ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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静養日のチーム『メジロ』

 

 穏やかな昼下り。

 いつもならばトレーニングに精を出すチーム『メジロ』のウマ娘たちだが、今日は静養日。

 

 その彼女たちが静養日にすることは1つだ。

 それは―――

 

「すぅ……すぅ……」

 

『………………』

 

 ―――愛する河部を見守る……という名目の旦那観察である。

 名家のご令嬢がはしたないと思われるかもしれない。しかし好きな人のこととなれば、そんなの些細な問題だ。誰しも愛する人のことは第一に考えるのだから。

 ただ、ラモーヌに至っては家の用事で不在中。彼女曰くすぐ終わるので、夕方にはトレーナー室に戻るそう。

 

 河部は日頃から仕事に手を付けるのが早く、仕事に追われるなんてことはない。

 よって空いた時間は好きなことをする。今日に至っては時間が昼下りということもあってシエスタをしているのだ。

 整理整頓、清掃が行き届いた河部のトレーナー室には、ラモーヌがプレゼントした高級ソファーベッドがある。

 皇室御用達メーカーの特注品であり、シエスタをする河部を思って贈ったものだ。

 

 そして、彼女たちは揃って昼寝をする河部を見詰める。穴が開くほどに。

 何故なら―――

 

「今日はライアンのぱかプチを抱いていますわね。ズルいですわ、ライアン」

「近頃ライアン率高めじゃない? ズルいよ、ライアン」

「あたしに言われても……」

 

 ―――河部が毎回自分たちのぱかプチを抱えて寝るからである。

 河部は末っ子。故に両親、兄弟から可愛がられて育った。

 幸せであるが、唯一の問題は家族が家業や勉学に忙しくて幼少時代は寂しい時間を過ごすことが多かったこと。

 お手伝いさんはいたものの、やはり子どもであれば寝る際には家族の誰かが近くにいて欲しいものだ。

 その寂しさを紛らわすためにぬいぐるみを抱えて寝ていたため、大人になった今でも何かを抱えて眠るのが習慣になっている。

 

 その事実をラモーヌたちが知ると、皆揃って自身のぱかプチの特大サイズを河部に贈った。それも大き過ぎない、彼が抱き締めて眠るのにちょうど良いサイズをオーダーメイドして。

 彼がどのような素材が好きで、どのようなサイズ感を好み、どのような柔らかさを求めているか……皆揃って熟知していたから。

 

 彼女たちの思惑通り河部はそのぱかプチたちに大変満足し、シエスタの際には必ずその日の気分で誰かを抱えて眠ることになった。

 そこから珍レース『今回の添い寝相手は私杯』が幕を開けたのだ。

 

 特にこれと言って添い寝相手に選ばれた者にその日の夜の添い寝権が与えられるようなことはない。そんな権限が与えられるとなれば、皆どんな手を使ってでも河部に自分のぱかプチを抱えさせる。

 彼女たちはただ単にレース名のまま、河部が今回抱き枕にしようと決めたのは誰なのか気になっているだけ。

 

 そして今回、河部はライアンのぱかプチを選んだ。前回、前々回とライアンが選ばれ、これで3連勝。なのでマックイーンもパーマーもライアンに文句を言い、ライアンはライアンで困り顔。

 しかし困ってはいても尻尾は正直で、選ばれた栄誉にふわりふわりと上機嫌に揺れている。

 

「それにしても、いつ見てもトレーナーさんの寝顔は可愛らしいですわ」

 

 ほぅっとうっとりしながらマックイーンが零すと、他のメンバーも揃って頷いた。

 普段凛々しい河部も無防備な寝顔は可愛らしい。女性でも見惚れるようなかお立ちをしているからなのかもしれないが、彼女たちからすれば河部はいつでも素敵に見えているのだ。

 

「トレーナーさんは神が使わせてくれた天使なのでは?」

「真面目に何言ってるのマックイーンは?」

 

 思わずツッコミを入れるパーマーだが、

 

