機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第113話「屍の感情」

 

 騎屍兵分隊を率いるのは、誰が、と決めたわけではない。

 

 ただ自然とリーダー格としてトゥエルヴが矢面に立ち、自分達の境遇を決めてきた。

 

 その行動如何に今さら異議を挟むわけでもなければ、現状を打破したいと願うわけでもない。

 

「君達騎屍兵が遭遇した、と言うのは、《レヴォルテストタイプ》であったのは本当かね?」

 

 眼前の上官相手にトゥエルヴは意思を殺し切ったような冷淡さで応じる。

 

『ええ、間違いなく。機体照合結果のログに残っていると思います』

 

 上官は目頭を揉んだ後に、まことか、と呟いていた。

 

「よもや、強奪されたテストタイプが牙を剥くとはな……」

 

『我々にも下りていない情報です。《レヴォルテストタイプ》が何者かによって鹵獲されていたなど』

 

「……君達は前線兵だ。余計な心配事は聞かせるだけ不要だと思っていた。だが……その見通しは甘かった、というわけだ」

 

『あれは何です? 何故、あそこまでの運動性を確立しているのです』

 

 詰問の論調になっていたが、騎屍兵は誰一人として咎める者は居ない。

 

 トゥエルヴの意見は隊の総意――そう言っても過言ではなかったからだ。

 

 自分達が運用する《ネクロレヴォル》に匹敵、否、凌駕でさえも加味しなければいけないほどの敵は、この三年間現れてこなかったのだから。

 

「《レヴォルテストタイプ》が強奪されたのは随分と前の話になる。君達騎屍兵が設立されるより以前だ。……《オリジナルレヴォル》、聞いた事は」

 

『あります。我々の《ネクロレヴォル》の大元であり、真のレヴォル・インターセプト・リーディング搭載機』

 

「その《オリジナルレヴォル》から電算するに当たり、いくつかのテスト機が生み出された。君らの遭遇した《レヴォルテストタイプ》はそれに相当する。レヴォル・インターセプト・リーディングシステムは、すぐに抽出されたわけではなかった。いくつかの過程を経て、君らの《ネクロレヴォル》に搭載されるに至ったのだ」

 

『それは理解出来ますが、ではあれはただのテスト機だと?』

 

「それにしては、という言い分だな、トゥエルヴ。君の疑問を聞こう」

 

 トゥエルヴはデータチップを差し出し、いくつかの書類も提出していた。

 

『これを見てもらえばよく分かるかと。運動性能だけじゃない、機体反射性、反応速度、どれも段違いでした。近日ロールアウトされると言われている統合機構軍の《アイギス》の発展機である《アデプト》を凌駕していると私個人では判定しています』

 

「第二世代MSをも超える性能だと? ……参照させてもらう」

 

 上官はヘッドセットを装着し、メモリーチップを読み込ませていた。

 

 三分も経たぬうちに状況を理解した上官は感嘆の息を漏らし、今一度自分達に向き直る。

 

「……よくぞこれ相手に生き残れた」

 

『我々は騎屍兵です。もう死んでいる身分ですので、生き残れた、というのは語弊がある』

 

 今のはトゥエルヴの一級のジョークなのだろうか。

 

 イレブンと違い、トゥエルヴとは真正面から話した事がないので、自分には判断出来なかった。

 

「いや、すまないな……。だが理由はハッキリした。あれはコード、マヌエルの実行だ」

 

『レヴォルの意志のリミッターコードですね。我々の《ネクロレヴォル》にも一応は搭載されている』

 

「だが君達は使うなと厳命されたシステム。その概要までは知らされてないだろう」

 

 沈黙を是とすると、上官は改まって説明を始めていた。

 

「……コード、マヌエルとは、レヴォルの意志に存在する制御リミッターであり、搭乗者が極度のライドマトリクサーである者である場合でのみ、発動する代物だ。君達のRM適性でも充分使用可能だが、推奨はされていない。このシステムには欠陥がある」

 

『RMの汚染深度が強過ぎる、とでも言った理由でしょうか』

 

「……あまり聡くなると、たとえ死人である君達でも口を塞がなければいけなくなるのは分かるだろう」

 

『留意いたします』

 

「……汚染深度の問題だが、過去の実験データがある。それによると、八割のRM施術を施された人間であっても、脳髄への損傷が見られたそうだ。意識の混濁、過度な思考拡張による精神の剥離……君達は騎屍兵とは言え、正規の軍人。そんな君達にリスクのあるシステムを使わせると言うのは愚の骨頂だよ」

 

『明確なリスクであるのならば、何故外さないのですか』

 

「外さないのではない。外せないのだ。このシステムはレヴォルの意志の中枢深くに食い込んでいる。これを外せば、今日のレヴォル・インターセプト・リーディングの優位性を削ぐ事に成りかねない」

 

『我々騎屍兵の優位性も、ですか』

 

「そうだ。ゆえに、これは機密とする。理由は言わずとも分かるだろう、トゥエルヴ」

 

『御意に。ですが、遺恨はあります。マヌエルの使用時、戦場に居たエンデュランス・フラクタルのレジスタンス要員……生き延びているのならばマヌエルの実行者とコンタクトがあったと見るべき』

 

 ファイブは追いついてきた《マギア》の改修機を思い返していた。

 

 あれは、自分の気のせいでないのならば間違いない。あの機体のパイロットは――。

 

「それに関してだがね。エンデュランス・フラクタルにはやはり奇妙な動きが目立つ。喜べ……と言っていいのかは不明だが、正規軍が前に出てくれるとの厳命が下りた。間もなく作戦実行が成されるであろう」

 

『トライアウトの、でしょうか』

 

