ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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メジロの12月

 

 何かと忙しい師走。

 ウィンタードリームトロフィーも無事に終わり、ラモーヌはマイル部門を連覇した。他のメンバーは惜しくも破れてしまったが、みんな気持ちを来年のドリームシリーズに向けて切り替え、既にやる気に燃えている。

 一方で時期はメジロ家のご令嬢として日頃から付き合いのある企業や法人を招待したパーティーの企画。または招待されるパーティーへの出席が多く、婚約者である河部も今年はトレーナー業務よりも忙しく過ごしていた。

 しかしプライベートの時間をしっかりと確保しているのがラモーヌたち。

 更に今年は婚約という関係になったことから、クリスマス当日の今日はどんな誘いも断っている。

 

「クリスマスね」

「そうだねー」

「クリスマスは家族で過ごすものよね」

「恋人すっ飛ばして婚約者になってるから家族認定なのかなー?」

「? おかしなことを言うのね。貴方は遠の昔に私たちと家族なのに」

「え、初耳……」

「酷い人」

 

 口ではそう言うラモーヌだが、態度は寧ろ河部をからかって楽しんでいる様子。今だって河部の左腕に両手を絡め、ピタリと彼の肩に頭を寄せているのだから。

 

「酷いって言われてもねぇ……」

「貴方が私の走りを見ていてくれた時から、貴方をどんな手を使ってでも必ず私のモノにするって決めていたの」

「……あの時、ラモちゃん確か3、4歳だったよね?」

「ちゃんとアルダンとも決めたし、お祖母様にもその旨は伝えたわ」

「…………だから急に婚約式になったんじゃなくて、元々決まってたのね。俺が知らなかっただけで」

 

 河部が天を仰ぎながら零すように言うと、ラモーヌはコロコロと笑いながら「やっと気が付いた」と返した。

 

「姉様、パーティーの準備が整ったようですよ」

 

 二人の話が一段落したのを見て、アルダンがそっと声をかける。

 アルダンはすぅっと河部の右腕に両手を絡め、愛おし気に彼を見つめたあと、ニッコリと笑った。

 

「トレーナーさんと婚約して、初めてのクリスマスパーティーです。この聖夜の素敵な思い出を刻みましょう」

「アルちゃん……」

「姉様とばかり素敵な思い出を作るのは不公平ですから」

「アルちゃんとの思い出もいっぱいあるけどね」

「足りません♪」

 

 そう言って少し舌を出して見せるアルダンはとても小悪魔みたいな笑みを浮かべており、昔の何事にも控えめなアルダンを知る河部は『強くなったな』とついつい兄のような目線で思う。それだけあの頃から比べるとアルダンもワガママを言うようになった証拠だ。

 

「それじゃ、みんなグラスを持った? うん、大丈夫だね。では……メリークリスマス♪」

『メリークリスマス』

 

 河部の邸宅にて、ささやかなクリスマスパーティーがパーマーの音頭で幕を開ける。

 海外では宗教的な配慮から『メリークリスマス』よりも『ハッピーホリデーズ』と言うのが増えてきたが、日本は元々そういうところは自由な国であるため、どう言おうが自由だ。

 

 今回のパーティーは邸宅の食堂で立食形式。並べられた数々の料理やデザートに、食堂中央に飾られたメジロカラーイルミネーションのクリスマスツリーもあるが、メジロ家のご令嬢たちからすればささやかである。

 マックイーンもこの日のために河部の監視下の元で徹底的な節制生活を送り、今日は存分にスイーツを食べられるのだ。

 

「皆様、そろそろ音楽を流してもよろしいですか?」

 

 使用人の言葉にみんなは揃って頷く。

 するとヴィンテージな蓄音機からワルツが流れてきた。

 

「もしかして全員と踊る流れ?」

 

 河部がそう言うと、みんなは揃って彼の元へ自分の手を差し出し、ダンスの申し出を催促する。

 それを見て河部は思わず苦笑いしたが、ラモーヌから順番に公平に一曲ずつみんなとダンスをするのだった。

 

「続きまして……25番です」

 

「リーチ!」

「リーチですわ!」

 

 ダンスが終われば次の余興としてビンゴゲームが始まる。

 賞品は1等が河部(の了承は省略)のキスで、2等、3等……全てが河部のキスだ。

 故に河部の参加はなし。

 

「俺へのクリスマスプレゼントは?」

「それはわたくしたちへキスをすることですわ〜♪」

「こういう日くらいはね。と、特別だから!」

「うーん、俺の置いてきぼり感パナイ」

「あたしたちにキスするのは、トレーナーさんは嫌、ですか?」

「ねぇ、ライアン? そういう訊き方ズルいと思うの。嫌なはずないじゃん?」

「えへへ……よかったです♡」

「……ライアンの純粋さに浄化されそう」

 

