機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第125話「答えのない戦域へ」

 

 戦うにしては迂闊だ、と《疑似封式レヴォル》に収まった自分へと、サルトルの文句が飛ぶ。

 

「……性能なら充分のはずだけれど」

 

「そうじゃない。こいつのリミッター、お前、弄っただろ。ったく、とんでもない化け物を仕立て上げたもんだ。おれもおれで前回気づくような余裕がなかったのが悔やまれる。……クラード、これに乗り続ければ、お前でも死ぬぞ」

 

「それは忠告? 言っておくけれど、俺は止まる気はない」

 

「ああ、くそっ。その意見も分かるんだから始末に負えないんだよ……! ……《疑似封式レヴォル》の性能を引き出せ、とのオーダーだったが、もうこいつも限界だ。次の戦闘でパブリックのミラーヘッドとコード、マヌエルを併用すれば、確実にガタが来る。その時に、何の備えもないんじゃやられるぞ……!」

 

「備えならある。敵の新型機を鹵獲する」

 

「……簡単そうに言いやがるがなぁ、ったくもう……。こっちにもデータ共有はされた。目標の場所は……それにしたって因果なもんだ。かつてのコロニー、デザイア宙域に新設された、新たなる工業コロニー――エンデュランス・フラクタルインダストリアル71号コロニー、通称セブンワン、か」

 

「そこにあるのは間違いないんだな?」

 

「今さら情報の真偽を問うものでもないだろう。デザイア宙域だ。お前らの庭だろうに」

 

「言っておくけれど、俺はデザイア周辺宙域で戦闘した経験はない。何があったって不思議じゃない宙域だ」

 

「分かってるって。半分ジョークだよ」

 

 クラードはモニター越しのサルトルの背中に宿った憔悴を感じ取り、静かに声を投げていた。

 

「……疲れてる?」

 

「疲れる暇なんてないさ。いつもいっつも、どれだけ忠告したって聞かない小隊長様と、それにお前の合わせ技だって言うんだ。寝る時間さえも惜しいくらいだな」

 

「……悪いな、サルトル。あんたには……」

 

「借りがあるとでも? 言えるようになって来たじゃねぇか。あのエージェント、クラードが。それもこれも、カトリナ女史のお陰かねぇ」

 

「……何であいつが。そこは関係ないだろ」

 

「いつまでも澄ました事言ってんじゃねぇよ、クラード。いい加減、進展の一つや二つも――」

 

 そこで耳馴染みのない警戒音声がけたたましく鳴り響く。

 

 赤色光に塗り固められていく艦内で、クラードは予感していた。

 

「……もう来たか。足が速い艦が居るな」

 

「おいでなすった! ……ったく、悠長に世間話も出来やしねぇ。整備班! ブリギットの艦内設備に慣れているような時間はない! 作戦行動に入るぞ! ……それにしたって、あまりにも早い合流だ。何かあると、思ったほうがいい」

 

「ああ。騎屍兵連中が追いかけてきたにしては、速度がダンチだ。……別働隊か」

 

「おれ達はもう、追われる身だからなぁ。ブリギットなんて言う分かりやすい的もある事だし、大義やら何やらでいつでも撃てるだろうさ」

 

「撃って来るのなら、撃ち返せばいい。サルトル、俺は前に出る。他の連中には、目標の確保を最優先に――」

 

『何言ってやがる! クラード! 今回ばっかりは、いいカッコさせねぇ! RM第三小隊! 底力を見せんぞ!』

 

 アルベルトの言葉が響き渡り、応! と声が相乗する。

 

『クラードさん。逃げ隠れだけさせるのもやめさせてもらいますからね。私達の実力、三年前から変わらないと思っていたら大間違いなんですから。通信終わり!』

 

 ユキノの強気な発言が回線に居残り、《マギア》編隊が次々とカタパルトへと移送されていく。

 

「……変わったのは一人だけじゃない、か」

 

『ぼやぼやしてんな! 敵はマジに追ってくるぞ! ブリギットのカタパルトより発艦後、波状攻撃で敵艦の足を削ぐ! クラード、そっちの目標物は任せたぞ!』

 

 カタパルトにて、発艦準備に入っていく《マギア》をモニターの中で視野に入れ、クラードは管制室に呼びかける。

 

「バーミット。敵影は?」

 

『ヘカテ級戦艦ね。新造艦みたい。こっちのデータ照合にも時間がかかるわ。でも……奇妙ね。この宙域に到達するにしては、あまりに素早いと言うか……』

 

「禍根は後で晴らす。今は出撃姿勢に入らせてくれ」

 

『はいはい。あんたも身勝手なんだから。……カトリナちゃんの作戦、きっちり頭に入ってるんでしょうね?』

 

「ああ。俺は委任担当官、カトリナ・シンジョウの作戦に従う」

 

『……ああ、そう。あんたらしいと言えばあんたらしいけれど。……これだけは個人的な入電。生きて帰ってきなさいよ。これまでみたいに、結果として死ななかった、じゃ許さないんだから』

 

