機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

15 / 323
第14話「さらば青春の光よ」

『一機だけでやってくるか! まともな編隊も組まずに!』

 

「うるさいな……。要らないよ、お前ら相手に」

 

 ぼやいたその言葉と共に前を遮って来た広域射程の砲身を持つ《エクエス》へと、まずは速度で肉薄せしめ、掌底をそのまま砲口へと突きつけていた。

 

 粒子が散布され敵の長距離射程ライフルが内側より爆ぜる。

 

 爆発の光を照り受けながら、《レヴォル》は腕を払い、次なる獲物へと標的を絞ろうとして、直上からの熱源反応に飛び退る。

 

『ミラーヘッドを! 嘗めないでもらおうか!』

 

「……残り四機。うち一機はミラーヘッドの令状持ちか」

 

『左様! ミラーヘッドの悪夢を前にして散れぇッ! ウジ虫共よ!』

 

 隊長機《エクエス》が腕を払い、ミラーヘッドを一気に展開させる。

 

 蒼い幻像の悪夢に、平常なる人間ならばここで絶望しているだろう。

 

 ――だが自分には。ここには己と《レヴォル》が在る。

 

「……なら、戦わないのは嘘でしょ。パンを切るよりも鋭く、早くあれ。……引用不明」

 

 各種インジケーターを承認させ、クラードは最終安全装置を解除させる。

 

「手動承認」の待機モードに入った《レヴォル》へと、クラードは告げていた。

 

「――ミラーヘッド、展開」

 

 瞬間、テーブルモニターへと「承認」の文字が映し出され、各種ステータスの画面へと、現状の《レヴォル》が表示される。

 

「ミラーヘッドジェルの消費率……六割以内……充分だ……!」

 

 輝いた真紅の瞳に戦意を滾らせ、クラードは敵機を睨み据える。

 

 直後には、《レヴォル》は無数の分身体を後方に並べ立てて構築し、腕を手刀の形に変えていた。

 

 同期した分身体が動作を模倣する。

 

『……何、だって……。何故、ミラーヘッドが使える……? ミラーヘッドオーダーは四十八時間有効なはずだ!』

 

「知るか、そんなの。お前ってさ、つまんない事言うんだな、いちいち」

 

『……嘘だ……ウジ虫連中が……嘘だァッ!』

 

 殺到した蒼い幻像同士がぶつかり合い、互いの戦力を喰い合うが、《レヴォル》の操るミラーヘッドは次々と敵のミラーヘッドを押し潰していき、その首を刎ねていく。

 

 対MS戦においての部分欠損は決定的な勝因とならないが、ミラーヘッドは話が別だ。

 

 何せ、幻像のダメージはそのまま本体へとフィードバックされる。

 

 斬られれば斬られるほどに、ミラーヘッド本体が保有するミラーヘッドジェルが大きく消費されていき、コックピットの中のライドマトリクサーは損耗する。

 

『……何を……何をやっている! 撃て、撃たんかぁッ! 奴を近づけさせるなぁ――ッ!』

 

 残り四機の《エクエス》がおっとり刀で攻撃機動にようやく入るが全て――遅い。

 

 ミラーヘッドの幻像が《エクエス》四機を格闘戦術で抑え込み、そのコックピットへと迷いのない殺意と共に掌底が浴びせ込まれる。

 

 穴を穿たれた《エクエス》は糸の切れた人形のようにそのまま落下の一途を辿る。

 

 まるで不格好なサーカスを見ているかのよう。

 

 蒼い幻像に射抜かれた《エクエス》の崩落の舞台の上で、未だに踊り続ける隊長機へと、クラードの操る《レヴォル》自ら、再接近していた。

 

『や、やめ――』

 

「――つくづく、つまんないな、お前。幕切れだよ、自己満足に過ぎない、虚飾の戦場は」

 

《レヴォル》の放つ殺気と共に放出されたミラーヘッドの粒子束の一撃を隊長機の《エクエス》は両腕をパージさせて瞬間的に引火させる。その勢いを借りて白煙を引き、脱出経路を辿っていた。

 

 逃げる敵まで追う趣味はない。

 

《レヴォル》へとミラーヘッドの幻像が収束して消えていく。

 

