ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ハニーレモンティーを添えて

 

 多くのチームが夏合宿期間に突入する頃。

 チーム『メジロ』は夏合宿を今年はトレセン学園指定の海で行わないことになった。

 理由は、

 

「ココハドコデスカ?」

「メジロ家のプライベートビーチよ。もう何度も来たことがあるはずなのに、可笑しな人」

 

 バカンスも兼ねているから。

 

 河部も今朝から薄々こうなる予感はしていた。

 最初から学園が用意したバスではなく、メジロ家が手配したチャーター機だった時点で。

 

「みんながお休みだとしても、社会人の俺は仕事があるんだけど?」

「メジロ家お抱えのトレーナーということで、既に学園からは有給休暇の許可がおりていますから、ご安心を」

 

 にこやかなアルダンからの答えに河部は一瞬固まりつつも、反論する意思を失わない。反論しないと自身の人権がなくなった気がするから。

 

「いくら婚約してても年齢的に考えてこういうのは世間体に悪いと思うんだ」

「それは〜、わざわざ公表するからですわ〜。言わない、知らせない、悟らせない。そうするだけで他人さま方は何も分かりませんもの〜。それに詮索されようとも〜、そんなのはわたくしたちの勝手ではありませんか〜。健全なお付き合いですし〜」

「ブライトの言う通りよ。そもそも変にそういう方向に話を持ってこうとするゴシップ記者やマスコミがいたとして、アタシたちは健全な関係なんだからいいじゃない」

 

 ブライト、ドーベルの言葉に河部はもう反論しても無駄だと悟り、もう気にしないことにした。

 そもそもの話をしてしまえば、ここの子たちは全員幼い頃から面倒を見ている。ラモーヌやアルダンに至っては赤ん坊の頃からだ。周りで唯一近い歳の人間だったし、進んで面倒を見ていたからおねしょの後始末だったり、お風呂の世話もしたことがある。

 ラモーヌたちからすれば愛する河部に不可抗力とはいえ全て見られてしまっているため、今更感がある。なんなら今なら美しく育ったこの身を余すことなく堪能してほしいくらいだ。

 しかしそこは淑女。河部が手を出さないなら、自分たちはその意志に従うのみ。

 

「話終わった?」

「終わったなら遊びましょう! せっかく海に来たんですから!」

「潮干狩りでも素潜りでもなんでも出来ますわ、トレーナーさん!」

 

 待ってましたとばかりにパーマーとライアン、マックイーンがビーチボールや浮き輪、シャベルやモリを手にして誘えば、河部はもう遊ぶことにした。

 

「じゃあとりあえず別荘で水着に着替えますか」

 

 河部がそう言うとみんなは揃って返事をし、別荘へ向かった。

 

 ◇

 

 メジロ家の別荘。それはメジロ家としてはちょっと小さめのコテージ。

 しかし今回のバカンスのために使用人やシェフ、医師、セラピスト、楽団と揃えてきていて、そんな彼らが寝泊まりするコテージもあるのだから流石メジロ家である。

 別荘の隣にはトレセン学園程ではないが練習用の屋内コースもあり、中にはトレーニング器具も一通り揃っているので、メジロ家の財力というのが嫌というほど分かる施設。

 

 河部はその点についてはもう慣れているので、鼻歌交じりにビーチパラソルを他の使用人たちと用意しつつ、ラモーヌたちが水着に着替えて来るのを待った。

 

「私が一番かな?」

 

 最初にやって来たのはパーマー。

 シンプルな三角ビキニで、右胸が白色で左胸がメジロカラー。下もメジロカラーだが、黄色のショートパンツを着用。

 

「パーマーが一番だな」

「そっか。みんなおめかししてるのかな?」

「そう言うパーマーだっておめかししてるだろ」

「いやぁ、私はそれなりでいいからさ〜」

 

 ヘラヘラと笑って返すパーマーだが、本音はみんなが思いの外気合を入れていると感じて焦っている。

 自分も仲良しのダイタクヘリオスやトーセンジョーダンから助言を貰ってこの水着を選んだし、そもそもいつもは学園指定の水着やウェットスーツを着用することが多いので、ビキニを着るのは勇気が必要だった。

