機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第132話「訪れし強者」

 

「――で、答える気にはならないと、そう断言していいのでしょうかね。メイア・メイリス」

 

 情報が今も同期される艦長室での再三の問いかけに、メイアは肩を竦めていた。

 

「何度も言わせないでよ。《オリジナルレヴォル》の位置情報はそっちが握っているんじゃないの?」

 

「残念ながら。どれだけ情報の集積地点に赴いても、それでも得られないのですよ。《オリジナルレヴォル》――貴女とクラードが選ばれたこの世界への叛逆には」

 

「じゃあボクが知っているわけないじゃん。無駄な手間だよ」

 

「それでも、貴女には聞かなければいけない。あの時、セブンワンから飛び出した新型機を、知っている風でしたからね。あなたは《ダーレッドガンダム》に関しての優先事項を既に耳にしている」

 

「だから、何度も言ったでしょ。それはテストパイロットだからって」

 

「承服出来ないのはそこも、なのですよ。マグナマトリクス社が率先してテストパイロットを選出しようとしていた。その在り方そのものが、イレギュラーなのですからね」

 

 ピアーナは飛び込んでくる情報をさばくのに余念がないと言うのに、自分相手に詰問を続ける。

 

「……あのさ、キミだってまずいんじゃないの? 騎屍兵を使ったのに撤退なんて」

 

「撤退は戦術の一つです。無謀に挑み続けても益がないのならば、その判断に至る事もある」

 

「分かんないな、キミはだってライドマトリクサーでしょ? なら、一度や二度の敗北だってまずいんだって思うはずだけれど」

 

「貴女と違って我々には次がありますから。わたくしはあくまでも、騎屍兵の師団長。彼らの命を預かるのならば、負けるような戦場に赴かせるわけにはいかない」

 

「……死んでいる身でよく言うよ」

 

 ぼやいたメイアに、ピアーナはトン、とペンでテーブルを叩いていた。

 

「今日の尋問はここまでに致しましょう。メイア・メイリス。貴女はこれより、わたくしの管轄下に入っていただきます」

 

「管轄下……? 牢獄にぶち込んだほうが簡単じゃない?」

 

「貴女もRMならば、有効活用したほうがマシ、と言うものです。逆に扱える駒ならば、わたくしは最大限に使う。……東洋の盤上遊戯に、将棋と言うものがあるのはご存知ですか?」

 

「……確か、駒を並べて互いに王様を取り合う……チェスみたいなものだっけ」

 

「チェスと違うのは、取った駒を自分の陣営として用いられる事。今回の場合、そちらの考えで行ったほうがいいでしょうね。現状、メイア・メイリスをただ闇雲に封じ込めるよりかは、最大限に活用する」

 

「……機を見つけて逃げ出すかも?」

 

「そんな衝動的な行動に身を置くような人間じゃないでしょう、貴女は。計算高くあるのならば、わたくしでさえも利用する。そういった腹積もりのはず」

 

「……参ったな。そこまで性格悪くないよ?」

 

 だが見透かされていると言えばその通り。

 

 現状で下手に逃げ隠れしたところで、自分にはもう逃げ場所さえも存在しないのだ。

 

 マーシュはどうなってしまったのだろうか。

 

 自分を逃がした責任を取ったのだとすれば、よくて更迭。悪ければ断罪としての処刑であろう。

 

 しかし、ラムダのクルーは表向き別の職業を持っている。

 

 見せしめの処刑をする旨味はなし。

 

 ならば、生かしてでも活用する。そのスタンスが正しければ、有機伝導体操作技術で記憶を消去して、ラムダの艦長として最大限に再利用を――。

 

「……メイア・メイリス。聞いていましたか?」

 

 ハッと顔を上げ、メイアは後ろ手に拘束された腕を意識する。

 

 今、自分がどう足掻いたところで、どう考えを巡らせたところで誰かを救える可能性は皆無。

 

 ならば、自分一人でも最悪生き延びる方策を浮かべるべきだろう。

 

「……ゴメン、聞いてなかった」

 

 ピアーナは嘆息をついてから説明の言葉を継ぐ。

 

「……呆れますわね。騎屍兵の師団長としてわたくしは位置していますが、基本的に騎屍兵は全員揃う事はありません。作戦行動上のリスクを減らすためですが、そうも言っていられなくなる。補充要員が今、我が艦であるモルガンに現着しました。わたくしはその者との顔合わせを行います。貴女も来るように」

