機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第128話「一滴の物語」

 

「クラードさん? クラードさん! 何が起こって……」

 

 カトリナは《疑似封式レヴォル》の爆発から逃れ、スパーク光を散らせる《ネクロレヴォル》がオフィーリアの管制室へと狙いを付けているのを目にしていた。

 

「……私だけで……クラードさんを、助けなくっちゃ……」

 

 だが、出来るのか。

 

 今まで助けられるばかりであった自分が、彼を助けるなんて。

 

 しかし、やるしかないという思いが次の瞬間には覚悟として奥歯を噛み締めていた。

 

「……クラードさんを守る。守られてばかりじゃ嫌……っ! 私も守りたい……! みんなを、これまで戦ってきた、みんなの命を……! だから――戦う!」

 

 艦砲射撃を《ネクロレヴォル》へと集中させるが、敵は加速挙動でミラーヘッドの分身体を率いてこちらの火線にはかかってくれない。

 

 カトリナは右手の思考拡張の赤い導を輝かせ、敵影を睨む。

 

「当たって……! 私の想いを……オフィーリア……!」

 

 だがこちらの精一杯の戦意をせせら笑うかのように、《ネクロレヴォル》は火線を潜り抜け、ビームライフルの照準を管制室に向けていた。

 

 その一射で全てが終わる。

 

 これまで積み上げてきた、何もかもが。

 

 ――だが、ここで退くのは、もっと……。

 

「……もっと、もっと怖い……! 私は……っ! クラードさんに誇れる自分でありたい……っ! だから、逃げない! 立ち向かうっ!」

 

 分かっている。

 

 ――怖い。

 

 今すぐ逃げ出して、自分の役目なんて捨てて。

 

 もう逃げてしまいたい。

 

 だが、そんな自分を飼い馴らして、漫然と時を生きるのが正しいのか。

 

 そんな自分を最終的に、好きになれるのか。

 

 ――否、断じて否であろう。

 

「ここまで踏み込んできたんだもの。カトリナ……っ! あなたは強い子のはずでしょう……っ!」

 

 しかし無情にも敵の照準警告が管制室に鳴り響く。

 

 こんな今際の際に、誰に願うべきなのだろう。

 

 神なのだろうか、それとも悪魔?

 

 あるいは。

 

「……生きて。クラードさん……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまで呆けている?」

 

 ハッと、クラードは目を覚ましていた。

 

 白く一面が縁どられた空間で、身を起こす。

 

「……ここは……」

 

「煉獄の続きだ。ここまでよく堕ちてきたとも」

 

 そう語り、白い世界を歩むのはいつかの夢と同じ老人であった。

 

「……俺は、死んだのか」

 

「何故そう思う?」

 

「……ライドマトリクサーは死ねば何も残らない。心象風景でさえも」

 

「前回はお前の根源の罪であったが、ここには罪も、ましてや罰せられるべきものもない。クラード、お前は死にに来たのか?」

 

「まさか……。俺は……だが約束を違えた……」

 

 悔恨も、今さらの懺悔もきっとこの世界はお呼びじゃないだろう。老人は背中を向け、もし、と指を立てる。

 

「やり直せるとすれば、どうするか」

 

「……何を言っている。死んだ人間はやり直せない」

 

「だから、もしもの話だとも。仮定の話だ。エージェント、クラード。今一度、世界に舞い戻れるとすれば、何を望む?」

 

 ここまで堕ち切ったのだ。今さら自由も、心の奥底に抱いた叛逆の炎も抱かない。

 

 ――そう、思い込んでいた。

 

 だが、胸の中に燻ぶるのは。

 

 まだ消えてなるものかと、声を上げるのは――。

 

「……俺は、まだ死ねない」

 

「死んだ人間が言うのには矛盾だが」

 

「だから、俺が望むとすれば、力だ。俺は力が欲しい。その力で……全てを変える。この世界を塗り固める諦観も、無意味さも、そして世界を従える無力感も。何もかも唾棄すべき代物だ。――俺は、この世に。生きているこの世界へと……常に叛逆を唱えるもの。それだけの恩讐の徒だ。だから、望むものは、力だけでいい」

 

 その言葉を受け、老人は振り向く。

 

 その瞳の奥に覗いたのは逆三角形の紋様。

 

