機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第十三章「七番目の遺志を継ぐ者〈リコレクション・オブ・セブンスベテルギウス〉」
第121「仕組まれた出会い」


 

「帰ってくるなり矢の催促。正直、すまないとは思っているわ」

 

 マーシュの言葉を聞いて、メイアはいいや、と彼女の心労を慮る。

 

「それでもよくやってくれているほうでしょ。ボクらギルティジェニュエンの支援に、その他諸々の。分かっているよ。そろそろ時が来るんだよね?」

 

「……あなたに悟らせたような事を言って欲しくないのよ」

 

「艦長殿はお優しいなぁ。……ま、ボクがどれだけ抵抗しても無意味なのはよく分かっているつもり。だってボクはマグナマトリクス社の所有物でしょ」

 

「……そこまで言い切るつもりはないのよ。あなた達は本社のエージェント。何も落ち度なんてない」

 

「落ち度がないからってこの世界から取りこぼされるほど、無関心気取れないって言うのも分かるし。……例の機体のテスト、どの辺りまで行ってるの?」

 

「現状、六割、と言ったところかしら。私達の権限ではでも、《ダーレッドガンダム》の内情までは切り込めない。歯がゆいのよ。あなたをテストパイロットにさせるって言う上の意見は押し返せないのに、あっちの都合は飲まなくっちゃいけないって言うのは」

 

「……それは艦長として言っているんじゃなくって、ボクらのマネージャーとして言ってくれていると思って?」

 

「ええ、何よりもあなた達を知る古株の一人として……危険に晒したくない」

 

「いいの? それって、本社や上層部からしてみれば、反感を買うんじゃ?」

 

「私は私の出来る事をしてから、あなた達に託したい。これから先の……未来を」

 

 マーシュはどこか懺悔めいた口調で語る。

 

 しかしそれは最早覆しようのない事実であろう。

 

 自分は《ダーレッドガンダム》に搭乗し、この来英歴を変える戦いを繰り広げなければいけない。

 

「……そのための《ネクロレヴォル》、そのためのマグナマトリクス社、か。正直、ボクはギターと一緒ならどこだっていいつもりだったけれど、それでも何だか……遠いところまで来たなって思うよ」

 

「あなたに押し付けるつもりなんてなかった。でも、私は結局、あなたに責任も何もかもを押しつけてしまった……。どれだけ悔いても足りないわ」

 

「艦長、あのさ……。ボクの意見、言ってもいい?」

 

 ここで自分がどう応じようとも、上の決定には逆らえない。それが分かっていてもなお、マーシュに問いかけたかった。

 

「ええ、もちろん」

 

「……正直なところで言うと、アーティスト活動、結構好きだった。元々エージェントの隠れ蓑として作ったバンドのギルティジェニュエンだけれどでも、本気でアツくなれたのは本物だと思っている。……イリス達にもよろしく言ってもらえるの?」

 

「保証は出来かねるわ。もしかしたら……イリス達は記憶を消されてあなたとこれまでの数年間、バンドとして一緒に抗ってきた事さえも忘却され、エージェントとして使い潰されるかもしれない……」

 

「……最悪の想定がそれ、か」

 

「ごめんなさい……。あなた達を守るのが私の役割のはずなのに……いつの間にか私はあなた達に全てを押しつけていた」

 

「いいよ、艦長のせいじゃない。だって、ラムダの航行も今のところ悟られていないし、それに《ネクロレヴォル》の配備だって上の決めた事だ。艦長の責任じゃないよ」

 

「いいえ、私なのよ。……あなた達に直接命じるのは私だもの。だって言うのに……同じ口でアーティスト活動を頑張れとも言う……。賢しいだけなのよ、結局はね」

 

「それでも生き延びるためだ。艦長は……ああ、いや。マーシュはよくやっていると思うよ」

 

 自分の口調がどこか諦観を浮かべていたせいなのだろう。マーシュは涙ぐんでいた。

 

「……ギルティジェニュエンをこの宇宙で一番のバンドにしたかった……それは嘘偽りのない、本音だったの。でもその裏で……あなた達に降りかかる火の粉を、止められなかった。マネージャー失格ね」

 

「そんな事はない。よくやってくれたはずさ。……結果は、残念な事になっちゃったけれど」

 

「メイア・メイリス。マグナマトリクス社の特級エージェントとして、あなたには……七番目の聖獣、《ダーレッドガンダム》のテストを行ってもらいます。拒否権はありません」

