ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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不屈の7月

 

 サマードリームトロフィーも終わり、今年も不屈の夏合宿の時期がやってきた。

 ただ今年は全員がドリームシリーズということもあったため、7月は基本的に調整程度の軽いメニュー。

 

 そして今日は七夕。

 シチーも丁度良くオフを貰えたので、南田はチームのみんなとアンデルセンを連れて、少し遠出することにした。

 レンタカー会社から大型ワゴンを借り、七夕に合わせて花火大会をするイベント会場へ向かうのだ。

 

「向こうに着くのは昼頃の予定だから、それまでゆっくりしててね。トイレとかの場合は恥ずかしくても我慢しないで早めに言ってね」

 

 バックミラー越しにみんなへ伝えれば、みんな揃って素直に返事をする。

 因みに助手席はアンデルセン。助手席争奪戦になると大変なことになるため、アンデルセンがいるのであれば助手席はアンデルセンということでみんなで決めているのだ。

 

「タイシンはよう車の中でもゲームしてられるなぁ。酔わへんのか?」

「んー……ゲームに夢中になってればあんまり気にならないかな。それに時々は窓の外見てるし」

「ウチは下向いてたら酔うからムリやな」

「なら景色見てたら?」

「タイシン、人の心とかないんか?」

「……アタシには無理だから」

 

 タマモが何故こうもタイシンに突っかかっているのか。

 その理由は、

 

「タマ、次は『る』だぞ」

「知っとるわ! というか毎回毎回『る』攻めすんのやめぇや! そういう陰険な攻めはフジがするもんやろ! なしてオグリが『る』攻めやねん! お前は大食いキャラだけでええねん!」

「タマ、ギブアップならそれはそれで私は構わないんだが?」

「アホぬかせ! ギブアップしたらウチの財布の中身が消し飛ぶやないか!」

 

 オグリとしりとりをしているから。

 ただタマモが叫ぶ通り、負けたらこれから向かう花火大会の屋台で食べ物を奢るという罰ゲームがあるため、タマモは粘っているのだ。

 因みに参加しているのは二人の他にライスとフクキタルだ。

 罰ゲームの仕組みは負けた子が全員に奢るのではなく、負かされた相手に奢る。

 よってタマモはオグリに負かされまいと奮闘しつつ、現実逃避しているのだ。

 そもそもタマモ自身、過去にオグリに二度この罰ゲームを受けて散財している。

 

「タマ、負けてもオグリに奢るのは1つでいいからね。というか、前にそうしない約束をしたでしょ?」

 

 運転しながらも後部座席の様子が分かった南田が助け舟を出すと、タマモは渡りに船とばかりに「せやった!」と思い出した。

 

「なら私の勝ちでいいのか?」

「ええで! はぁ、しんどかったわぁ!」

 

 肩の荷が下りて脱力するタマモ。

 一方でオグリは「勝った」と静かにつぶやき南田へ向けてVサインをする。

 

「次は何をしましょうか?」

「愛してるゲームなんかどうかな?」

 

 フクキタルの問いにフジが待ってましたとばかりに提案すると、スマホでゲームをしていたタイシンですら耳がピクリと反応した。

 愛してるゲームとは時計回りや逆時計回りで隣の人に『愛してる』と様々な言い方で告げ、相手を照れさせたり笑わせたりすれば勝ちとなるゲーム。

 愛してると告げられても『え?』と真顔で返せば、言った方がもう一度愛してると告げなくてはならず、その間に笑ってしまったり照れてしまったりしたら負け。

 

 そして当然だが、南田はこのゲームの覇者だ。

 みんな南田になんであれ『愛してる』と告げられれば、それはもう自然と頬が緩んでしまう。

 

 つまりはゲームという合法的な理由で南田から『愛してる』と言ってもらえる絶好のチャンスなのだ。

 

「これは当然、トレーナーさんも参加してほしいんだけど……どうかな?」

 

 フジがそう願えば、南田はすぐに「ああ、いいよ」と返す。

 そうすればみんなレースさながらの気迫をまとい、じゃんけんで順番を決めた。

 またこれは暗黙の了解だが、本来の多人数で行うゲームではなく、みんなが南田と二人だけで『愛してる』と告げ合うというウマ娘得々ルール。

 つまるところ『愛してるゲーム不屈Ver』ということだ。

 因みにじゃんけんで勝った人から好きな順番を決められるということで、

 

