機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第104話「咎人の贖い」

 

 野外ライヴにて、声高に叫ぶのは世界への叛逆の歌声――。

 

 だがそれを真正直に反抗勢力なのだと規定する人間はこの場には居ない。

 

「とっておきのナンバー! 最高潮の盛り上がりで行っくよーっ!」

 

 津波のように、会場が混然一体となる。

 

 マイクパフォーマンスを振り上げたメイアは汗の球を弾かせつつ、ギターで音階を刻み始めていた。

 

 どのような時代であっても、音楽だけは等価だ。

 

 それは人を人たらしめる抗いの刃であり、同時に心を通わせるツールでもある。

 

 歌唱の途中でしかし、不意打ち気味に響き渡ったのは、現連邦勢力への抗議であった。

 

『ギルティジェニュエンは反政府勢力として政権を脅かしているのか!』

 

 一部分だけの声であったが、それはライヴ会場に水を差したのは間違いない。

 

 MCとして何か言葉を返そうとして、ファン達が声を発する。

 

「何言ってるんだ! 俺ら“罪付き”にとっちゃ、メイア達は神そのものだろうが!」

 

 ギルティジェニュエンのファンは「罪付き」と名乗っている。

 

 彼らはデモを起こそうとした一派へと糾弾の声を向けるが、拡声器で抗議する連中は止まらない。

 

『今も地球圏では統制が行われているはず! 見て見ぬふりをし続けるのが、アーティストなのか!』

 

 少し雲行きが怪しくなってきたな、とメイアが感じた時には舞台袖よりマーシュが手招いていた。

 

「最後のナンバーはちょっと待ってくれる? 今日のスペシャルサンクスの紹介!」

 

 メイアはイリス達がうまく誘導するのを目にしてから、マーシュと顔を合わせる。

 

「……で、何だって?」

 

「ついさっきの情報なんだけれど、驚かないでね?」

 

「何? まさか今すぐライヴを打ち切れって?」

 

「……そのまるで逆。このままライヴの終わりに……年末にある大型フェスの参加が決まったわ。これは月面で行われる特別ライヴで――」

 

「ムーンライヴ? それって……」

 

 鼓動が早鐘を打つ中でマーシュは自分の手を握り締める。

 

「ええ……ようやくギルティジェニュエンは……一流アーティストに上り詰めたって言う証拠……おめでとう、メイア! ……私としても、ちょっと……」

 

 涙ぐんだマーシュにメイアは少しこみ上げるものを感じる。

 

「……じゃあさ。秘蔵のナンバーを披露しようよ! そうすればきっと……歌のない世界なんて退屈だって、どんな人にだって思わせられるはずだからさ!」

 

「ええ、きっとそう……。頑張っていらっしゃい、メイア。ギルティジェニュエンの……あなたはボーカルなんだから」

 

 手を振ってメイアはライヴへと舞い戻っていく。

 

 この歌もまた世界を変える息吹になるはずだ。

 

「じゃあみんな! 飛ばして行っくよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――数秒前の自分と今の自分が同列だと、どうして言えるのか。

 

 それは数秒前に生じただけの自我だと、どうして断じられないのか。

 

 鼓動が深く脈打った瞬間には、そうだと規定した自身を鼓舞してMSの操縦桿を握り締めていた。

 

「……認証開始。アイリウムの個別ユーザー登録……。三十一から五十七までの認証経路を全てキャンセル。機体は……このまま、コロニーの重力制御圏へと設定……。《オムニブス》……行きます……!」

 

 解き放たれたのは無骨な機体であった。

 

 コロニーの空を舞い、作戦領域に向けて降下されていく。

 

 風切音が耳朶を打つのを感じつつ、奥歯をぐっと噛み締め、手の甲より感じ取った機体ステータスを呼び出し、ヘッドアップディスプレイに統合させる。

 

「現状、悟られた様子はなし。第二陣、行けます」

 

