「あえて、名乗ろうか。王族親衛隊ヴィクトゥス・レイジ! 特務大尉である!」
もっとも、接触回線以外では通信網が開いてはいないが、それでも血潮が沸騰しているのを感じ取る。
この時を待ちわびた神経が、一秒でも長い交錯を望んでいたが、相手はそうでもないらしい。
「小太刀と大太刀の併用……。まだ慣れていないと見た! 加えてその右側の兵装は少しばかり重いようでもある……! 君が美しく輝くのには、やはりまだ足りぬ! しかして! それで加減をするような酔狂でもなし!」
ヴィクトゥスは《高機動型レグルス》の両腕に保持させたビームサーベルで《ダーレッドガンダム》の有する二刀流を凌駕してみせる。
「付け焼刃の二刀流など! それはみっともないと言うのだ、クラード君!」
蹴り上げて小太刀をその手から引き剥がす。
直後には大太刀が迫っているのは自明の理。
だが、そのあまりに大振りな得物では《高機動型レグルス》の加速性能を捉えられない。
半身になってかわしざまにビームサーベルを下段より振り上げる。
「装甲の一枚くらいは両断したつもりだったが……浅かったな」
《ダーレッドガンダム》は健在――否、さらに慎重になっていた。
「だがそれくらいでなければ……死合う意義もなし! さぁ、踊って貰うぞ、クラード君。私も一張羅を身に纏ったのだ! ダンスの一曲くらいは付き合っていただこうか!」
刃を閃かせ、《ダーレッドガンダム》の至近まで迫るが、相手の応戦の太刀が大上段に振るわれる。
「隙だらけだぞ! そんなもので!」
かわし切った先に居たのはしかし、生み出された分身体である。
回避する事を先読みしての分身体の刺突攻撃に対し、《高機動型レグルス》の片腕を翳す事で一撃を受け切る。
「肉を切らせて――骨を断つ! 君とて戦の心得を、分かっていないわけではあるまい!」
分身体を両断し、すぐさま本体に飛び移ろうとして、援護の火線が直上より迫っているのを関知していた。
咄嗟に《高機動型レグルス》を引き剥がさせ、火砲を逃れる。
『クラード! そいつ、ヤバいのは見れば分かる! 一旦、《ダーレッドガンダム》は下がれ! このままじゃ飲まれちまうぞ!』
「……アルベルト君か。エージェントとして成熟した君とも死合ってみたいのもあるが、艦長よりもたらされた命令外だな。何よりも。虎の子のMAが潰されたのでは作戦も形無しと言うもの。騎屍兵部隊は何をしているのか」
《ネクロレヴォル》を押さえているのはオフィーリアよりもたらされた援軍であった。
「《マギア》でよくやる……。それもこれも、彼の戦勘と言うものが冴えているのだろう。……楽しみがまた増えた、と言うべきか。いずれにしたところで、ここは艦の守りに付かせてもらおうか。私とて、門外漢を気取れるほど、世捨て人でもないのでね」
《高機動型レグルス》の脚部と腰に格納されているビームタレットを照射しつつ、《マギアハーモニクス》と《ダーレッドガンダム》より距離を取っていく。
ヴィクトゥスは後退していく《ダーレッドガンダム》の右側に保持されている特殊兵装を目の当たりにしていた。
「……あれだけで《サイフォス》のミラーヘッドジャマーを突破するとは。やはり君は私の見込んだ通り……いいや、それ以上の美しい獣であったのだろう。次に刃を交わす時を待ち望むとしようか。それまで、迂闊には死ねぬな」
ヴィクトゥスはモルガンの甲板に降り立ち、管制室への直通回線を繋ぐ。
「大丈夫か。フロイライン」
『……それ、やめていただけますか? 部下に示しがつきませんので』
「それはすまない事をした。だが、君はあの日よりずっと、私にとってはフロイラインでしかないのでね。今も守るべきと規定した相手だ。……戦局が悪い。日取りを改めるべきだろう」
『確かに。まさか《サイフォス》を破壊するとは思いも寄りませんでした』
「あのガンダム……まだ先がある。迂闊に踏み込まぬ事だ。死に囚われるぞ」
『言われるまでもありません。これより、モルガンは後退しつつ、MS隊には撤退を進言。彼らの損耗率を無駄に出来ませんから』
「それで構わないだろう。……それにしたところで、私としても無傷とはいかなかったのは、未熟の証と言うべきか」
《高機動型レグルス》の片腕をパージさせる。
瞬間、大太刀を受け止めた腕は誘爆の光に包まれていた。
「追いつけないと君は言うかもしれないが、この距離は以前ほど離れてはいないとも。私もタキシードに汚れをつけたまま踊るのは少しばかり気が引ける。今度こそ、互いに新品のドレスで踊ろうじゃないか」
『……ヴィクトゥス・レイジ特務大尉。騎屍兵団を撤退させます。相手の攻勢部隊への反撃は任せますので』
「ああ、構わないとも。それくらいは請け負おう。だが、《ダーレッドガンダム》と言ったか。その性能、見出される時を楽しみにしておくよ、クラード君。君がこの戦場に舞い戻ってくるまで、私は退屈せずに済みそうだ」
光輪が踊り狂う宇宙のダンスホールを、ヴィクトゥスは睨んでいた。