機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第131話「彷徨う叛逆」

 

「セブンワンからの補給路は確かに。けれど、《マギア》編隊も少しばかり頭打ちになりつつある。報告は受けていたけれど憂鬱ね……」

 

 そうぼやいたレミアは頭痛薬を飲み干し、オフィーリアの艦長室に書類を運び込んでいた。

 

「……レミア艦長。これも想定内なんすか。オレにはどうにも……あれが信じられないっつーか」

 

「それは三年間で培った勘かしら。アルベルト君」

 

「茶化さないでくださいよ。……これでもRM第三小隊を預かる身っす。制御出来ない代物をメインに据える危険性くらいは分かってるつもりなんで」

 

「ヴィルヘルムがあなたには困っているはずよ。コード、マヌエルを何度も試行する死にたがりのエージェントだって」

 

「それは……! ……何とも言えないっすけれど」

 

 しかし、とアルベルトは広く取られた艦長室を見渡す。

 

 ブリギットとはまた違う、少しばかり古めかしくも映る設計であったが、今も執務机へとリアルタイムに送られてくる情報は他の勢力を圧倒するほどの情報精度なのだろう。

 

「……まさかこれほどの艦艇をエンデュランス・フラクタルとマグナマトリクス社は共同して造っていたなんてね。情報としては知っていても、いざ目の当たりにすると違うわ」

 

「……ブリギットはどうするんすか。あれも課題でしょう」

 

「ブリギットは足を削がれている。次の作戦にはあれを利用する術もあるわ。アルベルト君、あなた達RM第三小隊は私の作戦に従ってもらいます。拒否権は……」

 

「ないって言うんでしょう。オレは構いませんよ。……っつーか、今までが無謀過ぎたくらいっすから。ようやく落ち着ける場所を手に入れられたって言うか」

 

「……ベアトリーチェではカトリナさんの我儘に付き合ったクチでしょう?」

 

 その問いかけにアルベルトは拳をぎゅっと握り締める。

 

「……あの人は、もう無理しないでいいと思うんす。だって、三年間ずっと張り詰めてきた。本社からの無茶な補給も、無理やりな作戦も全部……背負ってきた背中なんす……。だからもう、無理させるのは……」

 

「あなたは見た目に反して優しいのね。もっと早く、こうして喋るべきだったかしら」

 

「よしてくださいよ。そんなもん、三年前のオレじゃあんたと落ち着いて話せもしなかった。ガキだったんす」

 

「今は、物分りのいい大人ってわけね」

 

「……諦めのいい、とも言います。クラードからしてみりゃ、もしかするとオレも、つまんない奴に成り下がったかもしれません」

 

「いいえ。あなたはそれだけの責任と共にあった。なら、クラードも評価してくれているはずよ。彼は、意味のない言葉だけは吐かないもの」

 

「じゃあやっぱ……あの機体、《ダーレッドガンダム》ってのは……」

 

「今は。今は少し時間が必要そうね。結論を性急にするべきでもない。あなたにはかつて、《レヴォル》の真実を語ったけれど、あれもただのMSじゃない。だからこそ、クラードでしか扱えないのでしょうね」

 

「……歯がゆいっすよ。力は手に入れたつもりだって言うのに……」

 

「クラードはそれよりもさらに、でしょうね。《疑似封式レヴォル》を捨て、彼はもう退路なんてない。私達と共に在ってくれるのは喜ばしい事なのでしょうけれど、彼の道に、誰も口出し出来なくなってゆく。出来るとすれば、それはきっと……」

 

「カトリナさんだけ、ですか。……艦長、あんたもクラードと特別な約束を交わしたクチでしょう? なら、クラードはあんたの言う事だって聞くはずだ」

 

「もう資格がないのよ、私には。だからきっと、クラードは自分の従うべき相手は自分で決めていく。その決意に、異議は挟めないわ」

 

「分かんねぇのは、それもっすよ。クラードとあんたはどんな約束をしたんですか。その約束を……違えないためにクラードはあんたを取り戻したんでしょう」

 