「舞い戻ると言うのか? 力だけを従えて、この終わりのない煉獄の世界へと」

 

「ああ。何よりも、手荷物は持たない主義なんだ。だから力だけでいい」

 

 こちらの結論に対し、老人は興味深そうに振り返り、すっと自分を指差す。

 

「よかろう、エージェント、クラード。では力だけ、持って行け。全てを灰燼に帰す力――扉の向こうの力はお前にくれてやる。七番目の使者がお前に何を望むのかはまだこれからの物語だが、これだけはハッキリしている。――これは、お前の物語だ」

 

 その言葉と共にクラードは白い世界が色をなくし、やがて漆黒の彼方へと自身が集束していくのをクラードは意識の消失点で感じ取る。

 

 その最果てに残ったのは、たった一滴の――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ラードさん、クラードさん……っ!』

 

「……うる、さいな……」

 

 瞼を開く。

 

 視界が、これまでぼやけていた意識が明瞭化する。

 

 それに従って、クラードは痛みの手綱を握り締め、敵影を捉えていた。

 

「ああ、今なら……これは、俺の力だ。行くぞ。間違いだけを、正しに行く」

 

 顔を上げた瞬間には同期した視界と共に、《ダーレッドガンダム》の眼窩に光が灯る。

 

 全身を押し包む拷問椅子のライドマトリクサー接続口も、今は必要な痛みだ。

 

 脳髄の深層に突き立った電流の疼きと共に、クラードは機体順応性を感じ取っていた。

 

 ――繋がった意識野と共に、新たなる鼓動が脈打つ。

 

 浮かび上がったモニター類に表示されたのは「DAR‐RE:D」の赤い文字。

 

「――ゲインをぶち上げろ、《ダーレッドガンダム》、エージェント、クラード。迎撃宙域に先行する!」

 

 その言葉と共に機体推進力を臨界点まで引き上げ、《ダーレッドガンダム》が拘束具を引き千切ってリニアカタパルトボルテージより射出される。

 

 その赴く先に居た《ネクロレヴォル》を真正面から突き上げ、敵機体をセブンワンの天蓋へと吹き飛ばしていた。

 

『ガンダムだと……!』

 

「このまま……幕切れにする!」

 

 武装承認を真紅に染まった瞳で認証させ、クラードは《ダーレッドガンダム》が保持している右側の異様な武装を引き出していた。

 

 扁平な盾のようにも映るその武装の内側にはアームが保持されており、《ダーレッドガンダム》の右腕がその武装を掴んでいた。

 

 瞬間、右腕と接続された武装の名称がモニターに表示される。

 

「ベテルギウスアーム……パラドクスフィールド……臨界値に設定……!」

 

 扁平であった武装が蒸気を上げて展開し、五指を広げていた。

 

 それは空想の殺人鬼が如き鋭利な爪を誇り、この次元へと堕ちた聖獣の力を発揮する。

 

 掌底の形へと組み直されたメイン武装が《ネクロレヴォル》を押し包む。

 

 直後には、掌に格納されていたバレルが拡張し、粉砕の威力を敵影に見舞う。

 

《ネクロレヴォル》は瞬きの間に内部メインフレームを激震され、隠されていた内蔵骨格が露出していた。

 

『……《ネクロレヴォル》を暴いただと……!』

 

「《ダーレッドガンダム》のメイン武装、ベテルギウスアームの威力はそれだけで――月軌道決戦時の《フルアーマーレヴォル》に匹敵する。喰らい知れ……!」

 

 舌打ちが回線に滲み、敵影が次の瞬間には爆ぜていた。

 

《ネクロレヴォル》が四散した空間を巨大なる爪が引き裂き、そして掌握する。

 

 まるでそれは、世界を掴むかの如く。

 

「これが俺の……《ダーレッドガンダム》……」

 

 粉塵を切り裂くその名は、忌むべき――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラードさんが《ダーレッドガンダム》を手に入れた……。信号!」

 

 ハッとしてカトリナはオフィーリアより信号弾を撃ち出す。そのままセブンワンのメインポートより出港した巡洋艦はブリギットへと合流の航路を辿っていた。

 

 甲板部に《ダーレッドガンダム》が着地する。

 