『頼んだぞ。斥候役が墜とされたなんて冗談はよしてくれよな』

 

「……分かっていますよ。《オムニブス》より伝令。機影なし、《マギア》第三小隊、どうぞ」

 

『強硬策なんて考えるもんじゃないですよ。……ったく。あまり先行し過ぎないでください。《オムニブス》には最低限度の火器しか積んでいないんですから。敵拠点上空へと肉薄後、ランデブーポイント23を利用して離脱。敵からの応戦の火線には――』

 

「分かっています。盾で防衛しつつ、最低限度の被弾率で帰投ルートへ……。優しいんですね、――アルベルトさん」

 

『当然の義務って奴ですよ。……別段、オレが優しいとか優しくないとかじゃなくって、作戦立案者が前に出て死にたがっていたんじゃ、世話ぁないって話です』

 

「……です、ね。このまま敵拠点まで引き付け……。相手の第一波の応戦を受けつつ、地表すれすれを飛翔し、大きく円弧を描いて私達の……ベアトリーチェのランデブーポイントへ」

 

『重火力装甲《エクエス》が張っている可能性もあります。そういうのにロックオンされちまえばお終いですから、出来得るだけ会敵は最小限度に。第三小隊に任せてください』

 

「……不死身の第三小隊、ですもんね」

 

『……そいつぁ当て擦りですよ』

 

 敵の通信塔が聳え立つ拠点が大写しになってくる。

 

 そろそろ相手も勘付いたはずだ。

 

 操縦桿を握り締め、汗の玉が浮いたバイザーの中で呼気を詰める。

 

「《オムニブス》、敵の領空内へと到達。速やかに離脱挙動に入ります」

 

 心拍数が上がっていく。

 

 危険域寸前で舞い上がり、《オムニブス》の機影が相手の拠点上空を飛翔していた。

 

『あれは……エンデュランス・フラクタルか……! 敵影探知! 《マギア》が来るぞ!』

 

 相手の通信域が僅かに入ったらしい。その声を意識する前に、既に推進剤を焚いて離脱挙動に入っている。

 

《オムニブス》は様々な武装を積載可能なMSだ。

 

 少し重量としては無理のある離脱用の推進機構をパージさせ、上空へと昇っていく。

 

 火線がいくつか舞い、自機を捉えようとしたが、その時には既に自分が呼び込んだ小隊編成が拠点を睨んでいた。

 

『……《マギア》だと……! 嘗めるんじゃない! 《レグルス》部隊を出せ! 敵は統合機構軍、エンデュランス・フラクタルだ!』

 

「……まずい。基地から《レグルス》が出てくれば厄介になる。少しでも……っ!」

 

 振り返り様に照準器を覗き込んだが、引き金を引く直前になって躊躇う。

 

 何度か浅い呼吸を繰り返し、それから指先に力を入れるも、その気力は霧散して行った。

 

『無理はしないでください。オレ達第三小隊が引き受けますから、《オムニブス》は下がって!』

 

「でも……っ、アルベルトさん……!」

 

 名を呼んだ相手は――アルベルトは、紫色の改修機の《マギアハーモニクス》よりサインを出す。

 

『引き受けたのはオレらです。委任担当官はすぐにベアトリーチェまで後退! 後の露払いは任せてください!』

 

 ――委任担当官。

 

 その名称にぐっと奥歯を噛んで《オムニブス》を帰投ルートに向かわせていた。

 

「……死なないでくださいね……」

 

『誰に言ってるんすか。《マギアハーモニクス》、アルベルト・V・リヴェンシュタイン、RM第三小隊の切り込み隊長として……敵陣を突破する!』

 

 敵基地へと相手がおっとり刀で対応する間にも、《マギアハーモニクス》を含む小隊編成はミラーヘッドシステムを両翼に展開し、火線が敵陣へと叩き込まれていく。

 

 だが相手もされるがまま、というわけではない。

 