「……一つだけ、教えてあげられるのは、クラードは私にとって掛け替えのない存在。彼でなければ約束は完遂されない。……こんなつまらなく成り下がった私でも、まだ価値があるのだと、思ってくれているのならば、だけれどね」

 

 どこか諦観さえも浮かべたレミアに、アルベルトはそれ以上の言及は出来なさそうであった。

 

「……じゃあオレも、《マギアハーモニクス》の整備に戻ります。その……立ち入り過ぎたんなら、すんません。オレも、余裕あるようでないんだと思うんす」

 

「いいわよ、別に。今さら立ち入っただとかそうじゃないとか、もう論争の場でもないでしょう」

 

 扉を潜った瞬間、シャルティアと鉢合わせする。

 

「……シャル、何やってんだ、お前」

 

「私はシャルティアです! シャルじゃない!」

 

「ああ、分かったよ、ったく。艦長室じゃ邪魔だろう。廊下でいいか?」

 

「私との話し合いは廊下でもいいんですか!」

 

 シャルティアは相変わらず噛み付いてくる。アルベルトは無重力に身を流しつつ、廊下に背を預けていた。

 

「……で、委任担当官殿は何の話だよ。艦長に話でもあったのか?」

 

「……ありましたけれど、アルベルトさんのほうが先です」

 

「そいつは何だ? 言っておくが、《マギアハーモニクス》に乗るなってのは聞けねぇぞ」

 

 どうやら図星らしく、シャルティアはぐぬぬ、と歯噛みする。

 

「……あのなぁ、シャル。オレが前に出ないで、RM第三小隊が成り立たないくれぇは分かるだろ。それでも納得出来ねぇのか?」

 

「そりゃ……納得も出来ませんよ。だってこの新鋭艦だって、本来は手に入るはずじゃなかったって言うんじゃ……」

 

「……艦長やクラードが信用出来ねぇのか」

 

「そもそも、ですよ! いきなりやってきて艦長だとか、エージェントだとか……! そういうのって私を通してもらわないと困るはずです!」

 

 シャルティアにとってしてみれば、委任担当官の職務を果たせない事それそのものがどうやら大きな不満らしい。

 

 アルベルトは思案していた。

 

「あのよぉ、シャル。何とかこの新造艦……オフィーリアまで辿り着けたんだ。今までみてぇな撤退戦や電撃作戦だけじゃねぇ。もっと幅広く、全員が生き延びられる作戦が展開出来る。喜ぶべきじゃねぇのか?」

 

「……ですが、それはエンデュランス・フラクタル本社に背く行為ですよ。問題があるんじゃ?」

 

「その問題とやらは、結局のところオレらがエンデュランス・フラクタルに所属し続けるか、みてぇなところもある。シャル、覚悟決めなくっちゃいけねぇ。もしもん時は、英断でもな」

 

「それは蛮勇って言うんです! ……私はあくまで、本社から派遣された社員に過ぎません……。もしもの時、あなた達を守れないじゃないですか……」

 

 シャルティアなりに責任の所在を考えているのだろう。

 

 彼女は本社からの派遣人材。

 

 本社の命令には絶対の身分である。

 

「……オレやカトリナさんが無理やりにここまで来たと思ってんのか? それは大きな間違いだぜ。オレ達は信じるべきだと決めて、クラードの策に乗ったんだ。間違いだとは思って欲しくねぇな」

 

「……でも、アルベルトさんは私に従うべきなんです。ユキノさんも、そうじゃないですか。あなた達は、私が責任を持って担当する、エージェントなんですよ? ……あなた達に何かあってからじゃ、私……」

 

 アルベルトはこめかみを掻く。どうにもシャルティアは責任問題を重く捉えがちな面がある。

 

「……マジメだな。っつっても、現状、オレらを本社がどう思うかと言えば、無理やりにセブンワンに押し入ってのオフィーリアと《ダーレッドガンダム》の強奪行為。言っちまえば逆賊に映る可能性が高い。……自分の事を考えるのなら、シャル。お前は艦を降りても――」

 

「それだけは嫌です! アルベルトさん、カッコつけようとしています? それってズルいじゃないですか」

 

 その言葉振りが、かつての想い人を想起させてアルベルトは二の句を告げなくなってしまう。

 

