ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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不屈の12月

 

 世間はすっかりクリスマスムード一色。

 ウィンタードリームトロフィーも全行程が終わり、見事に長距離部門でライスが連覇を飾り、シチー、オグリがマイル部門とダート部門で初優勝を果たした。

 

 なので、

 

「みんな、ちゃんと忘れ物はないかな?」

『はーい!』

「それじゃあ、乗り込んで。好きなとこに座ってね」

 

 これからみんなでお祝いのクリスマスキャンプへ向かう。

 今回はペット同伴可のキャンプ場なので、キャンピングカーではなく、南田の大型ワゴンで行く。

 お風呂、トイレ完備でキャンプ道具も全てそこのキャンプ場で借りられるため、着替えとタオルさえ持っていけばキャンプが出来てしまう初心者にも優しいキャンプ場なのだ。

 

 今回のキャンプは3泊4日。帰る日の大晦日になれば今年はみんな南田宅で年越しという大イベントの目白押しで、みんな色んな意味でやる気である。

 

 席は事前にメンバーで決めており、助手席は平和な選択でアンデルセン。

 ただ、オグリとライスはおやつを大量に食すので一番後ろの座席だ。

 

「シートベルトはしたかな?」

「……ん、みんなちゃんとしとるで!」

「トイレとか飲み物が欲しいとかの申告は早めにね。でないと大変だから」

『はーい!』

「それじゃあ出発するよー」

『しゅっぱーつ♪』

 

 こうして楽しいクリスマスキャンプ旅行が始まった。

 

 ◇

 

 無事にキャンプ場へ到着し、早速インストラクターの男性と共にみんなでテント設営。

 インストラクターはチーム『不屈』の大ファンということで、終始テンション高く親切に教えてくれた。

 最後にお世話になったお礼としてみんなとの記念撮影し、男性が用意していた色紙たちにそれぞれのサインを書けば、インストラクターは『家宝にします!』と大興奮で感涙しながら戻って行った。

 

「親切丁寧だったけど、終始テンションがおかしなインストラクターさんだったね……」

「きっちり仕事はしたんだしいいんじゃない?」

 

 インストラクターの背中を見送りつつ苦笑いで零すフジに、タイシンは相変わらずクールに返しつつ、早速ハンモックに寝そべって毛布を掛け、持ってきた携帯ゲーム機で遊び始める。

 

「ちょいちょいちょい! せっかくのアウトドアでいきなりゲームし始めんなや!」

 

 タイシンのどこでもゲームをする姿勢にツッコミを入れるタマモ。

 しかし南田に「人それぞれだよ」と優しく諭されれば、引き下がる他ない。

 

「僕は寒くて焚き火から離れたくないから、みんなは好きに遊んでおいで」

 

 南田が小刻みに震えつつ促すと、

 

「っしゃ! アスレチックゾーン行くでー!」

「面白そうだ」

「ライスも行こうかな」

「行きましょうそうしましょう!」

 

 タマモ、オグリ、ライス、フクキタルの四人はキャンプ場内の一角に設けられたアスレチックゾーンへと走っていく。

 

「私は――」

「――フジを置いてくはずないやろ」

 

 当たり前のように南田の膝上に座ろうとしたフジを、問答無用でタマモが首根っこを掴んで連行し、フジは「マイオアシス〜」と嘆きながら引きずられていった。

 

「アタシはちょっと走って来ようかな。こういう景色がいいとこ撮影以外で来ないし」

「ワンッ!」

「あはっ、アンタも走るって?」

「ワンッ! ワンッワンッ! ハッハッハ!」

 

 シチーの問いに答えるようにアンデルセンは軽く吠えつつ、その場で早く行こうと言うようにクルクルと回って尻尾をブンブン。

 そんなアンデルセンを見てシチーは笑い、「じゃあ行くよ!」と言って走り出し、アンデルセンもそのあとを追った。

 

「平和だなぁ」

 

 皆の様子を見守り、南田がしみじみとつぶやく。

 それを聞いていたタイシンは心の中で『トレーナーがいるからね』と返しつつ、ハイスコアを叩き出すのだった。

 

 ◇

 

 目一杯遊び、目一杯食べ、辺りは真っ暗。

 しかし月の光りのお陰でそこまで視界が悪くないため、懐中電灯がなくてもトイレや風呂場までは難なく行ける。

 

「ただいま。待たせてごめんね」

 