「それは手厳しいな。俺達は敵地へと足を踏み入れている。デザイア跡地だろうが、何だろうが……敵の牙城なのは違いない」

 

『迷いのないのも今はちょっと不安だけれど、まぁいいわ。《マギア》、発艦準備どうぞ』

 

『よっしゃ! 《マギアハーモニクス》、アルベルト・V・リヴェンシュタイン、出るぞー!』

 

 ちょうど先端が張り出した形のブリギットからは上下カタパルトより同時にMSを射出出来る。

 

 次々に作戦展開していく機体群を見送りながら、クラードはカタパルトボルテージに固定された《疑似封式レヴォル》の接続口へと、自身の両腕を翳す。

 

「……行くぞ、《レヴォル疑似封式第六形態》。正念場だ」

 

 直後、可変した両腕を接続させた瞬間には、電流が脳髄に突き立ち、最後の怨嗟が響き渡る。

 

「……死なない、か。俺はだが、それはとうに踏み越えた領域さ」

 

『《レヴォル疑似封式第六形態》、射出タイミング、どうぞ』

 

「了解。《レヴォル疑似封式第六形態》、エージェント、クラード。迎撃宙域に先行する!」

 

 迸った青い電流を蹴り上げ、飛翔した《疑似封式レヴォル》の視野に大写しになったのは、かつてデザイアがあったとは思えない工業コロニーの存在感であった。

 

 自分達の足跡を消し去ったその先に、しかし、進むべき叛逆の道があると言うのならば――自分は迷わない。

 

「《疑似封式レヴォル》で敵陣に踏み込む。第三小隊は援護射撃を乞う」

 

『応よ! 行くぜ、お前ら! ここが踏ん張りどころだ!』

 

《マギアハーモニクス》の銃撃を嚆矢として、小隊編成における援護射撃を心得ている彼らの銃撃網を抜けて来たのは、灰色の機影であった。

 

「……《ネクロレヴォル》? ……あの艦にも居たのか」

 

『聞こえる? クラード。……現状、考え得る最悪の相手と行き遭ったわ。敵艦の名はモルガン。艦長の名前は――ピアーナ・リクレンツィア。統合機構軍の新鋭艦よ』

 

 通信網に焼き付いた悔恨にクラードは一瞥を振り向ける。

 

「……ピアーナ……? あの艦に居るって言うのか……」

 

『今は。二つも三つも奪還は不可能。作戦通りの手はずでお願い。……ピアーナとまさかこうして敵同士になるなんて想定外だったけれどね……』

 

 だが、モルガンとやらは本気だ。

 

 本気でブリギットに仕掛けて来ている。この状況では、前回のような呼びかけは不可能であろう。

 

 艦砲射撃が光輪を作り出す戦場で、クラードは噛み締めていた。

 

「……これも因果か。《疑似封式レヴォル》、このままセブンワンに突入する!」

 

 しかし針路を遮ったのは、熱源警告であった。

 

 何もない宙域から四方八方にビームの光軸が咲く。

 

「……光学迷彩……! 《カンパニュラ》か」

 

 熱源探査モードに設定させ、照準の先に《カンパニュラ》を捉えて加速度をかける。

 

 血液が沸騰する感覚をそのままに、クラードはヒートマチェットを電荷させていた。

 

 赤い残光が居残り、不可視の敵を両断していく。

 

「マグナマトリクス社との蜜月はハッキリしたな。……だが、ブリギットが……」

 

『クラード! こっちは気にすんな! お前は自分の任務を果たせ!』

 

「アルベルト……了解。このまま先行する!」

 

《マギア》小隊が《ネクロレヴォル》との交戦に入るのを視野の隅に入れつつ、クラードは《疑似封式レヴォル》を奔らせる。

 

 放射されるビーム粒子をかわしつつ、機体に加速度をかけさせて突入させていた。

 

 真正面に捉えた不可視の《カンパニュラ》をゼロ距離でビーム刃を構築させた太刀で薙ぎ払い、直角に機動を折れ曲がらせ、セブンワンの狭いメンテナンスルームへと駆け抜ける。

 

 その途上で自動迎撃のタレットが発動し、火線が交錯するが、クラードは構っていられなかった。

 

「……《疑似封式レヴォル》。ここが正念場だ。悪いが耐えてくれ……俺も、痛みには耐えよう」

 

《疑似封式レヴォル》から伝達した激痛を押してでも、自分は進まなければいけない。

 

 そうでしか示せない。

 

 タレットの銃弾を引き受け、装甲が弾き飛ばされる感覚を味わいながら、クラードは隔壁に向けて腰部に格納したビームランチャーを照準していた。

 

「一撃に……賭ける! 行け!」

 

 引き金を絞り、隔壁が灼熱に爆ぜていた。

 

 その向こう側より無数の高熱源が関知され、すぐさまビームランチャーを投擲する。

 

 相手の《カンパニュラ》機動編隊は死角から攻撃を見舞う。

 

 クラードは意識の網を加速させ、《疑似封式レヴォル》に魂の手綱を握らせていた。

 

