ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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不屈の9月

 

 9月も後半。

 トレセン学園・大運動会が終わり、秋のGⅠ戦線が本格的に始まる。

 しかし一方では生徒たちにとってまた大きな学園行事の一つである、学園祭……正式な名前で言えば聖蹄祭の準備を始めなくてはいけない。

 聖蹄祭は普通の学校でいうと文化祭みたいなもの。なので手の空いている生徒たちは各々出し物の準備で大忙しだ。

 みんながドリームシリーズに入ったチーム『不屈』のメンバーも、今日から聖蹄祭に向けた準備期間に入ったこともあり、授業時間が短縮されたのもあってトレーニング前にトレーナー室に集まり、聖蹄祭に向けて話し合いをしている真っ最中。

 

「今ホワイトボードに書かれてるのが出し物の候補かな?」

 

 南田が質問すると、

 

「せやで。食い物系はウチのチームでは出来へんからな」

 

 タマモがそう返しつつ、自身の横に座ってバレーボールサイズおにぎりをもぐむしゃしているオグリに目をやった。

 そうすれば南田は「あ〜」と納得する。

 

 やろうと思えば飲食サービスをすることも可能だが、そうなるとオグリがひもじい思いをしてしまう。

 かと言ってオグリに食べ物を与え続けてしまうと、サービスを提供している場合ではなくなってしまうのだ。

 逆の発想でオグリに餌付けする出し物はどうかなんていう発案もあったが、それは南田がトレーナーとして待ったを掛けた。

 

「占いはファン感謝祭でもやってるし、せめて聖蹄祭では違うものやりたいよねってなってるとこ」

 

 シチーが補足を入れると南田はうんうんと頷きつつ、ホワイトボードに書かれた候補に視線を移す。

 

 クイズゲーム

 的あてゲーム

 輪投げゲーム

 紙芝居

 フラワーアレンジメント展示販売

 フリーマーケット

 タロット占い

 

 どれも占い以外はチームとしても新しい試みだ。

 何故ならこの3年間はチームの出し物は特に何もせず、自由に歩き回ることにしていたから。

 大切なトゥインクルシリーズの最中というのもあったため、南田としては出し物よりも自由に見て回れる方がいいリフレッシュになると考えたためだ。

 なので、今回は本格的に出し物をする方向で固まっている。

 ただ何をするのかが決まっていないといったところ。

 

「フリーマーケットは僕も賛成かな。またゴミが増えてきたし」

「ご無体なぁぁぁ!」

 

 南田のつぶやきに発狂するフクキタル。

 しかし南田はそんなことを気にする素振りもなく、フクキタルにアイアンクローをかまして沈静化させる。

 

「でも聖蹄祭で、ってなると売上は学園に行くからこのゴm……不用品が売れてもフクに得はないんだよね。それだと可哀想だから、やっぱりフリーマーケットはなしかな」

 

 そう言うとタマモは早速フリーマーケットを消した。

 それを見て発案者であるフジが小さく舌打ちをしたが、誰も気にしていない。

 フジの発案ということはフリーマーケットをする際に南田からも私物を何点か出してもらうことになる……ということはそれを自分が買い占められるという邪な気持ち100%の思惑があったから。

 それが分かっていたので、タマモは早々に消し去ったのだ。

 

「お兄さまは何かアイデアある?」

「トレーナーは物知りだからな。是非とも知恵を貸してほしい」

 

 ライス、オグリと南田にお願いすると、南田は「そうだなぁ」と一考する。

 するとすぐに何かを思い付いたようで、手をポンと叩いた。

 

「ハロウィンの前哨戦ってことで子どももたくさん来るから、お菓子を釣って遊ぶ出し物はどうかな?」

 

 そう言って南田は手元にあった適当な紙を慣れた手付きで魚の形に折り、それをみんなに見せながら細かい説明をする。

 

