ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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メジロの2月

 

 厳しい寒さが続く2月。

 そして本日は節分の日である。

 

 節分ということでトレセン学園ではチームや生徒たちが各々豆撒きをしたり、節分料理を味わったりと節分を楽しんでいるが、チーム『メジロ』の節分はまたひと味違う。

 何故なら、

 

『それではご登場して頂きましょう! チーム『メジロ』の皆様とチームを率いる名将でありご婚約者様の河部トレーナーさんです!』

 

 メジロ家としてファンに向けた節分イベントの真っ最中だから。

 

 元々メジロ家では独自のファンクラブを運営しており、多くのクラブ会員が今も昔もチーム『メジロ』を応援している。

 そんなクラブ会員たちのために今回は節分に合わせたファンミーティングを開いたのだ。

 ファンミーティングをするならばバレンタインデーの方がいいのではと思われるかもしれないが、仮にバレンタインデーにファンミーティングを設けてしまうと河部の危険が危ない。それだけ河部を目当てにしているファンも多く、それを知っているラモーヌたちがどんな手段に出るか分からないからだ。

 そもそもメジロ家当主もラモーヌたちと河部を婚約させたのには、優秀な人間を逃がさない9割で、残りはラモーヌたちが河部の周りにいる女性陣に威圧的な行動をしないようにするため。婚約さえしていればあとはどうにでもなるし、婚約していれば下心を持って不用意に近付いてくる者も減るから。

 

 司会者の紹介で舞台袖から姿を現すチーム『メジロ』の面々。

 割れんばかりの拍手と歓声の中、河部を先頭に加入順から登場し、設置された高級感溢れるソファーの前に立つ。

 それはひな壇になっていて、前列4名の後列4名となっている。前列右から河部、ラモーヌ、アルダン、パーマーで、後列右からライアン、ドーベル、ブライト、マックイーンだ。

 

 皆で客席に向かって優雅に一礼したあと、司会者に着席を促されて席につく。

 軽い雑談をした後、早速最初のプログラムである質問コーナーが始まった。

 質問は事前に受け付けており、運営側で選別した後に質問ボックスに入れ、それを司会者がくじ引き形式で引きつつ、時間が許す限り質問に答えていくというもの。

 

『それでは早速、最初の質問です! 婚約式をした時はどんな気分でしたか? 出来れば皆さんのその時のお気持ちが知りたいです。とのことですが?』

 

「黙秘で」

 

 河部が即座に黙秘権を行使するが、

 

「特にこれと言ってはなかったですわ。ただ『ああ、もうその時なのね』と思っただけですもの」

 

 ラモーヌが答えてしまった。

 しかしラモーヌからすれば遅かれ早かれ河部と婚約するつもりだったので、本当に彼女が言うようにこれといった特別感はなく、ただ当然のこととしか感じていない。

 

「私は嬉しかったですね。愛するトレーナーさんとまた新たに永遠を刻む第一歩だと」

「最っ高に気分爆アゲって感じ! こんな私を支えてくれた唯一の人だから!」

「えっと、その……幸せな気分、でした……!」

「アタシは……うん、やっぱ嬉しいって気持ちが強かったかな。恥ずかしかったけど、嬉しいが強かった」

「今度は卒業と共に結婚したいですわ〜♡」

「私とトレーナーさんは一心同体……つまり婚約することは必然ですから、当然という気持ちでいっぱいでしたわ♪」

 

 アルダンたちも次々にその時の気持ちを答えれば、会場はもう大興奮。

 河部のどこに惚れたのか、河部のどこが好きなのか……とファンたちから質問攻めだ。

 場の舵取り役である司会者は会場の一番後ろで見守っている運営責任者をチラリと伺うが、責任者は『構わん。行け』と静かに頷くだけ。

 結局、質問コーナーはラモーヌたちの河部への惚気話だけで終わり、しかも時間をかなり費やした。

 

『いやはや、本当に河部トレーナーさんはメジロのお嬢様方に愛されてらっしゃるんですね!』

 

「……帰りたい」

 

『では時間も時間ですから、次にいきましょう!』

 

「もっと早くそうしてほしかった」

 

