機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第116話「撃つべきは」

 

「機体順応性は七十パーセント以上。ですが、《レグルス》の配備にはコストがかさみます。かと言って、《ネクロレヴォル》隊に追従するのには、《エクエス》では不安材料が大きい」

 

 そう報告の声を飛ばすダイキに、レミアは上の空で応じていた。

 

「ああ、うん。そうね……」

 

「……フロイト艦長? どうしたんですか。あの騎屍兵とか言う奴ら、あいつら生意気ですよ」

 

 前に回り込んできたダイキをレミアは静かに制する。

 

「それでも、特務だって言うんでしょう? なら従うのが軍警察の義務よ」

 

「ですが……! 話に聞いた限りじゃあいつら……俺達の統制を踏みにじっているとか」

 

「噂だけで是非を問うものでもないわ。それに、《ネクロレヴォル》が配備されるのは我々としても、渡りに船と言う奴だものね」

 

 ダイキと共に格納デッキへと至ったレミアは戦闘配置状態の艦内において、喪服のようなパイロットスーツの騎屍兵が今も最終点検を行っているのを目にしていた。

 

「……あいつら、陰気なんですよ。ブリギットの艦内整備士の手は借りない、なんて言っちゃって」

 

「単純な縦社会構造か、あるいは別の理由があるのか、ね」

 

「何なんですか? 別の理由なんて」

 

「……《ネクロレヴォル》を触らせたくない。あるいは秘匿義務」

 

「それこそ、じゃあ何で協力体制なんて取ったんだ、って話じゃないですか。連中お得意のワンマンプレーで済ませればいいだけでしょう?」

 

 その疑問にレミアは脳裏を掠めるものを感じていた。

 

「……私達トライアウトネメシスが既に目を付けられている。ある程度の損耗を加味しての……これは踏み台にされていると、思っていいのかしらね」

 

「どういう事です? 俺達トライアウトネメシスに、勘繰られて困る腹なんて」

 

「ないように思っていても、当の本人が気づかないだけの可能性だってある。ねぇ、こんなことわざを知ってる? “知らぬは仏、見ぬは極楽”、ってね。私達は思ったよりも深く、何かを知り得ている。《ネクロレヴォル》はそのための切り札」

 

「考え過ぎでしょう。第一、だとすれば俺達相手に、レジスタンスが強襲作戦でも仕掛けて来るって言うんですか?」

 

「何か疑問でも?」

 

「現実的じゃないでしょう。それに、強襲をかけられたところで、件のベアトリーチェだって言うんなら、墜とせますよ」

 

「……その根拠を知りたいわね。ダイキ・クラビア中尉」

 

 改まったものだから、ダイキは僅かにうろたえた後に、答えを返していた。

 

「……それは、我が方には優秀な指揮官が居ます。その指揮の下で動いていれば、手負いの艦くらいは叩けます」

 

「本音を、言ってもらえるかしら。建前ではなく」

 

 こちらが言及すると隠し切れないと感じたのか、ダイキは肩を落としていた。

 

「……フロイト艦長が前任だった事は知っています。統合機構軍の。なら、ベアトリーチェの性能を熟知しているとも」

 

「そうね。私はエンデュランス・フラクタルの、ベアトリーチェの艦長を命じられていたわ」

 

「でも、それって命令でしょう? 艦長の意思じゃなかった」

 

「何で言い切れるの?」

 

 それは、と一度口ごもった後に、ダイキは挙手敬礼を返していた。

 

「それは……この三年間、優秀な指揮官の下、戦えた経験があるからです! あなたが過去に囚われているようには見えなかった。それが理由では不服ですか」

 

「過去に囚われている、か。そんなの、当事者の間じゃないと、分かるわけがないじゃない」

 

「少なくとも俺にはそう見えませんでした。レミア・フロイト少佐はブリギットの艦長として武勲を立ててきた。ならば俺達兵士は、それに付き従う義務があります」

 

「義務、ね。……そんな事であなた達を戦場に駆り立てたくはないのだけれど」

 

「自分は士官です。トライアウトネメシスの信念を持っている。だからこそ、統制にも何も疑問は挟みません。それくらいは分かっていただきたい」

 

「あなたはでも、私の過去まで分かった風になったって仕方ない。だってあなたは私じゃないもの」

 

「それは屁理屈だ……」

 

「そうかもしれないわ。でも、相手が襲いかかってくるのならば火の粉を払うのがブリギットの艦長としての正しい職務ではある」

 

 その時、バーミットが管制室へと続くフロアを横切り、自分達を急かす。

 

「艦長とクラビア中尉。とっとと行かないと矢の催促ですよ」

 

「サワシロ大尉! これは失礼を」

 

「……だから、やめてって言っているでしょう。そんなに偉くなったつもりもないんだし」

 

 バーミットは自分の側に流れて来て、肩を叩く。

 

「撃てるんですよね? レミア艦長」

 

 バーミットは理解している。理解した上で問い質しているのだ。

 

 下手な言葉は返せないな、とレミアは応じていた。

 

「……敵がベアトリーチェだと言うのならば、私はあの艦の戦法を全て理解しているつもりよ。負ける要素なんて一つもない」

 

「その言葉が聞けただけでもよかったと、思っていいんでしょうかね。……最悪の場合、特攻もあり得ます。迷いのない判断をくださいよ」

 

 ベアトリーチェが特攻――と脳裏に浮かんだビジョンをレミアは振り落し、トライアウトの士官としての眼差しを投げていた。

 

「……私はブリギットを束ねるだけの人間よ。それなりに修羅場は潜り抜けてきたつもりだし、私情を挟んで敗北するなんて事だけはあり得ないわ」

 

「そうですか。でも、今ベアトリーチェを指揮しているのは、多分、あの子ですよ。自分の事だけでも精一杯なのに、それでも他人のために頑張っちゃうようなあの子の、息の根を止めると、本気で仰っているんですよね?」

 

 分かっている。これは狡い論法なのだと。

 

 それでも、自分は答えなければいけない。トライアウトネメシスの艦長としての言葉を。

 

「……相手が誰だろうと関係がないわ。目の前を阻むような敵は全て排除する。それがトライアウトネメシスとして、正しい判断のはずよ」

 

「心強いですよ、フロイト艦長は」

 

 ダイキの声を受けてレミアは管制室へと向かっていた。

 

 既にブリギットに務める士官達は戦闘態勢に入っている。

 

「これより、レジスタンス残党勢力の統制に移ります。ブリギットによる敵の掃討の後、トライアウトネメシスが先陣を切って相手を拿捕。騎屍兵も協力してくれるとの事ですが、当てにし過ぎないよう。彼らには彼らの利害がある。我々には我々の勝利がある事を、ゆめゆめ忘れないように」

 

「よっしゃ! みんな! いっちょかましていくぜ!」

 

 ダイキがいい景気づけになってくれている。レミアは艦長席に腰掛け、帽子を深く被っていた。

 

「……そうよ、私はもう、戻れるなんて都合のいい事、思っちゃいないもの。……ブリギット出撃! 推定される敵宙域までのミラーヘッド段階加速! 目標、エンデュランス・フラクタル艦、ベアトリーチェ!」

 

 ――そう、それが分かっているのならば。

 

 因果をそそぐのは今のはずだ。

 

 

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