機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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エピローグ

 

『本日の天候は快晴……ユーザーの位置情報より概算した距離ならば、シャトルの打ち上げがよく見える事でしょう。続いては今週のヒットチャート。四週連続一位の快挙を樹立したのは、新進気鋭のアーティスト、ギルティジェニュエンの最新曲から。最新曲“シスターライズ”をお送りします』

 

 位置情報データベースに照合した、余計な情報源を廃しただけの声が響き、彼女は丘に佇んでキャリーケースを引きずっていた。

 

 漏れ聞こえるのはヒットチャートを駆け抜ける新曲の激しい曲調。

 

 穏やかであった鼓動が、リズムに合わせて僅かに早まる。

 

「おーぅい! 本当にいいのかい? 嬢ちゃん。別にタクシー代の中に荷物運びも込みだっていいんだぜ?」

 

 ここまで運んでくれたタクシー運転手の厚意に彼女は頭を振る。

 

 薄茶色の髪を、風が撫でていた。

 

 肌は少し汗ばんでいる。

 

 中天の太陽より注ぎ込む陽光は小春日和のぬくもり。

 

「いえ! 悪いですからっ」

 

 リクルートスーツのまま、彼女は丘の上から望む。

 

 それはシャトルの発射場であった。

 

 手でひさしを作り、その様子を固唾を呑んで見守る。

 

 タクシー運転手が後に続いて来て、ああ、と声にする。

 

「あれだろう? 統合機構軍の打ち上げとかって言うの。何だい、観光だったのかい? 嬢ちゃん」

 

「ええ、まぁ……。でもあれが打ち上がったって言う事は……」

 

「ああ、統合機構軍の持つ二十七の資源衛星は盤石になったって事だ。ニュースでも毎日だろ? 分からないよな。トライアウトの下部組織を統合機構軍が買い叩くなんて。誰も想像出来なかっただろうに」

 

「“想像出来ない事が起きるのが人生、想像出来る事が起こるのは空想の中だけ”」

 

「何だそりゃ。誰の言葉だい?」

 

「……引用不明、ですね」

 

 タクシー運転手は電子煙草を吸いながらシャトルの打ち上げを見守る。

 

 間もなくして、点火したシャトルは資源衛星を抱いて宇宙を目指していた。

 

 あの仄暗い暗礁の空間へ。今も空の中に間違いのように空き続ける大虚ろへと向けて。

 

 黄金の鍵を翳して、憎々しいほどの青空より降り注ぐ陽光を反射させる。

 

 これもある意味では、自分の重石――自分の罪の証。

 

「……ダレトへの観測もこれで十七回目になる。そろそろ何か分かり始める頃だってのは、有識者だとか言う偉そうな連中の言葉ではあるんだが……どうにも信じられんくてな」

 

「でも、今もまた……可能性だけは広がっていく。広がり続けていく」

 

 第二段加速を経て、シャトルは成層圏を超えていく。

 

 その行方を最後まで見守ってから、彼女は踵を返していた。

 

「もう行くのかい? 帰りは少しならサービスするよ」

 

「……いいえ。いいんです。今はちょっとだけ……自分の足で歩いてみたくって」

 

「そうかい。なら近くの街のガイドを投げておく。ほら。カトリナ・シンジョウさん」

 

 投げられたガイドブックを掴み取って、彼女は――カトリナは瞠目する。

 

「……何で名前……」

 

「こっちの方面じゃ有名なんだ、あんたは。……奴らに目に物見せるんだろう? 革命軍のカトリナ、血濡れの淑女(ジャンヌ)」

 

「……ガラじゃないですよ、それ」

 

「希望の星だとか言い出す奴らだって居る。帰りは送らせろよ。有名だって言っただろう? おれみたいな人間ばっかりじゃない。救国の徒が道中で倒れるなんて洒落にならんだろうからな」

 

「救国の徒……ですか」

 

 それに相応しいのはきっと――と、カトリナは憎々しいまでの晴天を睨む。

 

「……この空の下で、繋がっているんなら、きっと」

 

 その手を空に翳し、手の甲に浮かび上がった微細なナノマシン施術の刻印が赤く浮かび上がる。

 

 ――これが、自分の呪縛。

 

「ほれ。足くらいにはなるさ」

 

「ありがとうございます。あっ、思い出しちゃった。あのぉー……」

 

「何だい? 街の様子なら直に見たほうが――」

 

「いえそうではなく。えっとぉー……経費で落ちますかね、これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を仰ぎ見るのは幾分か久しぶりで、彼は眩しそうに目を細めていた。

