど使用済みのTシャツかタオル貸してくれへん?」

「? いいよ。今持ってくる」

 

 タマモに言われて素直に昨日使ったタオルを持ってくる南田。

 するとタマモはそれをフジの顔面に押し当てた。

 そうすればフジは一心不乱にそのタオルを嗅ぎ始め、ヘブン状態に。

 

「……トレーナー、家に上がってもええか?」

「あ、うん。玄関からね」

「分かっとる」

「ねぇ、タマ」

「知らん」

「タマ、フジはどうす――」

「――んなもんオブジェや。庭に置いとき。気ぃがすんだら上がってくるやろ」

「わ、分かった」

 

 こうしてフジを除くメンバーは南田宅へお邪魔した。

 

 ◇

 

「ほな、改めて。明けましておめでとう。今年もよろしく頼むで、トレーナー!」

「うん、こちらこそよろしく、タマ」

 

「あけおめ。ことよろ。ま、今年もアタシが色々とコーデ面倒見てあげるから、そっちもトレーニングとアタシの仕事の調整よろしく」

「うん、任せて」

 

「明けましておめでとう、トレーナー。今年も美味しい物をたくさん食べような」

「程々にね。程々に」

 

「お兄さま、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。ライス、頑張るから、いっぱいいっぱいトレーニングさせてね……あとご飯もいっぱい食べたいな」

「うん、僕も頑張ってライスの力になれるよう努力するよ」

 

「あけおめ。今年もよろしく。アンタならもう全部言わなくても伝わってるよね?」

「一緒に今年もレースでみんなをあっと言わせようね」

 

「明けましておめでとうございます! 今年もトレーナーさんのもとにハッピーがたくさん訪れますよう、心からお祈りしておりますよ!」

「なら先ずは幸運グッズを買わないことから始めようか」

「フンギャロ!」

 

 相変わらずのフクキタルとのやり取りを見て、メンバーも南田も可笑しそうに笑った。

 その後は夕方まで特にやることもないのでコタツに入ってまったりモード。

 

「みんな実家には帰らなかったんだね」

「今年はみんなでそう決めたんや。冬休みはまだあるから、三が日過ぎたら顔出す予定やで。年末年始はどこもアホみたいに混むからなぁ」

「アタシのとこなんてトレーナーがいるなら安心って言って旅行行ったよ」

「私はお正月もトレーナーの側にいたかったんだ」

「アタシは去年も帰らなかったし、電話はしたから」

 

 コタツに入り、それぞれの話を聞きつつ頷く南田。

 その間にもみかんを剥いてはひな鳥状態で口を開けて待つオグリの口へみかんを与えている。

 

「アンちゃん、冬毛でもこもこしてるね♪」

「普段から毛艶もいいですし、冬毛だと一段といい気がします!」

 

 一方でライスとフクキタルはアンデルセンの背中や頬を撫でている。

 アンデルセンに至っては撫でられてご満悦だ。

 

「ならみんなで人生ゲームでもする? 僕、子どもの頃はよくお正月は家族や親戚たちと人生ゲームしてたんだ」

「お〜、それもええな。ウチはドンジャラやっとったわ」

「アタシの家はトランプかな」

「私は……何か食べていたな」

「アタシは普通にお年玉回収したあとはゲームしてた」

 

「ライスは初詣とか行ってたよ♪」

「私は基本的に実家のお手伝いしてましたね。巫女服着て!」

 

 それぞれの正月の過ごし方を話しつついると、

 

「待たせたね、トレーナーさん。ポニーちゃんたち」

 

 フジが正気を取り戻して上がってきた。

 

「おう、やっと戻ってきたんか。なら取り敢えず、鞄にしまったトレーナーのタオル返そか?」

「これは私の――」

「トレーナーのやアホセクハラ寮長」

 

 まさかの没収にフジはガックリと項垂れるが、そんな彼女のことなんて気にすることなく、シチーがしっかりと南田のタオルを回収する。

 ちょっと湿っていたので思わず『うっ』と眉をひそめてしまったが、すぐに冷静さを取り戻して南田宅の洗濯機の中へ放り込んだ。

 

