ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ナイトスカイのオフの日

 

 時刻は午前9時。

 吉部は普段とは違ってラフなネイビーのテーラードジャケットとテーパードパンツを合わせたセットアップコーデに、白のカットソーインナーで駅前に佇んでいる。

 

 今日は日曜日。座学は勿論、レースもトレーニングもない完全オフ。

 なので彼は普段からトレーニングや学業に励む愛バたちを遊びに連れて行くことにした。

 当然、吉部からの誘いに全員が食い気味で了承し、今日に至る。

 

「やっほー、トレーナー♪」

 

 シービーの声がしたので吉部がその方向へ振り向くと、全員が私服姿でやってきた。

 ただシービーだけは珍しく勝負服と同じグリーンのロングスカートに、白の長袖縦セーター姿。

 実はその服は吉部が前にシービーへプレゼントした物。

 吉部と遊ぶということで思い出の一着を着てきたのだ。

 

「おお、来たか。みんなおはよう」

 

 吉部が挨拶をすれば、みんなもにこやかに挨拶を返す。

 すると早速ウオッカが「今日はどこ行くんだ!?」と目を爛々に輝かせて訊ねてきた。

 なので吉部は態とらしく「ふっふっふ」と笑い、あるチケットを見せつける。

 

「ここに行くぞ」

 

『おお!』

 

 そのチケットは―――

 

「これはどうしたんだい、トレーナー君?」

「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんのところにURAから送られて来たみたいで、お祖父ちゃんはこういうところに興味ないから俺のところに送って来たんだ」

 

 ―――都内にある遊園地の団体招待券。

 吉部の祖父のところへは定期的にこういう物がURAから届く。

 それだけURAにとって吉部の祖父母はウマ娘レースを活気付かせてくれた功労者なのだ。

 ただ祖父は遊園地に興味関心がない。遊園地に行ったのは孫が幼かった頃。また今回送って来たのは団体チケットなのもあり、だったら孫に譲ればいいと妻に言われたのでそうした次第。

 

「切符を買って、遊園地に行くぞー!」

『おー♪』

 

 こうしてナイトスカイは遊園地へと向かった。

 

 ◇

 

 意気揚々と遊園地へとやってきたナイトスカイ。

 しかしゲートを潜るまでにかなりの時間を要した。

 何故なら、

 

「ミスターシービーだー!」

「ホンモノだー!」

「キレイー!」

「カッコイイー!」

「シンボリルドルフもいるー!」

「ナイトスカイ勢揃いだー!」

「ナリタブライアンかっけー!」

「シリウスもカッコイイー!」

「ブルボン本当に無表情だー!」

「ウオッカってまつ毛長くてかわいいー!」

 

 ナイトスカイは超が付くほどのスター集団であり、子どもたちにとってはそんなスーパースターを生で、間近に見れたことで大興奮。

 故に遊園地へ遊びに来た子どもたちに囲まれてしまったのだ。

 握手に抱っこ。おんぶやら写真撮影やら、ファン感謝祭のようにごった返し、吉部は遊園地の運営責任者に電話をしてまでスペースを急遽確保してもらった。

 当然、ナイトスカイを率いるトレーナーの吉部にも握手やら写真撮影やらを頼むファンもいたので、結局のところは係員が数人やってきて人混みを整理してくれた。

 

 そしてやっとゲートを潜れた頃には、お昼近くになってしまっていたのだ。

 ナイトスカイも今回は純粋にお客として来ているので、周りの人たちも吉部の説明でようやく一段落してくれたのである。

 

「オフなのに何かのイベントにでも参加したみたいな忙しさだったねー♪」

 

 シービーはそう言う割に嬉しそう。

 子どもたちやファンたちがいてこそのアスリートウマ娘なので、多くの人々に支えられているという実感が嬉しいのだ。だからこそ吉部もプライベートだからと止めに入らなかった。

 当然、シービーだけでなく、他のメンバーも嬉しそうにしている。

 

「急遽運営責任者の方まで来てくれたからな……あれだけ迷惑を掛けてしまったのに、逆に来園してくれたことに感謝されてしまった」

 

 吉部が頭を掻きながら言えば、みんなも揃って苦笑い。

 しかも最後は責任者まで吉部含め、ナイトスカイとの写真撮影をし、後日にそれを運営ブログにアップする上、追加で警備員も数人付けてくれたのだ。

 

「……まあ、とにかく昼食にしよう」

 

 吉部がそう言うと、みんなも頷いて園内にある休憩スペースへと向かう。

 