 河部の嘆きを司会者は聞き流しつつ、プログラムの説明を始める。

 

『本日は節分ということで、これから皆さんはチーム『メジロ』の方々と一緒に豆撒きをしてもらいます!』

 

 そう言うとスタッフが舞台に赤鬼を模した大きな模型を運んできた。

 

『皆様、ここへ入場する際に小袋に入った豆を受け取ったかと思います。それを一斉に投げてもらい、見事この模型を倒せたらチーム『メジロ』が愛する河部トレーナーさんの頬へキスをします!』

 

「ほわっつ?」

 

 一番状況を理解していない河部をよそに、集まったファンは大興奮。既にみんな一丸となって、倒しやすい鬼の頭部へ集中攻撃しようということになった。

 そしてそんなプログラムを提案した張本人たちであるラモーヌたちは既にスターティングゲートに入ったかのような気迫で客席へ移っている。

 

(……うん、いや流石にラモちゃんたちのパワーがあったとしてもあの模型を倒すなんて無理だな)

 

 一方で冷静さを取り戻せた河部は模型の大きさと投げる小袋を見て即座に計算し、倒すことは不可能だと確信した。

 しかし、

 

『それでは一斉にいきますよ……鬼は〜?』

『外ぉぉぉぁぁぁあっ!!!!!』

 

「スタッフ〜」

「はい、倒しまーす」

 

「嘘やん」

 

 どうせメジロからは逃げられない。

 投げられたと同時に黒子が舞台袖からやってきて模型を倒した。

 そう。河部を出し抜くためにわざと倒れそうもない模型にしたのだ。

 

『では皆様、シャッターチャンスですよ! メジロラモーヌさんから順番に福は内ということで河部トレーナーさんにキスをどうぞ!』

 

「ラモちゃん、やることがえぐい」

「こうでもしないと貴方は逃げるもの……ふふっ、いい顔♡ んっ♡」

 

 バシャバシャバシャバシャとフラッシュライトの嵐が吹き荒れ、河部は『あぁ、俺はもうメジロなんだ』と思う他なかった。

 こうしてファンミーティングは大成功で、ファンたちもラモーヌたちもホクホクで帰った。真っ白に燃え尽きた河部を除いて。

 

 ―――――――――

 

 本日はバレンタインデー。

 トレセン学園でもバレンタインデーということで、どこかいつもよりみんな浮足立っている。

 ただ、チーム『メジロ』だけは違う。

 何故なら普段通りにトレーニングメニューをこなし、普段通りに解散したから。

 当然、ラモーヌたちという婚約者がいる河部にバレンタインチョコなんて贈る者は0だ。義理チョコですら0で、同僚たちからも0。

 仮にあげてしまったらメジロ家から何をされるか分からないから。実際は何もされないのだが。

 

「……そして、今回もパーティーなのね」

 

 ということで、学園では至って普通に過ごしたラモーヌたちは、事前に外泊届を提出して邸宅へ直帰。

 何故ならこれから河部にバレンタインデーのパーティーをするから。

 去年も一昨年もこのバレンタインパーティーはしている。

 してはいるが、河部としては普通にみんなからお気持ちを貰えれば満足なので、毎回このようにパーティーまでする必要はないのでは、と思うのだ。

 

「毎回こういう場を設けてもらうのは嬉しいけどさ……もう少し質素に出来ない?」

 

 河部がそう言うのも無理はない。彼は実家の都合上メジロ家のパーティーの規模や豪華さをよく知っているが、実家は至って普通の一般家庭。

 故に、

 

「? 毎年トレーナーさんが気にされるので、今年は去年よりも抑えたのですが……これでも足りませんか?」

 

 アルダンが心底疑問に感じることも河部にとってはまだまだ豪華過ぎる。

 何しろテーブルの上には高級ホテルや豪華客船でしか使われないであろう1メートルは軽く超えているチョコレートファウンテンがエベレストの如くそびえ立っているのだ。それもミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、ビターチョコレート、ルビーチョコレートの4つの山脈があるのだから、それだけで圧倒されるだろう。

