機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第13話「戦士の背中に」

 雪辱は功績で晴らせ、と当初から言われてはいたものの、やはりと言うべきか、報告書の体で提出した謎のMSに直属の上司は参っているようであった。

 

「……このMSの所在は?」

 

「不明です。ですが、《エクエス》が二機やられました。私の搭乗する《エクエス》もミラーヘッドを駆使していなければきっと撃墜されていたかと」

 

「思わぬ伏兵とやらか。――ガヴィリア・ローゼンシュタイン少尉」

 

「はい。このガヴィリア、一命を持って謎の白い機体を排除――!」

 

「いや、こいつの排除は後回しだ。デザイアの掃討に向かえ」

 

「し、しかし! 彼奴は我が方のミラーヘッド機に匹敵する戦力です! ここで潰しておかなければ、禍根が……!」

 

「聞こえなかったのか。この白い奴に関しては見なかったことにしろ。いいな? 二度目はないぞ」

 

 まさか、とガヴィリアは身が竦み上がる思いであった。

 

 この白い謎の不明機に関して、上層部が噛んでいるのか、と言う疑念。

 

「……お言葉ですが、これはデザイアのウジ虫連中を味方した機体です。掃討作戦を行うのならば、これと会敵する恐れがあります。そうなった場合、無視せよと?」

 

「そうだ、そう言っている。こいつは相手にするな。スペックが《エクエス》とはまるで違う」

 

 それは承服出来かねる条件だった。

 

 戦ってみなければ勝てる勝てないは議論に上がらないはず。

 

 何よりも――とガヴィリアは胸に刻んだトライアウトの紋章を意識する。

 

 その誇りとするところは、「見敵必殺」の心得だ。

 

 ――敵は最後の一滴になるまで葬れ。立ち向かう者には容赦をするな――。

 

 軍警察に入り、ここまで上り詰めた矜持が胸にはある。

 

 だと言うのに、目の前の敵を払うなと言うのはどだい無理な話であった。

 

「……ではもし、勝てる見込みがあれば、どうなのですか?」

 

「ローゼンシュタイン少尉。君は自殺願望でもあるのかね?」

 

「い、いえ! そういう事ではなく! 今ならば勝てます! 自信がある! 何よりも、令状はまだ生きています。ミラーヘッドオーダーは四十八時間有効。この間に下位のオーダーは絶対に通らない。その仕組みを分かっているからこそです。今ならば敵がどれほどのミラーヘッド機であろうとも、確実に殲滅出来る。その機を逃すわけにはいきません」

 

「……なるほど。ミラーヘッドの、第四種殲滅戦のルールに則るのならば、その通りであろう」

 

「そうです! 勝てる見込みがあるのなら、倒しておくべきではないのですか?」

 

「……了解した。ローゼンシュタイン少尉。トライアウトの《エクエス》は五機編成。今度こそデザイアの連中を根絶やしに出来ると、誓えるか?」

 

「ち、誓えます! この矜持にかけて!」

 

 挙手敬礼の形を取ったガヴィリアに上官は嘆息をついていた。

 

「仕事熱心なのはいいが、忠告はしたぞ」

 

「必ずやあの白い機体の首を獲ってここに戻って参ります! では、失礼しました」

 

 回れ右で退室しようとした瞬間、上官がふと呟く。

 

「……噛み付き癖を如何にかせんといかんな」

 

 扉が閉まってから、ガヴィリアは拳を震わせる。

 

「噛み付き癖……? 私が? この私が噛み付き癖だと……?」

 

 それは自尊心を頭から穢されたのと同義。

 

 ガヴィリアは肩で風を切りつつ、整備デッキに向かっていた。

 

「者共! 聞けぇッ!」

 

 整備班と共に《エクエス》の配備の相談をしている下士官達へと声を振り向ける。

 

 全員がこちらを仰いで傾注する。

 

