ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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不屈の8月

 

 夏合宿も終わり、夏休みもあと僅か。

 この僅かとなった夏休み。

 南田は合宿を頑張ったタマモたちに休息を与えることに。

 

 しかし、

 

「……ちょっとおにぎりのおかわりに」

「おう、待てやオグリ。5分前にも行ったやろ」

「しかしだなタマ――」

「――しかしもおかしもあるかアホ! さっさと夏休みの課題終わらせろや! そもそもオグリやろ! 分からへんとこ教えてくれ言うたんは!」

「ダメなんだ、タマ……文字や数字を見ていると、お腹が減って来るんだ……!」

「よだれ垂らすか決め顔するかどっちかにせぇ! んでもってさっさと終わらせろや!」

 

 このようにオグリはタマモからスパルタレッスン中。

 因みに今二人は南田宅にお邪魔させてもらっている。

 家主の南田はトレーナー会議のためにトレセン学園に出勤しているが、二人は留守番をする代わりにここで夏休みの課題をさせてもらっているのだ。

 二人に留守番を頼むことで、アンデルセンもいつもの留守番と違って寂しくないから。

 

「んぉ?」

 

 そんな中、タマモのウマホにメッセージアプリからの通知が入る。

 送ってきたのは珍しくタイシンで、同室のスーパークリークからオグリの課題の進捗状況を聞いてほしいと頼まれたようだ。

 タマモはそれを読んで軽く鼻で笑ったあと、テーブルに突っ伏してやる気ダウン状態のオグリを撮影し、それをそのまま送ってやる。

 すると秒で返信が来た―――

 

『なんでトレーナーの家にいるの?』

 

 ―――と。

 

 タマモはしまったと思った。

 普段はあまり興味なさげにしつつも、タイシンも南田のことになれば熱過ぎる感情を表してくる。

 しかしそこはタマモ。踏んできた場数や乗り越えてきた苦労が段違いなので、内心焦っていても頭は冷静。

 

『寮でやると集中出来へんやん。だからトレーナーに頼んで留守番引き受ける代わりに、ここでオグリが課題やっとるとこを監視しとるだけやで』

 

 そう返すと、また秒でタイシンから『ずるっ』とウサギのキャラクターのスタンプで文句がきた。

 タマモは『まあ確かにそう思われるんもしゃあないか』と思いつつ、

 

『ならタイシンも来たらええやん。どうせ暇してるんやろ?』

 

 と返す。そうすればまた即座にウサギのスタンプで『いく』と返って来たので、タマモは了解というネコのスタンプを返してやり取りは終わった。

 

「オグリ、これからタイシン来るねんて」

「そうか。タイシンも課題を終えていないんだな……仲間がいるとは心強い」

「寝言は寝て言えや。タイシンはとっくに終わっとるで。ただ遊びに来るだけや」

 

 タマモが事実を告げると、オグリは「なん……だと……っ!?」と驚愕して今度はバタリと畳の上に横向きに倒れる。

 するとそれを待っていたとばかりにアンデルセンがやってきて、オグリの脇腹に顎を乗せて枕にした。

 オグリを模したぱかプチでもこうやって寝るのがお気に入りなのだが、やはり本物の方がいいということなのだろう。

 

「アンころ、悪いんやけど退いてや。オグリの課題が終わらん」

「くぅ?」

「せや、まだまだ終わらへんのや。せやから退いてくれるか? 終わったらいくらでも枕にしてええから」

 

 タマモがアンデルセンに言い聞かせるように告げれば、アンデルセンは『仕方ないわね』と返すように小さく鼻を鳴らし、またオグリのぱかプチに顎を乗せてお昼寝に戻った。

 

「勝手に変な約束をしないでほしいんだが……」

「んなこと些細なことや。ほれ、さっさと次いけや次ぃ」

「くぅ……仕方ない」

 

 観念して体を起こし、再び問題集に目をやるオグリ。

 そんなことをしている間に、インターホンが鳴った。

 タマモがドアホンのモニターを確認すると、そこにはタイシンの姿だけでなく、シチーとフジを除くメンバーが勢揃いしていた。

 

(まあ、こうなるわな)

 

 謎の納得がいったタマモ。

 しかしタイシンに伝えれば、タイシンから他のメンバーに話がいく。

 そうでないと不公平だからだ。

 将来は全員で南田のお嫁さんになるのは決まっているものの、抜け駆けは厳禁・御法度である。

 

