ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!
今年も楽しんでもらえる物語が書けるよう頑張りますので、よろしくお願い申し上げます!


お正月のメジロ

 

 新年の始まり。お正月。

 大抵の人ならばお正月と言えば家でのんびりと好きなことをして過ごすことだろう。

 しかし河部はメジロ家のご令嬢たちと婚約をしている関係上、メジロ家の新年会やその他方方で新年の挨拶やらお呼ばれやらとトレーナー業務よりも忙しい時間を過ごした。

 

 そして今日は1月の7日。

 やっとのことで挨拶周りやメジロ家の用事から解放され、河部は自身の邸宅でゆっくり過ごせる。

 

「あ〜、これだよ、これ。これこそがお正月だよ」

 

 和室のこたつに入り、寝そべり、ただただ時間が過ぎていく。これぞ贅沢な時間の使い方だ。

 いつもより遅く起き、起きたとしても身支度を軽く整えたあとはまたリビングで寛ぐだけ。河部がお正月からずっとしたかったことだ。

 

「貴方の隣は落ち着くわ」

 

 そんな河部の左隣で当然のように彼の腕を枕にして言うのはラモーヌ。

 いつものラモーヌからすればただただ何もせずに時間を浪費するという無駄なことはしないと思うだろう。

 しかし今のラモーヌにとって河部の隣で過ごすこの時間はとても大切で、愛しく、尊い時間なのだ。

 

「小さい頃からラモちゃんは俺の腕を枕にすることが多かったよな」

「そうね」

「アルちゃんに腕枕してたらムキになって反対側の腕を自分の枕にして……幼い頃から嫉妬深かったよな、ラモちゃんは」

「それは貴方がアルダンを贔屓するからよ。今もたまにしているようだし」

「贔屓なんかしてない。よくそうやって寝かしつけてて、今もそれが癖になってるだけ」

「貴方に付きっきりで看病してもらえる。そこだけはアルダンが羨ましく思えたわ」

 

 ラモーヌはそう言うと、ピタリと河部の胸に顔を寄せる。とくんとくんと耳に伝わる河部の鼓動と呼吸で規則正しく浮き沈みする腹部の感覚。アルダンがずっとずっと独り占めしていたこの場所が、ラモーヌは幼い頃から羨ましくて仕方なかった。

 アルダンが体調を崩すのが可哀想と思いつつ、どうしていつも河部を独り占めするのかと恨めしく思ったりもした。

 でも河部は必ず自分にもと求めれば受け入れて、応えてくれた。だからラモーヌは河部にだけは素直に甘えられるし、心の底から誰よりも彼を愛していると自負している。

 

「今独り占めしてるんだしいいじゃん」

「そうね」

 

 河部が言う通りラモーヌは今、彼を独り占めしていた。

 彼が寝ている間にラモーヌたちは実家からこの邸宅へやってきて、他のメンバーは揃ってランチの買い出しに行っている。普通なら使用人が買い出しに行くし、何なら卸業者を呼べばいい話だ。

 それでもみんなは買い出しに出た。何故ならラモーヌがそう言いつけ、察した妹のアルダンが快く姉が甘えられる時間を作ってあげようとみんなを外へ連れ出したからである。

 そんな妹に姉はお礼は言わない。お礼なら言葉よりも併走や模擬レースをする方が彼女は喜ぶから。

 しかし、

 

「只今戻りました」

「良さげなモノ色々買ってきたよー!」

 

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもの。

 これでもアルダンたちが買い出しに行っていた時間は約2時間とそれなりに時間は掛けている。ラモーヌにとってはまだまだ足りないだろうが、そんなのはみんなも同じこと。

 なのでラモーヌは仕方なく「ご苦労様」と返して河部からそっと離れた。

 

「色々って例えば何を買ってきたんだ?」

 

 河部の質問にアルダンたちは紙袋から買ってきた物を二人に見せていく。

 

「私はチヨノオーさんとヤエノさんから教えてもらった美味しい和菓子屋さんで、干支まんじゅうという物を頂いてきました」

 