「我々はあの最底辺コロニー、デザイアとの戦闘において一時撤退をした。それは貴様らにとっての生涯の汚点となるであろう! 汚点はそそがなければ、名誉は挽回しなければ意味がないもの! ここに、あのデザイアで湧くウジ虫連中に勝てぬとする不心得者は居るか? 居るはずがあるまいな!」

 

「然り!」

 

 踵を揃え、全員の視線が自分へと集まる。

 

 ――そうだとも。最底辺の連中には最底辺の死が相応しい。

 

「第四種殲滅戦のオーダーはまだ生きている! ミラーヘッドを展開し、一気呵成にコロニーを撃沈させる! なに、元々無法コロニーだ。何かのはずみで崩壊しても、明日のニュースの三面記事になるだけで誰も気にせんとも。《エクエス》は五機編成! 私の隊長機の整備は?」

 

「万全であります!」

 

 整備班が声にするのを、ガヴィリアは満足げに聞いていた。

 

「結構! では諸君。殲滅の時間と行こうではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄く瞼を上げた瞬間、切り込んできた光に、アルベルトはハッとして身体を起こす。

 

「クラード……!」

 

「ミュイ……? クラードじゃないよ」

 

「……ファムか。オレ、寝ちまっていたのか……」

 

 時計を見やると、朝まで時間もあまりない。

 

 じぃっとこちらを覗き込んでくるファムは好奇心の塊のようなものだった。

 

「何だ、時計が気になるか?」

 

「ミュイ……おいしいの?」

 

「食べ物じゃねぇって。これでも最新式のガジェットで……ああ、そういやこんな話してると、クラードは興味ないとか言っていたよな……」

 

 我ながら女々しい事だ。いつまで引きずっているのだろう。

 

「アルベルト。クラードは……」

 

「皆まで言うな。分かってる。ファムがここに来たって事は、クラードは行っちまったんだろ? ……なら、オレらの戦いをしに行くだけだ。にしても、自分で助けた女子供を放っておくなんて、あいつもヒデェなぁ。マスター、今日のありがとな。美味かったぜ、コーヒー」

 

「……言い忘れていたんだが、いつもコインが一枚、足りないよ」

 

「そいつぁ悪かった。つけといてくれ。……出世払いでな」

 

 もう会う事もあるまい。

 

 そう考えてアルベルトは格納庫へと向かっていく。

 

 道中、何度かファムが後ろから付いて来て声をかけようとしてきた。

 

「ミュイ……クラードはね……」

 

「だから、言わないでいいって。つーか、ファムも早く逃げるんなら逃げとけ。凱空龍の仲間でも逃げる一派が居るはずだ。そいつらに任せるから逃走ルートは……」

 

 その言葉の穂を継ごうとした瞬間であった。

 

 極太の光条がデザイアの中央シャフト部を射抜き、突然に天候調整システムがダウンする。

 

 降りしきっていた酸性雨が、この時だけは止んでいた。

 

「雨が止んだ……。いや、それよりも……野郎、コロニーシャフトを撃ち抜いただと……! 条約違反だぞ、そいつぁ……!」

 

 駆け足となったアルベルトは格納庫に赴くなり、戦闘員を掻き集めていた。

 

「悪ぃ、遅くなった! ……トライアウトの連中、シャフトを……」

 

「ああ、このままじゃコロニーが崩壊しちまう……! 自動修復システムもシャフトなしじゃ循環しない……! 本気でおれ達を殺し切るつもりみたいだな……」

 

「総員、対MS戦闘用意! 旗を揚げろ! 凱空龍の最後の見せ場だ。旗翳して奴らをビビらせる!」

 

 ビーム粒子が旗を構築し、凱空龍の旗をなびかせる。

 

 次々に飛翔していく《マギア》の改修機を目に留めつつ、アルベルトは足元で所在なさげにしているファムを視野に入れていた。

 

「……ファム。逃走班! ファムを逃がしてやってくれ! 後は頼んだぜ!」

 