「続きまして……1番です」

 

「あ……やった! ビンゴ! ビンゴです!」

 

 こうして見事に1等の栄光を手にしたのはライアンで、河部から頬にキスをされて幸せそうに昇天し、使用人たちにソファーへ運ばれるのだった。因みに2等からドーベル、ラモーヌ、アルダン、パーマー、ブライト、マックイーンの順だったそう。

 その後もパーティーは進み、最後はみんなで記念撮影をして幕を閉じるのだった。

 

 ◇

 

 本日は大晦日。

 いつものメジロであれば、新年会や新年イベントに出席するために何かと忙しくしているが、今年はそういったものに参加することはない。

 何故なら河部が寝正月をご所望だから。ラモーヌたちにとって河部が望むことは出来る限り叶えてあげたい。幸いラモーヌたちを招待する側もそういったことを汲んでくれたので、来年は忙しい正月を過ごさずに済むのだ。

 

「ブライト〜? ブライトさ〜ん?」

「どうされました、トレーナーさま〜?」

「どいて?」

「や〜、ですわ〜♡」

「え〜」

 

 よって大晦日を邸宅で怠惰に過ごす河部。

 しかし河部がいるならラモーヌたちもいるのが当たり前。

 学園が冬期休暇に入り、河部がトレーナーとしての仕事納めをしてからはラモーヌたちも彼の邸宅で寝泊まりすることにし、束の間の同棲生活を満喫している。

 今は和室にあるこたつで河部が寝転がっているところにブライトが覆い被さるように入ってきて、河部が退くように頼んだもののブライトがワガママを発揮したところ。

 

「トレーナーさまのお腹の上はぬくぬくですわ〜♡」

「だろうね。というか火傷しないようにな、マジで」

「高いテーブルですから大丈夫ですわ〜♡」

 

 河部にそう返しつつ胸元にスリスリと頬擦りすることをやめないブライト。

 

「ま、本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫っしょ♪」

「パーマーもどいてくれない?」

「え、何言ってるかイミフ」

「会話のキャッチボールしてくだしゃー」

 

 パーマーもパーマーで河部の頭を自身のお腹ら辺に乗せて寛いでいる。

 構図を詳しく言うと、パーマーが河部を背後から抱えるように座り、河部が寝転んだところへブライトがご令嬢らしからぬ下からすぽんと覆い被さるように入ってきたという感じだ。

 

「ラモーヌさんたちは今いないんだし、その間くらい私たちで二人占めしてていいと思うんだよねー」

「パーマーさまの仰る通りですわ〜」

「アタシも一応いるんだけど?」

 

 ラモーヌ、アルダン、ライアン、マックイーンは今邸宅の応接室で雑誌の取材を受けているところ。パーマーたちは先に取材を受けたので、こうしているのだ。因みに取材内容は今の同棲生活についてで、新春号『メジロのめざめ』という雑誌に掲載され、メジロへ会員登録しているファンたちへ配る。ここでもまた外堀が構築されているのだ。

 

「あら、ドーベルもこちらにいらしては?」

「どこに?」

「仕方ないのでトレーナーさまの右側をお譲りしてあげますわ〜」

「別にいらない」

 

 即答するドーベルだが、チラチラチラチラとパーマーたちの方を見ている。素直になれないお年頃なのだ。

 

「そんなチラチラ見てるなら来いよ」

「っ!? あ、アンタが言うなら……別にアタシがしたい訳じゃないから! アンタが来いって言うから行くだけだから!」

 

 苦しい言い訳をしながらも、物凄くスムーズにブライトの反対側にシュンッと収まるドーベル。顔を真っ赤にさせつつも、グリグリグリグリと右の胸元に顔を擦り付けている。

 

「ドーベルはホント素直なのか素直じゃないのか分かんないねー」

「それがドーベルのご愛嬌ですわ〜」

「う、うるさい」

「ドーベル、ちょっとグリグリすんの強いからもう少し抑えて……」

「トレーナーは黙ってて!」

「えぇ……」

 

 そんなこんなでパーマードーベルブライトサンドの餌食になっている中、

 

「随分と温かそうね」

「こたつというよりおしくらまんじゅうみたいですね♪」

「トレーナーさんが潰れてるような……」

「抜け駆けはいけませんわよ!」

 

 取材を終えたラモーヌたちが戻ってきた。

 

「みんなお疲れー」

「お疲れ……」

「お疲れさまですわ〜」

「みんなお疲れさん」

 

 河部たちの言葉にラモーヌたちは軽く返事をしつつ、自分たちもこたつに入る。

 

