ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

88 / 166
メジロの5月

 

 5月といえばゴールデンウィーク。

 ゴールデンウィークといえば旅行。

 旅行といえば婚前旅行。(とは普通ならない)

 婚前旅行といえば温泉。

 

 ということで、

 

「……ココハドコデスカ?」

「何処って、今日のために貸し切ったお義母様のご実家である温泉旅館よ」

 

 ラモーヌたちは河部に有無を言わさずメジロ家が数多く手掛けるビジネスの中で、提携している彼の母方の実家である温泉旅館へと婚前旅行にやってきた。

 ゴールデンウィークという書き入れ時に一体いくらほどつぎ込めば貸し切りなんてことが出来るのか……河部はもう何度も経験しているが、経験する度に財力という凶器が恐ろしいと実感する。

 しかし実際は息子とその婚約者たちの婚前旅行ということで、山西母が特別に格安(メジロ的)で貸し切りにしてくれたのだ。

 

 河部が放心状態でもお構いなしにラモーヌはライアンに指示して河部をお姫様抱っこさせ、旅館の責任者代理である山西の兄の案内で宿泊する部屋へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 ラモーヌたちが宿泊するのはこの旅館で一番広く、一番人気のある部屋。

 窓からは綺麗な川と森が一望出来、室内は上質な畳の香りとヒノキの香りが広がり、まさに和の心の中に飛び込んだかのよう。

 

「いやぁ、秋になれば紅葉が奇麗なんだよね、ここからの景色は」

 

 窓辺にあるソファーに腰かけ、目の前に広がる美しい景色を見て河部がつぶやけば、

 

「それは秋にも来たいと言うお強請り、ということで良いのかしら?」

 

 ラモーヌがそんなことを言うので、河部は必死に首を横に振って『違う違う、そうじゃ、そうじゃない』と意思表示した。

 そんな彼を見ていつの間にか正面のソファーに座っていたラモーヌは可笑しそうに口を手で押さえる。

 

「トレーナーさん、このお茶菓子は――」

「くず餅だから許す」

「やりましたわ!」

「ただし一人一個」

「……分かりましたわ」

 

 喜びも束の間。しっかりと釘を刺されたマックイーンは不服そうにしつつも、しっかりと返事をして旅館が用意してくれたくず餅を堪能した。

 

「少ししたら早速温泉に入りに行きましょうか。疲れと汗を流しましょう」

 

 緑茶で一息ついたアルダンが提案すれば、みんなも『そうしよう』と頷く。

 ここの温泉は美肌効果は勿論、関節痛や疲労回復の効果が高く、どの温泉にもその季節に合った花を浮かべてリラックスしながら楽しめるのが売りなのだ。因みに今の時期だとバラ、ツツジ、ラベンダー、シャクヤクなどが浮かべてあるのだとか。

 

「とりあえず、マックイーンが食べ終わったら行こっか」

「そうしましょう〜。それまでは、ゆったり〜、まったり〜、ですわ〜♪」

「なら私も小腹空いたし1つもらおっかな♪」

「じゃああたしも!」

 

 ということでまずはみんなくず餅に舌鼓を打ち、それから準備をして温泉へと向かった。

 

 ◇

 

「………………」

 

 河部は今、物凄く困っている。

 いや、正確には葛藤していると言った方がいいだろう。

 何故なら、

 

「いいお湯ね……」

「お花の香りがまたいいですね、姉様」

「広いお風呂ってのがまた開放的でいいねー! ザ温泉って感じで!」

「筋肉たちも喜んでます♪」

「上がったら定番の卓球とかする? 旅館の人の説明だと、夕飯にはまだちょっと早いみたいだったし」

「ゲームセンターもありましたから、そちらで遊ぶのも面白そうですわ〜♪」

「普段はあまりゲームセンターに行きませんものね。せっかくですからゲームセンターにしましょう」

 