 絶対にだぶらせてはいけないと自身に言い聞かせてきたのに、ここに至ってシャルティアを――ラジアルに重ねかねないなんて。

 

「……どうしました? アルベルトさん」

 

「いや、何でもねぇ……。疲れてんのかな」

 

「疲労の回復に努めてください。あなたはRM第三小隊の小隊長であるのと同時に、私からしてみれば担当するエージェント。毎回死にに行かれたら困るんですよ。……ユキノさんだって、そう思っているはずなんです」

 

「……何で今、ユキノの名前が出てくんだ?」

 

「……知りません! アルベルトさんの、分からず屋!」

 

 何故なのだか怒り心頭でシャルティアは立ち去ろうと身を翻す。

 

 その背中にアルベルトは言葉を投げていた。

 

「おい。オレに書類を寄越すんじゃねぇのかよ。いいのか? 仕事とか」

 

「あなたに心配されるほどじゃありません! 私は自分できっちりしますから。いい加減な大人とは違うんです!」

 

 何だかその言葉自体に棘が籠っていて、アルベルトは考え込む。

 

「……ユキノがどうしたって? 分かんねぇなぁ。相変わらず。チビのくせに意味分かんねぇところで背負ってやがんだから」

 

 頬を掻いて奇妙な感覚を振り払い、グリップを握って廊下を行き過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴォルの意志……そのデッドコピー……だと判定すべきなんだろうな」

 

 格納デッキの一角でサルトルのこぼした言葉に、携行飲料に視線を落としたクラードは仰ぎ見る。

 

 今も整備作業が続行されている《ダーレッドガンダム》に対し、違和感と共に飲み干す。

 

「……何故、《ダーレッドガンダム》に初期化されたアイリウムとしてレヴォルの意志が内蔵されているのか……それは恐らく、《レヴォル》の設計理念と同じなんだろうな」

 

「MFへのカウンターとしての立ち位置、か。だがそうなのだとすれば、あの機体を手にすべき人間は限られてくるぞ……。お前の生存を絶望視していたとすれば、あの機体に乗るべきだったのはお前と同じ……レヴォルの意志に選ばれた存在、か」

 

「メイア・メイリス……」

 

「そのメイアもちょっと前に入ってきた情報じゃ、行方不明って話だ。ったく、きな臭いったらねぇな。本社は何を考えてやがったんだ?」

 

「俺かメイアを《ダーレッドガンダム》に搭乗させ、そして全てのMFへの殲滅戦を企てるつもりだった……そう考えてもいいのか」

 

「だがなぁ、クラード。お前は知っているかどうかは知らんが、今のMFってのは……」

 

 月軌道の情報が端末に同期され、サルトルがそれを差し出す。

 

 MFの位置情報は三年前から変わらないものの、そのパワーバランスは大きく変動したようだ。

 

「……MF02が王族親衛隊によって拘束。あの《ネクストデネブ》が、か?」

 

「ああ。お前と戦った直後に王族親衛隊によって《ネクストデネブ》は特殊な拘束を受けている。よって三年前のMFの立ち位置からは大きくその力関係は変わったと見るべきだろうな。現状も稼働を続けていると目されているのは、MF01、《ファーストヴィーナス》と、MF04、《フォースベガ》だけか」

 

「MF04は……あの月軌道決戦で動いていたのを聞いている。……想定外だな。もしかすると、MFを二機も三機も相手取らなければいけないとは」

 

「おいおい、物騒な事を言うもんじゃねぇよ。今はとかく、英気を養うこった。お前も《ダーレッドガンダム》も完璧じゃねぇし、オフィーリアにだって慣れなければならん。他の雑事はおれ達に任せろ。何のための整備班だと思っている」

 

 サルトルは自身の胸元を叩き、自分の憂いは受け止めてくれているようであった。

 

「……すまないな。余分を任せている」

 

「いいさ。パイロットは前を行くんだ。後ろは固めさせろよ。第一、お前の帰りを待っていたのは何もカトリナ女史だけじゃないんだぞ。おれ達だって、生きているんだって、どこかで思っていたさ。ただカトリナ女史ほど、真っ直ぐに想い続けるのには疲れてはいたけれどな」

