晩秋となり、冬の寒さが近づいていると実感する頃。
秋のGⅠ戦線の真っ只中であるが、ドリームシリーズもその真っ只中だ。
幸い、南田の目論見通りメンバーの多くが決勝へ進みはした。
しかしその一方で、今回から初参加であるフクキタルは惜しくも決勝行きの切符を逃してしまう。
その結果にフクキタル本人は落ち込んでしまったが、南田の手厚いフォローのお陰で即座に復活し、決勝に挑むメンバーのフォローにやる気を漲らせた。
が、そうなると空回りするというお約束があるため、そこはしっかりと南田から『程々にするように』と釘を刺されている。
ということで、チームの雰囲気は相変わらず良好。
そして今日は、
「オグリ、はよ起き……って、流石にもう起きとったか」
「ああ、今日は決戦の日だからな……!」
これから南田とチームのみんなで秋の食い倒れツアーに行くのだ。
昨日、フクキタルが商店街の福引きで特賞の『秋の味覚バイキング』という高級ホテルの団体招待券を手に入れたので、タマモたちもご相伴に預かるのである。
ただ行くメンツに怪物と刺客がいるため南田が事前にホテルへ問い合わせ、ホテル側はこの日のために食材の仕入れを強化したとか。
一流ホテルである以上、客を拒んだり、満足させられないというのはその経営理念に反するのだそう。
ただ南田も怪物と刺客にセーブさせるつもり。
でないと他の客が食べられる物が根こそぎなくなってしまうからだ。
「ほな、さっさと着替えて集合場所へ行こか」
「ああ」
「……でや、今日くらいはウチもツッコまんとこう思ぉとったんやけど、どうしてもウチの血が騒いでしゃあないからツッコませてくれや」
「? 何をだ?」
「その腹、なしてもう出とんねや?」
タマモが言う通り、オグリのお腹は既にポコッと出てしまっている。
何故なら、
「ウォーミングアップに早朝からやってるラーメン屋へ行ってきたんだ。ファインモーションが教えてくれてな。500円であの量は最高だ。しかも店主がお茶目でな。炒飯を頼んだら『ごめんね。ちょっと多くなっちゃった』とてんこ盛りにしてくれたんだ」
ということだ。
これにはタマモも天(井)を仰ぐ。
そしてあのロイヤルラーメンガイキチはなんてもん教えとんのや、と思わず王族相手に不敬なことを考えてしまった。
「もうええわ……行くで」
「ああ、行こう!」
こうしてタマモは既に3200メートルを激走したかのような疲労感を覚えながら、南田が待つ駅前へ向かうのだった。
◇
「お兄さーん、今お一人ですかー?」
タマモたちが駅前へ向かっている中、既に駅前でタマモたちを待っていた南田は、少々困った状況にいる。
目の前には少々派手目なメイクで太ももも露出度の高いスカートを履いてこんがりと日に焼けている金髪ロングのウマ娘と、綺麗めでスレンダーな黒髪ショートの女性。ウマ娘の子に至っては頭、尻尾の付け根が黒いことから染めているのだろう。
二人は幼馴染みらしく、今日はダブルデートだったのにお相手にドタキャンされたんだとか。
そこにウマ娘好みの優しい雰囲気をプンプンさせている南田がいれば、こうなるのも仕方のないこと。
黒髪ショートの女性としては、幼馴染みのウマ娘が声をかける人に間違いはないらしい。
「えっと……すみません。私は今教え子たちを待っているので……」
南田がそう告げると、ウマ娘が露骨に「えー」と残念がった。
すると黒髪女性が自身のスマホの画面と南田を交互に目だけで確認し始め、暫くそれをしてから金髪ウマ娘にスマホの画面を見せる。
「えー! お兄さん、あの『不屈』のチームトレーナー!?」
ヤバ! 本物ヤバ!と騒ぎ出す金髪ウマ娘に、南田は思わずたじろいでしまった。
「あーし、めっちゃファンなの! うわー! テレビとか雑誌でしか見たことなかったけど、実物はもっとイケてんね! とりまツーショいい?」
「え、ああ、はい」
「すみません。この子、南田さんのウマ娘に対する姿勢に惚れているそうで……」
「あ、そうなんですね……」
困惑する南田に黒髪女性が申し訳なさそうに補足を入れると、南田はなんとも言えない表情を浮かべる。
こんなに面と向かって『惚れている』なんて言われたことがなかったからだ。
実際のところは何度もそういった言葉は遠回しでも言われているが、ネガティブ思考なので全て社交辞令としか思っていない上に、自分にそんな奇跡があるわけないと思っていた。
なのでここまでストレートに言われると流石の南田も照れてしまう。
「あーしね、ライスシャワーちゃんだっけ? ミホノブルボンの三冠阻止とかメジロマックイーンの春天三連覇阻止とか、めっちゃ感動したんだー。なのに周りの反応塩過ぎてさ……マジ引いたんだけど、南田さんはライスシャワーちゃんをしっかり守ったっしょ? それ見て『うわ、最アンド高過ぎじゃん』って思ったの」
「あれは……まあ、自分でもついカッとなってしまって……お恥ずかしいことです」
「んなことないない。あーしはアスリートウマ娘じゃないけど、タメにケッコートレセン目指してた子いてさ。トレセンの壁?的なのフツーの人らより知ってるから。だからああやって守ってくれるトレーナーに担当されたのって幸せなんだろうなってすっごい思ったの」
「そう、ですか……えっと、ありがとうございます」
「っ」
南田の無自覚女たらしスマイルに金髪ウマ娘は思わず胸がときめいた。