 逃走ルートを取るメンバーがファムを逃がそうとしてくれるが、彼女は頭を振って抵抗する。

 

『いや……っ! だってクラードが……!』

 

「……クラードにいつまでも頼ってられねぇ。《マギアハーモニクス》、アルベルト、出るぞ!」

 

 飛翔機動に入った《マギアハーモニクス》はビル街を抜けてそのまま敵MS編隊へと突入していた。

 

「……敵は五機編成……隊長機は前と同じか。野郎、意趣返しってのか……。各員! 連携を怠るな! ミラーヘッド、展開準備……!」

 

 アルベルト自身もミラーヘッドシステムを展開しようとして、不意にシステムダウンとエラーに見舞われていた。

 

「ミラーヘッドエラー……? やっぱり、令状持ちだってのか……! オレら相手にそこまでやろうって……!」

 

『デザイアのウジ虫諸君! 喜べ! 貴様ら相手にこの私、ガヴィリア・ローゼンシュタインがミラーヘッドオーダーを用いて片っ端から殲滅してやろうと言うのだ!』

 

「シャフトぶっ千切った外道が何を――!」

 

 自身の《マギアハーモニクス》が抜刀するのと、敵の《エクエス》が抜刀するのはほぼ同時。

 

 しかし《マギア》は機動力のために装甲を犠牲にしている。

 

 拮抗の状態は真の意味では正しくはない。

 

 ビームサーベル同士の干渉波がスパーク光を散らせている現状は、単純に気圧されの意味を持っていた。

 

「クソが……ッ! 何だってオレらにそんなに構うんだ、てめぇは!」

 

『簡単だよ、ウジ虫君! 目の前で湧かれたら不快で不快で、踏み潰してしまいたいものだろう? 虫けらと言うのはねぇッ!』

 

《エクエス》の蹴りが《マギアハーモニクス》の中枢に入る。

 

 それだけでも致命打となっていた。

 

 元々《マギア》は《エクエス》と真正面から打ち合うようには出来ていない。

 

「……市街地に突っ込む前に姿勢建て直し……出来るか?」

 

 否、出来るかではない。出来なければ死あるのみだ。

 

 制動用の推進剤を焚いて横ロールしつつ速度を減殺。

 

 立体機動に入り、そのまま市街地を真っ直ぐに抜けていくが、そのままでは結局、大型ビーム兵装を持つ随伴器の《エクエス》の射線に入ってしまう。

 

 アルベルトは操縦桿を握り締め、今にも吹き飛びそうな稼働を抑え込んで急上昇に転じようとしていた。

 

 両手で操縦桿を抑え込み、奥歯を軋らせる。

 

「上がれ……ッ!」

 

 コロニーの山間部に突っ込みかけて、《マギアハーモニクス》はようやく急上昇に入るも、その時には大型ビーム兵装が一射されている。

 

 天地を縫い止める禁断の兵装の一撃が山間部の森林を蒸発させ、その光条は街並みを焼き払っていく。

 

「オレ達の街が……! 野ッ郎……!」

 

 平時のようにクラードに切り込み隊長を任せているわけではない。

 

 上昇と同時に機体の四肢を開き、右腕に装填させた速射ビームライフルを引き絞りつつ、アルベルトは叫んでいた。

 

「ここから出て行け――ッ!」

 

 だが《エクエス》の装甲相手には豆鉄砲のようなものだろう。

 

 防御の陣を敷くまでもなく、隊長機の《エクエス》が蒼い軌道を描いて無数に分身する。

 

「ミラーヘッド……!」

 

『悲しいな! 私は勝利する! 君らは死ぬ! 当然の報いだ!』

 

 ビームサーベルを刺突の構えにして、隊長機《エクエス》が分身体をそれぞれの位置に配し、一方は自身の防衛網に。一方は格闘戦に特化させ、雪崩のように用いて自機を圧倒する。

 

 ミラーヘッドを使えず、そして機動力を武器に出来ない時点で、《マギアハーモニクス》は詰んでいると言ってもいいだろう。

 