 それでも他のメンバーがまだ着替え終えていないということは、それだけ気合を入れているということ。

 

「……ねぇ、トレーナー、私の水着変かな?」

「? 可愛いと思うけど?」

「……ホント?」

「ホント」

「ガチ?」

「ガチ」

 

 不安になって思わず河部に訊いてしまったパーマー。

 しかし河部は気に入ってくれた様子なので、パーマーはホッとした。彼が気に入ってくれたなら、パーマーとしてはそれだけで十分だから。

 

「まあ女の子は準備に時間が掛かるって言うしな。お茶用意するから、気長に待ってよう」

「まるで私が時間掛けてないみたいじゃん」

「いや、十分待ったぞ?」

「あはっ……そっか♪」

 

 冗談にも真面目に返してくる河部。そんな彼が可愛らしくてパーマーは思わず笑みが零れた。

 

「今日はどんなお茶?」

「今日はハニーレモンティー。アイスね」

「私それ好き♪」

「ちょっと待っててなー」

「おけまる水さーん♪」

 

 使用人がいても、お茶を淹れるのは河部本人。

 

 今回はフルーツティーに合う爽やかな味わいが魅力のニルギリを使用。

 たっぷり氷を入れたグラスに熱い紅茶を注ぎ、レモンの輪切りを2枚とハチミツを少し入れ、軽く混ぜたらミントを飾って出来上がり。

 

「どうぞ」

「いただきまーす♪」

 

 グラスを手に持ち、ストローをもう片方の手で支えつつお茶を吸う。

 口に含むとニルギリ特有の爽やかな味に加えて、レモンの爽快感とハチミツの風味が広がり、ほぅっと思わず吐息が出てしまうパーマー。

 

「お口に合ったようで何より」

 

 彼女のその表情を見れただけで満足した河部が得意げに笑って言うと、パーマーは少し恥ずかしそうにしながら「えへへ」と笑って誤魔化した。

 それだけ彼の用意してくれたお茶が美味しかったから。

 

 ラモーヌやアルダン程ではなくても、二人に次いで河部との付き合いが長いパーマー。それだけ多くの時間を共に過ごし、彼から振る舞われたお茶は同じ茶葉を他所で何度飲んでもそれを上回る代物に出会ったことがない。

 河部がみんなの好みを把握しているというのも大きい。

 

「お待たせ致しました」

 

 そこへアルダンを先頭に続々とメジロのご令嬢たちがやって来る。

 ラモーヌ、アルダンは共に同じデザインのモノキニ。ラモーヌは白で胸下から下腹部にボタニカルアートの刺繍入りで、アルダンはその黒バージョン。

 ライアンはクロスデザインのビキニ。色は勝負服と同じく白と黒。パンツ部分は白地に黒のストライプ柄。右胸の白地にはしっかりとメジロカラーの星マークが付いている。

 ブライト、ドーベルはお揃いでハイネックホルター水着。胸元がレースで透明性があってちょっぴりセクシー。色はブライトが桜色でドーベルがネイビー。

 マックイーンの水着はフレアビキニのメジロカラー。ふんわりとした可愛らしい水着だが、セットのパレオがセクシーさも見せている。

 

「おーおー、みんな似合ってるなぁ。よくもまあそんな似合うのを見つけてきたもんだ」

 

 河部が感心しつつみんなのお茶の準備に取り掛かると、

 

「何言ってんの。オーダーメイドなんだから当たり前でしょ」

 

 ドーベルがフンッと鼻を鳴らしつつ返した。

 

 そう、みんな水着はオーダーメイド。それだけ愛する河部にとびきりの自分を見て欲しかったのだ。そしてパーマーに至っては『私も次からはそうしようかな』と考えた。

 

「……わざわざありがとね」

 

 河部は素直に感謝の言葉を告げると、ドーベルだけでなく全員が満足そうに笑みを零した。

 

 ◇

 

「さて……着替えて、お茶も飲んだことだし、遊びますか」

 

 河部が軽く屈伸運動をしながら言うと、みんなも同じように屈伸運動しながら同意するように頷いて見せる。

 因みにウマ娘は日焼けをあまりしないが、全員バッチリと着替え中、メイドたちに全身くまなく日焼け止めクリームを塗ってもらった。

 