 

「……この状態で?」

 

「説明はわたくしが致します。余計な勘繰りを見せないよう」

 

 ピアーナは艦長服を纏い、帽子を深く被る。

 

 彼女の背丈ではどうあっても嘗められるのではないか、とその後ろ姿に続いていると、どこからともなく騎屍兵が集い、ピアーナの守りを固める。

 

「……なるほどね。死者に好かれる艦長ってわけだ」

 

「口さがが過ぎると拘束を増やさなければいけなくなります。接続したのは、アラクネの艦艇ですね?」

 

『リクレンツィア艦長。王族親衛隊からの入電です』

 

 騎屍兵の一人が歩み出てピアーナに見せたのは暗号化された資料であった。

 

 ピアーナは触れるだけでその暗号を解除し、自身の血肉とする。

 

「……なるほど、それにしても王族親衛隊の補充要員とは。オフィーリアを追うのは何も伊達や酔狂ではない、という事ですか」

 

 ピアーナが管制室で行き会ったのは補給路が接続された艦のクルー達と、異質なる白い衣装を身に纏った男であった。

 

 MSのパイロットとは思えないが、その立ち振る舞い、そして隙のない所作から手練れである事だけは窺える。

 

「ピアーナ・リクレンツィア艦長。お初にお目にかかる……と言うのは、僅かに冗談が過ぎるかな」

 

 挙手敬礼しつつも、白い衣装に仮面と言う井出達の男は手練れの殺意を仕舞う事はない。

 

「……いいのではありませんか。貴方とわたくしは、公式には会っていないのですから。あの艦での出来事は、言ってしまえば一時の幻でしょう」

 

「そう言っていただけると助かる。改めて、王族親衛隊所属、ヴィクトゥス・レイジ特務大尉、旗艦への着任を命じられた。これは王族特務の管轄である。して、そちらの婦女子は? 私はリクレンツィア艦長にお目通り願うはずであったが、麗しいお方が二名もいらっしゃるとは聞いていない」

 

 ピアーナはヴィクトゥスと名乗った士官の言葉を聞き流しつつ、承諾書へとサインを施す。

 

「それは言っていませんでしたからね。ですが、まったく目にした事もないと? 彼女は有名人ですよ」

 

「世俗には疎くって困っている。これでも私は、硬派なのでね」

 

「……何なの、この人。何でナチュラルに口説いてるの?」

 

 こちらの反応にピアーナはため息一つでその憂いを打ち消していた。

 

「……どこまで真剣なのかは不明ですが、実力者なのは確かです。彼の機体は? 搬入済みですか?」

 

「指揮権はそちらにある。私は、向かってくる敵を蹴散らすだけだとも。だが、こちらとしても興味はあってね。件のガンダムだとか言うのは」

 

「まだ断定はしていませんよ。誰ですか、口の軽い関係者も居たものです」

 

「責めるのは私だけにしてもらいたい。興味が尽きないと、どうしても。悪い癖だ、私は詮索屋になっている」

 

「では、ヴィクトゥス・レイジ特務大尉。これより作戦行動に就いていただきます。貴方の行動の如何は全て、わたくし、ピアーナ・リクレンツィア少佐の保持するところとなる」

 

「世話になる。一応、口を差し挟ませてもらうと、私の機体のアイリウムは自分で設計させて欲しい。自分で育てるのが昔から好きでね」

 

「整備班をつけるな、と仰っているので?」

 

「手厳しい事を言っているのは分かっているが、これはこだわりだ。あなた方の手は煩わせない。それだけは、堅く約束しよう」

 

「ではそのように。それでも、貴方の能力は高く買っています。せいぜい、敵勢に対し、前に出過ぎない事ですね。経歴を見る限り、どうにも前に出たがりのようですから」

 

 ピアーナの論調にヴィクトゥスは笑みを浮かべて自分へと視線を移す。

 

 その瞳がミラーヘッドの蒼に染まっているのを、メイアは認識していた。

 

「……視えていないの?」

 

「三年前に、ね。有機伝導体操作技術を拒んできたのだが、こればっかりは軍属である限りはどうしようもない。一度光を失ったが、ダレトからの技術恩恵は私に、もう一つ上の段階の視野を獲得させてくれた」