「……だがよ。このままじゃ……死んでいった連中に示しがつかねぇんでな! てめぇの手足の一本や二本は巻き添えにさせてもらうぜ!」

 

『笑止! 私がアウトロー共との戦いで腕をやられるとでも? 君らの剣術さばきと私の剣術では次元が違うと知れ!』

 

 ビームサーベルを発振させてそのまま猪突にもつれ込んだ《マギアハーモニクス》であるが、無数の分身体の砲火相手に直撃を免れるのがやっとだ。

 

 それでもじりじりと機体の駆動系を粉砕されているのが次々と参照されるエラーと赤色のアラートで分かる。

 

 このままではただの自滅。ただの特攻だろう。

 

「……だがよ。オレを許してくれよな、みんな。こんな……示しのつかないヘッドでも……やれる事の一個や二個はあるんだよ……!」

 

 数ある分身体を潜り抜け、アルベルトは決死の覚悟で隊長機本体へと取り付く。

 

 その瞬間、リニアシートの足元に位置する自爆信管を引き抜こうとして、その躯体は《エクエス》に蹴り上げられていた。

 

 全てがスローに見える世界で、アルベルトは終わったと自覚する。

 

 無様によろめき、直上からの分身体の全霊を受けて恐らく自分は砕け散るだろう。

 

「……まぁでも、似合いの結末だな。……あばよ、みんな。それと、クラード。……これまで世話ぁかけたな……」

 

 蒼い分身体が迫る。

 

 刃が大上段に振るい上げられた、刹那――。

 

『――何勝手に自己完結してんの』

 

 接触回線を震わせた声に、アルベルトは目を開く。

 

 ゆっくりと開いた眼前で、白い鋼鉄の背中が自分へと手を差し伸べていた。

 

《マギアハーモニクス》のマニピュレーターを掴み上げ、白い影はそのまま肉薄したミラーヘッドの幻像を爪で斬り払う。

 

「……クラー、ド……。何で……」

 

『何でも何もないだろ。俺はまだ……あんまり好きな言葉じゃないけれど、“ケジメ”って奴を付けていない。そのままじゃ、戻っても居心地悪いから、だから付けに来た』

 

 本当にそれだけのように、クラードの駆る白亜のMS――《レヴォル》は次々に格闘戦へとなだれ込むミラーヘッドの分身体を膂力で打ち砕いていく。

 

 力任せのようで、実は違う事をアルベルトは見抜いていた。

 

 掌底を浴びせる際、《レヴォル》の掌の中央から何か蒼い粒子が散布され、それが爆発的な威力を誇ってミラーヘッドの分身体に引火――そして炸裂している。

 

 想定外の攻撃網を誇る《レヴォル》はそのまま降下し、打ち捨てられた格納庫へと自分を降ろしていた。

 

「……クラード……でもお前は……一度だってオレ達とは、仲間だったつもりなんてなかったんじゃ……」

 

『ああ、なかった。アルベルトと喋っていた俺は全部、“取り繕い”の偽物さ。俺はエンデュランス・フラクタルのエージェントで、任務のために潜入しただけだ。でもその任務内容がさ。“デザイアの上層部にまで至ってから、目標物を回収しろ”だったんだ。だからまだ、前半をこなしていない。凱空龍はテッペンに立ってないだろ』

 

「……クラード……そいつは……」

 

『だから、間違いだけを正しに行く。俺が《レヴォル》を受け取るまでが任務なら、帰投までも任務のうちだ。それを邪魔する奴らは――俺が排除する。行くぞ、《レヴォル》』

 

《レヴォル》が姿勢を沈め、直後には弾丸のように《エクエス》五機に向けて飛翔している。

 

 アルベルトは思わずコックピットから出て叫んでいた。

 

「クラード……! お前はやっぱり……!」

 

 届かなくともいい。だが今は、戦いへと赴く戦士の背中に……。

 

 

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