「で、人生ゲームをするのかい? するにしても時間が結構掛かるから、このままお喋りしてまったり過ごした方がいいんじゃないかな?」

 

 気を取り直し、南田の真横に座って頭を彼の二の腕に擦りつけ、これでもかと甘えながら言うフジ。

 タマやシチーは『コイツ……!』とは思ったものの、確かにフジの言う通りではあるのでそれについては賛同した。

 何しろ自分たちは南田にサプライズでパーティーをするためにここへ来たのだから。

 

「トレーナー、お腹減ってない?」

 

 フジの行動にイラッときたタイシンが強引に話を逸らす。

 その質問に南田は「そういえばオグリもいるし、そろそろ作らないと夕飯に間に合わないね」と時計を見ながら零した。

 するとタマモもシチーもその言葉を待っていたと目の色がギラリと変わる。

 

「トレーナー、実は料理ならウチらでもうある程度用意して来たんや!」

「そもそも今日はトレーナーのためにお正月のパーティーするために来たからね」

 

 タマモ、シチーとそんなことを言うと他のメンバーも笑顔を浮かべて頷いて見せ、教え子たちの気持ちに南田は思わず目頭が熱くなった。

 

「みんな、ありがとう。最高のお正月だよ」

 

 ぱぁっと天使のような笑みを浮かべて感謝を告げる南田。

 そんな彼の激甘スマイルを前にみんなは胸がずきゅんどきゅんしてしまう。フジに至ってはまた危ないことを頭に浮かべていそうなので、即座にライスが「ごめんね」と謝りつつ手刀でフジを夢の中へ送り出した。そうでもしないと今度こそ愛するお兄さまの身が危険で危ないから。

 フジが急に気を失ってだらんとしていることを南田は心配するが、フクキタルが「眠くなったみたいですね!」なんて適当なことを言えば、彼は自分の担当ウマ娘が嘘を吐くはずがないと思っているので、普通に信じてしまう。

 

「フジはそこら辺に転がしとけばええで。部屋ん中なら寒ないやろ」

「アンデルセンがお腹に乗ってるから寧ろ温かいと思う」

「いいのかな? せめて僕が使ってた毛布を――」

「そんなご褒美必要ない!」

 

 毛布を掛けようとしたところをオグリに阻止され、南田は「そ、そっか」と引き下がるしかなかった。

 

「んじゃ、パーティー始めよっか。トレーナー、たこ焼き器あったよね?」

「うん、あるよ」

「メインはたこ焼きやで♪ たくさん焼いたるから腹いっぱい食うてや♪」

「わぁ、嬉しいなぁ」

 

 南田の心からの喜びにタマモは思わずデレッとだらしない笑みを浮かべてしまう。

 しかし他のメンバーも負けていない。

 

「アタシは事務所の人たちに聞いて評判のいいおせち予約しといたよ」

「私はお赤飯を持ってきたぞ。1俵分」

「ライスはね、タラバガニさん用意してきたの♪」

「アタシはみんなで飲むジュース」

「私はトレーナーさんのために実家から日本酒を送ってもらいました! 清めてありますから、新年から運気アップです!」

「みんな色々と本当にありがとう」

 

 南田の笑顔が見れて他のメンバーも思わずデレッとした。

 

「あ、フジはワイン持ってきたみたいやな」

 

 気を失っているフジの代わりにタマモがフジが持ってきた物を南田に渡す。

 南田はこう見えて大酒飲みのうわばみで、大吟醸の一升瓶を飲み干してもケロッとしている程だ。

 

「ほな、始めよか♪ トレーナー、たこ焼き器持ってきてや♪」

「うん、今持ってくるよ」

 

 こうして南田はタマモたちと正月からワイワイガヤガヤと笑顔溢れる時間を過ごし、また楽しい思い出を増やすのだった。




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