「おうおう、随分と早いやんか!」

 

 タマモは鍵を開けてみんなを迎え入れたが、みんなの目はやはり『ズルい』と抗議している目。

 なのでタマモは「悪気はなかったんや」と謝りつつ、オグリの課題を終わらせるのに必要だったのだと説明した。

 するとタイシンたちはオグリが課題を計画的に進めるのは苦手だと分かっているので、揃って『仕方がない』とお咎めはなしということに。

 

「お? 変態寮長が居らへんやん?」

 

 こういうことなら我先にと何を差し置いてでも馳せ参じるはずのフジがいないことに、タマモが零す。

 すると、

 

「寮長の仕事で抜けられないみたい」

 

 タイシンがウマホ画面を見ながら報告した。

 これにはみんな揃って思わず同情してしまう。

 普段から何かとサプライズ(やらかす)ウマ娘だとしても、そこは責任ある寮長を務めるフジ。

 なのでみんなは早くフジの仕事が終わることをささやかに願うのだった。

 

 ◇

 

「……やっと終わった!」

 

 あれから数時間。

 オグリがやっとのことで残りの課題を終わらせ、今度こそシャーペンを放り出して仰向けに寝そべる。すかさずアンデルセンはオグリの脇腹に顎を乗せ、オグリはオグリでアンデルセンの頭や耳をモフった。

 

「お疲れ」

「お疲れ様、オグリさん」

「お疲れ様です!」

 

 タイシン、ライス、フクキタルが労いの言葉をかける中、タマモは「やっと終わったなぁ」と肩の力を抜く。

 タイシンたちは各々好きに過ごしていたが、タマモに至ってはオグリをずっと監視していたのだ。

 

「おっ、トレーナーからや♪ タイミングええやん♪」

 

 そこへタマモのメッセージアプリに南田から連絡が入る。

 時間も時間なのできっとこれから帰るというメッセージだろうとタマモは考えつつ、メッセージアプリを開くと、

 

「あ"ぁ"ん"?」

 

 今日一番の低い声が出た。

 目は稲妻が走っているかのように血走っている。

 レースくらいでしか見せないその鬼の形相にライスもフクキタルも『ぴっ!?』と思わず悲鳴をあげるが、タマモの反応が気になったオグリとタイシンが彼女のウマホの画面を覗き込むと、そこには南田が相変わらずの爽やかスマイルでダブルピースサインをしながら―――

 

 フジと密着した状態で

 

 ―――写る写真が貼られていた。

 

 しかもメッセージには、

 

『サプラーイズ♪』

 

 とのフジが入れたであろう煽りメッセージ付き。

 すると当然、オグリもタイシンもレースでしか見せない形相となる。

 

 三人が揃って鬼の形相となったことでライスもフクキタルも不思議がっていると、タマモが無言のまま二人にも画面を見せた。

 そうすれば二人も般若の方が泣いて逃げ出すほどの形相に早変わり。

 

「タマモさん、この変態さん、処す? 処す?」

「寧ろ呪いましょうか?」

 

 普段は心優しいライスとフクキタルが物騒なワードを口走ると、

 

「気持ちは分かるで? でもな? ここは冷静にならなあかん。ええか? 一瞬で終わらせたらそれで終いや。それやとあのどアホ(フジ)が自分のしでかしたこと分からへんやろ? せやからジワジワと追い詰めて後悔させなあかん」

 

 なんてもっと物騒なワードを並べるタマモ。

 するとみんな『そうだそうだ』と言わんばかりに頷いて返す。

 夏でエアコンを25℃に設定しているのにも関わらずこの冷気……それをまともに受けるアンデルセンは思わず毛布の中へ避難した。

 

「はぁ、あのどアホはホンマに今回こそは絞めな分からんようやなぁ。甘くし過ぎて調子乗っとる奴は特に」

 

 両手の指をゴキゴキと鳴らしつつ、物凄い剣幕でつぶやくタマモ。

 このままではフジが本当にキセキの如く散ってしまう。

 

 タマモがその場から立ち上がり、軽く屈伸運動やらアキレス腱を伸ばしていると、またウマホにメッセージアプリの通知が届いた。

 