 当然のようにラモーヌたちが同じ浴槽にいるから。

 ここの旅館に混浴はない。しかし今は貸し切り。なのでラモーヌたちは最初から河部と一緒に浸かるつもりで準備してきた。メジロのウマ娘たちはみんなお揃いでメジロカラーのスポーティービキニを着用。提携するスポーツブランドが彼女たちのために設計開発した水泳トレーニング用の水着の一つだ。

 ただしそれはラモーヌたちだけ。河部はこんなことになるだなんて思いもしなかったので、準備なんて当然していない。

 

「あのさ、俺全裸だから離れてくれないかな? 恥ずかしいんだが?」

 

 温泉に浸かるということでタオルは外して浸かっている河部。

 しかしラモーヌたちは気にしない。

 

「? ここのお湯は濁り湯だもの。見えていないのだから気にしなくていいわ」

「ラモちゃん、違うの。常識的に考えて離れてほしいの」

「嫌よ」

「恥ずかしいの」

「私たちの恥ずかしいところは全て見てきたくせに……ズルい人」

「不可抗力って言葉知ってる? 幼い頃のそういったお世話は仕方ないでしょ? そもそも俺じゃないとイヤって駄々こねてたよね?」

 

 河部が何を言おうと離れる気など到底ないラモーヌたち。

 

「いずれはお互いにさらけ出すことになるのですから、気にしない方がいいですよ。トレーナーさん」

「アルちゃん?」

「代わりに私たちはこうして水着着てるんだからさー、最低限のラインは守ってるじゃん?」

「パーマー……」

 

 何を言っても勝ち目はない。そう悟った河部はもう気にしていても仕方ないので、出来るだけ粗相のないように濁りが深いところに移動した。

 

「本当ならばマナーを重んじてこのビキニも身に着けたくないのだけれど、そうするともっと貴方が騒ぎ立てるだろうから妥協した結果なのよ?」

「海外では水着を着て温泉に入るのが主流ですから、これも有りということになりました」

 

 ラモーヌ、アルダンがそんなことを言うが河部は『なら俺の水着も持ってきてほしかった』と思う。

 

「でもアタシは水着で良かったかも……流石にまだ早いって思うし……」

「あたしもドーベルと同意見かな……」

「ライアンお姉さまもドーベルも恥ずかしがり屋さんですものね〜」

「ブライトは気にしなさ過ぎなのよ!」

「トレーナーさまにはどこを見られても恥ずかしくありませんわ〜♪」

 

 ワイワイガヤガヤとしているドーベルたち。

 そんな彼女たちをよそに河部は徐々に徐々に距離を取る。

 

「トレーナー、ここで逃げるのは男らしくないよ♪ 私たちの仲なんだから気にしなくていいじゃん! 婚約者同士なんだよ、私たちは!」

「パーマーの言う通りですわ! 同衾だってしましたのに今更ですわ!」

「それは俺が寝てる間に誰かしらが入って来るからだよね!?」

 

 マックイーンの言い分に異議を唱える河部だが、何を言ってもそれは意味がない。メジロにされるとはこういうことを言うのだ、と河部は改めて実感するのだった。

 

 ◇

 

 河部が全く癒やされないまま温泉から上がったチーム『メジロ』一行。

 流石に湯上がりのタイミングは同時ではなかったが、尻尾の手入れや髪の手入れは全て河部にお願いし、河部もなんだかんだいつもの習慣で甲斐甲斐しくお世話を焼いた。

 そして温泉に浸かりながら話していた通り、一行は旅館内にあるゲームセンターにやってきて、遊ぶ様子。

 

「エアホッケーやろうよ!」

「あたしもやりたい!」

「4人までなら出来るな。パーマー、ライアンがペアになるとして、誰が相手するんだ?」

 

 河部が促すと、

 

「アルダン」

「はい、姉様」

 

 ラモーヌとアルダンが前に出た。

 河部はエアホッケーの機械に小銭を入れ、お馴染みの円盤を手に入れる。

 アルダンとライアンのじゃんけんの結果、先行はラモーヌたちに決まった。

 

「決めても良くってよ」

「はい……いきます!」

 

 スパンとアルダンがスマッシュを放てば、必死にゴール前で二人して左右に素早くスマッシャーを動かしてガードしていたパーマー、ライアンのディフェンスをあざ笑うように円盤はゴールに吸い込まれる。