 

「……月軌道決戦時に大勢死んだのは知っている」

 

「帰って来ない奴らは帰って来ないんだって、そう割り切るしかねぇってのもあった。……トキサダも、居なくなっちまってからはトーマも仕事に熱を上げるようになっちまってな。……三年前じゃ、あいつは確かに腕の立つメカニックだったが、もう仕事しかねぇみたいになっちまったのは正直、見てらんねぇ部分もあった」

 

 トーマは整備班を率いて《ダーレッドガンダム》の解析作業に移っていた。

 

 一心不乱に投射画面を睨むその背中は、最早仕事以外の雑事は切り捨てている節もある。

 

「……苦労をかける。《ダーレッドガンダム》はだが、俺達の主力になるだろう。不意打ちとは言え、《ネクロレヴォル》を撃墜出来た」

 

「そのログも見たよ。……本社が読めないって思ってるのはそれも込みだ。まさか極秘裏にエージェントの擁立までやっているなんてな」

 

「……エージェント、キュクロプスって名乗っていたか」

 

「情報は降りて来てない。ベアトリーチェが半分捨て駒だったのもあるんだろうが、本社がまさかそこまで思い切ってやがるなんて、こっちは想定外だ」

 

 エージェント、キュクロプスの情報網にアクセスしようとして、全てが黒塗りであるのをクラードは垣間見ていた。

 

「……顔さえも分からない、本社のエージェントか」

 

「気を付けろよ、クラード。上はお前のデータを全て持っている。三年前のエージェント、クラードはもう攻略されたと思っていいだろうな」

 

「それだけの月日は経った、という事か……」

 

《ネクロレヴォル》の動きにどこかで既視感があるとすれば、それは自分自身の挙動であったのだろう。

 

 確実にエンデュランス・フラクタル本社は、自分と言うエージェントを網羅し、解析し尽くした。

 

 その結果として最上のエージェントを手に入れたと言うわけだ。

 

「……だが、俺はまだ死ねない。死ねない理由がある。《ダーレッドガンダム》で勝利する術をくれ。俺は勝ち進まなければいけない」

 

「一度決めりゃ、もう聞かねぇ口ぶりだな。いいとも。おれ達は正直、どんな解析不能なもんが差し出されてもそれを飲み込むような部署だ。《レヴォル》ん時だって似たようなものだったさ。今回もどうにかやってみせる」

 

 その言葉を潮にしてサルトルは《ダーレッドガンダム》へと流れて行く。

 

 整備班に声を飛ばすその背中を見送ってから、クラードは携行飲料を飲み干してから、ふと違和感に気づく。

 

「……味がしないな」

 

 疲労が蓄積しているのだろう。ここまで来るのに随分と回り道をしてきた。

 

 一時の過労に陥っている可能性もあった。

 

「クラードさんっ! ……って、ひゃあぅ……!」

 

 格納デッキに飛び込んできたカトリナがバランスを崩し、無重力地帯を漂う。

 

 地面を蹴ってその身体を受け止めてから、カトリナと相対速度を合わせていた。

 

「あっ……ありがとうございま――」

 

「何だ。あんたは管制室の担当じゃなかったのか」

 

「いえ、その……バーミット先輩が引き受けてくださいまして。私はこっちに行ったほうがいいって……」

 

「バーミットも相変わらずのお節介だな」

 

 カトリナは姿勢を持ち直して《ダーレッドガンダム》を眺めていた。

 

 その眼差しに滲んだ恐れの感情に、クラードは問いかける。

 

「……怖いのか」

 

「こ、怖くなんて……っ! ……あー、でも、ちょっとだけ怖いかも……」

 

「あんたはそうでなくっても嘘がつけないんだろう。余計な気を張るだけ無駄だ」

 

「うぅー……言われちゃうなぁ、もう……。けれど、意外そのものですよ。あの機体のよく分かんない装備、クラードさんは一発で使えたんですね」

 

「ベテルギウスアームに関しては俺もよく分かっていない。これから先、サルトル達の解析作業頼みだ」

 

「……よく分かんないのに、何でああも上手く……?」

 

