機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第十一章「叛逆の夜明け〈ブレイキング・ダウン・レヴォル〉」
第103話「地獄蹂躙戦域」


 

 中天に漂うのは硝煙の向こう側。

 

 黄昏の暗黒太陽が空を支配する。

 

 銃撃網が連鎖し、悲鳴と恩讐を棚引かせる戦場で、子を抱えた母親は必死に言い聞かせていた。

 

「大丈夫、大丈夫だから……。きっと、神様が見てくれているわ……だから大丈夫……」

 

 焼夷弾頭が着火し、灼熱の息吹が舞う戦場。

 

 そのような場所で《マギア》編隊がそれぞれ両翼を広げて声を弾けさせていた。

 

『散れ、散れーっ! 敵は高機動だぞ!』

 

『隊長! ミラーヘッドオーダーを受諾! 我が方が使用可能です!』

 

『遅いぞ! この防衛線を突破されるわけにはいかないのだ! 各員、アイリウム認証開始! 令状の受諾を確認し、ミラーヘッドへ……第四種殲滅戦に移る!』

 

 それぞれの機体の各所から蒼白い輝きを発し、ミラーヘッドの分身体を次々と生み出していく。

 

 それは必勝の構え。

 

 この世界において、ミラーヘッドオーダーの認証は即ち、戦局がこちらに転がった事を示す。

 

 そのはずなのに――。

 

《マギア》部隊が相手にするのは灰色の機体色を基調とした能面のように顔のない機体であった。

 

 無骨な成型である頭部の合間より、赤い眼光が《マギア》部隊を睥睨し、携えたビームライフルを振って、隊長機らしい一本角を持つ機体がばらけるように指示する。

 

『馬鹿め……それはミラーヘッドの距離だ!』

 

《マギア》のミラーヘッドの分身体が戦力を八倍にまで増強し、火線が灰色の戦域に叩き込まれる。

 

『やったか!』

 

 だが、その期待は虚しく散る。

 

《マギア》の通信網に焼き付いた声は、静かに命じていた。

 

『――レヴォル・インターセプト・リーディング。ミラーヘッド、発動』

 

 直後にはミラーヘッドの蒼い残火の灯火を纏って灰色の機体群が分身体を生み出す。

 

 それはあり得ざる光景。

 

『……嘘、だろ……。令状は四十八時間有効のはずだ!』

 

『相手は……あれが――騎屍兵。統合機構軍の有する……死者の葬列……ッ!』

 

 灰色の葬列は蒼白い魍魎の輝きを得て、一つ、また一つと分身体を叩き潰し、《マギア》編隊を押し込んでいく。

 

『撃て! 撃てーっ! 如何に相手が噂の騎屍兵とは言え、物量で押せば問題あるまい!』

 

 灰色の機体はそれぞれ頭部より蒼白い亡霊の灯火を輝かせて、《マギア》の火力を押し出していく。

 

 その彼我戦力差は最早推し量るまでもなく――。

 

 敵影が舞い、青い刀身のビームサーベルを発振させて《マギア》を両断する。

 

 機動性能、反応速度、そして機体運動性――全てにおいて現行兵器であるはずの《マギア》を凌駕している。

 

 跳躍の機動を取った敵機へと、必死に狙いをつけようとするも、蒼い残像を引きながら段階加速に入った相手は背後へと回り込み、《マギア》の両腕を握り締め、背筋を蹴りつけて引き千切っていた。

 

 ミラーヘッドジェルの伝導液が焼き付いた《マギア》を足蹴にし、その機体へと無数の火線が撃ち込まれる。

 

『……も、亡者共、が……』

 

 爆発の光輪が広がる中で、他の《マギア》乗りの悲鳴混じりの声が響き渡る。

 

『何で! 何で何で何で! 我々は正規軍だぞ! ここの駐屯地を任されていた……トライアウトの……』

 

『――達す。トライアウト正規軍を名乗る者達へ。我々は上意命令によって統制を行っている。これは貴君らの行ってきた統制と何ら変わるところはない。指揮系統、命令系統が違うだけで、これまで貴君らの実行してきた統制が跳ね返って来ただけだ』

 

 その、まるで抑揚のない、まさに死人のような声音に《マギア》乗り達は背筋を凍らせていた。

 

『跳ね返って……? い、いいや! 何を馬鹿な! 我々には大義があった……!』

 

『では大義で死んでいった者達の、これは怨嗟であろう。残念だ。また地図を書き換えなければいけなくなった』

 

 トライアウトの《マギア》編隊が蒼い残像を棚引かせながら突っ込んでいく。

 

 その雪崩じみた特攻を、灰色の者達はいとも容易く、そして冷酷に断じていた。

 

 ビームサーベルの放射熱が《マギア》のコックピットを引き裂き、それぞれの機体が挙動し敵影が四散するまで光条を叩き込む。

 

 やがて、戦場に静謐が訪れた。

 

 向かってくる《マギア》はもう存在しない。

 

 灰色の葬列は降り立つなり、その頭部の眼光を、地を這うばかりの無辜の人々へと向けていた。

 

『《ネクロレヴォル》編隊。これより統制を執り行う』

 

『御意に』

 

 通信に連鎖する了承の声が響くと共に、主要なインフラへと火線が舞っていた。

 

 光芒が焼き付き、爆発の余波が逃げ遅れた人々を吹き飛ばす。

 

 その女性は、ずっと、子供を抱いていた。

 

「ああ、大丈夫、大丈夫……。きっと、神様が見ていてくれるわ。だから、大丈夫……」

 

 それは哀れであったのか、あるいは最後の最後まで知らずに済んだ幸運であったのか。

 

 抱いた腕の中の子は、もう事切れていると言うのに。

 

 灰色の巨神が大地を踏みしだく。

 

 人々の悲鳴が途絶えて行き、暗黒太陽を背にして亡者達が列を作る。

 

 人の息吹を一片さえ許さぬ喪服の使者達は、全てを叩き潰してから、ようやく嘆息めいた声を発していた。

 

『……地図の書き換えは憂鬱だよ』

 

 それは地球圏にて、またしても静かなる統制が成された瞬間であった。

 

 

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