 ◇

 

「遊びに行くって聞いてちゃんと弁当作って来ましたぜ♪」

 

 ウオッカはそう言って背負ってきたリュックからドドンとお重を出した。

 事前に吉部から今日のお昼に弁当が必要かどうか確認しておいたのだ。

 

「私も一応作ってきたんだ。ウオッカほどの腕前ではないが、皆の口に合えば嬉しい」

 

 ルドルフもそう言って手提げからお重を出す。彼女も彼女でウオッカだけでは大変だろうと、ウオッカと相談して作ってきたのだ。

 しかしウオッカのお重は大きくて五段のお重だが、ルドルフのは通常サイズの二段。

 そして、

 

「おにぎりは俺が用意した。右からツナマヨ、昆布、肉巻きだ」

 

 吉部は主食を担当。肉巻きおにぎりはブライアンが大のお気に入りなので作らないと文句は言わないが無言で睨まれるのだ。

 ウオッカが作ってきたのは上の段から唐揚げ、厚焼き玉子、ニンジンベーコン巻き、ニンジンサラダ。そして一番下にナタデココやみかん、パイナップル、さくらんぼが入ったフルーツポンチ。ちゃんとさくらんぼの種は取り除いてあるというのがポイントが高い。

 ルドルフに至っては肉じゃがと筑前煮という母直伝の煮物。

 

「では、いただきます!」

『いただきます!』

 

 割り箸と飲み物が行き渡ったのを確認して、賑やかな昼食が幕を開けた。

 ブライアンは当然のように肉巻きおにぎり一直線。シービーやシリウスはルドルフの筑前煮に箸を伸ばし、ブルボンは昆布のおにぎりをリスのように頬張る。ウオッカに至っては適当に摘みながら、みんなの紙皿へ食べ物を乗せている。

 

「作ってもらっておいて言うのもあれだけど、相変わらずルドルフは煮物が好きだねー」

「煮るだけで簡単だからね。流石にウオッカのようにとなると今の私の腕では少々不安が残る」

 

 シービーの言葉にルドルフはそう返すが、将来は必ず吉部に弁当を作る気満々なのでエアグルーヴやヒシアマゾンからレシピを教えてもらって特訓中。

 ただその時が来るまではいくら仲のいいシービーたちにも味見はさせないと決めている。

 

「皇帝様が普段自分で用意する弁当よりはいいんじゃないか? 普段のお前の弁当は松崎し〇るみたいに茶色だからな」

 

 シリウスが不敵な笑みを浮かべて言えば、ブライアンが思わず吹き出してしまった。おにぎりを飲み込んでいたことが幸いだった。

 

「でもルドルフの弁当はバランスがいい。普段から忙しいのに彩りまで気にしてたら、それこそ時間が無くなってしまうだろう」

 

 そこへちゃんと吉部がフォローを入れれば、ルドルフは『いつか君には完璧な弁当を食べさせてあげるからね♡』と心の中でつぶやいて愛情深い笑みを見せる。

 

「会長の料理は何度か食べさせてもらったが、私は嫌いじゃない。でもシリウスが言うように松崎し〇る弁当なのは否めないな……くふふっ」

「そういう揶揄はやめなさい。ルドルフにも松崎さんにも失礼だろう」

「ああ、そうだな」

 

 素直にブライアンが頷けば、吉部はよしよしと頷きを返し、その後も賑やかに時間は過ぎ、大きな手荷物はコインロッカーに預けて遊園地のアトラクションを楽しみに出発するのだった。

 

 ◇

 

 やってきたのは遊園地の人気アトラクションの一つであるメリーゴーラウンド。

 おとぎ話に出てくるようなカボチャの乗り物やイルカ、キリンを模した座席が並び、中でも子どもたちに人気なのはウマ娘を模した座席だ。

 遊園地によって造りは異なるが、ここのウマ娘を模した座席はヨーロピアンテイストに着飾られたウマ娘におんぶされる形になる。子どもが乗る場合は転落防止に係員がベルトで固定。

 また他ではお姫様抱っこだったりもするが、おんぶされる形の座席が一番ポピュラーだ。

 

「懐かしいなぁ」

 

 吉部が祖父母と共に訪れた思い出に浸りつつ、ウマ娘の座席に座ろうとすると、

 

「浮気は良くないと思うなー♪」

「君は私たちと一緒にカボチャの乗り物だ」

 

 シービーとルドルフに両肩をガシッと掴まれて問答無用でカボチャの乗り物へと連行された。

 因みに吉部と乗る権利はメリーゴーラウンドに着いた瞬間にじゃんけんで決めている。

 