「あん?」

 

 苛立ちつつもタマモがメッセージアプリを開くと、今度は表情がいつも通りに戻る。

 みんながどうやってフジをキセキしてやろうかと準備運動している中、タマモは「朗報やで」と言ってウマホ画面をみんなに見せた。

 

 するとみんなの表情はタマモと同じくいつも通りに。

 何故そうなったのかというと―――

 

 シチーがハリセンでフジをしばいた

 

 ―――写真を送ってきたから。

 

 写真の中のフジはシチーに食らったハリセン攻撃により、脳天に大きなたんこぶを作ってうつ伏せに轢かれたカエルのように倒れている。その奥に写る南田は心配そうにフジに出来たたんこぶを擦っていた。

 

『仕事が早めに終わったからトレーナーを迎えに来たら、不審者がいたからしばいたった』

 

 写真に添えられたシチーのメッセージに、タマモは可愛くデフォルメされたタコがいい笑顔で『でかした!』とサムズアップしているスタンプを送った。

 

『なお、犯人はアタシが責任を持って移送します』

 

 とシチーから即返事が来たので、タマモは改めてみんなへ「集合」と号令を掛ける。

 そうすればみんなして円陣を作り、空気を読んでかアンデルセンもその輪の中へ。

 

「これから大罪人が運ばれて来よる」

「大罪人には罰を!」

「SYU★KU★SE★I! SYU★KU★SE★I!」

「エコエコアザラシ〜、エコエコオットセイ〜……天罰よ〜……クダレェッ!」

 

 オグリ、ライスはかなり過激なことを言うが、フクキタルの謎の呪文には思わずタイシンは「変なカタコト呪文で草」と不覚にも笑ってしまった。

 

「みんなの言いたいことはよぉ分かったわ。さて―――」

 

 とタマモが仕切り直すと共に、

 

「―――お待たせしましたー。シチロイト警察でーす。大罪人をお届けに来ましたー」

 

 シチーが大罪人フジを両手足を拘束したまま台車に乗せてやって来る。その後ろにはちゃんと南田もいるが、南田は相変わらずフジを心配しているので、それが余計にタマモたちを怒らせた。

 

「よぉやってくれたなぁ? あ? サプライズ大成功やったで、ホンマに」

「あ、あはは……楽しんでもらえたようで何よりだよ」

 

 ガチギレのタマモを前になんとか笑顔を作るフジ。

 しかし彼女の声はこの上ないくらいに震えてしまっている。

 

「物事には限度がある。いつもそう言うとるよな?」

「えっと、その……つい、魔が差して……」

「どこの万引き犯の言い訳やねん……まあええわ。トレーナー」

 

 タマモが南田を手招きして呼ぶと、南田は「なんだい?」とタマモの側へ。

 

「(あんな、フジのヤツ、実は寮長の仕事サボってトレーナーのとこ行ったんや。せやから、罰として夏休み終わるまでフジには敬語で話してくれへん? 他人行儀っぽくやるとなお良しや)」

「そうなのか……分かったよ」

 

 そう耳打ちされ、南田は可哀想と思いながらもフジのためだと言い聞かせる。

 

「えっと……フジキセキさん、寮長の仕事はちゃんとやりましょうね?」

「と、トレーナーさん? 私、ちゃんと仕事は終わらせてきたよ? あとその話し方は……?」

「終わらせたんですか? ですが、タマモたちがこうして怒ってますから、夏休み終わるまではこの話し方にさせてもらいますね」

「そんな……!」

 

 見るからに悲痛な表情を浮かべ、フジはガックリと項垂れ、畳の上に横たわる姿は、まるでドラゴンのボールに出てくるヤがムチャしたあとの様だ。

 これにはアンデルセンもニッコリで、そのままフジのお腹を枕にお昼寝を開始した。

 

「えっと、これ大丈夫なの?」

「トレーナーは気にしなくてええで。罰は罰やからな」

「てか、『このまま横になってれば居座れるのでは?』とか考えてそうだからね」

 

 シチーの指摘にフジは内心ギクリとくる。

 そこまでも読まれてしまい、フジは今回はやり過ぎたと素直に心の中で猛省するのだった。

 因みに、その後は夏休みが終わった瞬間にフジは南田に電話で『いつものように』話してもらえて思わず感涙したという。




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