 出撃したのは《レグルス》を含んだ、重火力装甲の《エクエス》部隊であった。

 

『火力編成は後ろで待機しておけ。《レグルス》の性能を……誇らせてもらおうか……!』

 

『嘗めんなよ……《マギアハーモニクス》とは長い連れ合いだってんだ!』

 

 即座に抜刀した機体同士がもつれ合い、ビームサーベルの干渉波が拡散する。

 

《オムニブス》はコロニーの空を抜けてそのまま港より、離脱機動に入ろうとしてその行く手を遮っていたのは別働展開していた《エクエス》であった。

 

「……ノーマル装備の《エクエス》なら……抜ける……」

 

 銃口を向けられた瞬間、その考えはしかし霧散していた。

 

 ――殺される。

 

 心臓が収縮し、血液が凍てつく。

 

 思考が酩酊し何も考えられなくなっていく中で、右腕がじくりと痛んでいた。

 

「痛っ……」

 

 それはいつかの約束。いつか交わした、果たされない願い。

 

 パイロットスーツ越しに輝いた手の甲の赤い思考拡張の印が疼き、敵の銃撃網を抜けていた。

 

《オムニブス》の装甲をいくつか弾頭が叩いたが、堅牢なだけが取り柄の《オムニブス》を撃墜するのには至っていない。

 

 宙域へと抜けた瞬間に感じる、僅かな血流のブラックアウト。

 

 その後、大写しになったのはオレンジ色の艦艇であった。

 

「……ベアトリーチェへの合流路を確保。これより帰投します」

 

『了解。そのままの速度で相対合わせ。格納デッキへの収容を願います』

 

 敵影を振り切ってから《オムニブス》はベアトリーチェの格納デッキに潜り込んでいた。

 

『斥候機の帰還だ! 減殺ネットを張って出迎えてやれ!』

 

 その声を聞きつつ、ネットに《オムニブス》を突っ込ませてからようやく、呼吸と心拍が落ち着いてくる。

 

 コックピットブロックを開くと整備班が取り付いてゆき、そっと手が差し出された。

 

『斥候任務ご苦労、委任担当官殿。……いいや、期待の新人か?』

 

 ノーマルスーツを着込んだ相手に対し、その手を握り返して接触回線を開く。

 

「……もう入社して三年ですよ? さすがに新人は無理があるんじゃないですか」

 

『……だな。よく帰って来た――カトリナ・シンジョウ女史』

 

 自身の名前を紡がれ、気密を確かめてからヘルメットを脱いでいた。

 

 栗色の髪が揺れ、汗の粒が宙に舞う。

 

 ふぅ、と一呼吸ついた自分に整備班の一人が携行保水液を差し出していた。

 

『疲れたっしょ。水分補給は大事っすよ、カトリナ嬢』

 

「……トーマさん。いえ、これも任務ですから」

 

 受け取った携行保水液で喉を潤しつつ、今回も弾痕をもらった《オムニブス》を眺める。

 

「……すいません、ヘタクソで……」

 

『まったく、カトリナ女史はMSの操縦が荒っぽいったらねぇ。もうちょっと大事に扱ってくれよ。戦力は限られているんだからな』

 

「……はい」

 

『斥候任務だって言うんですから、弾の一発や二発は貰うでしょ。撃墜されないのが仕事なんですよ、カトリナ嬢の』

 

 言い返したトーマに整備班から声が上がる。

 

『ミラーヘッド搭載機じゃないんですから。あまり無茶を仕出かすものでもないのでは? サルトル技術顧問』

 

『いいんだよ、この人は。何せ作戦立案者であり、委任担当官であらせられるんだからな』

 

 そう言ってサルトルは笑い話にしてくれるが、カトリナはぎゅっと拳を握り締めていた。

 

『何か、心配事でも?』

 

「あ、いえ……。アルベルトさん達、大丈夫かな、って……」

 