 アルダンが買ってきたのはおまんじゅうで、可愛らしくデフォルメされた十二支の絵が描かれている物。ふっくらとした白のまんじゅうと桜色のまんじゅうが交互に円を描くように入っており、中味はこしあん、つぶあん、カスタードクリーム、クリームチーズとランダムで入っているらしい。また干支にはいないが、猫の絵もあるため計13個だ。毎年その年の干支が中央を飾る。

 

「私はルビーから聞いたお店でイチゴ買ってきたよ♪ 赤いのだけじゃなくて、白いのも買ってみたんだ♪」

 

 パーマーはダイイチルビーに教わった質の良い青果店でオススメされたイチゴを購入。彼女が言うように白いイチゴにはみんな興味津々で注目する。

 特にマックイーンに至っては既にロックオンしている様子で、眼がギラついていた。

 

「あたしはドーベルたちと一緒にローストチキンを買ってきました!」

「あとコーンスープね。家族でよく行ってたホテルのレストランでテイクアウトしてるから」

「わたくしはお気に入りのバゲットを買って参りましたわ〜。サンドイッチにするのにちょうどいいんですのよ〜」

 

 ライアン、ドーベル、ブライトはメインディッシュを買ってきた模様。

 見るからに大きなローストチキンに、見た目から濃厚だと分かるコーンスープ。そして香ばしくまだ温かさが残るバゲット。

 

「最後は私ですわね! 私が用意しましたのは――」

「――おしるこかホヤ?」

「トレーナーさんは私をなんだと思っていますの!?」

「メジロのお笑い担当」

「そんなことありませんわ! とにかく! 私が用意してきた物をご覧あそばせ!」

 

 マックイーンはそう言うとは指を鳴らし、マックイーンの家のじいやが大きな木箱を持って入ってきた。

 じいやはそれをテーブルに置くなり恭しく一礼し、その場をあとにする。

 

「まさか木を食えと?」

「トレーナーさんの中で私がどれだけ残念な位置付けなのか、新年早々嫌というほど分かりましたわ」

「だって、ねぇ?」

 

 河部はそう言いつつ他のメンバーに促せば、みんな揃って苦笑い。ラモーヌに至ってはいつも通り涼しげにスルーで、ブライトだけはコクコクと激しく同意している様子。

 

「むぅ……いいですわ! 絶対にあっと言わせてみせます!」

「あっ!」

「ですから早いですわ! それに本当にあっと言う方はいませんから!」

 

 すかさずボケる河部に流れるようなツッコミを入れるマックイーン。その様子を見てみんな可笑しそうに笑う。ラモーヌでさえも口元を手で隠して笑っているくらいだ。

 このように散々イジられているマックイーンであるが、これはこれで愛する河部に構ってもらえていると感じるので声は荒げていても心の中はほわほわしていたりする。

 

「で、結局マックイーンは何を買ってきたんだ?」

「コホン! 私がご用意しましたのは、マツバガニですわ! お手頃でしたのでたくさん頂いて参りましたの!」

 

 マックイーンが用意したのはズワイガニの中でもこの時期は値段が跳ね上がるマツバガニ。

 木箱の蓋を開ければ、そこには大きなマツバガニがドドンと8杯入っており、これだけで軽く数十万円もする。それが『お手頃』であり、河部を除いたみんなも対して驚いていないことから、金銭感覚のズレが凄い。

 

「……ありがとう、みんな。それじゃあ俺と厨房にいる人たちで調理してくるから、みんなはゆっくり休んでて」

 

 でも河部は慣れた。しかし決して麻痺している訳ではない。高い等とツッコミを入れたところで、ここのご令嬢たちは首を傾げるだけだからだ。

 故に素直にお礼を言って使用人たちと共に厨房へ向かった。

 

 ◇

 

「お待たせー」

 

 河部が調理を終えて使用人たちと料理を運んで戻ってくる。

 普通のご家庭なら大騒ぎしてしまうだろうが、マナーを徹底された環境で育ったラモーヌたちは黙って配膳されるのを待つ。

 マツバガニは茹でと焼きの他にしゃぶしゃぶと贅沢にその身を使った炊き込みご飯。

 ただ、量が量なので買ってきたマックイーンに了承を得て食べ切れない分は邸宅にいる使用人たちに食べてもらうことにした河部。使用人たちは揃って『流石はお嬢様方の婚約者様!』と感激したそう。