「魚の口元に磁石を貼り付けて、オモチャの釣り竿には大きなクリップを付ける。そうすれば簡単にわっさりお菓子をゲット出来て楽しめると思うんだ。折り紙じゃなくても、図鑑とかから写真をコピーしてそれを切り取れば色んな魚を釣ることが出来て子どもたちも喜ぶんじゃないかな?」

 

 南田の説明を聞き、みんなは『おぉ!』と思わず拍手した。

 

「切り取った魚の写真の裏に名前も書いとけばその魚の名前も分かって楽しいかも」

「遊びだからクジラやイルカも釣れて楽しいかもしれない!」

 

 タイシン、オグリと乗り気に意見を言えば、他のメンバーも『ああしよう』、『こうしよう』と意見を出す。

 

「お菓子も甘い物としょっぱい物とで分けておけば、みんなそれぞれ好みのお菓子を狙えることが出来るね」

「ならさ、甘い方は川にいる生き物メインにして、しょっぱいのは海にいる生き物メインって感じにすればバリエーションも多くて良さげじゃない?」

 

 フジ、シチーとそんな意見を出すと、

 

「両方とも入れたのもあればランダム要素で楽しめるかもしれません!」

「大当たりみたいなのもあれば、みんなもっと楽しんでくれるかもしれないね♪」

 

 フクキタルとライスも積極的に意見を出した。

 

「よっしゃ! ほんならそういう方向でいこか!」

 

「釣り竿だけじゃなくて、金網もあると面白いかもね。ほら投げ網漁的な感じってことで。その分値段はちょっと張るように設定してさ」

 

「おー! トレーナー、流石やで!」

 

 こうして南田のアイデアにより、トントン拍子でチーム『不屈』の聖蹄祭での出し物が決定するのだった。

 

 ―――――――――

 

 出し物が決定し、本格的に準備段階へ入ったタマモたち。

 座学が終われば南田のトレーナー室に集まり、今日は南田のプリンターを借りて大量の魚の写真をプリントアウトする。

 プリントアウトをするのは機械に強いタイシンで、あとのメンバーは切り抜き作業。

 タマモ、シチー、オグリの三人が海の生き物を担当し、残りのメンバーが川にいる生き物を担当。

 

 因みにみんなの意見を踏まえ、最終的に魚の写真に磁石を付け、クリップの付いた釣り竿でそれを釣り、写真の裏に魚の名前と点数を書いて、その点数に応じて好きなお菓子と交換するという形式にした。その方がみんな好きなお菓子を交換することが出来るから。そして魚たちは大きなビニールプールにそれぞれ入れ、残りが少なくなってきたら追加していくということにした。

 

「なあ、タマ」

「なんや? おやつはさっき食ったやろ?」

「さっきのは底入れで、おやつはこれからだ」

「おやつの底入れでハンバーガー10個は底入れ過ぎやろ! 底なし沼か! というか、ウチがボケたのにボケで返すなや!」

 

 オグリの天然ボケにタマモは今日もツッコミを入れる。それでも手は正確にタコやらイカやら切り抜いていた。

 

「タマモ先輩、話が進みませんよ……オグリ先輩、何かあったんですか?」

 

 苦笑いでシチーが話を戻すと、オグリは「あぁ」と頷いてタマモに言おうとしていたことを口にする。

 

「イルカって海豚って書くんだ」

「? せやからなんやっちゅうねん?」

「ということはだ、タマ。イルカの肉は海の豚肉ということなんだ!」

「…………なら河の豚ぁ書いてフグはどういう理屈になるんや?」

「……タマ、フグは毒があるからそう簡単に食べてはいけないんだぞ?」

「ホンマにいっぺん思い切りどついたろか?」

 

 ドスの効いた声で拳を握り締めるタマモに、オグリは「何故?」とキョトン顔。

 いつものことなのでメンバーは笑って流すが、ツッコミが身に染み付いているタマモは違う。

 なのでタマモはこの行き場のない憤りを流すため、無言で立ち上がり、

 