 

 その言葉が最後の断絶だったのだろう。

 

 艦長室に押し入ってきた二人組の黒服の背中に続こうとして、不意に銃声が劈いていた。

 

 まさか、と振り向いた黒服の眉間に一発、そして最初の一発は黒服の脚を削いでいた。

 

 メイアはその行動に――拳銃を突き出したまま茫然としているマーシュ相手に目を見開く。

 

「……マーシュ……?」

 

「逃げなさい、メイア」

 

「何言って……こんな事したら、キミだってただじゃ――」

 

「逃げるのよ! メイア! これは艦長職でもましてやマネージャーとしてでもない……人として、あなたへと捧ぐ最後の言葉よ! 私が時間を稼ぐから、あなたは逃げて!」

 

 メイアはその言葉に弾かれたように駆け出していた。

 

 瞬く間にラムダの艦内が赤色光に染まる。

 

 しかし、まさかマーシュの謀反だと想定している人間は少ないのが幸いしていた。

 

 格納デッキまで無重力区画の壁を蹴って抜け、メイアはアイドリング状態の《カンパニュラ》へと搭乗していた。

 

「メイアさん? どうしたんですか、この非常態勢は!」

 

 年若いメカニックへとメイアは気密を確かめてから嘘偽りを述べる。

 

「敵が艦内に潜入した。ボクは先んじて突入するから、キミ達は気を付けて」

 

「敵の潜入? ……まさか、エージェントか何かが……」

 

「いいから! 詮索は後でも出来る! ボクが敵陣を蹴散らしていく!」

 

「あ、……はい! 《カンパニュラ》、出撃準備!」

 

 しかし、リニアカタパルトまでの水先案内人を務めるような生易しさは存在しない。

 

 否、ある程度の抵抗は予期していたと言うべきか。

 

 射出スリッパを履いた《カンパニュラ》へと、《アイギス》が照準を付けている。

 

「……大人しく射出タイミングを待っているような時間はない。仕方ないかな。――強制排除! メイア・メイリス! 《カンパニュラ》、出るよ!」

 

 宙域へと浮かび上がったメイアの《カンパニュラ》はまず初撃を相手に与えてから、光学迷彩を纏おうとして、《アイギス》二機がミラーヘッドの機動に入ったのを目にしていた。

 

「オーダーの受諾は……待ってられない。レヴォル・インターセプト・リーディング、起動……ボクに従え……っ!」

 

 パブリックのミラーヘッドオーダーを取得する間に狙い撃ちにされるくらいならば、自分は叛逆の因子に身を任せよう。

 

「REVOL」のメインコンソールが浮かび上がり、メイアは両腕を拡張させ、青い光を瞬かせて接続する。

 

 脳髄に、一瞬だけ突き立った刃の感覚。

 

 それを噛み締めて、メイアの《カンパニュラ》が宙域を疾走する。

 

《アイギス》のおっとり刀のミラーヘッドの防衛網を突き抜け、敵影の背後へと回り込んだ《カンパニュラ》が抜刀していた。

 

 ビームサーベルで敵の背筋を割り、そのままの加速度に身を任せもう一機を蹴り上げる。

 

「これでダメ押し!」

 

《カンパニュラ》の四肢に内蔵されていた火器が稼働し、無数の幾何学機動を描いて二機に突き刺さる。

 

 これで追っ手は退けたか、とメイアが息をついた次の瞬間、ラムダ甲板より出撃した《カンパニュラ》数機がそれぞれ迎撃機動にばらける。

 

「……嫌だな。マーシュの言っていた懸念、当たっちゃっているじゃんか」

 

 動きからそれらに搭乗しているのがギルティジェニュエンのメンバーである事が窺えるも、照準に迷いはない。

 

「……有機伝導体操作技術でボクの事なんて忘れちゃった? ……イリス達……」

 

 有無を言わせぬ抜刀速度にメイアは距離を稼ごうとしたが、その時には挟撃が奔っていた。

 

《カンパニュラ》同士での戦いは泥仕合となる。

 

 それは光学迷彩を搭載した強襲機と言う特性上、最も忌避すべきであった。

 

「……距離を取っても地獄、取らなくても地獄……。何ならこのままボクが大人しく捕まっても地獄か。……それは、嫌だなぁ……」

 

 何よりも。

 

 この機を作ってくれたマーシュに報いるためには、自分はここで生き延びなければいけない。

 

 ならば――仲間でも牙を突き立てよう。

 