「トレーナーさんは何がしたいですか?」

 

 ライアンからの質問。河部はそれに伸脚運動をしつつ、考える。

 目の前には見目麗しい婚約者たち。ムードを重視するなら恋愛ドラマとかでは定番の追いかけっ子だろうが、そんなものをしたら秒で捕まる上に、アスリート魂に火がついてデッドヒートし、軽く死を覚悟するレベルのデスゲームになるのは目に見えている。

 なので、

 

「定番のスイカ割りするか」

 

 ここは平和な遊びを提案した。

 スイカ割りなら何も危ないことはないから。

 

 河部の提案にみんなは頷くと、すぐさまラモーヌが待機している使用人たちに目配せしてスイカ割りの準備をさせる。

 使用人たちは秒で支度を整え、ビニールシートの上に特大サイズのスイカをセットし、河部に目隠し用のアイマスクとプラスチック製のバットを渡した。

 

「最初はトレーナーさまからどうぞ〜♪」

「え、俺?」

「アンタの休暇でもあるのだから、アンタも楽しまないとね」

 

 ブライト、ドーベルに言われるがまま河部はアイマスクを装着され、10周その場でくるくると回転させられる。

 そして、

 

「トレーナー、右だよー!」

「左ですよ、トレーナーさん」

 

 スイカ割りが始まった。

 しかし各々河部をスイカに導こうとはしない。何故なら自身の胸に飛び込んでもらってそのままハグしたいから。

 なのでみんな声は弾んでいるが、その気迫はレースの時と同じである。

 そう、もうレースは始まっているのだ。

 

「こっちか?」

 

「そっちじゃないよ! もっと右! そうそう! そのまままっすぐ!」

「トレーナーさま〜、わたくしの声のする方へいらしてくださいな〜」

「トレーナー! えっと、その、アタシの声を信じて!」

 

「…………軽くウマ娘不信になりそう♪」

 

 明るい声色でつぶやく河部。それだけ彼が混乱しているのが分かるだろう。

 しかしみんな、愛する河部に自分のところへ来てほしい。故に譲れない。渡さない。

 

「トレーナーさん! こっち! こっちですわ!」

 

「マックイーン、うるさい」

 

「どうして私だけ辛辣なんですの!?」

 

「貴方」

 

 そこへ凛とした声がストンと河部の鼓膜を撫でる。

 

「ラモちゃん?」

 

「今の位置から左45度」

 

「ほいほい」

 

「それから直進」

 

「ほーい」

 

「……やりなさい」

 

「ほいさ」

 

 ペコンと音がした。手応えはバッチリ。

 河部がアイマスクを外すと、見事にバットはスイカに当たっていた。

 ラモーヌとしてはこんな不毛で時間の無駄にしかならない戯れよりも、さっさと終わらせて河部とイチャイチャしたかったのだ。

 

「お〜、流石ラモちゃん♪」

「貴方も流石よ」

 

 河部にそう返したラモーヌは彼の胸板を人差し指でそっとなぞる様に撫でる。

 

「もうラモーヌさんばっかり……」

「正妻面が板についてますわ〜」

 

 思わずむくれてしまうドーベルとブライト。ブライトに至っては物凄く毒を吐いているが、今に始まったことではないのでラモーヌもどこ吹く風。

 

「それでは次に行きましょうか。スイカを早く割った人がこの人と今夜同じ部屋で寝るということにしましょう」

『っ!?』

 

 特大のニンジンをラモーヌがぶら下げると、みんな目の色が変わった。

 ただ、

 

「マックイーンさまは100メートル離れてからスタートしてくださいましね」

「どうしてですの、ブライト!? 私も真剣にやりますわよ!?」

「…………」

「やってやろうじゃありませんことぉっ!? ハンパないってとこ見せてやりますわよ!」

 

 マックイーンはブライトからの挑発にまんまと乗ってしまったせいで、河部と別々の部屋で夜を明かすことになった。因みに勝者はパーマーで、その夜は河部の寝顔を堪能して寝不足気味になったそう。




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