 1番手:マチカネフクキタル

 2番手:ナリタタイシン

 3番手:フジキセキ

 4番手:オグリキャップ

 5番手:ライスシャワー

 6番手:ゴールドシチー

 7番手:タマモクロス

 

 という順番となった。

 

「トレーナーさん、いきますよ!」

「いつでもどうぞ」

「愛してます、トレーナーさん!」

「僕もフクを愛してるよ」

「……デュフフフフフゥ♡」

 

 ワンパンで南田の愛の沼へ沈むフクキタルを見て、みんな合掌。

 

「……アタシはアンタのこと、アンタが思ってる以上に愛してるから」

「嬉しいなぁ。僕もタイシンを愛してるから、同じだね」

「っ……バカ♡」

 

 流石のタイシンも南田からの愛の言葉には即座に陥落する。

 

「トレーナーさん、とっても愛してる♡ 誰にも渡したくないくらいに♡」

「ならフジが心配しないくらい愛せば問題ないね」

「……ああ、もうむりぃ♡」

 

 まさかの返しにフジはトロ顔を晒してヘブン状態へ。

 これには他のメンバーもフジがこうなるのも無理はないと頷いた。

 

「愛しているぞ、トレーナー」

「僕もオグリを愛してるよ」

「私の方が愛しているぞ?」

「それはどうかな。愛しているからこそ、僕の愛が伝わっているからこそ、オグリは僕の手料理をあんなに食べてくれるんだろう?」

「うぐっ……ズルい♡」

 

 食いしん坊のオグリでもガッチリと南田に胃袋を掴まれてしまっているので、言い返せずに撃沈。

 

「ライスシャワーは永遠にお兄さまを愛しています♡」

「ありがとう。僕もライスを愛してるよ」

「ふぇぇ……ライス幸せだよぉ、お兄さまぁ♡」

 

 ゲームどころではなく、思わず感涙してしまうライス。

 ただのゲームだとしても、愛する南田から真っ直ぐにそんなことを言われればライスのキャパを軽くオーバーしてくるのだ。

 

「…………愛してる」

「愛してるよ、シチー」

「はぁ……うっざ♡」

 

 恥ずかしさ半分嬉しさ半分で即座に負けを認めたシチー。

 しかし体は正直で尻尾ブンブン、お耳もピコピコだ。

 隣に座っているフクキタルの脇腹に尻尾が当たって「ンビャァ!?」と奇声があがっているが……。

 

「えっと……その……愛しとるで、トレーナー♡」

「照れてるタマも可愛いね。そういうところも愛してるよ」

「アカーーーーーン!♡」

 

 こうして南田にメンバー全員が敗れたが、みんなそれはもう幸せいっぱいで負けても一切悔しいとは思わなかった。

 

 その後、みんなは会場の駐車場へ着くまで幸せでふわふわポワポワしていたそう。

 

 ◇

 

 運良く会場からそう遠くないところの臨時駐車場へ車を停めることが出来た。

 

 会場近くの商店街には様々な出店が並び、大いに賑わっている。

 それはとてもいいのだが……

 

「タマモクロスだ! 握手して!」

「本物のゴールドシチーだ! 髪の毛キラキラしてるぅ!」

「オグリキャップさん、一緒に写真撮ってください!」

「ライスシャワーちゃん、とっても可愛いー!」

「ナリタタイシンちゃんもとっても可愛い!」

「生で見るフジキセキはもっとイケウマ娘!」

「マチカネフクキタルなのに私服は勝負服みたいにゴチャゴチャしてない!」

 

 ……このようにファンに囲まれてしまった。

 フクキタルのファンに至ってはちょっと違う気もするが、ファンからの慕われ方はそのウマ娘によってそれぞれなのだろう。

 

「おうおう、握手でもサインでもしたるから他の人の邪魔にならへんよう、ちゃーんと並ぶんやでー?」

『はーい♪』

 