 

「ローストチキンは食べやすいようにもうカットしてきたから、好きな部位を食べて。バゲットに挟む用のはこのボールからお好みでどうぞ」

 

 河部が説明しつつ次々と品をテーブルに乗せていく中、気を利かせてアルダンとパーマーはみんなに好みを訊きながらチキンバゲットサンドを作っていく。

 既に河部の手によってちょうど良い手のひらサイズくらいで均等に分けられ、更に半分でカットされたバゲット。その内側を七輪に乗せた網の上で軽く炙って焼き目を付け、オリーブオイルを塗る。

 ラモーヌとアルダンはそこにスライストマト、千切りレタス、ローストチキン。

 パーマーは千切りのニンジン、モッツァレラチーズ、ローストチキン、最後にパセリの粉末。

 ライアンとマックイーンはスライストマトにローストチキン、その上からスライスチーズと軽く炙った輪切りニンジン。

 ドーベル、ブライトは輪切りニンジン、スライスチーズ、炙りニンジン、ローストチキン、パルメザンチーズ、サニーレタス。

 因みに河部はスライストマトにローストチキンとスライスしたゆで卵にマヨネーズだ。

 

「では、皆さん手を合わせて……いただきます」

『いただきます!』

 

 こうして穏やかな食卓が幕を開ける。

 いつもならば食事は静かに食べるが、今日ばかりはマナーが悪くても誰も何も言わない。あのラモーヌでさえ、ナイフとフォークを使わずにバゲットサンドを手にして頬張っている。

 家族だけの空間はラモーヌも気を張り詰めなくてもいいから。

 

「ライアンがローストチキンの脚持ってると金棒みたい♪」

「えぇ、そんなこと言わないでよパーマー!」

「去年の節分の鬼役を思い出しますね」

「アルダンさんまで! 酷いですよー!」

 

 パーマーとアルダンにからかわれて抗議するライアンだが、その声はとても楽しげ。

 

「はぐ……はぐ……」

「ゆっくり食べるのはいいけど、マックイーンがいるからブライトの分のカニはこっちに確保しておくからね」

「ドーベルまでトレーナーさんみたいな扱いを!?」

「はぐ……はぐ……ごくん……随分前からマックイーン様はそういう扱いですわ〜」

「ブライト!?」

 

 ブライトの歯に絹着せぬ発言にマックイーンは絶叫。その光景にはあのラモーヌでさえ笑いを堪えきれずに俯いた。

 

「はい、ラモちゃん」

「ありがとう……口まで運んでくださる?」

「今日はとことん甘えん坊モードなのな。分かりましたよ、お嬢様」

「…………」

「ハニー?」

「……まあ良しとしましょう。あむっ」

 

 本当ならばラモーヌと呼んで欲しかったが、ハニーはハニーで滅多に彼の口から出てこないので、ある意味満足したラモーヌ。

 

「自然とあーんされてるね、ラモーヌさん」

「トレーナーさんも甲斐甲斐しいですからね」

 

 当然のようにカニを食べさせてもらっているラモーヌと当然のようにカニを彼女の口に運ぶ河部。そんな二人をパーマーとアルダンは思わず感心してしまった。

 しかし感心するだけでは良くない。自分たちだってラモーヌに負けないくらい彼を愛しているのだから。

 

「トレーナー、私にもあーん♡」

「私も甘えさせてください、昔の頃みたいに♡」

 

 パーマーとアルダンが仕掛ければ、

 

「あ、あたしもされたいです!♡」

「あ、アタシにもしてくれるんでしょ? し、信じてるから……♡」

「あ〜……ん♡」

「トレーナーさん、順番、ですわよね♡」

 

 みんなも負けていない。

 

「今日は甘えん坊が多いな。順番な順番」

「一巡したら、今度は私が貴方に食べさせてあげるわね♡」

 

 こうして河部は婚約者たちを甘やかし、また甘やかされて温かい正月休みを過ごすのだった。




読んで頂き本当にありがとうございました!
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