『大丈夫っしょ。不死身のRM第三小隊っすよ? って言うか……その名前でいいんすかね。だって彼らからしてみれば、別の名前を名乗りたいはずっすから』

 

「……でも、それを押し殺しているのは私……」

 

『カトリナ嬢、重く考え過ぎですって。どうせ帰ってきたらあっけらかんとしているのがアルベルト氏らなんですから』

 

「そう、ですかね……。でも、未だに作戦介入条件がこれって言うのは、私の力不足の感があるって言うか……」

 

『本社から充てられるのは良くて《アイギス》、悪ければ型落ちもいいところの《マギア》っす。その《アイギス》だって、もしもの時のために温存しておくって判断を下したのは、カトリナ嬢っすよ?』

 

「だって……アルベルトさん達は《マギア》のほうが慣れてるって言うんですから……」

 

 トーマは自分と共に格納デッキを流れ、グリップを握り締める。

 

『本社の連中、あーしらが死んでもいいって、どっかで思っている節はあるってのは間違いないと思います』

 

「……やっぱり、そうですかね」

 

『そうじゃなけりゃ、何のためのレジスタンスなんですか? ……あーしら、一応はエンデュランス・フラクタルとは縁切っているって言う体裁なんすから。まぁ敵にはバレバレっすけれど』

 

「……でも敵の戦力はあんなものじゃない。地球圏の統制は、あんな生易しくは……」

 

 トーマはバイザーを上げ、携行保水液を飲み干していた。

 

「……地球に残したって言う、ご家族は?」

 

 カトリナは頭を振る。

 

「連絡しないようにしてますから。でも……無事に逃げてくれたって信じたいですけれど……」

 

「まぁ、あーしらの生存自体がイレギュラーっすからね。エンデュランス・フラクタルはいつまで支援してくれるかも不明ですし、本社からしてみれば、もう三年前の戦艦なんてどっかで沈んじゃったって正式発表したほうが都合はいいっしょ」

 

「……あの月軌道戦……」

 

 思い返すだけで目頭が熱くなってしまう。

 

 あの時、決断出来なかった自分を叱責するために今の立場に居ると言うのに、これでは中途半端なだけだ。

 

「帰って来なかったのは、何も一人二人じゃなかったでしょ。割り切りっすよ、カトリナ嬢」

 

 その言葉は、トーマ自身一番吐きたくないはずなのに。

 

 それでも彼女は前を向くのだ。

 

 ならば自分が後ろめたいものを感じている場合ではない。

 

「……アルベルトさん達が帰って来た時のために作戦を考えておきます」

 

 トーマは手を振って整備班に戻っていく。

 

「頼むっすよ。今のベアトリーチェの生きるか死ぬかって言う生命線は、カトリナ嬢に託されてるんすから」

 

 バイザーを下ろして《オムニブス》の整備に入ったトーマの背中をしばらく見つめていたが、彼女はそれ以上の言葉を投げようとはしなかった。

 

 カトリナはグリップを握って廊下を進む。

 

「……右足と左足を、交互に出せば、前に進める、か……」

 

 暗い部屋へと行き着き、カトリナはパイロットスーツを脱ぎ捨て、インナー姿のままベッドに飛び込んでいた。

 

「……でも、前に進んで、それで何が残るって言うんですか。私、もう分かんなくなっちゃいましたよ……」

 

 そのまま泥のような眠りの中へと堕ちていく。

 

 ――ああ、自分は、所詮この程度なのだな、と揺れる視界の中で悔恨を噛み締めていた。

 

「……ねぇ、教えてくださいよ。アルベルトさん、トーマさん、サルトルさん……。どこまで行けば、終わりなんですか……。レミア艦長、バーミット先輩……」

 

 薄明りへとそっと手を伸ばす。

 

 それでもまるで答えなんて出ない。

 

 否、答えなんて求めるものでもないのかもしれなかった。

 

「私は、どこまで行けば、納得行く答えに、辿り着けるんですか……。あなたみたいに……」

 

