機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第146話「戦域は傾く」

 

『騎屍兵団、順次出撃体勢に入ってください。これより敵艦、オフィーリアとブリギット級との交戦に入ります。MS部隊、スタンバイ次第発進どうぞ』

 

 モルガン艦内に響き渡るピアーナの声に、喪服のパイロットスーツを身に纏った騎屍兵は次々と《ネクロレヴォル》へと搭乗していく中で、メイアはスリーと呼ばれた構成員の腕を掴んでいた。

 

「ねぇ、待って。交戦って、戦う以外の選択肢はないの? あれにはだって、クラードが居るんでしょう? 少しは交渉の余地くらいは……」

 

 スリーはこちらの腕を振り払い、バイザーの表層で読めない声音を返す。

 

『艦長の命令は絶対です。交渉なんてもう断たれたと思ったほうがいい』

 

「分かんないじゃんか! ……あの機体、《ダーレッドガンダム》。あれはただの新型機じゃない。前みたいに《サイフォス》で他のMSの足を止めても突破された。同じような戦術じゃ負けちゃうよ」

 

『我々に敗走は許されない。殊に、二度も三度も同じ相手とは』

 

「そう規定するならさ。ボクを戦力として出してよ。《カンパニュラ》なら交渉事に持ち込めるかもしれない」

 

『メイア・メイリス。貴女、何をやっているのですか。すぐに管制室に来なさい。貴女の居場所はそこではありません』

 

 声が響いてメイアは天井を振り仰ぐ。

 

「それってさ! こっちが勝手に考えている事じゃんか。オフィーリアとの交渉の窓口は作るべきだ。そうじゃないとこっちがフェアじゃない」

 

『何を思っているかと。あれは敵艦です。轟沈させるしかない』

 

「……キミにしちゃ、何だか思い切ったような事を言う。何か悪い事でもあった?」

 

 どうやら図星らしく、ピアーナは僅かに苛立った間を置く。

 

『……命令です。管制室に向かいなさい』

 

「《カンパニュラ》ならやれる! 前回みたいな状況になれば、話し合いじゃ済まない!」

 

『貴女は何なのです。たった一人で出来る事なんてない。何故それが分からないのですか』

 

「何故って……? それはボクもまた……あの機体に選ばれた存在だからさ。叛逆の因子に……」

 

 ここまで言えばピアーナも納得ずくになるかと思っていたが、彼女はより頑固になっていた。

 

『許可なんて降ろせるわけがないでしょう。スリー、彼女を拘束してください。騎屍兵団は準備が出来た者から出撃。ミラーヘッドを行使してオフィーリアの足を潰しなさい』

 

『御意に』

 

 直後、スリーが腕を拘束しそのまま体重を押し付けてくる。

 

 騎屍兵の心得た拘束術は自分のようなエージェントを押し込むのには充分であった。

 

「キミさ……! それでも何だかんだで艦長の事を想っているんでしょう? なら、ちょっとばかしは協力しようよ! この状況に違和感を抱いているんなら……!」

 

『勘違いをしないでください。あなたは何も分かっていない。……リクレンツィア艦長がどんな想いなのかなんて、考えた事もないくせに』

 

 その言葉に宿った死者らしからぬ論調に、メイアは糸口を見つけるよりも先に手刀で昏倒させられてしまう。

 

「チク、ショウ……こんな……」

 

『悪く思わないで欲しいですね。我々は騎屍兵。命令を実行するためだけの死者なのですから』

 

「でもそれは……」

 

 浮かびかけた言葉が霧散していく。

 

 ――でもそれは、何も考えないのとは違うはずであろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピアーナ・リクレンツィア艦長。鉤爪のガンダムは私が担当する。異存ないな?』

 

 管制室に繋がった個別通信にピアーナは応じていた。

 

「構わないのですが、本当に《パラティヌス》でいいのですか? 専用機を出しても順当と言うものでは?」

 

『彼相手に、生半可なドレスでは踊るに堪えん。私も強くあらねばならないのでね、フロイライン。ゆえに、今一度刃を交え、それから決める。決断は私の特権事項のはずだ』

 

「……王族親衛隊身分ならば決定権は投げられている。分かりました。ヴィクトゥス・レイジ特務大尉、後は任せます」

 

『引き受けたと言わせてもらおう』

 

 通信が切られ、ピアーナはこちらへと航行してくるオフィーリアとブリギットを視野に入れていた。

 

「気にかかるのは、ブリギットの動きが自動航行モードのそれにしては少しばかり鋭くなっている……。それに、向かっているのは統合機構軍のお膝元ではなく、コロニー、ルーベン。という事は、軍警察と渡りを付けた、と考えるべき」

 

「艦長、敵勢、来ます。……前と少しだけ違いますね。《アイギス》小隊を数機確認」

 