 

「特務大尉、あまりお喋りが過ぎると、わたくし達としても困るのです。モルガンの部隊への編入には、一意見として窺っていますが、あれはどう解釈すれば?」

 

 運ばれていく機体コンテナの中に納まっていたのは《エクエス》系統の正統後継機である《レグルス》に、さらに最新鋭の機体もある。

 

「……あれは、前線に配備されているって言う……」

 

「《パラティヌス》。《エクエス》の系統樹を辿る、ミラーヘッドの最新鋭機であり、統合機構軍の開発した次世代機でもある」

 

「顔見せ程度だ。実戦では浮つく可能性もあってね。《高機動型レグルス》の受領、それだけではない。少し操縦系統に粗があるが、珍しいものも運び込ませていただいた」

 

 一際大きなコンテナが開閉され、内部に収まった機体の眼光が鋭く灯る。

 

 それは全体像で言えば鬼面の要塞――。

 

「……モビルアーマー……ミラーヘッド全盛期の時代に……?」

 

「MA《サイフォス》。使えるとは思う。こちらの優位にはね」

 

「どうでしょうか。いずれにしたところで、貴方の機体は見せないのですね」

 

 ピアーナの挑発的な物言いにヴィクトゥスは唇の前で指を立てる。

 

「せっかく一張羅で踊るんだ。私はギリギリまで見せない主義でね」

 

「その主義主張は結構ですが、墜ちてからでは知りませんよ」

 

「相変わらず舌鋒の鋭さは健在で安心さえもする。だが、心配は要らない。私はここでは死なない保証くらいはある」

 

「そうですか。では死なないと言う保証を担保にしておくとしましょう。わたくしは、このメイア・メイリスの調書を取らなければいけないのですが」

 

「それに関してはこちらの書類に目を通していただきたい」

 

「何ですか。言っておきますが貴方の同行許可なんて……通って、いますね」

 

 書類を目にするなりピアーナは信じられないものを認めた視線でヴィクトゥスを睨み上げる。

 

「……何をしたのです」

 

「何も。いいや、正しくは、興味が尽きないと、お偉方からの進言だろう。私は婦女子の過去や経歴に詮索をする野暮でもないと思ったのだが、上の考えている事はいつの時代も分からんものだよ」

 

 ピアーナは書類を騎屍兵に手渡す。

 

 静かに下がった騎屍兵を一顧だにせず、ピアーナはヴィクトゥスと交渉めいたやり取りを交わす。

 

「……気に入りませんね。野暮な詮索をする上とやらの立ち位置は」

 

「その発言は聞かなかった事にしておこう。私も君も、長生きはしたいだろう?」

 

「……RMの身分で長生きなど……ですが、領分は別です。わたくしにはわたくしの決めている領分がある。それを守るためならば、人道にもとる行動も、一つや二つ」

 

「飲み込める、か。……あの船に居た頃と何一つ変わらない。フロイライン。君は君の麗しさを保ったまま、魔女に成ったな」

 

「ヴィクトゥス・レイジ特務大尉。今次作戦の目標を伝えておきます。二時間後、作戦遂行が可能なように機体のメンテナンスを怠らないよう」

 

 その言葉を潮にしてピアーナは踵を返す。

 

 ヴィクトゥスは嘆息一つで彼女の機嫌に微笑みを浮かべていた。

 

「……嫌われたものだ。慣れっこだがね」

 

「……王族親衛隊……そうそう動かない部署のはずじゃ……?」

 

「気にかかるのは分かるが、先にも言った通り詮索はお勧めしないな。私は君のような乙女に死んで欲しくないのでね」

 

「……どこまでも嘗めたような口調を……って、あれ? どっかで……会ってる?」

 

「おや。これは珍しい事もあるものだ。自分が口説かれる側になるとは」

 

「いや、そうじゃなくって……どっかの戦場で……ボクら、戦い合った?」

 

「記憶にはないが、そんな邂逅があったのかも、知れないな」

 

 ヴィクトゥスはそれ以上の言葉を重ねず、格納デッキへと向かっていく。

 

 その背中を見送りながらメイアは呟いていた。

 

「……それにしても、王族親衛隊が前に出て来るなんて……個人的には気に入らないけれど、本気には違いない」

 

 

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