「焼き尽くし(バーンアウト)のネメシスだ。彼らの領分となれば、君達は少しばかり猶予があると思っていい」

 

 まさか、とファイブは人知れず目を戦慄かせていた。

 

 トライアウトネメシスがまたしてもエンデュランス・フラクタルに――ベアトリーチェに仕掛ける。

 

 それは三年前の悪夢の再現だ、とこの時自分は、意想外の言葉を発していた。

 

『その作戦行動、我々が噛む事は可能でしょうか?』

 

 戸惑ったのは上官だけではない。

 

 普段はまるで意識の乱れなどない騎屍兵全員が、自分を異様なものを見る眼で眺めていた。

 

『……ファイブ。どういうつもりだ』

 

『トライアウトネメシスでは作戦行動に支障があると判断し、我が方も加わるべき、という提言です』

 

 よくもまぁ、これほどまでの嘘八百、咄嗟に述べられたものだと我ながら関心さえもする。

 

 鼓動は異常なほど脈打ち、発汗量も尋常ではなかったが、ここが《ネクロレヴォル》のコックピットでない事が幸いした。

 

 誰も自分の内心をモニターする事はない。

 

「……《ネクロレヴォル》隊は温存しておきたいのが本音なのだが、ファイブ、そう提言する論拠を聞こうか」

 

『我々は、奴とは一度戦いました。戦闘経験のないトライアウトネメシスを危険に晒す事はないと思ったからです』

 

『……なるほど。それはある一面では正しい』

 

 まさかトゥエルヴが自分の論拠を補強してくれるとは想定しておらず、ファイブは驚愕の眼差しを向けていた。

 

「では出撃も止むなしと言うのかね、トゥエルヴ」

 

『我々騎屍兵に、上官も部下もありません。我らは等しく命令系統を準ずる者。よってファイブの意見も我が総体における意見の一つなのです』

 

 上官は一考の間を挟んだ後に、では、と全員を見渡していた。

 

「トライアウトネメシスへの出向を命じる。騎屍兵はどの命令系統にも害されない。これは《ネクロレヴォル》隊を作った際に打ち立てた君達の矜持の一つであったな」

 

『感謝します。しかし、《ネクロレヴォル》が前線に幅を利かせ過ぎれば、他の軍務に支障を来す可能性がある。同行するのは私とファイブ、それにイレブンだけの少数精鋭と致しましょう』

 

 まさか、そのような編成になるとは夢にも思わない。

 

 上官は論拠を問い質すような無駄を挟むつもりもないようであった。

 

「……それが総体の望みならば、か。受理しよう」

 

『失礼します』

 

 トゥエルヴが挙手敬礼したのを嚆矢として全員が上官に敬礼を送ってから踵を返していた。

 

 廊下を行き過ぎる自分達を呼び止めるような命知らずは居ない。

 

 だが、並び立つイレブンは別であった。

 

『……どういうつもりだ、ファイブ。お前らしくもない行動だったぞ』

 

『おれ……いいや、私らしく……。しかし我が方が優位なのは違いないはずだ』

 

『馬鹿を言え。トライアウト、正規軍の前でレヴォル・インターセプト・リーディングの真骨頂を晒すわけにはいかないだろう。我々は彼らへのカウンターとして組織されたんだぞ』

 

『いい、イレブン。ファイブとて真意なくして提言したわけでもあるまい。それに関しては《ネクロレヴォル》の性能を絞ればいいだけの事。トライアウトと肩を並べるのは別段、我々の作戦行動としては全くない筋でもないからな』

 

 どうして、こんな時でもトゥエルヴは冷静な判断を下せるのだろう。

 

 単純に不明瞭であったが、エイトが口を差し挟む。

 

『トゥエルヴ、あなたにも思うところがあって、の判断だと思っていいのでしょうか。我々の隊を危険に晒す可能性すらある作戦です』

 

 エイトは唯一の女性兵士であったが、それでも我が強い。

 

 今回の作戦で指揮に組み込まれない事が不服なのだろう。

 

『三名まで、だと判じた。それ以上は禍根を残す。それに、我が隊の手の内を明かすのは旨味がない。三名までならば少数精鋭、我々も最小限度の介入で済む』

 

『……私では力不足だと?』

 

『そうは言っていない。ファイブを選んだのは作戦提言者であるからだが、イレブンを選んだのはファイブをもしもの時に諌められる立ち位置だからだ。当然、私が前に出るのは騎屍兵の作戦行動のレベルを引き上げる意味合いでもある。よって三名が適任。それ以外にはない』

 

 その言葉にエイトは二の句を告げないのか、意見を仕舞っていた。

 

『……しかし、トゥエルヴ。私は個人的な感傷を全く持ち込んでいないとは言えない。どうして作戦を受理させたのです?』

 

 自分の当然の疑問にトゥエルヴは一瞥を振り向けさえもしない。

 

『私も気にかかっている。鹵獲したテストタイプにしてはあの機体、動きのキレが段違いであった。手練れである可能性が高い。トライアウトネメシスが正規軍とは言え、あれ相手に後れを取る可能性もある。その時こそ、我ら騎屍兵が前に立ち、有用性を確かめる。我々への風当たりも少しはマシになってくれるだろう』

 

 そこまでトゥエルヴが加味しているとは思わなかった。いや、思っていればそもそもあの場で口出しなどしなかっただろう。

 

 やはり、自分は割り切れていないのだ。

 

 過去の因縁は終わりにする、ここで手打ちにするという覚悟の不足であろう。

 

『……トゥエルヴ、私は撃てる。不要な心配は……』

 

『無論だろう。それは君への侮辱となる』

 

 ならば自分達は前に進むしか出来ないのだ。

 

 それが数多の屍の上に成り立つであろう、血濡れの道であったとしても、前へ――。

 

 

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