 どのチョコレートも産地からこだわり抜いたブランド品であり、これだけで軽く数百万円はするのに、それでもメジロ家のご令嬢たちからすれば質素なのだ。

 

「でも、もうこれ以上ランクを下げたくありませんわ。私たちのトレーナーさんへの愛は金額とは関係ありませんもの」

 

 マックイーンがそう言うと、他のメンバーも同意するように頷いて見せた。

 

「いや、愛をお金に換算するのは俺もどうかと思うよ? でもさ、いいんだよ。こういうのはお金じゃないの。どんなに真っ黒焦げになろうがダークマターだろうが手作りとかの方が気持ちがこもってるし。そもそもハッピーバレンタインって言ってもらえるだけでいい。そっちの方がお金も必要ないしさ」

「だから今回はチョコレートフォンデュにしたのよ」

「違う、そうじゃない」

「ワガママなのね」

 

 ラモーヌはそう言うものの、表情は笑っていて明らかに河部の反応を楽しんでいる。彼女も本当に河部が求めている物を理解しているが、まだまだそれを愛する河部へ贈るのに許せるクオリティになっていないのだ。

 

「とりま、マックイーンから順番に食べさせてあげるからさ♪ 気にせず、美味しく食べちゃってよ、トレーナー!」

 

 パーマーが手を叩いて場を仕切り直すと、マックイーンはフォークを手に河部が座るソファーの左隣に座る。

 

「さぁ、トレーナーさん♡ どれが食べたいですか?♡ 私のオススメはこのうさぎのマシュマロですわ♡ お1つなんと1000円というお手頃かつ美味しいマシュマロでしてよ♡」

「十分高ぇよ……でも、うん、ありがとう。それを1つ貰おうかな。ミルクチョコレートで」

「はい♡」

 

 マックイーンは嬉しそうに返事をすると早速マシュマロをフォンデュし、河部の口に運ぶ。

 ここまで来たらもう素直に食べて感謝する他ない。

 

「うん、美味しいね」

「用意した甲斐がありますわ♡」

 

 マックイーンが終われば今度はブライトだが、流石に一対一ではハードルが高いドーベルも一緒にすることに。

 

「わたくしはこの一口マドレーヌを召し上がって頂きたいですわ〜♡」

「ならアタシはこっちのシャインマスカットかな……いい、よね?♡」

「ビターチョコレートでオナシャス」

「はい〜♡」

「分かった♡」

 

 ブライト、ドーベルと順番に食べさせてもらい、お礼を言う河部。

 するとブライトは幸せそうに笑みを深め、ドーベルははにかみつつもその表情を見られないよう、逃げるようにマックイーンの背中に隠れた。

 

「つ、次はあたしとパーマーです!♡」

「私のオススメは……やっぱバナナかな♡ どう?♡」

「ありがとう。ならホワイトチョコで」

「おけまる〜♡」

「あ、あたしは、その……この一口アメリカンドッグがオススメです……♡」

「ありがとう。それもホワイトチョコがいいな」

「は、はい!♡」

 

 ライアンは最初こそはガチガチに緊張していたが、いざやってしまえば少女漫画のワンシーンみたいでヘブン状態。パーマーに至っては相変わらずの乗りだが、頬は微かに赤く、河部に向けた笑顔も愛情に溢れていた。

 

「では最後は私と姉様ですね♡ トレーナーさんはカステラがお好きでしたよね?♡ ルビーチョコレートにも合いますよ♡」

「わざわざハート型のカステラを用意したのね」

「はい♡ これは私が型抜きでやりました♡」

「ありがとう。ならそれを頂くよ」

「…………」

「ラモちゃんは無言でワッフル近付けて来ないで」

「食べなさい♡」

「はいはい、どうも」

 

 いつもとは立場が逆で日頃の感謝も込めて甲斐甲斐しくカステラを河部の口に運ぶアルダンと、相変わらず悪戯っ子のようにワッフルを食べさせるラモーヌ。

 一巡すればまたマックイーンから……といった感じで河部がギブアップするまでラモーヌたちの『あーん』は続いた。

 その後は河部がみんなに食べさせてあげ、残った物は使用人たちが美味しく頂いたそう。




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