ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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メジロの9月

 

 9月前半のビッグイベント、トレセン学園秋の大運動会。

 秋のGⅠ戦線が幕を開ける前に開催される行事。

 ただ生徒だけでなく、トレセン学園に所属するトレーナーたちも余興としてプログラムに参加することが義務付けられている。

 

 種目は―――

 

 綱引き

 徒競走

 障害物競走

 借り物競走

 パン食い競走

 

 ―――である。

 

 一見するとありきたりな種目だと思うだろう。

 しかしこれは徒競走以外は全てテレビゲーム等で言うところの初見殺しだ。

 綱引きはウマ娘を相手にするし、障害物競走は用意される障害物が某スポーツバラエティ番組並のサスケさんが行うような大掛かりな物。借り物競走は平和そうに見えてお題が平和ではなく、パン食い競走はパンをウマ娘に食べられないように死守する競技なのだ。

 故に徒競走を選ぶトレーナーが圧倒的で、徒競走は毎年抽選。その抽選にあぶれたトレーナーはそこから更に『これなら……』と思う物を選ぶことになる。

 そして河部が出る競技は、

 

『さぁ、いよいよ始まります! トレーナーたちによる借り物競走! この組での1位は果たしてどのトレーナーになるのか!?』

 

 借り物競走だ。

 

「南田さん、同じ組ですね。よろしくお願いします」

「おや、河部さん。奇遇ですね。こちらこそよろしくお願いします」

 

 チーム『不屈』のトレーナーである南田勝一と軽く挨拶を交わす河部。南田のチームにいるライスシャワーとマックイーンは同じステイヤーとしてライバルであるめ、何度も同じレースで顔を合わせているが、学園で会えば普通に雑談する仲だ。

 

「河部さんは毎年借り物競走ですよね?」

「ああ、はい……ソウデスネ」

 

 機械のような河部の返答に南田は小首を傾げるが、周りのトレーナーたちも死んだような目をしているのでそれほどの種目なのかと今になって思い知る。

 

「あの……因みになんですけど、どういったお題が出るんですか? 僕は今回が初めてなんですよ。それに毎年他の競技と同時進行だからどういうお題が出てるのか分からなくて……」

「ああ、初見なんですね。えっと、なんていうか……どうしてこんなのを理事長が許してるのかなーって思う」

 

 ますます意味が分からなくなる南田だったが、無情にもゲートインするファンファーレが鳴る。

 ゲートインするトレーナーたちの顔は皆暗く、今年初参加のトレーナーたちだけがただただ困惑していた。

 ゲートが開き、一斉にトレーナーたちがゆっくりと走り出す。

 

『さぁ、始まりました! トレセン学園秋の大運動会、トレーナーたちによる借り物競走! 各トレーナー、ゆっくりとしたレース運びですが、足並み揃えてコーナーを回ります!』

 

 コーナーを回り、直線に差し掛かると、

 

『さぁ、お題が置かれた台に皆さん揃って到達しました!』

 

 それぞれお題の書かれた紙を手にした。

 手にするが、どのトレーナーも動きを止める。

 何故なら、

 

「河部さん、このお題は一体……?」

「見たまんまですよ」

「え、てことは皆さん同じお題……?」

「文字通り、争いしか生まない種目ですからね」

 

 お題は全て『あなたの唯一無二の愛バ』であるから。

 担当が一人しかいない専属トレーナーなら簡単な話だが、この組にいるトレーナーは全員がチームトレーナー。チームの誰を連れてくるかが重要になる。

 話の分かる子たちが担当ならそれでいい。しかし『唯一無二』なんて無責任な文言のせいで、トレーナーたちとしては慎重にならざるを得ない。何しろ選択を間違えればチーム崩壊も待ったなしで、選ばなかった子たちへのアフターフォローも必須になるから。

 それでも、

 

「それではお先に失礼っ!」

 

 河部の心は既に決まっている。

 何故ならお題が分かっていたので、事前にラモーヌたちにじゃんけんで決めてもらっていたのだ。

 不正と言われれば不正だろうが、毎年同じお題にしているのも悪い。

 そして河部は毎年同じ競技に強制参加させられているのだから、対策くらいはお手の物なのである。

 そんな彼が目指した先にいたのは―――

 

「ブライト!」

 

 ―――婚約者(の内の一人)ブライトだ。

 

「お待ちしておりましたわ〜、トレーナーさま〜♡」

 

 ブライトはもういつもの5割増のぽわぽわ笑顔で両手を広げて河部を待っていた。

 そんなブライトの背後には嫉妬の炎を宿す他メンバーの視線が突き刺さっている。視線に目を逸らしつつ『だから事前にじゃんけんで決めたじゃん!』と言い訳しながら、河部はブライトをお姫様抱っこしてゴール板を駆け抜けた。

 審査員である職員がお題とブライトを確認し、爽やかスマイル(河部の目には生温かい笑顔)でサムズアップすると、スタンドからの大歓声が響き渡る。一部悲鳴のような声もしたが……。

 

『一着はチーム『メジロ』を率いる河部トレーナー! やはり婚約者がいる者には勝てなかった! 爆ぜろ!』

 

 こうして河部は様々な言葉を受けつつ、そそくさとブライトを抱っこしたまま会場から姿を消した。因みに南田はナリタタイシンを一番軽いということから選んだが、あとあと大変だったそう。

 

 ―――――――――

 

 秋の大運動会も無事?に終わった。

 因みに運動会で参加義務がある『特別オープン・芝1500m・トレーナーズラン』はラモーヌたちの強い要望により河部はわざと転倒して棄権。理由は愛する河部が歌って踊る姿を自分たち以外に見せたくないから。

