機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第136話「踊り手は一人」

 

「あえて、名乗ろうか。王族親衛隊ヴィクトゥス・レイジ! 特務大尉である!」

 

 もっとも、接触回線以外では通信網が開いてはいないが、それでも血潮が沸騰しているのを感じ取る。

 

 この時を待ちわびた神経が、一秒でも長い交錯を望んでいたが、相手はそうでもないらしい。

 

「小太刀と大太刀の併用……。まだ慣れていないと見た! 加えてその右側の兵装は少しばかり重いようでもある……! 君が美しく輝くのには、やはりまだ足りぬ! しかして! それで加減をするような酔狂でもなし!」

 

 ヴィクトゥスは《高機動型レグルス》の両腕に保持させたビームサーベルで《ダーレッドガンダム》の有する二刀流を凌駕してみせる。

 

「付け焼刃の二刀流など! それはみっともないと言うのだ、クラード君!」

 

 蹴り上げて小太刀をその手から引き剥がす。

 

 直後には大太刀が迫っているのは自明の理。

 

 だが、そのあまりに大振りな得物では《高機動型レグルス》の加速性能を捉えられない。

 

 半身になってかわしざまにビームサーベルを下段より振り上げる。

 

「装甲の一枚くらいは両断したつもりだったが……浅かったな」

 

《ダーレッドガンダム》は健在――否、さらに慎重になっていた。

 

「だがそれくらいでなければ……死合う意義もなし! さぁ、踊って貰うぞ、クラード君。私も一張羅を身に纏ったのだ! ダンスの一曲くらいは付き合っていただこうか!」

 

 刃を閃かせ、《ダーレッドガンダム》の至近まで迫るが、相手の応戦の太刀が大上段に振るわれる。

 

「隙だらけだぞ! そんなもので!」

 

 かわし切った先に居たのはしかし、生み出された分身体である。

 

 回避する事を先読みしての分身体の刺突攻撃に対し、《高機動型レグルス》の片腕を翳す事で一撃を受け切る。

 

「肉を切らせて――骨を断つ! 君とて戦の心得を、分かっていないわけではあるまい!」

 

 分身体を両断し、すぐさま本体に飛び移ろうとして、援護の火線が直上より迫っているのを関知していた。

 

 咄嗟に《高機動型レグルス》を引き剥がさせ、火砲を逃れる。

 

『クラード! そいつ、ヤバいのは見れば分かる! 一旦、《ダーレッドガンダム》は下がれ! このままじゃ飲まれちまうぞ!』

 

「……アルベルト君か。エージェントとして成熟した君とも死合ってみたいのもあるが、艦長よりもたらされた命令外だな。何よりも。虎の子のMAが潰されたのでは作戦も形無しと言うもの。騎屍兵部隊は何をしているのか」

 

《ネクロレヴォル》を押さえているのはオフィーリアよりもたらされた援軍であった。

 

「《マギア》でよくやる……。それもこれも、彼の戦勘と言うものが冴えているのだろう。……楽しみがまた増えた、と言うべきか。いずれにしたところで、ここは艦の守りに付かせてもらおうか。私とて、門外漢を気取れるほど、世捨て人でもないのでね」

 

《高機動型レグルス》の脚部と腰に格納されているビームタレットを照射しつつ、《マギアハーモニクス》と《ダーレッドガンダム》より距離を取っていく。

 

 ヴィクトゥスは後退していく《ダーレッドガンダム》の右側に保持されている特殊兵装を目の当たりにしていた。

 

「……あれだけで《サイフォス》のミラーヘッドジャマーを突破するとは。やはり君は私の見込んだ通り……いいや、それ以上の美しい獣であったのだろう。次に刃を交わす時を待ち望むとしようか。それまで、迂闊には死ねぬな」

 

 ヴィクトゥスはモルガンの甲板に降り立ち、管制室への直通回線を繋ぐ。

 

「大丈夫か。フロイライン」

 

『……それ、やめていただけますか? 部下に示しがつきませんので』

 

「それはすまない事をした。だが、君はあの日よりずっと、私にとってはフロイラインでしかないのでね。今も守るべきと規定した相手だ。……戦局が悪い。日取りを改めるべきだろう」

 

『確かに。まさか《サイフォス》を破壊するとは思いも寄りませんでした』

 

「あのガンダム……まだ先がある。迂闊に踏み込まぬ事だ。死に囚われるぞ」

 

『言われるまでもありません。これより、モルガンは後退しつつ、MS隊には撤退を進言。彼らの損耗率を無駄に出来ませんから』

 

「それで構わないだろう。……それにしたところで、私としても無傷とはいかなかったのは、未熟の証と言うべきか」

 

《高機動型レグルス》の片腕をパージさせる。

 

 瞬間、大太刀を受け止めた腕は誘爆の光に包まれていた。

 

「追いつけないと君は言うかもしれないが、この距離は以前ほど離れてはいないとも。私もタキシードに汚れをつけたまま踊るのは少しばかり気が引ける。今度こそ、互いに新品のドレスで踊ろうじゃないか」

 

『……ヴィクトゥス・レイジ特務大尉。騎屍兵団を撤退させます。相手の攻勢部隊への反撃は任せますので』

 

「ああ、構わないとも。それくらいは請け負おう。だが、《ダーレッドガンダム》と言ったか。その性能、見出される時を楽しみにしておくよ、クラード君。君がこの戦場に舞い戻ってくるまで、私は退屈せずに済みそうだ」

 

 光輪が踊り狂う宇宙のダンスホールを、ヴィクトゥスは睨んでいた。

 

 

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