 これには思わず河部も「お〜」と拍手し、アルダンは嬉しそうに舌をペロリと出してお茶目に笑った。

 

「んじゃ、こっちも行っちゃうかー! ライアン行っちゃってー♪」

「はい! 行きますよ〜……せいやっ!」

 

 ライアンのスマッシュはアルダンのスマッシュよりも早く、ラモーヌたちのゴールに一直線。

 しかし、

 

「アルダン」

「はい」

 

 タンッとライアンの高速スマッシュはアルダンのブロックによって受け止められる。

 

「アルダン」

「はい」

 

 ―――

 ―――

 ―――

 

 その後もラモーヌは一切手を出さないまま、アルダンのみでマッチポイントを迎え、パーマーたちに至っては手も足も出ない状態。それを見てまるでテニスの王〇様に出てくるキングとその側近みたいだとドーベルは思った。

 そしてまたもアルダンが円盤を見事に受け止めた。

 

「姉様、あれをやっても?」

「アルダン貴女……ふふっ、ええ、良くってよ」

「はい♪」

 

「まさか、あれをやるのか!?」

 

 河部は驚愕した。

 そんな彼の反応をよそに、アルダンはラモーヌが手にしているスマッシャーに自身の手を重ねる。

 これはラモーヌとアルダンのパワーを合わせた超必殺技―――

 

「メジロ!」

「スマッシュ!」

 

 ―――スーパーイナズマメジロスマッシュだ。

 姉妹の息の合った呼吸がないと繰り出せない超必殺技で、わざと角度をつけて放つことで軌道を複雑にする。

 そして計算し尽くされた軌道線を描き、パーマーたちはなすすべなく円盤がゴールに吸い込まれていくところを見送るしかなかった。

 

「トップを狙ってるな……」

「いや、何に対してもトップ狙い過ぎな気がするんだけど……」

 

 河部のつぶやきにドーベルがツッコミを返すが、ラモーヌもアルダンも満足そうだったのでそれ以上は何も言わないことにした。

 

 パーマー、ライアンは惨敗だった上に全く遊べなかったのでそのまま今度は二人でエアホッケーをすることにし、

 

「私のためのゲームですわ!」

 

 マックイーンは相変わらず野球ゲームを選択。

 画面のボールに合わせてコントローラーであるバットを振ってホームランの数を競うゲームだ。

 

「マックイーンはブレないね」

「マックイーンさまらしいですわ〜」

「二人はあの太鼓のゲームでもするか? それかクイズゲームも二人で協力して出来そうだけど?」

「ならみんなでクイズゲームやろうよ」

「面白そうですわ〜♪」

 

 そして残りのみんなは協力してクイズゲームを楽しみ、

 

「……マジで歌うの?」

 

 今日の締めとして河部がカラオケコーナーで歌を披露することになった。

 

「ええ、貴方の歌声を聴きたいわ。そうね、「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」をお願いするわ」

「トレーナーさんは歌もお上手なのに、滅多に歌ってくれませんからね♪ 私はめ組のひとが聴きたいです♪」

「メジロ讃歌は歌わなくていいから。その代わりにGet Wildお願〜い!」

「あたし、1/3の純情な感情が聴きたいです!」

「アニソンだったらアタシは君が好きだと叫びたいがいい、かな」

「わたくしはムーンライト伝説がいいですわ〜」

「六甲おろし一択ですわ!」

 

「せめてジャンル絞ってくれね?」

 

 パーマー、ライアン、ドーベル、ブライトはアニメソングでも有名な曲だが、ラモーヌ、アルダン、マックイーンは全くの別ジャンル。

 それでも結局彼女たちからのお願いを断ることは河部には出来ず、それぞれしっかり歌い、彼女たちのお耳を幸せにさせた。

 

 その後も一行は旅館で楽しく遊び、ゆったり過ごし、愛を育み(健全)、ゴールデンウィークの思い出をたくさん作った。




読んで頂き本当にありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。