 風呂を済ませた南田が戻ってきた。

 

「湯冷めせんように焚き火にあたりや」

 

 タマモはそう言って南田を焚き火のそばへ誘導してあげる。

 それに南田は感謝の言葉を述べつつ、アウトドアチェアに座った。

 

「はい、毛布」

「ありがとう、シチー」

 

「トレーナーさん、コーヒー淹れたよ」

「ありがとう、フジ」

 

「クッキーもあるから良かったら食べてね、お兄さま」

「ありがとう、ライス」

 

「トレーナー、焼いたマシュマロ食べるか? じゅるり」

「オグリが食べていいよ」

 

「ホッカイロ、使いなよ」

「ありがとう、タイシン」

 

「トレーナーさんの明日の運勢を――」

「――占いは結構です」

「フンギャロッ!」

 

 ぱちぱちと薪がくすぶる音と草木が僅かに揺れる音だけがする静かな空間。

 タマモたちからすれば焚き火にあたる南田の姿が乙女フィルターによってより魅力的に映り、思わず胸が高鳴る。

 

「満月とはいかないけど、空気が澄んでいるからか、夜空が綺麗だね」

 

 そう言ってコーヒーを口に含む南田。

 彼の隣にはアンデルセンが寄り添い、タマモたちはそれが著名な画家が描いた大作の絵画のように映った。

 ホッと恋い焦がれた熱い吐息が零れ、その光景をうっとりとみんなで見詰める中、フジの若干荒くなった呼吸音で現実へと引き戻された。

 

「ホワイトクリスマスもええけど、こういう落ち着いたクリスマスもええもんやな」

 

 フジが暴走しないように空気を変えるためにタマモが言えば、みんなもそれに頷き、フジはなんとか?理性を保てたそう。

 その後も穏やかに時は過ぎて、冬のキャンプでみんな南田との大切な思い出をまた作った。

 

 ―――――――――

 

 本日は大晦日。今年最後の日。

 チーム『不屈』の面々はお泊まりセットと各々必要な物を持って、南田宅へ集結。

 オグリとライスは背負うリュックの中に大量のお菓子を入れているが、これもどうせすぐに胃の中へと消えてしまうだろう。

 それでも全て南田に用意させてしまうのは悪いので、出来る範囲で用意してきた。

 

 南田宅へ到着すると、南田の車がなかった。

 代表してタマモが縁側へ回って中を見ると、アンデルセンが『やっほー』と言っているように元気に尻尾を振りつつ軽く吠えている。

 

「アンしかおらへんわ」

「アタシらも時間は指定してなかったですし、買い物にでも行ったんですかね?」

 

 シチーの言葉にタマモは「かもしれへんな」と返し、自身のショルダーバッグの中から青い小物入れを出した。

 その中には南田から預かっている合鍵が入っている。

 クリスマスキャンプのあと、南田からリーダーのタマモにだけこういう行き違いがあった場合のために予め受け取っていたのだ。

 当然今回のお泊まりが終わればこの合鍵は返すことになっている。

 

「先にお邪魔させてもらおか」

 

 鍵を開けて上がり、客間へ荷物を運んでいると、タイミング良く南田の車が駐車場へ戻ってきた。

 

「みんな、こんにちは。出迎えられなくてごめんね」

 

 謝る南田にみんなは笑顔で首を横に振る。

 それから南田に「悪いんだけど、荷物を下ろすの手伝ってもらえないかな」と言われたので、みんなして手伝った。

 南田が買ってきたのはほとんどが食料品。

 何せ年越し蕎麦だけでオグリとライスは軽く20人前は余裕で消費出来てしまうレベルだから。

 

「よぉ、こんなにぎょうさん買うてきたなぁ」

「お蕎麦だけで凄い量です……!」

 

 蕎麦だけでも大きなダンボール箱3つ分。

 他にもカニやら野菜やら肉やらが後部座席から大量に下ろされていく。

 

「みんなで食べるならお鍋にしようかと思ってね」

 

 優しく微笑んで言う南田につられて、みんなも思わず笑みを零した。

 そして、本当にまた今夜からも南田と過ごせるのだと実感する。

 こんなにも幸せなら、来年もその先も、ずっとこうしよう。そんなことを皆が思った。

 

「まあ夕飯まではまだまだ時間あるし、3時のおやつが過ぎたら下ごしらえを始めよう。それまではとりあえずまったりしようか」

 