 ここまで聞けば『よかったじゃん、河部さん』と思う人もいるだろうが、それは大きな間違いである。

 何故なら打ち上げにて邸宅でメンバーの前でウマぴょい伝説をフルコーラスで踊らされたから。

 

 そんな彼の精神的疲労が癒えぬまま、時は無情にも次なる行事に向けて進んでいる。

 トレセン学園で運動会が終われば、すぐに聖蹄祭の準備に取り掛かるからだ。

 

「今日は聖蹄祭でうちのチームがやる出し物を決めたいと思う」

 

 よってミーティングを手短に済ませ、チーム『メジロ』も聖蹄祭へ向けた準備をすることに。

 去年は生徒たちにラモーヌたちが普段から好んでいるブランドの紅茶と御用達パティスリーの焼き菓子を無料で振る舞った。芦毛の怪物と黒い刺客、日本総大将も襲ってきたが、そこは一人それぞれ10個までと制限していたのでごっそり減ることはなかった。

 河部としてはラモーヌたちがいいならば、自分の仕事に集中出来るので今年もそれでいいと思っているところ。しかし毎回同じだというのもせっかくの学生時代の思い出に味気がなくなってしまうので、敢えてこうして訊ねている次第。

 

「これがやりたいってのがあればとりあえず挙げて」

「はい!」

「……とても不安しかないけど、マックイーン」

「去年は生徒の皆様に私たちから振る舞いましたが、今年は趣向を変えてお菓子教室なんていかがでしょう? トレーナーさんやシェフたちから私たちでも作れる簡単かつ低カロリーな物を紹介し、実際に作れば皆様にも楽しいひと時を過ごしていただけるかと!」

 

 マックイーンの意見に河部は「ふむ……」と一考する。内心『珍しくまともなこと言ってるな』とつぶやきながら。

 

「へぇ、アタシはいいと思うけど? 参加してくれた人には最後にレシピを渡すのも良さそう」

「一緒に何かをするっていうのもいい思い出になると思うから、あたしも賛成!」

「良い思い出を皆様にお届け出来そうな案ですね。私たちも楽しく出来そうというところも良いところかと」

 

 ドーベル、ライアン、アルダンが肯定的な意見をあげれば、残りのラモーヌたちも反対はないということで、マックイーンの意見がそのまま決まった。

 

「じゃあ次は教室名をどうするか。何回やるか。何を作るかってのを考えなきゃね」

 

 パーマーがそう言って促すと、すかさずブライトが「ほわ〜」と挙手する。

 

「おっ、ブライト何かいい案浮かんだ系? 遠慮せずに言っちゃってー! ホワイトボードに私が書いてくから!」

「はい〜。すぐに思い浮かびましたわ〜。マックイーンさまがいらっしゃるのですから、お菓子教室のお名前は『作ってパクパク』が最適かと〜」

「パクパクさん(マックイーン)とトロリ(ブライト)でみんなの前に立ってお菓子作りを実演するのかー」

「一昔前の教育番組のパクりではありませんの!」

 

 ブライトの意見を聞いてすぐに具体的なコンセプトまで想像し言葉にした河部に、マックイーンは語気を強めて返した。

 しかし河部の説明がみんな簡単に想像出来てしまい、これにはラモーヌでさえ口元を手で隠して肩を震わせる。

 

「パクパクだからパクりってか? つまらんぞマックイーン」

「そういうことではありませんわ!」

「ねぇパクパクさん〜、本日は何を作りますの〜?」

「おしるこ!」

 

 ブライトが某番組の某キャラクターのようにマックイーンへ話題を振れば、マックイーンもそれにまんまと乗ってしまい、トレーナー室にドッと笑い声が広がった。

 

「んなカロリーの暴力を俺が許すはずなかろうに……」

「ち、違いますわ! ブライトに振られて思わずそう叫んでしまっただけで……!」

「ご自分が食いたい物を作る卑しい番組ですわね〜。パクパクさ〜ん」

「ですから、どうしてもう決定事項みたいになっていますのー!? 認めませんわよ!?」

 

 歯に絹着せぬ高火力のブライト砲とマックイーンのキレのあるツッコミに、みんなはお腹を抱えて笑う。

 

「でもそうだよなー。お菓子教室ってのはいい案だと思うけど、マックイーンが暴走する可能性が高いんだよなー」

「そんなことありませんわ! トレーナーさん、酷いですわ!」

「河部ヴィ泰弘が予言する! 貴様はきっと聖蹄祭であらゆるスイーツを食べるとな!」

「そそそそそんなことありまままませんわわわわわ!」

「動揺し過ぎだろ……本気で心配になってきた……ダイエットネタ飽きたってのに」

「ですからネタではありませんわ!」

 

 河部の心配もといいじりにマックイーンは即座に否定するが、助け舟は出ない。それだけマックイーンは過去に何度もダイエットし、その都度後悔し、誘惑に負けるのループを繰り返してきている証拠だ。

 

「なら芸術の秋ってことで楽器の演奏なんてどうだ? みんな小さい頃から習い事で楽器やったもんな。今からなら講堂の予約もスムーズに出来るだろうから」

「お菓子教室は!?」

「マックイーン、これもお前のためだ。分かってくれ。これなら聖蹄祭で2000円までなら買食いを許してやる」

「やってやりますわ!」

「マックイーンさまのおててがプロペラみたいにくるっくるしてて相変わらず可笑しいですわ〜♪」

 

 河部とマックイーンのやり取りとブライトの言葉にまたもドッと笑い声が広がる。

 しかし早々に出し物が決まり、演奏する演目や担当する楽器もすぐに決まるのだった。




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