「……ミラーヘッド展開終了……。やっぱり……半年の隔たりは大きいな……」

 

 脂汗を額に掻いていたが、今はそんな事に頓着している暇さえも惜しい。

 

「シャフト部を粉砕されたコロニーが維持出来るのはほんの数十分。その間に……」

 

 接合された可変腕よりもたらされた情報網が脳内のリンクディスプレイに映し出される。

 

 網膜に直接映し込む技術によって、現在のデザイアの惨状が克明に理解させられていた。

 

「リミットはたったの十分ちょっと。仕方ない、MSに乗っていない人間は見逃すしか……」

 

 そこでクラードは視界の隅にミラーヘッドの蒼の光を確認する。

 

 拡大化させた視野の中で、ファムが小さくなって震えていた。

 

《レヴォル》を降下させ、そのままマニピュレーターを差し出す。

 

「……乗って。死にたくないんなら」

 

『ミュイ……やっぱりクラード、たすけにきてくれたー!』

 

「違う。勝手に助かるんだ。それだけだよ」

 

 ファムをコックピットに招き、クラードはそこらかしこから空気圧と、そして再生能力を失ったコロニーが自壊していくのを目にしていた。

 

「……もうデザイアは持たない。アルベルト達は……」

 

 その時、旗を掲げて上昇軌道に入っていたのは、凱空龍の生き残りの《マギア》部隊であった。

 

 彼らへと、クラードは嘆息をついてから、本当、とぼやく。

 

「……つまんないよな、俺も」

 

 ミラーヘッドの粒子を操り、《レヴォル》に構築させたのは見知った凱空龍の旗であった。

 

 すると凱歌のように、凱空龍の通信がアクティブになっていく。

 

『あれは……あれは凱空龍の旗だ! おれ達の旗だ!』

 

『あのMSは味方なのか……? 識別信号は……!』

 

「……達す。こちらは凱空龍のクラード。この旗印の下に集うのなら、付いて来い。コロニーは今に駄目になる。その前に……逃げ込む場所くらいはあるんだからな」

 

 すると、凱空龍の《マギア》は旗を大きく掲げてそれを誇示するかのように振って見せる。

 

 最後の旗を持つ機体が浮かび上がり、《レヴォル》と相対速度を合わせて来ていた。

 

『……クラード。オレは……』

 

「アルベルトか。……信じられなければ付いて来なくってもいいし、俺は信じろなんて絶対に言わないよ」

 

『……ああ、それで構わねぇ。オレが信じたいんだ』

 

「……どいつもこいつも、勝手に信じていくんだな」

 

 旗を掲げたMS群が崩壊するコロニー、デザイアにまるで別れを告げるかのように粒子の旗を天高く揚げていく。

 

 それは故郷への最後の挨拶のようであった。

 

『……あばよ、デザイア。オレ達の青春』

 

 アルベルトが呟いて、《マギア》の改修機はそれぞれ崩れ落ちていくコロニーを暫し見つめていた。

 

「……これでどうにかなるわけじゃないけれど、でも……軍警察はもう追ってこないとは思う」

 

『クラード。しかし暗礁の宇宙の中で漂うのは現実的じゃねぇ。当てはあるんだろうな?』

 

「もちろん。あれが、新しい拠点だ」

 

《レヴォル》が指し示したのは、こちらへと真っ直ぐに航行する大型戦闘艦であった。

 

 オレンジ色の母艦はこちらへとランデブーポイントを指定し、そのまま誘導灯を灯らせる。

 

 カタパルトを開いたその艦にアルベルトは呆然と声にしていた。

 

『ここは……』

 

「ヘカテ級機動戦艦、ベアトリーチェ。エンデュランス・フラクタルの母艦だ」

 

 カタパルトに接地するなり整備班の声が通信網に響き渡る。

 

『《レヴォル》の帰投だ! 各員、機体整備! ミラーヘッドを使用した痕跡があるのならパッケージ通りじゃないぞ! マニュアルは捨てていけ!』

 

《レヴォル》に取りついた整備班を見やってから、クラードはようやく両腕を元の状態に可変させる。

 

 額に浮いた汗の粒を拭い、接続された通信窓に視線を配る。

 

