ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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メジロの11月

 

 冬の寒さが日に日に近付いてくる。

 ウィンタードリームトロフィーもあとは決勝を残すのみ。チーム『メジロ』は今回ドリームシリーズ初出走のマックイーンも揃って決勝戦に進出し、絶好調。

 トレーニングも順調でこの調子を維持することが出来れば、決勝でも最高のパフォーマンスを出せるだろう。

 しかしその調子を維持するには休息も必要。

 ということで、

 

「ねぇ、割と真面目に訊くんだけど何やってるの?」

「これから貴方とオフを満喫しに行くのよ」

 

 トレーニングがまる1日お休みである休日の今日は例の如くラモーヌが河部を問答無用で連れ出し、リムジンに乗せた。

 邸宅にいる使用人たちも見慣れた風景で、にこやかに河部たちを見送り、一同『メジロ家の未来は明るい』と感じている。

 

「おはようございます、トレーナーさん」

「ああ、おはよう、アルちゃん。みんなもおはよう」

 

 河部の挨拶にみんな笑顔で返し、今日も河部に会えた喜びを噛み締めた。

 

「で、今日は何?」

「えー、トレーナー……分かんない?」

「分かんないから訊いてるのさ。そもそも毎回突拍子もないことしか起きないし」

「ん〜、じゃあヒントね! ヒントは秋!」

「もうほぼ冬……」

「まだ11月だから秋〜! で、秋と言えば!?」

「秋と言えば……う〜ん」

 

 パーマーのヒントに河部は腕を組み、首を傾げる。リムジンであることからそこまでの遠出ではない。しかし近場となるとレース場やショッピングモール、商店街。

 ということは、

 

「ジーザス……食欲の秋ってことでロイヤルホテルのスイーツバイキングに行くのか……マックイーン、頼むから嘘だと言ってくれ」

 

 河部としてはこういう答えに行き着く。

 

「どうしてそうなりますの!!?」

「だってマックイーンだよ?」

「で・す・か・ら! な・ぜ! そうなりますの!?」

 

 マックイーンの叫びに河部は「だって……ねぇ?」と隣に座るライアンに振れば、ライアンはライアンで苦笑いしながら頭を掻いた。

 

「言っておきますが、スイーツバイキングなら私だって行きたいですわ! でも今日は違います! 全く! トレーナーさんはいつもそうですわ! 私と言えば食べることだとばかり……!」

「マックイーン、胸に手を当てて日頃の行いを悔い改めるんだ」

「思い返すこともすっ飛ばして懺悔一択ですの!? 普通、胸に手を当てて思い返させるところからではありませんか!?」

「マックイーン、うるさい」

「どうして毎回毎回そうなりますのぉぉぉぉぉ!?」

 

 マックイーンの怒号が響く車内だが、いつもの風景なのでみんな素知らぬ顔で紅茶をしばく。ブライトに至ってはこの騒がしい中で眠っていられるくらいの日常風景だ。

 

「それで? 結局、今日はどこに俺は強制連行されるのかな?」

「今日はたくさんの秋に触れようと思い、こうしてお誘いしたのですよ」

 

 河部の問いにアルダンがにこやかに答えると、河部は「たくさんの秋」とつぶやき、食欲の秋ではなかったことに歓喜する。

 そんな彼を見てマックイーンは再び憤慨するが、すかさずドーベルがブドウを与えると、マックイーンは喜んでそれを食した。

 

「たくさんの秋に触れるってのは分かってけど、秋にも色々あるよね? スポーツだったり、芸術だったり、それこそ行楽の秋って言われることもあるし……どこに行くの?」

「それは着いてからのお楽しみだよー♪ 教えちゃうとつまらないじゃーん♪」

 

 パーマーがおちゃらけて返すと河部は苦笑い。結局毎回こうして連れ出され、到着するまで何が起こるのかは秘密。それに慣れてしまっている自分にも、またそれを結局楽しんでいることにも、河部は思わず苦笑いしてしまったのだ。