「パーマー、私もトレーナーさんを抱っこしたいですわ……変わってくださいませ」

「私は別にいいけど……」

「マックイーンは安定しなさそうだからチェンジで」

「どういうことですの!?」

 

 河部の発言にツッコミを入れるマックイーン。

 しかし河部はパーマーをご所望なので、マックイーンは渋々諦めてテーブルの上に乗っているシャインマスカットに手を伸ばす。

 

「今更だけどこたつにシャインマスカットってブルジョワだよなー」

「せとかミカンもありますよ? マスカットと同じく契約農家さんからのいただき物です」

「……お高いやつか」

「お手頃ですよ?」

「金銭感覚のズレって怖いよね」

 

 アルダンが小首を傾げる一方で、河部は苦笑いをする他ない。慣れるしかないが、未だに慣れていない。慣れてはいけない、と精神がそうさせているのかもしれないが。

 

「それにしても記者さんも大変だね。大晦日まで仕事とは」

「そういう仕事だもの。大晦日でも働いてる人はいっぱいいるじゃん。使用人の人たちだって仕事中だよ?」

「俺って恵まれてるんだな……日々感謝しないと」

「そういうこと♪」

 

 パーマーはそう言って河部の頭を優しく撫でる。

 そうしていると、使用人の一人が年越し蕎麦のことで訊ねてきた。

 

「旦那様、お嬢様方、年越し蕎麦は何蕎麦が良いでしょうか?」

 

 使用人が言う「何蕎麦」とは食べたい蕎麦の種類である。

 

「俺は天ぷら蕎麦でお願いします。蕎麦は十割蕎麦で」

「私も同じ物を」

「私も同じ物をください」

「わたくしも同じ物をくださいな〜」

 

 河部、ラモーヌ、アルダン、ブライトは十割の天ぷら蕎麦。

 

「私たぬき蕎麦の藪蕎麦! 温玉乗せで!」

「あたしは更科蕎麦の肉蕎麦をお願いします!」

「アタシは砂場蕎麦。春菊とキスの天ぷら乗せで」

「私は田舎蕎麦でワカメ増し増し天かす多めの海老天、イカ天、ちくわ天トッピングを!」

 

 他のみんなも各々好きな蕎麦を頼めば、使用人は恭しく頷いて厨房へ要望を伝えに向かう。

 

「マックイーンだけ蕎麦屋じゃなくてラーメン屋の乗りで注文してなかった?」

「そ、そんなことありませんわ!」

「……まさかラーメン大好きロイヤルウマ娘様に誘われてそういうラーメン屋行ったな?」

「ギクゥッ!?」

 

 マックイーンは食への探究心が強く、美味しいから行こうと誘われるとつい誘いに乗ってしまうのだ。

 

「口でギクって言う人あんまいないと思う」

「まあ体重オーバーにならなきゃ口煩くは言わないけどな」

「麺よりもモヤシをたくさん食べましたので……食べたあとはカロリー消費を兼ねて走って帰りましたし……」

「ちゃんとセーブ出来てるならいい。スイーツ以外はちゃんと自制出来るもんな、マックイーンは」

「当然ですわ!」

「スイーツでも是非ともそうなってくれ」

「ら、来年の抱負にしますわ」

「破ったらスイーツ半年抜きな」

「嫌です!」

「ならないように自制するんだぞー」

「話を聞いてくださいませ、トレーナーさん!」

 

「大晦日と言えど相変わらずね」

「私たちらしいではありませんか、姉様」

「そそ! 賑やかでいいと思うよ♪」

「賑やかで済ませていいのかな……?」

「笑い納めってことにすればいいんじゃない?」

「マックイーンさまのテッパンネタですわ〜♪」

 

「ですからネタではありませんわー!」

 

 こうしてチーム『メジロ』の大晦日は更けていき、新年を迎えるのだった。この先もずっと。




読んで頂き本当にありがとうございました!

そしてこれにてチーム『メジロ』編は終わりとなります。
終始マックイーンがお笑い要員でしたが、そういうポジションのマックイーンが私は好きなのでお許しを^^;

さて、次回のお知らせです。
次回は私のリアルの都合上かなり日が空いてしまうのですが、新チーム連載日は6月7日とさせてください。

楽しい、面白いと思ってもらえるお話が書けるよう頑張ります!
よろしくお願いします!

誰が可愛かったですか?

  • 正妻重バ場ラモーヌ
  • 清楚重バ場アルダン
  • 陽キャ良バ場パーマー
  • 純粋乙女ライアン
  • ツンデレ担当ドーベル
  • ほわほわ重圧ブライト
  • 走るのが早い芸人(マックイーン)
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