 右腕の異様な武装は元の扁平な形態へと格納されていた。

 

「レミア艦長! 作戦は遂行されました! クラードさんが……っ!」

 

『了解。これ以上は相手も旨味がないはず。戦闘中止! 撤退機動に移らせて! 敵もこちらが宝を手に入れたと分かれば、物分りもいいはず……』

 

 撤退信号の信号弾が撃ち出される中で、カトリナは思考拡張の右手をようやく手離していた。

 

 息をつき、手の甲に浮かんだ赤い紋様を見やる。

 

「オフィーリアは自動航行モードに……。でもこれで、何とか……」

 

 しかしそれでも、眼に映る異質な機体への疑念は拭えない。

 

「《ダーレッドガンダム》……《ネクロレヴォル》を不意打ちとは言え一撃で……? 一体何なの、あの機体は……」

 

 その答えは暗礁の先へと漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹵獲されましたね。全軍撤退、我が方がこれ以上の損耗を出す事は許しません」

 

 ピアーナの号令に従い、騎屍兵団は一斉に旗艦へと帰っていく。

 

 その潔い去り際に、メイアは疑問を呈していた。

 

「諦めるんだ?」

 

「ええ。下手に兵士を失うのは得策ではありませんから。……ですが、カトリナ様。それにクラードも。貴方達がそのような物語を……叛逆の物語を紡ぐと言うのなら――わたくしはフェアリーテイルの討ち手――物語を殺しましょう」

 

 ピアーナの決意したような相貌にメイアは言葉少なに拡大された新造艦と、その甲板に膝を立てる機体を凝視する。

 

「……あれが、《ダーレッドガンダム》。この世界を変える機体……」

 

 そして自分が手にするはずの機体であった。

 

 叛逆の因子は未だに燻ぶり続けるものの、その行き先は変わっていない。

 

「……生きていたんだね。エージェント、クラード。キミが戦うと言うのなら、いいよ。ボクはそれを見届けよう。それがボクに与えられた、運命だとでも、言うのならばね」

 

 こちらへと鋭い眼差しを投げる異形の機体に、メイアは静かに拳を握り締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったってのか! クラード!」

 

《マギアハーモニクス》の損壊率が半分を切ろうとしたところで、アルベルトは作戦遂行を示す信号弾に牽制銃撃を張りつつブリギットへと帰投ルートを辿っていた。

 

 ブリギットは捨てる事になるのだろう。

 

 それでも一度は帰るだけの道を示す義務があるはずだ。

 

「弾幕切らすな! ブリギットがいくらオレらにとっちゃ一時の物だったとはいえ、今だけは帰投する機体を邪魔させるわけにゃいかねぇ!」

 

 ユキノは隊列を率いながら、機体の肩を並べさせて銃撃網を維持し、《ネクロレヴォル》隊を退けていく。

 

『小隊長! 敵はもう……!』

 

「ああ、ようやく帰る気になったかよ……それにしても、ったく……秘密主義が過ぎるぜ、クラードよぉ!」

 

 識別名称オフィーリアと信号された艦艇へと視線を走らせ、アルベルトが軽口を叩くと、クラードの声が返って来た。

 

『……言ったら厄介だろうに』

 

「違いねぇ。RM第三小隊! 一度ブリギットまで帰還しろ! ……話を聞く必要性がありそうだな」

 

 ブリギットの艦砲射撃の内側へと潜り込み、アルベルトは《マギアハーモニクス》をようやく落ち着けていた。

 

「それにしたって、新しい戦艦? そこまで考えていたなんて思わなかったぜ」

 

『アルベルト君達、RM第三小隊は即時帰還を。我が艦はこのまま、相対速度を合わせてオフィーリアと並び、……継続しての作戦行動を行います』

 

「……まだ、終わってねぇってのか」

 

『ええ。このまま生き残るのには、これ以上の地獄と付き合わなければいけない。それはアルベルト君、あなたやカトリナさんが講じてきた代物よ』

 

「……言われちまってるってわけですか。いいっすよ。レジスタンスを続けてきたのはオレらの意思ですし、何なら責任って奴もあるんでしょう」

 

『……敵は高度なRMの艦長だった。今の一瞬、やられていたっておかしくはなかったわ』

 