 子ども相手ならお手の物のタマモは他の通行人の邪魔にならないように、子どもたちを誘導。

 そうすれば他のメンバーのところにいるファンたちも、それに倣って道を塞がないように配慮する。

 幸い通路も広く、側にある屋台の店主も快く場所を提供してくれた。

 その理由にはオグリがそこの店の鯛焼きを買い占めたので、新しいのが焼けるまでの間はいいということになったから。

 

 普段あまりファンと積極的に交流しないタイシンも、今回ばかりは子どもたちの純粋な気持ちに素直に対応している。

 

 一方で、

 

「触ってもいいですか?」

「はい、どうぞ」

「お名前はなんて言うんですか?」

「アンデルセンです。女の子なんです」

「可愛いですねー♪」

 

 アンデルセンも通行人たちにモテモテだ。

 お行儀良く南田のすぐ横に座っているが、やはりもふもふの毛並みと人に撫でられるのが大好きな愛嬌たっぷりの仕草がみんなの心を鷲掴みにしている様子。

 

 南田は自分の愛バたちや愛犬が多くの人たちに可愛がられているのを見て、自分のことのように嬉しく思い、それを微笑んで見つめる。

 すると、

 

「きゃっ!」

「っと、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

 

 すぐ近くで躓いてしまった細身の女性を助けた。

 黒髪にピンク色のメッシュが入っているツインテールで黒いマスクを付け、一見大人しそうに見えるが、見えている両耳にはたくさんのピアスが付いているオシャレな人。

 

「あ、えっと……はい、ありがとうございます……」

「良かった。しかし今は緊張していて痛みを感じないだけという可能性もあります。お帰りの途中で痛み出しては大変ですから、念の為救護スペースに行きましょう。すぐそこですから」

 

 南田は女性を安心させるように笑顔を浮かべながら、すぐ近くにある救護スペースのテントを指差した。

 しかしそれはまずい。非常にまずい。

 何故なら南田の微笑みは魔性の魅力があるからだ。

 なので、

 

「…………ちゅき♡」

「へ?」

 

 この女性はその魅力に堕ちてしまった。

 マスクを外し、自身の顔をさらけ出し、鼻息荒く南田に「お名前を伺っても?♡」とアプローチを始める。

 その眼はもう獲物を仕留めんとする肉食獣の眼だ。

 

「あの、足を診てもらう方が先かと……」

「でしたら、ちょっと痛くなってきたので、肩をお借りしてもいいですか?♡」

 

 グイグイ来る女性に南田は純粋に肩を貸そうとしたが、

 

「んなことする必要ないよ、トレーナーさん♪」

「ライスが送り届けてきてあげるよ♪」

 

 彼を守護るフジセ〇ムとライスアル〇ックが即座に危険人物を徹底マークし、緊急出動する。

 二人のどす黒い笑顔の背後には、レースでしか見せないタマモたちの鋭い眼光が女性を射抜く勢いで刺さっていた。しかも足元には唸ってはいないが歯を剥き出しにしているアンデルセンの姿も。

 きっと今この場の気温は周りよりも冷たく感じることが出来るだろう。

 なので女性は女の勘……本能的に察した。これは相手にしてはいけない、と。

 

「あー! そういえば私、友達を待たせているんでした! 助けてくださってありがとうございました! それではー!」

 

 瞬く間に女性は離脱。

 一気に気温は元通りになった。

 

「ダメじゃないか、トレーナーさん。私たちを置いて行こうだなんて」

「お兄さま、知らない人の言うことに簡単に従ったらダメだよ?」

「そうだね。相手は女性だったから、今度からはみんなに言うようにするよ」

 

 フジとライスの言うことを相変わらず明後日の方向に捉える南田。

 だからこそ彼なのだが、タマモたちからすればだからこそ守護らなくてはならない絶対的男性なのだ。

 

「トレーナー、屋台のおっちゃんも商売始める言うとるから、ウチらも他見て回ろか」

「花火見える場所も確保しないとだしね」

「ほら、さっさとしないとアタシらが置いてくよ?」

「行きましょう、トレーナーさん!」

「食べたいのがまだまだあるんだ。行こうトレーナー」

 

 南田はそれに頷くと、その後はみんなと店を見て回り、花火大会を満喫するのだった。

 その間、メンバーたちに囲われているとは知らずに。




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