機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第134話「混迷の戦域で」

 

『敵艦の足は速いわ、クラード。ともすれば、ブリギットをどうこうするのに最適かもしれない』

 

 レミアの言葉を聞き留めつつ、クラードは慣れていない制御系を視認して、バイザーに浮かび上がるアクティブウィンドウを処理していた。

 

「ブリギットはどうせ頭打ちになる。……盾にでもするか」

 

『それも一考のうちだがな、クラード。《ダーレッドガンダム》の性能は未知数なんだ。下手打って敵に捕らわれるなんてのだけはやめてくれよ』

 

「分かっている。サルトル、調整重いよ。こいつのシステムの問題か?」

 

『こっちを拒むように出来てるんだよ、ったく。アイリウム認証に入ってくれ』

 

『登録済み専任ユーザーを認証。エージェント、クラードへ。コミュニケートサーキットを構築します。“どうした? クラード。重石のような姿だが”』

 

「お前を乗りこなすために必要なんだ。荷物は多く持たない主義なんだがな」

 

『“そうか。それは災難だな”』

 

 どうしてなのだろうか。

 

 その言葉振りも。口数も。

 

 どれもこれも、記憶の中のレヴォルの意志、そのもので――。

 

「……憶えていないのは嘘じゃないのか」

 

『“残念ながらレコードに入っているのは前にお前が乗ってからのみだ。それ以前は何一つ存在しない”』

 

「……存在しない場所から生まれ出でたにしては、少しばかり冗長が過ぎる。戦闘時には控えてくれ」

 

『“了解した。どうせコミュニケートモードはあと数秒で切断される。今のうちに言っておくとすれば、エージェント、クラード。お前にこの《ダーレッドガンダム》を乗りこなせるかどうかは、完全に未知の領域だ。よって専任アイリウムと言っても保証は出来かねる”』

 

「何それ。殺しかねないとでも?」

 

『“否定はしない”』

 

「……そこは、否定してもらわないと、困るんだけれどさ」

 

『“いずれにせよ、優位性を見出せ。そうでなければ《ダーレッドガンダム》はお前を喰い殺すであろう。その時に、適切な処置を乞う”』

 

「お前相手に命乞いなんてしないよ。俺は……もう前だけを向いて戦うだけだ」

 

『“いい傾向だ。戦う時に後ろを向いていては当たる弾も当たらない”』

 

「……何だよ、それ。誰の言葉」

 

『“引用不明”、コミュニケートモード終了。これより、戦闘態勢へと移行します』

 

「……何で下手に雄弁なんだよ。レヴォルの意志って言うのはさ」

 

 惑わせるつもりでこのシステムは内蔵されたのか。

 

 あるいは、自分を試すのか。

 

 いずれにしたところで、最早振り返るような余地もなし。

 

「RM神経接続……開始」

 

 両腕が拡張し、アダプターに接続されるのと、拷問椅子めいた変形を遂げたリニアシートへと肉体が押し込まれ、肋骨と両肩、そして背筋に接続口が突き刺さったのは同時であった。

 

 脳髄に突き立つ電磁の刃の疼き。それはより雄弁に、《ダーレッドガンダム》の存在を主張する。

 

「俺は……お前に喰われるために乗っているんじゃ……ない……!」

 

 否定で意識の消失点へと取り込まれる感覚を振り払い、赤い接続パターンが青色に変位するのを目にしていた。

 

『《ダーレッドガンダム》。カタパルトデッキに固定。リニアボルテージを80まで上昇。発進タイミングを、エージェント、クラードに譲渡します。……頼むわよ、クラード。慣れない機体だからって浮つかないでよね』

 

 バーミットのアナウンスを聞きつつ、クラードはバイザー前面に浮かぶ無数のウィンドウを消していく。

 

「そんなつもりもない。俺は敵を撃つだけだ。他に何の価値がある」

 

『はぁー……これだからあんたってのは。そういうところが……まぁいいわ。説教垂れるのは生き残ってからだかんね、トーヘンボク』

 

「……何で俺が。まぁ、どうだっていい。――《ダーレッドガンダム》、エージェント、クラード。迎撃宙域に先行する!」

 

 その言葉と共に射出された《ダーレッドガンダム》のコックピットへ胃の腑を押し上げるGを感じながら、クラードはアクティブになったモニター類より敵艦を見据えていた。

 

「……新型機動戦艦、モルガン。ピアーナの艦艇か。まさかこんなにも早く、再戦になるなんてな」

 

『クラード! モルガンから出てくる連中はオレらに任せてくれ! 《マギアハーモニクス》も整備は順調だ! これで少しは押し出せる!』

 

 後続したアルベルト達のRM第三小隊が宙域を駆け抜け、照準を敵宙域へと据える。

 