「流石はマックイーンね。私もそう思っていたところなの」

 

 メンバーの中では比較的常識人なアルダンまでもがそんなことを言うので、パーマーは「アルダンさん!?」と声を荒げてしまう。

 

「何言ってるの。バカバカしい……」

「良かった。ドーベルは正常だった……」

「トレーナーは天使よりも可愛いわ」

「あ、この子もあっち側だった」

「そんなことより眠ってるトレーナーさんに悪いですし、ジムで軽めの筋トレしません?」

「平常運転のライアンに安心感を得ている私も、もう普通ではないのかもしれない」

 

 カオスな空間にパーマーは思わずこめかみを押さえた。

 そして気が付いた。ブライトが先程から一切言葉を発していないことに。

 パーマーは視線でブライトの姿を探す。

 するとどうだろう―――

 

「……すぅ……すぅ」

「ん〜……くぅ……くぅ……」

 

 さも当然のように河部の隣に寄り添って規則正しい寝息を刻んでいるブライトがいた。

 

「何やっちゃってんの、ブライトは!?」

 

 まさに最&悪だとパーマーは思い、頭を抱える。誰もが河部を愛しており、常に彼へアプローチを掛ける機会を探しているメンバー。

 そんなメンバーを気にすることなく抜け駆けしたブライトは非常にマズイ。

 比較的常識人枠であるアルダンとライアンはいいとして、ドーベルとマックイーンが突撃し、結果河部がもみくちゃにされ、ラモーヌに全員が怒られる。愛する河部のシエスタを邪魔した罪で。

 パーマーは考えた……が、すぐに考えることを放棄する。

 

(だってどう頑張っても私じゃどうにも出来ないし)

 

 だったらお得意の逃げを使うべき時。飲み物を買いに行ってた体を装えばラモーヌからのお叱りは回避出来るかもしれないから。

 

 しかし、

 

「もう、ブライトってば……すぐトレーナーの隣で寝るんだから……」

「仕方ありませんわね。ドーベル、とりあえず飲み物でも買いに購買へ行きませんか? トレーナーさんももう少しで起きますでしょうし」

 

 二人は冷静だった。

 何故ならブライトのこの行動は前からで、慣れていたから。それにブライトは行動は強かでも、やることは純粋な乙女。決して自分たちの心が穢れている訳ではないが、もし自分たちがブライトの立場なら、好きなだけ愛する河部のニオイを堪能し、普段服の下に隠れている逞しい肉体を彼を起こさないよう細心の注意を払ってソフトに触る。でもブライトは本当に一緒に眠るだけ。現に今も河部の背中にピタリとくっついて眠っているのみ。ただ眠るだけなら騒ぐことの程ではないのだ。二人にとっては。

 

「なんかどっと疲れた……」

 

 脳に血糖をほぼ持っていかれ、立ちくらみのような幻覚に襲われるパーマー。

 

「パーマー、大丈夫? 椅子に座りなよ」

「ライアン……うん、そうする」

 

 ライアンに心配され、促されるまま自分の席に座る。ちょうど仲良しのダイタクヘリオスから飴を貰っていたので、パーマーはそれを口に放り込んだ。

 そんなことをしていると、アルダンが自身のウマホのカメラを起動させ、河部の寝顔を撮影しだす。

 

「アルダンさん、なんで急に写真撮り始めたの?」

「大丈夫ですよ。ちゃんとシャッター音は鳴らないように設定しましたから♪」

「うん、そういう問題じゃなくてね? どうして、写真を、撮るの?」

「姉様にトレーナーさんの寝顔の写真を送るように連絡が来たから……」

「え、なんでラモーヌさんはこの状況把握してるの!?」

 