 ◇

 

 次のアトラクションは遊園地の定番ジェットコースター。

 ここのジェットコースターは横一列に三人並んで座るため、またじゃんけんで決めてシリウスとブルボンが吉部を挟むように座った。

 

「俺、ジェットコースターって苦手なんだよなぁ」

「おいおい、ここのは子どもをターゲットにしてるからそんなに急なコースじゃないぞ? それでも怖いのか?」

「怖いな」

「ははっ、そういう素直なとこ、私は好きだ」

「それはどうも」

「マスター、安心してください。仮にシートベルトの不備でマスターの身が投げ飛ばされても、私がキャッチしますので」

「始まる前からそんなフラグぶっ立てないでくれないかな?」

「あっはっは、なら私らがお前のことを掴んでてやるよ」

「名案ですね。これならば仮にシートベルトの不備が発生しても私たちがシートベルト代わりになります」

「だからシートベルトの不備という発想をするな!」

 

 結果、シートベルトの不備は起こらず、シリウスとブルボンは吉部に引っ付いた状態で乗れたので幸せいっぱい。背後からの鋭い視線(主にルドルフ)が刺さるのだった。因みにシービーはエレベーター同様少し苦手なので、荷物番をしていた。

 

 ◇

 

 次なるアトラクションはこれも遊園地の定番であるお化け屋敷。

 ただここのお化け屋敷は自分の足で見て回るタイプではなく、乗り物に乗って見て回るタイプ。

 一つのカートに二人乗りで、それが5台繋がって進む。

 この手のタイプは珍しくないが、新しいのはVRゴーグルを装着して臨場感ある体験が出来るところだ。

 映像と音響で脅かすタイプなのだが、

 

「あ、相棒……俺、やっぱ怖えよっ!」

「大丈夫。大丈夫だから、全てまやかしだから。だからそんなに腕を―――」

 

 ドゥハハハハッ!

 

「―――きゃあぁぁぁぁぁっ!!!!?」

「う、腕が……腕がぁぁぁぁぁっ!!!!?」

 

 吉部はウオッカに腕の骨を粉砕されないかという別の恐怖体験をした。因みに他のメンバーは普段の男勝りなウオッカとは違う、乙女過ぎる悲鳴に笑ってしまって恐怖体験どころではなかったという。

 

 ◇

 

 時間は夕暮れ。

 遊園地に来たナイトスカイが最後に選んだアトラクション……それは観覧車だ。

 壮絶なじゃんけんの結果、吉部と二人きりで観覧車に乗る権利を得たのはブライアン。

 地面に膝を突いて項垂れているルドルフや地面に膝を突いて天を仰いでしまっているシリウスを尻目に、ブライアンは吉部の手を引いて観覧車へ乗り込んだ。

 

「おい」

「観覧車なのに?」

「んっ」

「……分かったよ」

 

 吉部が同意すると同時に、ブライアンは彼の隣に座ってその肩に頭を預ける。

 つまり『景色なんて見ていないで私の頭を撫でろ』ということだ。

 

「いい息抜きになったか?」

「……ああ。名残惜しいくらいだ」

「18時に近くのバイキングを予約してあるんだが……」

「肉はあるか?」

「あるある。肉フェスってのしてるらしい」

「……最高かよ」

「お眼鏡に適って何より。しかしブライアンが食べるであろう肉の量から換算して、必要な野菜は取ってもらうぞ」

「……上げて落とす……おのれ、卑劣な手を」

「食べなきゃ膝枕も尻尾や髪のブラッシングも当分しないからな」

「…………トレーナー、嫌い」

「嫌われるのは大人の役目だからな」

「…………食べたらワシャワシャする?」

 

 上目遣いでちょっと幼い雰囲気で訊ねるブライアンに、吉部は「食べればするさ」と約束する。

 

「食べる……嫌だけど……」

「ああ、そうしてくれ」

「……嫌いって言ってごめんなさい」

「いつものことだ、気にしてない」

「……うん♡」

 

 吉部に耳の付け根のところを優しくくにくに撫でてもらったブライアンは、妹ムーブ全開でご機嫌となり、そんな様子を別のゴンドラからメンバー(主にルドルフ)がしっかりとウォッチしていた。

 

 こうして遊園地を堪能し、最後にまた責任者と言葉を交わしてから遊園地をあとにし、バイキングレストランでお腹を満たして、チーム『ナイトスカイ』はオフの日を満喫したのであった。




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