 

 片耳に入れたイヤホンからはノスタルジーの塊のようなジャズが流れている。

 

『今日もお送りしました、ナンバーはジャズの名盤。皆様、いかがお過ごしでしょうか? 現時刻はグリニッジ標準時、13時15分を回っております。続けて交通情報をお送りします。ポートライン鉄道の一部で人身事故による遅延が起きていましたが、現時刻から解消された見込みで――』

 

「……ミラーヘッドの蒼じゃない空ってのは……逆に目に悪ぃ……」

 

「アルベルトさん! また抜け出して! どこへ行こうって言うんですか!」

 

 追いかけてきた看護師に振り返った彼――アルベルトは微笑みかける。

 

「ちょっと喫茶店まで。リハビリがてらですよ」

 

「まだ本調子じゃないんですよ。いくら有機伝導施術の成功率はほとんど百パーセントだからって……」

 

「いや、オレも……コーヒーの味が美味いうちに、ちょっと足を運んでみたい喫茶店があったもんで」

 

 その返しに看護師は困り果てた面持ちで返答する。

 

「……院長先生に怒られるのは私なんですから。……三十分だけしか誤魔化せませんよ」

 

「ありがとう、助かります」

 

 そうして喫茶店へと足を運び、漂ってきた芳しいコーヒーの芳香と、そして懐かしいジャズ音楽に耳を澄ませる。

 

「……生きて欲しいって願いは、叶ったんだな」

 

「久しぶりだね、アルベルト君。よくここが分かったものだ」

 

「あんたのコーヒーの味をオレが忘れるとでも? マスター、いつものをくれ」

 

「君も有機伝導施術を受けたのだろう? いつものなんてけちけちした事を言わずに、もっと奮発すればいいものを」

 

「いや……オレにはやっぱし、いつものでちょうどいいんだよ。身の丈って言うのかな」

 

 そうしてソファに体重を預けて落ち着いてから、隠しておいた煙草に火を点けようとして、なかなかうまくいかない。

 

 まだ手足が馴染み切っていないのだ。

 

「はい、火」

 

 その声と調子が――かつての同朋のような気がしてアルベルトは呆然とする。

 

「……どうしたんだい? 火だろう?」

 

「あっ……ああ、気が利くな、マスター」

 

「今どき、電子煙草じゃないのはレトロ趣味を通り越してアナクロだな」

 

「……それ、よく言われたよ。だがあんたの言葉じゃないはずだ。この喫茶店だってアナクロだらけだろうに。ハイソなんだよ、あんたも」

 

「君にだけは言われたくないね」

 

 差し出されたコーヒーの香りも、もしかすると嗅ぐのは最後かもしれない。

 

 そう思って口に含んだ瞬間、アルベルトはこみ上げてくる感情と感慨に胸がいっぱいになっていた。

 

「……変わんねぇんだな、このコーヒーだけは」

 

「いつだって君の席は空けてある。デザイアで最後に会った時に言った通りに」

 

「そうか、でもオレの席は……もうとっくに、なくなっちまったのかもしんねぇ」

 

 その時、喫茶店の扉が開き、数名の黒服が自分へと歩み寄る。

 

「アルベルト・V・リヴェンシュタイン様。お迎えに参りました」

 

「……ゆっくりとコーヒーを飲んでいる時間さえもねぇのか」

 

「失礼ながらお時間をもう十五分オーバーしております」

 

「……わぁったよ。マスター、美味かったぜ。……オレでもまだ、な」

 

 コインを投げる。

 

 その金額も、あの日のままだった。

 

 だからこんな小言を言われてしまう。

 

「……いつもコイン一枚足りないんだよ、君は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『警告。敵勢はミラーヘッドを展開。オーダーの受諾は四十八時間有効です。下位オーダーは無効化され、再認証にはクロックワークス社への通達が必要となります。繰り返します。下位オーダーの再認証は不可能――』

 

 機体に内蔵されていたアイリウムが、現時点での撤退機動戦を告げる。

 

 草原を吹き抜ける風は直後には紅蓮に染まり、黄昏の空を仰ぎ見た兵士は、喉元をナイフで掻っ切っていた。

 

 それでも――死ねない。

 

 ライドマトリクサーの身になってしまった肉体には、ただの刃物なんてなまくらが過ぎる。

 

「……くそっ! 撤退戦だ! ……死に様すら描けないのかよ……」

 

 噛み締めた生への悔恨に、彼らは牽制銃撃を浴びせながら《エクエス》を駆け抜けさせる。

 