『クラード。作戦遂行の後、無事帰還、ご苦労だったな。《レヴォル》に関しちゃ任せとけ。おれ達が最上に仕上げておいてやる』

 

「……助かる、サルトル。ミラーヘッドを短時間ながら行使した。多分、損耗率は三割以内」

 

『了解。なに、お前が関わる前からこいつのプロジェクトには立ち会っているのさ。よちよち歩きの頃から見ている仲だ。《レヴォル》を万全にしておく。お前は休んでおけ。そうしとかないと次が辛いぞ』

 

「分かってる。ベアトリーチェの俺の部屋……と、そうだった。荷物がある」

 

「クラード! ちいさいひと!」

 

「違う、小さいんじゃないんだ、通信ウィンドウだよ」

 

『……クラード? 誰だ、その子? 後ろのは潜入していたって言う暴走族の連中ってのは分かるんだが、その子はデータにはないぞ?』

 

「ミュイ! ファムはファム!」

 

「……ファムって言う名前の……どっかの誰かの落し物。俺にもよく分かんないから、女性クルーに任せておく。アルベルト達の《マギア》を頼んだ」

 

『……それは……任されておくがしかし、艦長に直談判するのはお前だからな? いくら戦力が増えたって言っても、それがイコールこっちの強みになるとは限らないんだ。どちらかと言えば弱点になるだろう』

 

「……弱点、か。ないほうがいいはずだな」

 

 気密が保たれたのを確認してからクラードはコックピットハッチを開く。

 

 するとファムがごろんと前に転がって上下逆さまのまま漂流する。

 

「クラード! うかぶ!」

 

「そりゃあ、そうだろう。無重力なんだからな」

 

 半年以上振りのサルトルがコックピット側面のメンテナンスボックスを開いてケーブルを伸長させる。

 

「久しぶりだな、クラード」

 

「サルトルも久しぶり。……ちょっと痩せた?」

 

「三キロプラスだ、コンチクショウ。メシ食っとかないとこの先やっていけんからな」

 

 端末に次々と《レヴォル》のデータを移送していくサルトルから、クラードは流れ行くファムを中空で抱き留めた相手を目にする。

 

 リクルートスーツの茶髪の女性が目をぱちくりさせていた。

 

「うわっ……えっと、どちら様……?」

 

「ファムは、ファムだよ?」

 

「その声……委任担当官って言う……」

 

「あっ、そのー……御挨拶しないとと思いまして。はじめまして、クラードさん。私、委任担当官となったカトリナ・シンジョウです」

 

 名刺を差し出す相手を無視して、クラードは後方で怒鳴り声を散らす整備班とアルベルト達を視野に入れていた。

 

「だから! カスタムモデルの《マギア》なんて整備対象外なんだって! 分からないのか?」

 

「これはオレ達の魂の機体だ! 下手な事するんなら承知しねぇぞ!」

 

「冗談! エンデュランス・フラクタルの整備班が仕事するって言ってるんだ」

 

「……上手く行きそうもないのかもな」

 

 呟いた自分に対し、カトリナは目の前で硬直している。

 

「……何? 邪魔なんだけれど」

 

「いえ、そのぉー……挨拶を」

 

「必要ない。それと、今次作戦の是非を艦長に報告しないといけない。俺の部屋は? サルトル」

 

「Cブロックのほうにある。感謝しろよ? これでも綺麗にしてあるんだからな」

 

「進水式をすっ飛ばして発進したんでしょ? 当然だよ」

 

 クラードは格納デッキを漂おうとして、目の前のカトリナがいつまでも退かないので戸惑いを返す。

 

「……退いて。邪魔だ」

 

「いえ、その……兎みたいな……赤い瞳なんですね」

 

 小動物めいた栗色の瞳を見開いているカトリナに、クラードは返答しようとして不意打気味の衝撃によろめいていた。

 

 ファムが転倒して泣き出してしまう。

 

「……この衝撃……敵襲?」

 

「ま、まさか……。帰還したばっかりですよ?」

 

 だがその言葉とは裏腹に艦内はすぐさま赤色光に塗り固められ、警告音が鳴り響く。

 

『高熱源を感知。十時の方向にシグナル不明のMSを確認しました』

 