それに南田が醸し出す優しい人間オーラが余計にその甘美な誘惑を加速させる。
「……ねぇ、これもなんかの縁だしさ、連絡先交換しない?」
「え……」
「ちょっと、強引なのはやめなって……」
「だって! 今逃したら――」
もう会えないじゃん!と力説しようとした時、
「――今逃したら、どうなんねや?」
下の方から地を這うようにドスの効いた声が耳に入ってきた。
金髪ウマ娘が視線を下へやると、そこにはタマモが眼光鋭く自分を見上げていたので、思わず小さな悲鳴をあげる。
しかもタマモだけでなく、その後ろにはチーム『不屈』の全員が物凄いオーラを放って耳を絞り、自分のことを睨んでいた。
これはヤバい……と金髪ウマ娘と黒髪女性の顔が物語る。
ウマ娘としては本能的にそれを強く察しているからこそ、自分よりも年下であるはずのタマモたちの剣幕に尻尾が縮んだ。
「えっと、ごめんね。私の友達、ちょっと強引なとこあるから」
黒髪女性がなんとかその場を取り繕うように謝ると、金髪ウマ娘も高速で首を縦に振り、南田にも深々と頭を下げる。
それを見て南田は「僕は大丈夫ですから」と急に萎縮してしまった金髪ウマ娘を気遣うが、
「トレーナー、時間やしもう行こうや」
タマモがそう言って南田の手を取った。それでいて太ももには尻尾が巻かれているので、遠回しに『ウチらのや』とタマモが金髪ウマ娘に告げていた。
そんなタマモを見て金髪ウマ娘と黒髪女性は南田たちにもう一度頭を下げてから、足早にその場を去る。
当然、彼女たちの異変とタマモたちの威圧的な態度に南田は困惑しつつも、トレーナーとして大人として『初対面の人にあんな態度は良くない』と注意した。
しかし、
「トレーナーが悪いんやで?」
「今回はアタシら悪くないっしょ」
「悪いのはトレーナーだ」
「お兄さま、ライスたちは当然のことをしたんだよ?」
「無自覚なアンタの問題だから」
「流石に今回は反省してくれないと困るなぁ」
「シラオキ様に叱られてしまいますよ?」
逆に南田がタマモたちから注意を受けてしまう。
南田はその理由が分からず首を傾げた。
しかし彼の反応は人間としては正しいが、ウマ娘側からすれば思わず深いため息が零れてしまう。
何故ならタマモたちは既に周囲(特にウマ娘)にハッキリと『この人は自分たちの』とマーキングしているから。
これはウマ娘特有というよりは、タマモたちが無自覚な南田にこれ以上他のウマ娘が寄ってこないようにしている行動。
だから学園でも逆スカウトをするようなウマ娘は現れていない。
それだけ彼の体中にタマモたちのニオイが付いているから。
ただ今日のようにタマモたちと接したことのないウマ娘には、変わったニオイをしてるな程度。
バレンタインに本命チョコを貰うような告白も、実はワンチャン狙いでみんな(特にウマ娘)はある意味で次の恋への第一歩として最後の思いを告げているに過ぎない。
「えっと……ごめんなさい?」
「なんで疑問系やねん、アホ!」
「タマモ先輩、もういいですって。トレーナーはいつものことですし」
がなるタマモをシチーが呆れ気味になだめる。
何故、アホ呼ばわりされたのか南田はさっぱりで、他のメンバーに『どうして?』と視線をやったが、みんな等しく重たいため息を吐くばかり。
「トレーナー、トレーナーは私たちのだ」
オグリが真っ直ぐに南田の目を見て告げる。
すると当然、南田は「知ってるよ?」と返した。
タマモたちは『全然分かってない』と思いつつも、『まあ最終的に分からせればいいか』と思ってうんうんと頷く。
みんなの反応に相変わらず南田は頭の上にはてなマークを量産しているが、いくら訊ねてもタマモたちは答えてくれないので、もう気にしないことにした。
ウマ娘というのは、特に多感な時期の子は大人には難しい心境があるのだろう、と。
「ほな、ホテル行こか」
「そうだな。お腹が減って仕方がない」
こうして南田はタマモたちに連れられ、ホテルのレストランへ向かうのだった。
◇
ホテルのレストランに着くと、ホールスタッフからバイキングでのルール説明を受ける。
受けている間もオグリの腹の虫が本能スピードを全力で奏でていたので聞き取りにくかったが、ルールは大切なのでみんなしっかりと聞いた。
ホールスタッフが去ると、オグリとライスが周りに配慮しつつ料理が並ぶテーブルへ一目散に向かう。
「みんなも取ってきていいよ? 僕が荷物見てるから」
南田に促されたのでシチーたちも遠慮せずに席を立つが、タイシンだけは座ったまま。
「アタシはどうせそんなに食べないから、トレーナーと行って食べたい物選んだ方が効率いいでしょ?」
「仲良く半分子しようね」
「ん」
これはいつものことなので誰もズルいとはならない。
そこへオグリとライスが皿にどうやって盛ったのか分からないレベルで料理を持って戻ってきた。
これには思わず南田は『ビューティフォー』とまるでスコットランドの狙撃兵みたいに呟いてしまう。
タイシンに至っては目を逸らす量だ。
「僕らも取ってこようか」
「……ん」
こうして少々ハプニングはあったものの、当初の目的は無事に果たされ、オグリもライスも心ゆくまでバイキングを堪能したが、厨房は戦火の炎に包まれていたとかなんとか。
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