 

 ◇

 

 それからリムジンに運ばれてきたのは、メジロ家が運営しているレジャー施設。

 雄大な土地が広がり、区画ごとに様々な楽しみ方がある人気スポットだ。

 河部もトレーナーになる前から何度もラモーヌたちと訪れており、馴染み深い場所。

 

「おー、ここかー。久々だなー。だからみんなカジュアルで動きやすい服装だったんだね」

「昔みたいにとはいきませんが、思い出の場所ですからトレーナーさんも楽しめますでしょう?」

「うんうん。変に緊張するお高いホテルとかVIPしか行けない知らない場所より断然いい!」

 

 アルダンの言葉に河部がにこやかに返せば、みんな『良かった』と笑みを浮かべる。

 

「それじゃ、早速行こっか! トレーナー用の自転車もレンタル済みだから!」

「ちゃんとみんな準備運動してからね」

『はーい♪(ええ)』

 

 河部の言葉に従い、ラモーヌたちは軽い準備運動をし、施設出入り口から広がる湖畔沿いへ走り出した。

 

 ◇

 

 ここのレジャー施設は湖畔を囲むように施設が並んでいて、順路順に公園、アスレチック、バスケットコート等のスポーツ広場、スワンボート・ボート乗り場、フードコートと1日では回れない程の施設がある。

 家族連れやカップルはもちろん、友達やペットと訪れている人も多いが、メジロ家が運営しているのもあってみんなラモーヌたちを見ても挨拶程度に留めていて、寧ろ『お幸せにー♪』なんて声を掛けてくる人々が殆どだ。

 ラモーヌたちはその声ににこやかに返すが、河部はなんて返すのが正解なのか分からず会釈のみ。

 そんなことをしていると、

 

「到着ー!」

 

 先頭を走っていたパーマーがスポーツ広場の入り口で止まった。

 

「湖畔の風景で芸術の秋を感じて、今度はスポーツの秋か」

 

 ふむふむと頷いて言う河部だが、早く遊びたいライアンやマックイーンに急かされるように自転車から降ろされ、スポーツ広場へ入る。

 

 スポーツ広場はバスケットコートの他にテニスコート、バドミントンコート、フットサルコート、スケートボード場があり、またバッティングゲーム、ストラックアウトゲームやゴルフの打ちっ放しが出来ることから施設でも一番広いところ。

 

「ここでやるのはやっぱ野球かゴルフ?」

 

 ゴルフといえばパーマー。野球といえばマックイーン。この二人がいるので河部がそう訊ねると、みんな揃って頷いた。

 パーマー、マックイーン以外にも、みんなアスリートウマ娘。スポーツをするのは好きなのだ。

 

「やる順番は事前にみんなで決めてきたから。最初はバドミントンね」

 

 ドーベルがそう言うとみんなは河部に促してバドミントンコートに向かう。

 

 ◇

 

「いきますよー、トレーナーさーん!」

「手加減してくれよー」

「そう言って毎回あたしのサーブ返すくせに!」

「ははは、まあコツがあるのさ」

「むぅ……いきます!」

 

 ライアンの強烈サーブが空を切り裂くが、河部はそれを上手く受け流しつつふわりと返した。

 

「傍から見るとライアンの一方的な攻撃に見えるよねー」

「でもトレーナーは全然動いてないんだよね」

「河部ゾーンですわ〜♪」

 

 ドーベルが言うように河部は動いてない。パーマーの言うように一見するとライアンが猛攻撃を仕掛けているようではあるが、河部はその攻撃を尽く返している上、返す方向を自在に変えてライアンを揺さぶっているため、彼女の方が肩で息をしている。

 

「ほい、終わり」

「ああっ……くぅ! 悔しいー!」

 

 最後の最後で河部が鋭いサーブを返すと、ライアンは悔しそうにその場に倒れ込んだ。

 

「次はアタシとブライトね!」

「頑張りましょう」

「掛かってきたまえー」

 