「トレーナー、アイツもう嫌やー!」

 

 トレーナー業務を黙々としている南田の背中に抱きついて弱音を吐いた。

 そんな彼女を南田は作業している手を止め、自身の膝の上に抱えて「よしよし」と優しく頭を撫でてあげた。

 するとタマモは南田の優しさに甘え、顔を大好きな彼の胸板に埋める。

 

 こうなれば当然、

 

「タマ、ズルいぞ!」

「抜け駆けは良くないなぁ」

「サボらないでよ」

 

 加湿器三銃士ことオグリ、フジ、タイシンが立ち上がるのだ。

 しかし流れを理解しているシチーが『座れ』とジェスチャーするので、三人は渋々だが椅子に座り直した。

 

「つか、どれくらい用意するのか決めたいんだけど?」

 

 シチーが話題を出し物の方へ持っていくと、

 

「どれくらいお客さん来てくれるのかな?」

「にゃーさん効果できっと千客万来です! なのでそれくらい用意すれば良いかと!」

「じゃあいっぱいチョキチョキしないと、だね!」

 

 ライス、フクキタルがそんなことを言う。

 

「あー、ちょい待ち。ウチらの出し物は子どもターゲットにしとるけど、無料で配る菓子も用意しとるから、そもそも金出してまでやりたい言いよる子どもがいるかっちゅう話があんねん」

「タマモ先輩の言う通りですね。んー、とりあえずは海と川で1000ずつで、海と川混合は両方500で合計1000。ってことで3000にしません? 足りなければ売り切れってことで」

「いや、追加用にどれも1000は用意しておいた方がいいと思うよ。海や川、混合でどれが人気になるのか分からないし、せっかく遊びに来てくれた子どもたちが売り切れで出来ないってなるのは可哀想だから」

 

 シチーの意見にフジが追加の意見を述べると、ライスもフクキタルもフジの意見に賛同してコクコクと同意の意思を見せた。

 

「お菓子は商店街の駄菓子屋さんに前もって頼んでおけば仕入れてくれるだろうし、もしお菓子が足りなくなってもスーパーに走れば問題ないでしょ。そもそも学園側がお金出すんだし、余るくらい仕入れればいいじゃん。余ればいくらでも処分出来る人が二人もいるんだしさ」

 

 プリントアウト作業を再開していたタイシンがそう言って追加の写真をテーブルに置きつつ言えば、みんなも『なるほど』と納得する。

 

「余ったお菓子は私とライスに任せてくれ! おやつの底入れにちょうどいい!」

「余ったらみんなで分けようね♪」

 

 オグリはともかく、ライスの言葉を聞いて思わずタマモもシチーもライスがいい子過ぎて頭を撫でた。

 ライスはそれに困惑するも、「くすぐったいよぉ♪」と嬉しそうにコロコロと笑う。

 

「じゃあそういうことで、細かいところはあとあと本格的に決めるとしようか。今はまずこの写真を切り抜かないと先に進めないからね」

 

 フジがパンパンと手を叩いて作業を促すと、みんな『おー!』と元気に返して、今度こそ作業に集中した。

 そんな風に真面目に聖蹄祭の準備をしている可愛い教え子たちを見つつ、南田は『僕も文化祭は準備してる時が一番楽しかったなぁ』と若かりし頃を思い浮かべる。

 影が薄過ぎて、黙々と作業をしていて、気が付いたらクラス全員が帰った中、見回りに来た先生に『お前一人でいつまでやってるんだ?』なんて言われたのも今ではいい思い出だ。

 

「トレーニングの時間になったら言うから、それまでは作業頑張ってね。あとハサミ使ってるんだから怪我しないように。あ、それと紙で指を切らないようにね。安全第一」

『はーい!』

 

 こうしてチーム『不屈』は穏やかな空気の中、聖蹄祭の準備を進めて行くのだった。

 




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