 まさかのラモーヌの指示ということにパーマーは驚愕。それもそうだろう。ラモーヌは今この部屋にいない上に、そもそも学園にすらいないのだから。

 そんなラモーヌがトレーナー室の状況を把握しているのは驚きを通り越して怖いまである。現にライアンは怖さを紛らわすために軽いスクワットをし出したくらいだ。

 するとパーマーはふとトレーナー室に置いてあるラモーヌを模したパカぷちに目が行った。

 何故ならあのパカぷちはいつもこの部屋の全体を見渡せる位置にあるから。トレーナーが抱っこして眠る以外、必ず同じ場所にいるのだ。あのパカぷちだけ。

 パーマーはラモーヌのパカぷちを注視すると、見間違えかそのパカぷちの目が一瞬だけキラリと光りを反射したように見えた。

 

「あれって確かオーダーメイドだったよね? もしかして見守り機能を付けてある的な……なんてね」

 

 そう考え、すぐに違うと首を横に振るパーマー。流石に愛が重いラモーヌでも、愛する人のプライバシーを侵害するようなマネはしないだろう、と。

 しかし、

 

「っ」

 

 ラモーヌから自分のウマホに送られてきたメッセージにパーマーは恐怖に思わずひゅっと息を呑む。

 何故なら、

 

『賢い貴女なら分かっているわね?』

 

 とのメッセージが送られてきたからだ。

 これにはパーマーも先程のことを綺麗さっぱり忘れて逃げ一択。ラモーヌを怒らせてはいけないのだ。

 

「よ〜し、ライアン。暇だからプロテイン用意してあげるよ」

「え、うん、ありがとう?」

「気にしない気にしない。いつものでいい系?」

「今日はキャラメルモカ味ので♪」

「相変わらず色んな味があるのねー」

 

 ライアンが気に入っているプロテインのメーカーはフレーバーの種類が多く、季節によって期間限定のフレーバーも出しているため、いくつも用意している。新しいフレーバーが出ると必ず試す上に、何度かコラボフレーバーを出したこともあるくらいだ。

 

「只今戻りましたわ」

「マックイーンがいちいちお菓子の誘惑に負けそうになるから遅くなっちゃった」

「ななな、何を仰っているのかしらららら?」

「はい、おやつのバナナ。お菓子よりはいいでしょ」

「ありがとうございます!」

 

 相変わらずのマックイーンだが、ドーベルももう慣れたもの。因みに飲み物はみんな紅茶だ。たまにはリプ〇ンというのも有りということで。

 

「ありがとう、ドーベル」

「ありがとね♪」

「ありがとう、ドーベル!」

 

「私も買いに行きましたのに!?」

 

『マックイーンはお菓子を見てたんでしょ(いたのでしょう)?』

 

 アルダン、パーマー、ライアンから同時に言われ、ぐうの音も出ないマックイーン。レースで見せるメジロの至宝とは微塵も思えないが、このギャップがマックイーンの良さでもある。

 

「…………ん」

 

 そしてやっと河部が目を覚ました。

 むくりと起き上がり、軽く背伸び。そして抱えていたライアンのぱかプチを棚に戻し、ブライトに毛布をかけてあげる。

 

「ご機嫌よう、トレーナーさん。お邪魔しています」

 

 アルダンが挨拶をすれば、他のメンバーも『ご機嫌よう』と挨拶した。

 

「お〜、ご機嫌よう。マックイーン、バナナ食うなよ?」

「……理由をお尋ねしても?」

「茶のお供に低カロリーのニューヨークチーズケーキ作ったから。それ食うなら食わせない」

「明日の朝にこのバナナは頂くことにしますわ!」

 

 変り身の早さに苦笑いするアルダンたち。

 

「戻ったわ」

 

 そこへラモーヌも用事を済ませてトレーナー室へ到着した。

 その後はブライトも起こし、いつものように河部と彼お手製のお菓子で心温まるティータイムを過ごした―――。




読んで頂き本当にありがとうございました!

※本編中、アルダンがシャッター音を消して撮影しているシーンがありますが、現実では禁止行為なので真似しないでください。
あくまでも婚約者同士の戯れということでご理解くださると幸いです。
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