「既に支援は受けている、という事ですか。ですがそれくらいでなければ、叩き潰し甲斐もないと言うもの。騎屍兵団、出撃。敵MS小隊への交戦を承諾します。弾幕を切らさず、相手のミラーヘッドの攻勢をへし折るように。敵はパブリックのミラーヘッド頼みのはずです。MA、《サイフォス》を後方に位置。相手のミラーヘッドの緩みを狙っての強襲を。艦主砲はオフィーリアを狙ってください。ブリギット艦は後でも墜とせる。雑魚ですよ、所詮は」

 

 こちらの伝令を受け、騎屍兵がミラーヘッドに移っていく。

 

 段階加速を経て次々と交戦領域に入っていく《ネクロレヴォル》隊を眺め、ピアーナは呟いていた。

 

「……わたくしはもう迷わない。カトリナ様、せめて慈悲のうちに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「MAの光が強くなったら、予め言われていた通りに! 手はず通りにって話だ!」

 

 隊列へと声を飛ばしたアルベルトへと《ネクロレヴォル》が迫ってくる。

 

 その速度はこれまで以上に苛烈であった。

 

「何の! こっちにゃ新型機の、《アイギスハーモニア》があるってんだ!」

 

 紫色に塗装された自分専用の《アイギス》が抜刀する。

 

 相手の振るい上げた蒼いビームサーベルの輝きと干渉し合い、拡散波を生み出して弾かれ合う。

 

 アルベルトは愛機たる《アイギスハーモニア》を急上昇させ、その機動力を活かしてジグザグに挙動し、ビームライフルの光条を絞っていく。

 

《ネクロレヴォル》は即座にビームライフルでの中距離へと移ったが、それこそ狙い目だ。

 

 肉薄し、片腕を振るい上げる。

 

《アイギス》の細腕に格納されていたのは超振動をもたらすクローであった。

 

 相手のビームライフルを真正面から噛み砕き、振動の余剰波がマニピュレーターに伝導して敵の腕を一時的とは言え潰す。

 

「これで持てねぇだろ! 一気に叩く!」

 

 大上段に振るい上げたビームサーベルをそのまま打ち下ろしたが、相手は射程を潜り抜ける。

 

「段階加速か……! だが、こっちだって持ってるんだよ! ミラーヘッド、展開!」

 

 しかしそこでミラーヘッドジャマーによる阻害が入る。

 

 ミラーヘッドエラーの表示にアルベルトは通信をブリギットに送っていた。

 

「《サイフォス》のミラーヘッドジャマーの射程に入った! 手はず通りでいいんだな?」

 

『ええ。送受信の感度を軍警察の周波数に合わせれば……』

 

 ブリギットを中継してミラーヘッドが繋ぎ直され、エラーの文字が掻き消える。

 

「よっしゃ! 思った通り! 打ち消せるのはパブリックのミラーヘッドの送信の一個きり! 軍警察を経れば、その眼を掻い潜る事が出来る!」

 

 ミラーヘッドを再展開した《アイギスハーモニア》が《ネクロレヴォル》へと追いつく。

 

「これで――反撃開始だ!」

 

 しかし、《ネクロレヴォル》の加速度はその程度ではない。

 

 これまで手を抜いていたとしか思えない速度で太刀筋をかわし、瞬時に背後へと回り込んでくる。

 

 無論、アルベルトとて想定出来ていないわけではない。

 

 これまでの《ネクロレヴォル》が本気を出していないのはデータで予測済みだ。

 

 射抜く角度であった射撃をミラーヘッドの加速度で回避し、そのまま分身体を並列で生み出して射撃の応戦網を張る。

 

 だが《ネクロレヴォル》は一騎だけではない。

 

 隊列を組んだ《ネクロレヴォル》は、すぐさま前の機体の速度を借りて円弧の軌道を描きこちらを翻弄せんとする。

 

「……野ッ郎……! 隊列じゃまだ分があるって言いたいのかよ……ッ!」

 

『小隊長。通信来ています。クラードさんから』

 

「クラードから? 何だ!」

 

『アルベルト、敵を振りほどけないのなら、俺が前を務める。切り込み隊長だよ』

 

「だがお前……この間も昏倒して……」

 

『余分な心配、している場合でもないだろ。何よりも《サイフォス》のミラーヘッドジャマーを無効化出来たのは大きい。こっちもミラーヘッドで応戦出来る』

 

《アイギスハーモニア》で《ネクロレヴォル》隊の火線に応対しようとするも、敵勢の火力のほうが圧倒的だ。

 

「悪ぃ! クラード、頼むぜ! こういう時、力添えが出来ねぇのは情けねぇが……」

 

『いいよ。俺も後方待機なんてガラじゃない。今から出撃する』

 

 アルベルトはしかし、クラードが来るまでの時間稼ぎくらいはするつもりであった。

 

「……露払いくらいにはなってもらうぜ。オレと《アイギスハーモニア》の実力で!」

 

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