「ライドマトリクサーの? ……何だってそんな艦が、ここまで追いすがって来たってんだ……」

 

『不明だけれど、でも……単なる偶然で片づけるにしては、出来過ぎているのだけは確かね』

 

 レミアの言葉振りに、アルベルトはこれから先に待ち受けている苦難を予感していた。

 

「……あれが、クラードの新しい機体。《ダーレッドガンダム》、だって言うのか……」

 

 右側に異様なシルエットの武装を保持しており、鋭角的な様は《レヴォル》の意匠をところどころ引き継いでいる。

 

 オフィーリアはブリギットと相対速度を合わせ、補給路であるパイプを繋がせていた。

 

 自分はその補給路を守る義務がある、と再び《マギアハーモニクス》で挙動しようとして、ユキノの《マギア》に制される。

 

『駄目です。小隊長はただでさえ手負いなんですから。今はブリギットの格納デッキに戻ってください』

 

「けれどよ! ……オレが出ないで誰が……」

 

『マヌエルの連続使用でこっぴどくサルトル技術顧問とシャルティア委任担当官に怒られてきてください。話はそれからです』

 

 それっきり個別回線も切ってくるので、アルベルトは不貞腐れる。

 

「……言うようになったじゃねぇか。にしても、シャルに怒られんのかよ……。こっちは憂鬱だぜ」

 

 ため息一つ漏らしてから、アルベルトは《マギアハーモニクス》をブリギットの格納デッキへと漂わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今しがた連絡を受けました。エンデュランス・フラクタルとマグナマトリクス社の擁していた最新鋭艦、オフィーリアの敵による鹵獲。そして特一級事項であった七番目の使者までも、と」

 

 彼ら相手に声を振り向けた自分に対し、扉の向こうを観測し続けている者達は必要以上の言葉を振る事もない。

 

『貴様は知らぬでもよい事だ。それに、オフィーリアまで奪われるとは……失態だな、エンデュランス・フラクタルの手の者達には』

 

『仕方なかろう。彼らは元々、《オルディヌス》を奪った罪過がある。それの帳消しのために造ってやっていた七番目の使者の器でさえも、奴らは致し方なしとした』

 

『いいや、それも計画のうちか? いずれにせよ、エンデュランス・フラクタル、看過出来ない過ちを犯したな』

 

「自分に出ろと仰るのなら、その時には」

 

『先走るな、ジオ・クランスコール。我々にとって七番目の使者の撃破は急務ではない。《フィフスエレメント》の安定化と、そしてダレトの向こう側へのアクセス。その一事に関して言えば、上手くいっているとも。だが万事順調とはいかぬのが、人の世だな』

 

『この次元宇宙の者達は野蛮が過ぎる。《ネクロレヴォル》も、与えてやっていると言うのに、何故上手くいかんのだ』

 

『彼奴らがいずれ直面するであろう、人の世の頭打ちに際して、我々が手を差し伸べるという段階はまだまかり間違っていない。現状、全て、計算のうちだとも』

 

「しかしそれにしては、払った犠牲があまりにも多い」

 

『何だ、ジオ・クランスコール。何が言いたい?』

 

『我らダーレットチルドレンに、意見でも?』

 

「とんでもございません。自分は兵士。それ以上の意義は有していない」

 

『では下がれ。これ以上、我々を愚弄するのでないのならばな』

 

 頭を垂れたジオに対し、ダーレットチルドレンは言葉を重ねる。

 

『次元の姫君さえ擁立すれば、答えは自ずと出る。貴様はその時に使ってやるだけの命だ。ならばその時まで、機嫌を損ねぬ事だな。我々にも、次元の姫君にも』

 

「努力いたします」

 

 空間が蒼く波打ち、彼らの視線が消えてから、ジオは襟元を緩めて踵を返していた。

 

「旦那様! ファム様が、今日も……!」

 

 給仕の声にジオは仮面の相貌を振り向ける。

 

「何か。また今日も社交界に出ないとでも」

 

「いえ! とんでもございません! ……ここ最近はフロイト家のご令嬢と毎日のように……。ですが、お茶会の前に髪を梳いて差し上げましょうと言うと、ご機嫌を損ねまして……」

 

「自分が迎えに行く。いつもの樹の下だな」

 