 既に制圧戦へと移行している戦場では、次世代機、《アイギス》の舞う空であり、彼らの支配域だ。

 

「……こんな世界に、誰がしたって言うんだ! こんな……明日も見えない世界なんかに……」

 

 奥歯を強く噛んでこの屈辱、雪辱への叛旗を翻す。

 

 こんな世界に誰がした。

 

 こんな世界を誰が望んだ。

 

《アイギス》が応戦の銃撃網を走らせる。

 

 自分の部隊はそれだけで死に体だ。

 

 ミラーヘッドの――第四種殲滅戦を用いるまでもないのだろう。

 

 死に行くだけの命。

 

 消え行くだけの灯火。

 

 ならせめて――最期くらいは自分らしく描きたいではないか。

 

 彼はキッと《アイギス》を睨み上げ、《エクエス》の機体内部駆動系に負荷をかけ、ミラーヘッドを講じる。

 

 蒼い残像を引いた《エクエス》の大上段に構えたビームサーベルはしかし、《アイギス》の機動性を前にして霧散していた。

 

 両腕が肘口より溶断され、痩躯である《アイギス》に足蹴にされて吹き飛ばされてしまう。

 

「……《エクエス》のパワー負けか……」

 

《アイギス》の照準が自分へと向けられる。

 

 幾重にも交差する照準警告。自分へと告げられる命の最後通告。

 

「……なら、頭を打ち抜いたほうがマシだろうって言うのに」

 

 こんな時に拳銃の一つも携行していないのは最早迂闊だ。

 

 乾いた笑いを上げて、彼は死を受け入れようとしていた。

 

 そんな脱力し切ったライドマトリクサーの耳朶を、明瞭な声が叩く。

 

「……誰だ?」

 

 瞬間、戦場が一変する。

 

《アイギス》が次々と打ち砕かれていき、おっとり刀でミラーヘッドに移ろうとした隊長機を踏み締めたのは濃紺にオレンジ色のラインを輝かせたMSだ。

 

「軍警察……じゃ、ないのか……」

 

 識別信号が、トライアウトではない事を告げている。

 

 識別不明、アンノウン――。

 

 その機体は無数のケーブルを身に帯びた異形であった。包帯まみれの怪人のようにも映る。

 

 眼窩は塞がれており、背びれのように背筋の骨格へと突き立っているのは制御棒だろう。

 

 全身にリミッターらしきものを施されているのに、その機体は何よりも雄弁に、この終わりの大地で生を叫んでいる。

 

 相貌を覆った機体のゴーグル部には三角形のそれぞれの交点に配された「666」の獣の数字――。

 

 それを視認した直後には、機体は跳ね上がり戦場を切り抜けていた。

 

「……今の機体は……いや、しかし……」

 

 最後の最後、もたらされたのは通信のようであった。

 

 ライドマトリクサーでしか受信出来ない、その言葉は――。

 

「……生きろ、だって? ……何者なんだ、お前は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『次元の姫のご様子はどうだ? ジオ・クランスコール』

 

 問いかけた世界を覆う胎児達の声に、ジオは召喚された状態のまま、傅いて応じる。

 

「今のところは何とも。ですが、覚醒の兆候があれば、迷いなく」

 

『そこまで急ぐ必要はないのだろう。先の《シクススプロキオン》との戦闘、大義であったと思っている』

 

『左様。あれで我々の大局が変わった。MF04、《フォースベガ》のパイロットの行方と、そして《ネクストデネブ》の拘束作戦の実行。世界は着実に動きつつある』

 

「お望みならばいつ如何なる時でも、このジオ・クランスコール、命を投げましょう」

 

『よく出来た部下を持てて我々は幸運だろうとも。君のような忠実な部下が居ればね』

 

 子供達の、無邪気な笑い声だけが連鎖して響き渡る。

 

「いえ、自分は所詮兵士です。ならば、戦うべき時に戦えればいいだけの事」

 

『割り切りが出来ているのは素晴らしい。ならばその健闘を期待しよう。何せ、君はこの世でたった二人の、我々の運命の扉を開くための鍵なのだからね』

 

『写し身の鍵は、両者揃ってこそ意味がある。君は、我々の期待を裏切らないはずだ』

 

『ダレトの向こう側を開くのに、君のような忠実な鍵だけが必要だ。我々の運命を拓くために……』

 

「努力します」

 

『ならば、姫の機嫌を、せめて損ねないようにしたまえ。……また屋敷を抜け出したようだからね』

 