「あれが上策かどうかも分からない。出力を最大値に設定したが、起動直後だ。あれでも十分の一にも満たない性能だろう」

 

「十分の一の性能で……《ネクロレヴォル》の装甲を射抜いたって……じゃああれが本気を出せば、どうなるって言うんです?」

 

「さぁな。見当もつかない」

 

 自分が不確定要素を告げるのは初めてであろう。

 

《レヴォル》の時のような自分の肉体の延長線上としての代物ではなくなっている。

 

 カトリナは目を見開いてから、《ダーレッドガンダム》にその視線を据えていた。

 

「……あの機体、一瞬だけフィードバックが鈍かったですよね? 何かあったんですか?」

 

「ライドマトリクサーとの接続が特殊なんだ。こちらのRM施術痕をトレースして、それに最適な状態になるように出来ているらしい。俺の七割の施術痕を一瞬で網羅して、それで最大出力の設定をぶち込んできた」

 

 こちらの返答にカトリナは頬を掻いて窺う。

 

「えーっと……それってもしかして、危ないんじゃ……」

 

「危なくっても使うしかないだろうな。今の俺達からしてみれば、《ネクロレヴォル》……ひいては騎屍兵を凌駕出来る、唯一の性能だ。どこまで通用するかは不明なままだが、それでも戦い続けるしかない」

 

「……クラードさんは、やっぱり強いままなんですね。三年前から、あなたの眼差しだけは変わらない……」

 

「当然だろう。強くあらなければ、ただ闇雲に時代の中に飲まれていくだけだ。俺は、自分の強さを飼い馴らす。そして、もう一度示すんだ。俺なりの運命への叛逆を……」

 

 瞬間、脳裏に掠めたイメージの波に、クラードはうろたえる。

 

 ――白い空間、その世界を掌握する老人……。

 

「……何だ今のは……」

 

「クラードさん? もしかして……」

 

 返答する前にカトリナの手が額に触れていた。彼女はやっぱり、と仰天する。

 

「熱ありますよ……。一度ヴィルヘルムさんに看てもらえば……」

 

 その手を振り払い、クラードは言い捨てる。

 

「何でもない。疲労の一つや二つ、自分で解決出来る」

 

「あなたが解決出来ても、他の人を困らせちゃうじゃないですか。いいからっ、ヴィルヘルムさんの医務室に直行してください。宇宙の熱病はそうじゃなくっても……って」

 

 そこでカトリナは言葉を区切って微笑む。

 

 不明な言動に、クラードは首を傾げていた。

 

「何だ、何が可笑しい?」

 

「い、いえ……っ。なんて言うか、三年前にもこんなやり取りをした気がするなぁ、って……」

 

「……あの時に無理をしてたのはあんたのほうだったがな」

 

「あれ、憶えて……」

 

「言葉は受け止めておこう。だが、俺は一秒でも早く、《ダーレッドガンダム》に慣れなければいけない。疲労の回復は、それからでもいいだろう」

 

 カトリナの制止から逃れて、クラードは《ダーレッドガンダム》のコックピットへと潜り込む。

 

『コミュニケートモードへと移行。専任ユーザー、クラードの認証コードを受諾しました。“どうした、エージェント、クラード。何か不都合な事でもあったのか?”』

 

 不都合と言えば、この指向性音声もそうだ、とクラードは思い直す。

 

「……今一度聞くが、俺の事を、憶えているわけじゃないんだな? お前は」

 

『“専任ユーザーであるエージェント、クラードを認識してから現時点で十四時間経つ。それ以前のレコードは存在しない”』

 

「……やはり、か。お前は……かつてのレヴォルの意志とは、違う」

 

『“レヴォルの意志、別名レヴォル・インターセプト・リーディングに大別されるシステムの一部だ。それに関しては間違ってはいない”』

 

「そうじゃないんだよ。これだから、レヴォルの意志って奴は……」

 

 だがその論調も、振る舞いも。

 

 かつて自分と離別したはずの《レヴォル》そのものなのだから、性質が悪いと言うもの。

 

 クラードは天を仰ぎ、それから呟く。

 

「……お前はどこに行ってしまったんだ、《レヴォル》」

 

 

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