「……コード、マヌエル実行……! 《レヴォル疑似封式第六形態》、敵を殲滅する!」

 

 跳ね上がった《疑似封式レヴォル》が天井に足を付け、速度のままに蹴り上げて《カンパニュラ》の頭部を引っ掴む。

 

 そのまま引き千切り、袖口に仕込んだワイヤーを機体の弱点へと突き刺していた。

 

 ワイヤーの膂力を用いて反対側に位置する《カンパニュラ》へと機体を投げ捨て、誘爆の輝きが光輪を形作る中で、《疑似封式レヴォル》は電荷させた爪を《カンパニュラ》の頭部へと突き込んでいた。

 

 溶解した敵の頭蓋を引っ掴み、膝頭で衝撃を叩き込んでアイリウムを麻痺させる。

 

 敵からの火線を盾にして防御し、痙攣するかのようにミラーヘッドジェルを撒き散らす《カンパニュラ》のアステロイドジェネレーターを後ろから手刀で突き破る。

 

 収縮爆破が起こる前に機体を蹴り飛ばし、クラードは次の敵を見据えていた。

 

「……ここでは死ねない……まだ俺は……死ねないんだ」

 

 その眼差しは真紅に染まっている。

 

 残光を棚引かせ、《疑似封式レヴォル》は空間を奔っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦はセブンワンへと侵攻していく模様。先読みが通用した形ですわね」

 

 管制室にて、RM専用の半球型の艦長椅子に腰かけたピアーナへと、皮肉を投げていた。

 

「……何でボクをブリッジに? 収監させておけばいいのに」

 

「貴女にはまだ利用価値があります。何よりも、あの工業コロニーはマグナマトリクス社の所有物でもある。もしもの時には」

 

「人質、か……。その価値もないかと思うけれど」

 

 メイアは今も戦火が収まらない戦闘宙域を眺め、《マギア》小隊と交戦に入る《ネクロレヴォル》隊を視野に入れる。

 

「騎屍兵……まさか勝手に出していいなんて思わなかったけれど」

 

「わたくしは師団長です。騎屍兵を指揮する義務があります」

 

「それもどうなんだか。全身ライドマトリクサーの艦長なんて、まさか統合機構軍が抱えているなんてね」

 

「どうとでも。わたくしに嫌味を発したところで、戦局は変わりませんわよ」

 

「それはその通りさ。……でも分かんないのは、あの戦闘艦はブリギット……確かトライアウトのもののはず」

 

「ですが、つい数時間前にあの艦艇は拿捕されています。……レジスタンス組織に」

 

 何故なのだか、悔恨を噛み締めたような論調にメイアは疑問符を挟みつつ、《マギア》編隊が《ネクロレヴォル》と撃ち合っているのを目の当たりにする。

 

「……あっちの戦力も相当だ。《ネクロレヴォル》と真正面から戦おうとするなんて」

 

「……蛮勇と勇猛は、違いますのにね。それでも貴女は行くと言うのですか……カトリナ様……」

 

 その名前を問い質す愚は冒さない。

 

 メイアは人質の身分を持て余し、工業コロニーを睨む。

 

「あそこに眠っているのが……世界を暴く機体――」

 

「ええ、貴女の情報通りならば、ですが。しかし、我が方として見ても防衛対象です。セブンワンに潜入しようとするブリギット艦を轟沈させ、戦力を削ぐ。その決定に相違ありません」

 

「……何か、無理してる?」

 

「何の事なのだか」

 

 知らぬ振りを気取っているが、それもプライドか何かに糊塗されたのが窺える。

 

「……誰が手に入れるのかな。世界を変える機体なんて」

 

「勝利者はわたくし達です。その位置関係さえ変わらなければいい。弾幕を張ります。艦砲射撃をわたくしに一任してください」

 

 管制室には人が少ない。

 

 ほとんどがアイリウムによるオート制御であり、詰めているのは三名ほどだ。

 

「了解。火器管制オート迎撃システムを発動。リクレンツィア艦長、敵艦は距離を保ったままです」

 

「恐らく、それほどの迎撃性能は有していないはず。……レジスタンス組織の常套手段です。一撃離脱戦法、それでケリが付くとでも。正直、嘗めるなと言いたいですわね。わたくし達がただ闇雲に戦力を拡充してきたとでも? 騎屍兵にミラーヘッドを許可。本当の第四種殲滅戦を見せて差し上げなさい」

 

「御意に。騎屍兵団へ。ミラーヘッドを展開。敵を圧倒せよ」

 

 その命令系統は恐らくレイコンマの世界で戦場へともたらされた事だろう。

 

《ネクロレヴォル》隊が蒼い色相を帯びて一瞬にして数倍の戦力を誇る。

 

「勝てるはず。わたくしなら、貴女に勝てる……」

 

 ピアーナは何かに囚われている。

 

 それだけは確かだが今の自分にはそれを氷解する術はない。

 

 ただ、転がりつつある戦局の果てで、命が散っていくのを目にするしかなかった。

 

 

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