 ジオは庭園へと歩み出て、黄色のドレスを身に纏ったファムが天蓋を仰いでいるのを発見していた。

 

「何を見ている」

 

「あのね、かれがやってくるの」

 

「その彼とは、ファムが教えてくれない彼、かな」

 

 ファムは歓喜の声を上げて樹木の下へと踊るような足取りで向かう。

 

「ミュイ! ……ななばんめ……でもそれはこわいね……《レヴォル》よりも……」

 

 ファムが描いているのは手を繋ぐ人々の輪であった。

 

「そこにファムは居るのか」

 

「いるよ? でも、あえないの。みんなは、とってもとおくにいってしまうから。だからあいたいけれど、あえないの」

 

「そうか。それは辛い、のか」

 

「でも、ちょっとだけかわった。ななばんめといっしょなら、もしかしたらかれは……ファムをむかえにきてくれるかもしれないから」

 

「それは運命が、かな」

 

 こちらの問いかけに対し、ファムは小首を傾げる。

 

「わかんないの、にいさま。でも、ファムはたのしみ。もういちど、カトリナと、バーミットと、アルベルトと、それにかれにあえそう」

 

「そうか。喜ばしい事なのだな、大変に」

 

 ファムは歓声を上げて自分を他所に邸宅へと駆け抜けていく。

 

 巨木の下で取り残されたジオは、仮面の下の瞳で樹木に刻まれた人々を眺めていた。

 

 それはマイナス百度の眼差し。

 

「悲しいかな。自分はファム、お前の大切なものを、壊さなければいけない身分だとは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブリギットからこっちに移ったってのに、何つーもんを持ち帰って来たんだ、お前は!」

 

 最初にサルトルの怒声が響き渡って、クラードは移送された《ダーレッドガンダム》のコックピットで呻く。

 

「……知んないよ、そんなの。俺だってここまで上出来に行くとは思わなかったんだ」

 

「まぁな。にしたって、これが最新鋭機か。アガるねぇ……おい! マニュアルなんてねぇぞ! レヴォルタイプの機体だ! 下手なところ弄って壊すわけにはいかんからな!」

 

 整備班に声を振るサルトルの平時の様子を見やってから、クラードは拷問椅子めいた接続口を一つずつ、解除していた。

 

「まずは……肋骨……」

 

 脇腹を覆うように接続されたRM専用の接続口を引き剥がすだけで、地獄のような苦しみである。

 

 激痛と共に認証を開始させる。

 

「次は肩……何だ? サルトル、何かのシステムが動き出している」

 

 水色の脈動を浮かび上がらせた眼前のモニターに対し、サルトルが慌ててコックピット脇の接続ポートからこちらへと視線を投じる。

 

「何やってんだ、クラード! ……これは、アイリウムか? 今まで稼働していなかったって?」

 

 円を描き、アイリウムの内側がこちらへの反応を示す。

 

『専属ユーザーの認証を開始。これより第四次コミュニケートモードに移行します。“失礼する。このシステムに入るのは初めてだが、名称を与えて欲しい。こちらは現状、名無しである”』

 

 その独特のコミュニケートサーキットと、そして言語野は間違いなく――。

 

「《レヴォル》……? まさか、レヴォルの意志なのか?」

 

「嘘、だろ……? こいつは確かにレヴォルタイプだが、まさか、レヴォルの意志が組み込まれているなんて……」

 

 サルトルの驚嘆を他所に、名無しのアイリウムは言葉を継ぐ。

 

『“意見を乞いたい。名称を設定してくれ。専属ライドマトリクサーよ。名前がなければ、こちらの性能を十全に発揮出来ない”』

 

「《レヴォル》……」

 

『“《レヴォル》……綴りはREVOLでいいのか? では次回より、この機体に搭載されているアイリウムは《レヴォル》を名乗ろう。よろしく頼む、認証コード――ライドマトリクサー、クラードよ”』

 

 以前とまるで変わらないような論調のアイリウムにサルトルとクラードは揃って絶句していた。

 

 ――これは叛逆が望んだ、運命の再会なのか。

 

 それとも意図しないイレギュラーなのか。

 

 今は、誰にも断定する手段はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十三章「七番目の遺志を継ぐ者〈リコレクション・オブ・セブンスベテルギウス〉」

 

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