 そこまで口にしてから手を降ろす。

 

 光なんて掴めない。

 

 世界は一寸先の闇へと沈み、そして安寧と惰弱の中で転がり続ける。

 

 ――あの日、月軌道まで辿り着いた自分達は、その先に納得の行く答えが待っているのだと信じていた。

 

 だが実際にはどうだ。

 

 答えなんてない。

 

 分かりやすい正答なんて存在しない。

 

 この世は不明瞭な行く先と、そして正解なんて存在しない選択肢の連続だ。

 

 カトリナは瞼を閉じて、腕で目元を隠す。

 

「……じゃあ何で、あの日、それが答えだって、あなた達はそう信じたんですか。何で、死ねないって、言ってくれたんですか。そんな言葉、なければ希望なんて振り翳さないのに……」

 

 恨み節もここまで来れば女々しいもの。

 

 それでも――三年間戦い抜いたその信念だけは、答えに辿り着くための道標なのだと、信じたかっただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵影の照準にうろたえたのは何も新兵だからではない。

 

 火線を潜り抜けて来た《レグルス》相手に硬直した部下に対し、アルベルトは機体を走らせていた。

 

「野ッ郎……ミラーヘッド段階加速! 敵の懐に潜り込んで首筋掻っ切る!」

 

 ミラーヘッドの加速域を超えて《マギアハーモニクス》が割って入り、即座に袖口から現出させたヒートナイフで《レグルス》の頸部循環パイプを引き裂いていた。

 

 一瞬のメインカメラの損傷に過ぎないだろうが、部下を死なせるよりかはマシだ。

 

「退けぇッ!」

 

《マギアハーモニクス》で回し蹴りを叩き込んで《レグルス》を後退させ、この死地において弱腰になった部下の機体に触れる。

 

「ビビったんなら後方支援に移れ! 一度でも恐怖に囚われちまえば、もう前なんて任せられねぇ!」

 

『り、了解……! ビームライフルで距離を取りつつ、敵影から出来るだけ時間を稼いで……』

 

「そうだ。それがオレ達、第三小隊の役目――」

 

 その時、部下の《マギア》が不意打ち気味の爆炎に呑まれていた。

 

 直下より重火力装備型の《エクエス》がミサイル迎撃をこちらへと照準する。

 

「……何してくれてんだ……! まだこいつは……ウチに入ったばっかなんだぞ!」

 

 憤怒に呑まれた思考回路の中で、アルベルトの《マギアハーモニクス》は加速度のまま、敵影を捉え、交錯の瞬間に抜刀する。

 

《エクエス》が爆ぜ、光輪を咲かせる中で声が響き渡っていた。

 

『小隊長! このままでは我が方にも影響が出ます! 一時撤退の許可を! 充分に敵は引き付けました! このまま戦い続ければ損耗も大きくなります!』

 

「……ユキノ。分かった! そっちの判断は任せる!」

 

《マギアハーモニクス》を加速させ、アルベルトは疾走する。

 

『小隊長? どこへ……!』

 

「……ケジメつけなくっちゃ、手ぶらじゃ帰れねぇだろうが……! あの人だって覚悟して飛び込んでんだ! オレがビビってちゃ、カッコつかねぇ!」

 

 敵の火線が舞い散る中で、《マギアハーモニクス》にミラーヘッドを行使させていた。

 

 壁のように構築した蒼い残像を叩き割らせる前に至近まで肉薄し、機体に備え付けられていたビームジャベリンを稼働させる。

 

 勢いのままで薙ぎ払い、敵拠点へとMSを投げ込んで止めとする。

 

 火災が巻き起こり、MSに引火し、爆発の音叉が腹腔に響き渡った。

 

 荒い呼吸を整えながら、アルベルトは回線を開いていた。

 

「……ユキノ。後方に下がる準備をしておけ。敵拠点を制圧する」

 

『ま、待ってください! もう作戦は実行されました! 充分な戦果で――!』

 