 このまま押し出せるか、と感じた直後、艦艇に備え付けられていた巨躯をクラードは最大望遠に映し出していた。

 

「……何だあれは……。モビルアーマーか?」

 

《レグルス》が牽引するのは甲殻類を思わせる巨体であった。

 

 MS四機分はあるであろう大きさと菱形で面構成された姿を見やるなり、アルベルトが通信に声を弾けさせる。

 

『あれは……MAだって言うんなら、その火力を削ぐ! RM第三小隊! 敵MAへと攻撃を集中! 絶対に仕掛けがあるはずだ、そいつを解かなくっちゃ勝てねぇぞ!』

 

 応、と声が集中する中でクラードは違和感を覚えていた。

 

 異様な重さを誇る機体は、推進器さえもまともに付けられていない。

 

「あの機体は……前線を押し出すための機体じゃ……ない? だがだとすればMAの有用性とは……」

 

《レグルス》に引っ張られる形の巨大MAの機体照合結果がオフィーリアよりもたらされる。

 

「……MA《サイフォス》……バーミット、データは?」

 

『それが見当たらないのよ。最新鋭機であるのだけは確かなんだけれど』

 

「……迂闊が過ぎるか。それとも先制攻撃が正解か……」

 

 だが迷っている間に戦局は移り変わっていく。

 

『ミラーヘッドオーダーを受諾! 一気に決める! ミラーヘッドを展開し、敵の両脇を固めるぞ!』

 

 アルベルト達はそれを理解しているからこそ、牽制銃撃を見舞おうとするのだが、その時には《サイフォス》の装甲が全て――裏返っていた。

 

 機体が反射したのはミラーヘッドの蒼である。

 

「何が起こって……」

 

 直後、アルベルト達の展開していたミラーヘッドが霧散する。

 

 何が起こったのか、当事者達もまるで理解出来ない。

 

『ミラーヘッドが……消失した? ミラーヘッドエラーか?』

 

『いいえ、違う……。エラーは参照されていない……小隊長、これはミラーヘッドが……無効化された?』

 

 ユキノの疑問を聞きながらクラードは《サイフォス》の照り輝かせる蒼の色相の向こう側より、喪服の集団が段階加速を行い、戦局へと切り込んでくるのを目にしていた。

 

「……《ネクロレヴォル》のミラーヘッドは有効だと……。だとすれば、オーダーの無力化じゃない。特定の指向性のオーダーだけを、相殺させた?」

 

『まさか! そんな事出来る奴なんてこれまで居やしなかっただろ!』

 

 アルベルト達は前に出過ぎた隊列を組み直そうとして、《ネクロレヴォル》の加速度に肉薄されていた。

 

 ミラーヘッドで分身体を生み出した敵影が一方的な銃撃をするのを、アルベルト達の小隊は成す術もなく後退し、中には撃墜の憂き目に遭う者も居る。

 

『下がれ! オレ達は前に出過ぎている! 一旦体勢を立て直さないと、形勢は――』

 

 そこで《マギアハーモニクス》の頭上へと《ネクロレヴォル》が唐竹割りを浴びせて来ていた。

 

 反応して抜刀した《マギアハーモニクス》が咄嗟に逆手に握り締めたビームサーベルの干渉波を押し広げさせるも、膂力の差は圧倒的だ。

 

『くそっ……! ここまで迫られちゃ、《マギアハーモニクス》のパワー負けって言いたいのかよ……ッ!』

 

『小隊長! 援護射撃を――!』

 

『馬鹿! 前に来るんじゃねぇ!』

 

 アルベルトの声が響き渡る前に、一機の《マギア》が瞬く間に《ネクロレヴォル》に挟撃され、光条に交差されてアステロイドジェネレーターを射抜かれていく。

 

 爆発の光輪が押し広がる中で、アルベルトは敵の刃を翻し、ビームジャベリンを刺突させようとして、距離を取られていた。

 

 その後方より《レグルス》部隊がミラーヘッドを稼働させ、次々に分身体を生み出して応戦の火線を張る。

 

 一気に劣勢に追い込まれた戦場で、アルベルトが奥歯を噛み締めたようであった。

 

『……ミラーヘッドがどうしてなんだか、オレらだけが使えねぇ……』

 

「……《ネクロレヴォル》ならばまだ分かる。だが《レグルス》も使えるのか……? 一体何が……あのMA……」

 

 今も凶悪な蒼の光を円環を描いて拡散する《サイフォス》には小隊規模の《レグルス》が付いており、攻勢には移らせてくれない。

 

『……距離が……! このままじゃ、やられちまうぞ! 何なんだ、あのMAは!』

 

 

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