 彼らの意識が押し包んでいた空間を抜けると、使用人があたふたして自分へと声をかける。

 

「旦那様! どうしましょう……! また妹君が……!」

 

「またか。いつもの場所だろう。自分が迎えに行く」

 

「ですが……大事なお話をされていたのでは……」

 

「妹の身のほうが大事だろう」

 

 断言したジオは噴水を抜けた先にある中庭の向こう、草原に黄色のドレスを横たえさせた影を見据える。

 

「いつまで不貞腐れているつもりだ、――ファム」

 

 その言葉に銀色の長い髪を流したファムは不服そうに頬をむくれさせていた。

 

「どうして小動物の形態模写をしている」

 

「わかんないの! ファム、にいさま、きらいー!」

 

「そうか。嫌われるのには慣れている。どうして抜け出そうと思ったんだ」

 

「……にいさまにはいってもわからない」

 

「それでも、言ってくれないと分からない」

 

 ファムはうぅんと草原を寝転がった後にようやく座り込む。

 

 せっかくの仕立てのいいドレスが台無しであった。

 

「……ゆめをみたの」

 

「そうか。どんな夢だ」

 

「……ながいゆめ。ファムはそのなかで、バーミットと、カトリナと、アルベルトと……それで、かれとあったの」

 

「彼とは誰の事だ」

 

「……にいさま、やっぱりきらいー」

 

「言ってくれないと分からないのだよ」

 

 肩に手を置くとファムは心底気に入らないようにそれを振り払う。

 

「にいさまはしらなくていいひとー!」

 

 そう言って今度は笑いながら、草原の中でたった一本だけで佇んでいる巨木のほうへと駆けて行ってしまう。

 

「問題のある姫君だな」

 

 ジオは巨木に寄りかかって木洩れ日を楽しんでいるファムへと歩み寄っていた。

 

「ファム、そろそろ教えてくれないか。誰が、お前を呼んでいるのだ」

 

 ファムはころころと今度は喉の奥から笑い出して、その幸せそうな頬を緩める。

 

「……ファムのすきなひとー」

 

「自分よりもかい」

 

「にいさま、ファムにいちどだってふりむいてくれたこともないー」

 

「それは自分の努力不足であった。反省しよう」

 

「……にいさま、そんなことはおもってない」

 

「じゃあ一つだけ聞かせてくれ。ファムの夢に出て来た人と言うのは――」

 

 そこでジオは言葉を切る。

 

 ファムが怯え切って小さく縮こまっていた。

 

 ――こんな楽園の片隅のような空間の真上を、ヘカテ級の巨大戦艦が飛翔する。

 

「失礼。どこの艦だ」

 

『それが……旦那様。所属不明の艦艇です』

 

「所属不明、いいや、見覚えがあるな。その名前は――呪われた魔女の名前だったか」

 

「ベアトリーチェ!」

 

 怯えていたファムの声が一転して明るい声になる。

 

 ジオは包み込まれていた楽園のコロニーの皮膜の向こう――終焉の宇宙の果てを飛ぶ因果の戦闘艦を見据えていた。

 

「そうか、あれが」

 

 世界の敵。討つべき相手。

 

「どうしたって世界は、自分へと戦いを挑むらしい」

 

 オレンジ色の艦艇は楽園の空を引き裂きつつ、彼方へと向かっていく。

 

 きっと、その身に帯びているのは呪詛であろう。

 

 それでも明日に向かうと言うのならば。

 

「迷わない。自分は、貴殿を叩き潰そう」

 

 それがいずれ、運命に選ばれると言う意味であると言うのならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着任を歓迎します。レミア・フロイト少佐」

 

 その言葉にレミアは片手間で応じつつ、新たなる所属部署の制服を目の当たりにしていた。

 

「まさか、私がこの職務に就くなんてね」

 

「選べないのだと、聞きました」

 

「それは慮ってくれているとでも?」

 

「いえ、自分は尊敬しているだけです」

 

「尊敬? それは私の事を嗤っていると解釈していいの?」

 

「いえ、単純に、尊敬です。あの時、対峙した身でありながらもこうして職務は職務として割り切っているのが」

 

「厚顔無恥なのだと、思われているようね。……ねぇ、あなた、こういう言葉を知っている? “仇花に実は生らぬ”、どれだけ立派に取り繕うとも、内容が伴わなければそれはいずれ失敗する。私も、そういう星の生まれなのかもしれない」

 

「分かりませんね。自分は上官にだけは恵まれて来たと思っているので」

 