「ざけんな! こんだけの戦果でむざむざ帰れるかよ……ッ! せめて、相手の情報くらいは抜き出させてもらうぜ」

 

 仰向けに基地に倒れ込んだ《エクエス》の頭部を引っ掴み、力任せに引き千切る。

 

「……こいつのアイリウムの中に情報があるはずだ。奴らの……騎屍兵の情報が……」

 

『小隊長! これ以上は限界です!』

 

「お前らは下がっとけ。限界離脱領域まで居るのは、オレ一人でいい」

 

 第三小隊の《マギア》が次々と距離を取り、離脱挙動に移っていく。

 

 そうだ、それでいい。

 

 ――地獄に囚われるのは、自分一人で充分だ。

 

《エクエス》の敵編隊が機銃掃射で自分を捉えようとする。

 

 アルベルトは呼吸を深く一つついてから、両腕を突き出していた。

 

「……ライドマトリクサー第三小隊の小隊長身分、嘗めるんじゃねぇ。コード認証、“マヌエル”、オレに従え……ッ!」

 

 両腕が可変し、そのままコックピットのユニットと同化する。

 

 瞬間、脳髄に突き立った電流の痛みをそのままに、アルベルトは奥歯を噛み締め青い瞳に逆三角の紋様を浮き出させる。

 

「――エージェント、アルベルト。《マギアハーモニクス》、敵をブチのめす!」

 

 本能を剥き出しにされた《マギアハーモニクス》の眼窩が変形し、内部構造を露出させる。

 

 蒸気が噴出し、雄叫びのようなシステム音声を滾らせて、《マギアハーモニクス》は敵陣へと突っ込んでいた。

 

《エクエス》がおっとり刀で対応するもその時には跳躍したこちらが背後に回っている。

 

 腕を突き出し内蔵されたバルカン砲で敵を至近距離より爆砕。

 

 脱力した《エクエス》を盾にして相手がミラーヘッドを展開するような余力を見せずに突き進む。

 

 ほとんどの《エクエス》の乗り手は新兵らしい。

 

 ならば、自分の刃でも届く。

 

 うろたえた相手の喉笛を掻っ切り、振り向きざまに斬撃。

 

 ビームジャベリンの射程を活かして離れた相手へと一閃を見舞った後に、中距離からミラーヘッドを稼働しようとする敵影へと投擲していた。

 

 アステロイドジェネレーターを貫通し、電流が迸る敵影を睨んだまま、《マギアハーモニクス》は大きく後退していた。

 

 相手はもう敗退戦に移ろうとしている。これ以上はジリ貧なだけだ。

 

 そう判断した瞬間、アルベルトは可変した腕を戻し、元の操縦桿を握り締めていた。

 

「……痛っつ……やっぱオレ程度のRMじゃ……三分が限界、かよ……!」

 

《マギアハーモニクス》の露出していた部位が戻ってゆく。

 

 牙を閉ざした《マギアハーモニクス》は飛翔し、敵拠点へと数発の牽制銃撃をもたらしてから、コロニー上層部で待っていた小隊の仲間の手を取っていた。

 

『……無理をし過ぎです。《マギアハーモニクス》のリミッター解除は想定されていないんですよ』

 

「……そうは言ったってよ。ここで示さないでいつ示すっつうんだ……。オレだけの損害で済めばまだ上々だろうさ。それに……あいつはこんな戦いをずっと前線でやってきたんだ。痛みくらいは分からせてくれよ……」

 

 意識レベルが低下していくのを止められない。

 

 どこか遊離した精神でアルベルトはユキノの声を聞いていた。

 

『……ヘッド、そこまでなさる意味なんて、もうないんですよ……』

 

「オレ、を……ヘッドって、よぶ、ん……じゃ、ねぇ……そんな、資格……」

 

 意識の手綱を手離す。

 

 やがて思考は暗礁の闇の中へと落ちて行った。

 

 

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