 それが正しく、叛逆すると言う意味ならば。

 

 メイアは《カンパニュラ》のミラーヘッドの加速度で直上へと躍り上がり、四肢内蔵武装を展開していた。

 

 ミラーヘッドジェルと連動した蒼白い弾頭は《カンパニュラ》の指揮系統を乱す。

 

 その隙に敵へと仕掛ける、なんて言う愚は冒さない。

 

 自分は所詮、単騎戦力では程度が知れている。

 

 ならば、逃げに徹する時間を一秒でも作るべきだ。

 

 ミラーヘッドの段階加速ですぐにでも宙域を抜けて光学迷彩を纏おうとして、追撃する《カンパニュラ》の銃撃を背に受けていた。

 

 激震するコックピットの中で、メイアは呻く。

 

「……ここで死んだら、何のためのマーシュの借りなんだか……。死なない……いいや、死ねないね。そうじゃなくっちゃ、ボクに道があるのだと信じてくれた人に、唾を吐くようなものだ!」

 

 応戦の銃撃を見舞うも、多勢に無勢。

 

 銃撃網の嵐を前にすれば、自分の技量など塵芥の代物。

 

 次々と腕と足をもがれていく《カンパニュラ》に、思考拡張の痛みが滲む。

 

 ミラーヘッドを飛ばして盾にしようとするも、無慈悲な斬撃がその分身体を両断していた。

 

「……もう、憶えてもいないってワケか……」

 

 残酷な《カンパニュラ》の刃が自機を叩き割ろうと大上段に構える。

 

 ――ここまでか、と諦念に虚脱した瞬間、暗礁宙域を掻っ切ったのは艦砲射撃の光軸である。

 

「……あれは……? 騎屍兵団の……」

 

 情報を目にした事がある。

 

 騎屍兵――《ネクロレヴォル》隊専用の旗艦が存在すると。

 

 だが実際に目の当たりにしたのは初めてだ。

 

 灰色の艦艇は砲撃網で《カンパニュラ》を退けさせ、撤退機動に移らせる。

 

「ボクを助けた……? どうして……」

 

《ネクロレヴォル》が編隊を組んで出撃し、自分と《カンパニュラ》を確保する。

 

 抵抗しようかとも思ったが、四肢のない機体では何の抵抗にもならないであろう。

 

 何よりも、相手の思惑が不明であった。

 

 もし抵抗するとしても懐に潜り込んでからのほうがいい。

 

 エージェントとしての習い性の神経がこの時、《ネクロレヴォル》に押さえつけられるのをよしとしていた。

 

 格納デッキに帰投するなり、《カンパニュラ》はまるでゴミクズのように投げ捨てられる。

 

 球状の全天候周モニターがブロックノイズを生じさせていたが、それでも包囲されているのは見て取れた。

 

『《カンパニュラ》のパイロットへ。……いいえ、この問いかけもほとんど意味はないですわね。――叛逆者、メイア・メイリスへ。通信感度はどうですか?』

 

 相手は自分を知って援護したようであった。

 

 だが、ならば余計に疑問が浮き立つ。

 

「……何でボクだと分かって助けた? おかしいじゃないか。そっちは騎屍兵団なんだろう?」

 

『確かに、わたくしは騎屍兵を束ねる師団長。この新造艦の艦長を務めております。ですが、情報は何よりも優先されて然るべきもの。貴女の保護のつもりで動いたのではありません。あのマグナマトリクス社の艦であるラムダの脚を抑え、その合流目標を見据えての作戦行動だったのが、どうしてなのか《カンパニュラ》同士で争う貴女達を目にして、作戦の方針を変えたまで』

 

「……冷たい声音だね。まるで機械みたいだ」

 

『……どうとでも。我々第七期騎屍兵団は情報戦を得意とする者達です。よって、貴女の生存に意味を見出し、ここでは貴女を死なせない事が有益だと判断しました』

 

「どうかな。それは間違いかもよ?」

 

『言葉を弄するだけの余裕もないでしょう? 歓迎しましょう。メイア・メイリス。我が艦――呪いの魔女、モルガンに』

 

「……モルガン……。何て名前だ。死にに行けとでも言っているような名前じゃないか」

 

『ゴースト、スリー。ナインに伝達。《カンパニュラ》のパイロットは生かしたまま、わたくしの艦長室まで運んでください』

 