「……それも警句よ。あなた、確か名前は……」

 

「失礼。名乗りが遅れました。ダイキ・クラビア中尉です」

 

「そう、あなたがダイキとか言う……。失礼、こちらも名乗っていなかったわね。流儀にもとるわ。レミア・フロイト。統合機構軍より少佐相当官としてこれより、あなた達の直属の上官となります。私が担当するのは、確か新造艦の」

 

「ええ、ヘカテ級機動戦艦、ブリギット。我々の新たなる指標です」

 

 運び出されていくのは進水式を間際に控えた濃紺の艦艇であった。

 

 ――これがまた自分の、運命を預かる艦となるのか。

 

 レミアはまだ新品の、トライアウトネメシス所属の制服を見やって、ふと呟く。

 

「……これも私の業なのでしょうね」

 

「ブリギットは強いですよ。俺達は勝ちます」

 

「勝つ、ね……。それは一体、何に、なのかしら」

 

 そう言ってレミアは帽子を深く被り直していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サンキュー! みんな! じゃあとっておきのナンバーを行くよぉーっ!』

 

 野外ライヴでメイアはMCとしてバンドメンバーの統率を務め、やがてギターを撫でると今週のヒットチャートを駆け抜けるナンバーが大音響で人々を揺らす。

 

 混然一体となった感覚を味わいつつ、ステージを走り回って声を響かせる。

 

 この歌が世界を変える――歌には全てを凌駕するだけの力がある。

 

 そうなのだと疑わないメイアは汗を弾かせ、激しいサビの曲調を歌い上げてから、一度舞台袖に入る。

 

 アンコールの声が鳴り止まない中で、マーシュと顔合わせをしていた。

 

「いい? ギルティジェニュエンも正念場……ここまで来たんだもの。コロニー巡礼のツアーも大詰め。張り切っていきましょう」

 

 経口補水液を飲み干してから、メイアはメンバーとのハイタッチを交わす。

 

「よっし! 行こっか! ここがギルティジェニュエンの本気!」

 

「待って、メイア。……本社から電報が来ているわ」

 

 マーシュに呼び止められ、メイアは投射画面の向こう側の映像を目にする。

 

「遂に完成が近いって聞いたよ」

 

 問いかけたメイアに、そうね、とマーシュは短く応じる。

 

「全ては転がり行く世界のために。私達はその世界を戦い抜くための力が要る」

 

「……けれども、さ。本当にいいの? ボクなんかに最初に見せるなんて」

 

「いいえ、あなたが適任よ、メイア。何せこれは……あの幻のMS、《レヴォル》のデータバックアップによって完成した機体なのだから」

 

 メイアはギターケースを撫でながら、なるほどね、と答えていた。

 

「ボクらの努力が実ったってワケだ」

 

「あなたと……エージェント、クラードにはどれだけ感謝してもし切れないわ。我々の陣営が最終的に勝利する。――その地盤さえ崩れないのなら、どんな手を尽くしたっていい」

 

「勝つためには手段は、って奴か。ボクはイマイチ乗れない理論だけれど」

 

「それでも、この機体は世界を変える……。後は到来を待つだけ」

 

「これって、中身がないんだよね? 見かけだけを取り繕った、いわば鎧だけ出来上がったみたいなもので」

 

「そうね。でも、それは遠からずすぐのはずよ。――七番目の使者、聖獣はいずれ訪れる。その時、彼の者を迎える殻が必要なのは明白。私達は、ダレトの向こうより現れる存在に対し、抗いではなく、歓迎をすべきなのよ」

 

「それも、ある種のスタンスの違いでもあるなぁ」

 

 映像の向こうの格納デッキにて、コンテナより引き出されていくのは、右腕のない機体であった。

 

「右腕に搭載予定の特殊兵装はまだ完成していないけれど、基礎フレームはこれでもうすぐのはずよ。《レヴォル》のフレーム構造を踏襲した、世界を暴き欺く機体」

 

 その言葉の穂を、メイアは継いでいた。

 

 ライヴ喧騒に埋もれてしまいそうな、それでいて確かな論調を伴わせて。

 

「扉を開く鍵――《ダーレッドガンダム》。そう、ボク達は、ひとりじゃない」

 

 

 

 

第十章 「消滅宙域を超えて〈ボーダー・オブ・トランスレーター〉」了

 

 

 

『機動戦士ガンダムダレト』 セカンドシーズンへ続く

 




なかがきを挟んで小休止期間を経てからセカンドシーズンに突入いたします
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