 その後も河部は尽く向かってくるメンバーを打ち負かし完全勝利を果たして、ゴルフ練習場でみんなして打ちっ放しゴルフを楽しんだり、バスケットやテニスとたくさん遊んだ。

 

 ◇

 

 たくさん遊んだあとはフードコートに移動してランチタイム。

 今日はたくさん運動したので、河部もマックイーンにデザートを3つ許した。

 

「……それで選んだのがそれか、マックイーン」

「はい!」

 

 マックイーンが選んだのはフードコートで一番の人気を誇るバケツプリン。通常は10人前なのだが、マックイーンはこのあとも運動するからという理由でこれをチョイス。しかもプリンの上にバニラアイスとチョコレートマカロンも添えられたスペシャル仕様なのだから、河部は思わず天を仰ぐ。

 

「……知らない間にこんな鬼メニューがあったとは思わなかった」

「まあまあ、トレーナーさん。午後もみんなで遊びますし、今日は大目にみてあげては?」

「そのつもりで3つまで許したんだけどね……でもまあいいか。最悪マックイーンだけ走って帰らせればいい」

 

 河部が恐ろしいことを言う横でマックイーンはキラキラの笑顔でバケツプリンを堪能するのだった。

 

 ◇

 

 食休みを経て、河部たちが来たのはバッティングゲーム場。

 しかし今回河部は不参加である。何故なら彼が数年前に叩き出した最難関レベルのホームラン記録が未だに破られていないからだ。

 

「今日こそ! トレーナーさんの記録を打ち破ってやりますわよー!」

 

 バットを軽く振り回し、気合十分のマックイーン。

 しかし、

 

「マックイーンさま〜」

 

 ブライトのいつもの悪い癖が発動。

 

「……なんですの?」

 

「どちらにお立ちになっているのですか〜? 左で打ってくださいな〜」

 

「……それでしたら左でいってやろうじゃありませんことぉ!?」

 

 今回もまんまとブライトの弄りに乗ってしまうマックイーン。

 前もその前も、マックイーンは何度もこうしたブライトの弄りにアスリート魂に火がついて乗ってしまっているのだ。そもそも両方で打てるのもかなり器用なのだが。

 なのである意味ここでは二人のコントは名物化している。

 

「マックイーン、右でいいんじゃないの?」

「毎回毎回ブライトの煽りにどうして応戦するのよ……」

 

 パーマーとドーベルがマックイーンに忠告するが、

 

「今年はですね、左の方が打っているのですわ! ブライトはそれを知らないだけですもの!」

 

 マックイーンはもう左で打つ気満々だ。

 

「まあ確かに今年は遊びの野球で左の方が打ててた感じではあるけど……」

「トレーナーさんの記録を破るまでには至らないかと……」

「本人がやりたいのであれば良いのではなくて?」

「こういう時のマックイーンは何言っても聞かないもんなー」

 

 ライアン、アルダン、ラモーヌ、河部はそう話しながらも、ちゃんとマックイーンを応援する。

 

「かかってきなさーい! みんなの思いを……私にくださいませーっ!」

 

 バットを天高く突き立て、気合を入れ直すマックイーン。

 

「マックイーンさま〜」

 

 そして、

 

「……まだ何か?」

 

「アレ、お忘れですわ〜♪ つけてくださいませ〜♪」

 

 ブライトは更にサングラスの着用を要求。

 普通ならば拒否するところだが、

 

「トレーナーさんの記録を破るとお思いでビビってますの? 私に? 貴女の言いなりになんてなりませんわ!」

 

「………………」

 

「つけてやろうじゃありませんことぉぉぉぉぉっ!?」

 

 この挑発にも乗ってしまうのがマックイーン。

 これにはもうみんな笑うしかなく、煽ったブライトですら笑っているくらいだ。

 結局マックイーンは左打ち&サングラスで記録に挑戦したものの、当然の如く失敗に終わったのは言うまでもない。

 その後も色々なスポーツで遊び、景色を堪能し、秋を満喫した一行だった。




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