 通信ウィンドウがベアトリーチェの管制室に接続される。

 

 通信先に居たのは長い赤髪を流した女性オペレーターであった。

 

「……何があった?」

 

『ビームライフルと思しき熱源攻撃を検知。敵の総数は現状では不明……』

 

「分かった。《レヴォル》で迎撃する」

 

「ま、待ってください! クラードさん! 今の《レヴォル》は手負いのはず。危険過ぎます!」

 

「……じゃあ他に迎撃出来る人は居るの?」

 

「それは……」

 

「アルベルト達のほうが手負いだ。俺が一番マシなはず」

 

 カトリナを押し退けてクラードはコックピットのハッチを閉める。

 

「……ミラーヘッドジェルの消費量は四割。初期値にしては上出来か。敵もミラーヘッド機の可能性は?」

 

『待ってください。……信号を確認。照合シグナルは《エクエス》一機です』

 

「たった一機? ……嘗めているのか。軍警察の送り狼?」

 

『いえ、たった一機の黒い《エクエス》で……』

 

 そこで《レヴォル》のインジケーターを稼働させていた手を止める。

 

「……黒い《エクエス》……? まさか……」

 

 その答えを咀嚼する前に、次なる一手がベアトリーチェを激震させる。

 

『右舷直撃! ベアトリーチェの兵装システムはまだ未調整なんです! このままじゃ……』

 

「遠からず轟沈か。《レヴォル》で出る。他の人は? ついて来られる人の一人くらいは居るでしょ。そいつに艦は任せる」

 

『ハイデガー少尉なら、《エクエスガンナー》で出撃可能との事です』

 

「……なら、艦砲射撃の代わりになってもらう。黒い《エクエス》がたった一機だって言うんなら、俺の《レヴォル》で出たほうが早い。このままスクランブルでカタパルトデッキまで向かう! 水先案内人は不要!」

 

 整備班のガイドを経ずに、《レヴォル》はカタパルトデッキに向かっていた。

 

 シャッターが開き、カタパルトのスリッパへと《レヴォル》が足を乗せる。

 

 ベアトリーチェ側面のカタパルトが引き出され、そこから直進に伸びるリニアボルテージを《レヴォル》は踏み締めていた。

 

「管制室に問う。《レヴォル》、発艦準備完了。タイミングを譲渡」

 

『クラード! 《レヴォル》はまだ……』

 

 いつまでも発艦許可は下りない。

 

 赤く染まったままのシグナルを視野に入れ、クラードは深呼吸を置いて、丹田に力を込める。

 

「強制排除! エージェント、クラード。《レヴォル》、先行する!」

 

 スリッパを排除し、浮遊した《レヴォル》へと三時方向からビームライフルの光条が突き刺さる。

 

 カタパルトに縫い付けられていれば確実に撃墜されていたであろう。

 

 燃え盛るカタパルトが眼下で消火用のガスが散布されるのを視界に入れながら、クラードは《レヴォル》の操縦系統と自らの腕を接合させる。

 

 可変腕よりもたらされたライドマトリクサーとしての情報網を即座に脳裏に叩きつけ、クラードは暗礁宙域でこちらを狙い澄ます敵影を予見していた。

 

「……そこか」

 

 黄色いビームライフルの光芒が下方を突き抜けていくのを視認しつつ、《レヴォル》は推進剤を焚いて敵機へと肉薄する。

 

「前情報通りの黒い《エクエス》……。だが、その機体を操るのは……!」

 

 瞬間、敵機は抜刀し、ビームサーベルの発振光が焼き付く前に、クラードは《レヴォル》の掌底を叩き込んでいた。

 

 直後には、炸裂した衝撃波とビームサーベルの干渉波が激しくスパーク光を散らして互いの機体を照り返させる。

 

 敵機の黄色い眼窩が煌めき、蒼い《レヴォル》の視線と交錯していた。

 

『――光栄、だと思うべきなのかな。エンデュランス・フラクタルの新型と死合えるとは!』

 

「何者だ!」

 

『識者、グラッゼ。グラッゼ・リヨン。喜ばしいな、また敵となるか。エージェント、クラード君!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二章 「青春の日々にサヨナラを〈グッバイ・ユースフルデイズ〉」 了

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。