 その言葉に《ネクロレヴォル》から出てきた喪服のパイロットの者達が取り付き、レーザーカッターで無理やりコックピットハッチを焼き切って自分を拘束する。

 

 抵抗するにしても、ここはまだ待つべきだ。

 

 待って敵の考えを推し量らなければ自分は何の価値にもならない。

 

 艦長室とやらまで警護される途中、メイアは質問を投げていた。

 

「キミらが、あの悪名高い、騎屍兵? 地球圏の統制を行っているとか言う、軍警察でさえも、キミ達には勝てないんだろ?」

 

 沈黙。あるいは返答するような舌はないとでも。

 

「興味深いなぁ。だってあれ、《ネクロレヴォル》って言う。じゃあ元の《レヴォル》はどこに行っちゃったんだろうね? ボクも乗れたんだ。レヴォルの意志とやらに選ばれてね。キミ達も特別ってワケ?」

 

『……お喋りだな』

 

「おっ、やっと返答してくれた。ねぇ、じゃあキミらもレヴォルの意志のままにって事?」

 

『ナイン、反応するのは下策です。今は、艦長に任せましょう』

 

「キミ、女性構成員なんだ? へぇー、騎屍兵って女も居るんだね」

 

 こちらの言葉振りにバイザーの奥が覗けない鉄面皮を崩さず、相手は応じる。

 

『艦長と話してください。私達と話すのは必要ない』

 

「そうは思わないけれどなぁー。だってキミ達だって使っているんだろう? レヴォル・インターセプト・リーディング。あれ、本当に世界を欺けちゃう夢のシステム。元々第四種殲滅戦のルールだった上位オーダー、下位オーダーの原則を破っちゃった。トンデモ兵器だよね。じゃあボクら纏めて、世界の敵じゃん。仲良くしようよ。ねぇってば」

 

 自分を拘束する二人はそれ以上言葉を重ねようとはしない。

 

 そのまま艦長室へと彼らは自分を物のように扱いつつ、入室していた。

 

「ご苦労様です。二人とも、下がっていいのですよ」

 

『しかし、艦長。この者、少し口さがが……』

 

「聞こえなかったのですか? ナイン。下がっていい、とわたくしは言いましたわね?」

 

 その物々しい圧を発する人間は、艦長室の巨大な情報集積用である半球型の椅子に深く腰かけていた。

 

 黒髪をツインテールに流し、金色の瞳は今もさばかれていく情報処理に忙しく、こちらをまるで一顧だにしない。

 

『……後は任せます。リクレンツィア艦長』

 

 二人の騎屍兵が立ち去ってから、小柄な艦長はこちらへとようやく視線を投げていた。

 

「好奇心は猫をも殺す。控えるのですね、要らない質問は」

 

「それって警句? ……まぁ、いいや。キミみたいなちっこいのが艦長? 珍しいね。いや、戦場を闊歩する騎屍兵団の正体が、まさか女の子だなんて思いも寄らない」

 

「口だけは達者なようですが、物事を弁えるように。わたくし達は貴女の生殺与奪の権利を持っています。あまり出しゃばれば、その回る舌も引っ張らなくってはいけなくなる」

 

 メイアは艦長室の景観を見渡していた。

 

 ラムダの艦長室とはまるで異なる。

 

 大きくアーチの取られた艦長室は常に情報が同期されており、四方八方に地球圏から木星圏までの最新情報が映し出されている。

 

 さながら情報の津波が押し寄せては返すように。

 

 キーをいくつか打ってから、小柄な艦長はぴょんと椅子から跳ねてこちらへと歩み寄って来ていた。

 

 ――相手の体格から、自分でも制圧出来るか、と浮かべた感覚に金色の瞳が鋭く光る。

 

「自分でも制圧出来るか。なんて事は考えないよう。わたくしに何かあれば、無慈悲な騎屍兵の餌食となるのは貴女のほうです」

 

「……騎屍兵に殺されるのは嫌だけれど、じゃあボクをどうしたいのさ。助けたって言うけれど、正直、余計なお世話だし、何なら必要なかった」

 

「そうですか? それにしては《カンパニュラ》は損耗していましたし、何よりもあれは友軍からの攻撃でした。識別照合にもそう出ています。何故、ああなったのですか? 貴女はマグナマトリクス社の擁する特級エージェントでしょう?」

 

「……ちょっとした上との諍いでね」

 