 南田の提案にみんなは頷き、残りの食材も台所や居間の隣の部屋に運び込んだ。

 

 ◇

 

 本年も残すところあと数時間。

 南田は去年の穏やかな年越しとは違い、

 

「次のお鍋出来たよー」

「次の炊飯器持って来たで!」

 

 ワイワイガヤガヤと忙しい年越しを迎えている。

 忙しい理由は主にオグリとライスのために料理を振る舞っているからだ。

 食べる専門の二人とは別で、タマモやタイシン、フジも台所に立って次々に野菜を切っては鍋に投下していく。

 鍋の素を南田が何種類も買ってきたので、味に飽きることもない。

 

「最高の大晦日だ!」

「ライス、とっても幸せ!」

 

 なのでオグリとライスは存分にその幸せを味わう。

 

「相変わらず良く食べるね、この二人は……」

「それでこそのお二人ですからねー」

 

 アンデルセンの頬をわっさわっさしながら呆れ気味に言うシチーに、フクキタルはアンデルセンの尻尾をブラッシングしつつ返した。

 シチーは料理下手、フクキタルはやらかす、ということで戦力外通告をタイシンとフジからされてしまったので、アンデルセンを構っているのだ。構ってもらわせているの間違いかもしれないが。

 

「そろそろ年越し蕎麦茹でるからねー。何蕎麦がいい?」

 

 南田が居間にいるメンバーに声をかけると、

 

「アタシ、ワカメと揚げ玉」

「私は全部乗せだ!」

「ライスも!」

「私はお揚げを乗っけていただければ!」

 

 すぐさまリクエストが返ってくる。

 因みに『全部乗せ』とは海老天、温玉、ワカメ、お揚げ、揚げ玉、なめこ、山菜、コロッケ、鶏肉、鴨肉が乗っている超絶ボリューミー蕎麦。

 

「ウチは月見蕎麦にしよかなぁ。いや、でもたぬき蕎麦もええねんなぁ」

「蕎麦はいっぱいあるから、好きなだけお食べよ」

「せやな!」

 

「私はシンプルにかけ蕎麦にしよう」

「アタシはカレー蕎麦にする」

「南蛮じゃないんだ?」

「長ネギは鍋で切らしたからね」

 

 ◇

 

「それじゃあ改めて、いただきます」

『いただきまーす!』

 

 散々鍋を食べたあとだが、年越し蕎麦ということでみんな一度居間に戻って蕎麦をすする。

 因みに蕎麦つゆは出汁が利いている甘口の関西風味。

 

「来年もみんなで頑張って、いい年にしようね」

 

 南田がしみじみと言う。

 それだけ今年もタマモたちのお陰で充実した日々を送れた上に、とても幸せだったから。

 

「そんなこと言わんでもええ年にするに決まっとるやろ♪ なんせトレーナーとウチらが揃えば天下無敵なんやからな! ダァーハッハッハ!」

「来年もアンタのこと頼りにしてるからね。頼んだよ、トレーナー♪」

「一緒にたくさん美味しい物を食べよう、トレーナー!」

「ライスね、お兄さまと一緒だから、来年もいい年になるって心からそう思えるよ♪」

「未来のことは分かんないけど、アンタと一緒ならアタシはそれでいいよ」

「来年も最高のサプライズをトレーナーさんにたくさん用意してあげるから、覚悟しててね♪」

「来年は今年よりも大大大吉です! そうなる運命ですので!」

 

 それぞれの温かい言葉に南田は満面の笑みで頷き、アンデルセンも嬉しそうにワンッと吠える。

 

 笑う門には福来たる―――

 大晦日も笑顔溢れるチーム『不屈』は来年もたくさんの福を呼ぶことだろう。

 幸せはいつもすぐ目の前にあるのだから。




ということで、チーム『不屈』編はこれでお終いとなります!
読んで頂き本当にありがとうございました!

次からまた別チームのお話になるのですが、ちょっとリアルが忙しくて間を空けさせて頂きます。
新チームのお話は11月3日から始めさせてください。何卒よろしくお願い致します。

今後とも楽しんでもらえるお話が書けるよう頑張ります!

誰が可愛かったですか?

  • しっかり者タマモ
  • したたか者シチー
  • マイペースオグリ
  • 純粋健気ライス
  • クール強火タイシン
  • 危ない寮長フジ
  • お騒がせフクキタル
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