「嘘ですね。わたくし、嘘にだけは鼻が利きますから。貴女は半ば諦めていたところに、何かが偶発的に作用し、あの艦から離脱……いいえ、反旗を翻した。その結果、友軍からも狙われ、死に瀕すると言う……愚の骨頂にも等しい状態であった」

 

「穿ち過ぎだよ。それに、別段ピンチでもなかったし」

 

「ですから、嘘には鼻が利くのです。貴女の嘘は、かつて虚飾と野蛮だらけだった誰かさんよりも明け透けで、それでいて何者かを庇うための嘘。何かがあって、貴女はマグナマトリクス社を裏切らざるを得なかった。不可抗力だったのでしょう?」

 

「……まるで見てきたように言うんだね」

 

「実際、情報の集積場所では見てきたように語れるのです。普通の人間がまだ至っていない極地であろうとも」

 

「……キミは何だ? どうしてボクみたいなのを受け入れようとする?」

 

「それは貴女次第。貴女の対応が生きるか死ぬかを決めるのです。さぁ、何があったのです? 語ってもらいましょうか」

 

「……悪いけれど、ボクはこれでも口は堅いんだ。アーティストだから知らなくっていい事まで知っちゃう性質だし」

 

「存じていますよ。ギルティジェニュエン。そのメインボーカル、メイア・メイリス。貴女はかつて三年前、《オリジナルレヴォル》に見初められた経歴を持つ」

 

 まさかそこまで看破されているとは想定しておらず、メイアが目を戦慄かせると、相手は肩を竦めていた。

 

「結構常識なんですよ? レヴォルの意志の選んだこの世でたった二人だけの叛逆者は。貴女が知らないだけで」

 

「……キミは……」

 

「――ピアーナ。ピアーナ・リクレンツィア。統合機構軍、エンデュランス・フラクタル所属、中佐相当官です」

 

 冷たく断じた声にはまさか、という感覚があった。

 

「……エンデュランス・フラクタル……? あの企業が、《ネクロレヴォル》を……?」

 

「おや、ご存知なかったのですか? いえ、これも機密情報ですわね。《ネクロレヴォル》隊は軍警察上位組織なのだと、一般的には認識されていますが、その実は統合機構軍の生み出した、軍警察ですらも凌駕する統制機関です。我々は軍警察のこれまで敷いてきた愚劣な統制よりも強い、さらなる人々の意思の統一と、そして反抗勢力の駆逐を目標に掲げています」

 

「……まるで法の代弁者みたいな口振りだ」

 

「事実、そうなのでしょう。わたくし達はトライアウトとは敵対関係にあります。彼らのやる統制は、最早手ぬるい。我々の統制こそが、明日を切り拓く一手となり得る」

 

「……じゃあ、キミ……ピアーナ。改めて聞くけれど、エンデュランス・フラクタルなら助ける利はないでしょ? 何で助けたの?」

 

「……不明な物事に遭遇すれば、人はどう動くと思いますか?」

 

「何? 謎かけ? そりゃあ……不明瞭さを明確にするために、決断するだろうね。目を瞑るか、真実に肉薄するかの、どっちかかな」

 

「結構。わたくしは目を瞑るのはまっぴら御免ですので、貴女を助け、そして真実を聞き出そうとしている。それではご不満ですか?」

 

「でも、そうだとすれば余計に……キミが動いたのは独断って事になるけれど?」

 

「ええ、これはわたくしの独断です。エンデュランス・フラクタルにはダミー情報を既に走らせてあります。上層部に知られれば、わたくしの身柄とて危うい。これでも生かされている身分なのです。全身RMと言うのは、全く不便な代物でしてね」

 

 その段になってメイアはピアーナのあまりに白いうなじと、そして整った外見に納得していた。

 

 小柄なのも全身ライドマトリクサーなのだと言われれば義体をアップデートしていないだけなのだと窺い知れる。

 

「……何て言う化け物を飼ってるんだ、エンデュランス・フラクタルって言うのは……」

 

「今のは聞かなかった事に致しましょう。……さて、メイア・メイリス。貴女がわたくしの事を知らないのは当然でしょうが、わたくしは貴方の思っている以上に、そちらには詳しい。話していただきましょうか。あのラムダで何があったのか。何が起こり、貴女は追われる身分となったのか」

 

 ピアーナ相手に下手な隠し立ては不利に働くだけだ。

 

 それに、今は一時でも早く、マーシュを助け出さなければ、彼女の命が危うい。

 

「……どこから話すべきなのかな……」

 

 この物語は、長くなりそうであった。

 

 

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