機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第153話「語るべきこと」

 

 対面を願ったのは、何もユキノが負傷したからだけではない。

 

 軍警察、トライアウトジェネシスと手を組むに当たっての不安要素を打ち消したいだけだと、アルベルトはレミアに説明していた。

 

「だってオレらは……何も知らないも同然なんですからね。騎屍兵身分だってそうだ。艦長、何かあんたは知っている。だから、オレの要望になんて応えてくれた」

 

「勘違いをして欲しくないのは、私は別段、あなた達を先導するからと言って、全ての責任問題に手を回すわけでもない事。……ユキノさんに関して言えば、ヴィルヘルム先生に聞いてちょうだい」

 

「あの人は大丈夫だって言っていました。だから信じますけれど、オレは……やっぱ微妙に、信じられねぇんだよ。あんたが二度も三度も裏切らないとは限らないからな」

 

「賢明な判断ね。あなたはこの三年間でエージェントとして力を付けた。それは実力の面だけじゃない、精神的な面も含めて。戦いにおける生存率よりも他者とこうして会話していく中での勝率を高めていった」

 

「はぐらかさないでください。オレは、今聞きたいのはシンプルなんすよ。あんたはトライアウトジェネシスと密約を交わしたわけでもない。だが、そこには信用ってもんがある。……ネメシスから寝返ったって言っても、皆が皆、信じているわけでもねぇって事っす」

 

 レミアは執務机から煙管を取り出す。

 

 その光景が――かつて自分にMFの存在と、そして《レヴォル》の正体を説いた時とだぶってしまって、アルベルトは唾を飲み下していた。

 

「ごめんなさいね、吸っても?」

 

 首肯すると、甘ったるい紫煙をたゆたわせてレミアは吐息をついていた。

 

「そうね。三年もベアトリーチェを防衛し、そしてカトリナさんの命令を遵守していたあなたからしてみれば、私は鞍替えばかりする裏切り者に映るか、あるいは軽薄に見えるのでしょう。それは正しい感覚よ」

 

「あんたは何で……ジェネシスの連中を抱き込めた? あのやり取りを見ていたとはいえ、含みのあるものを感じずにはいられなかったってのが本音っす」

 

「そもそも、彼のDD……ダビデ・ダリンズ中尉に関して、でしょうね。彼女はかつてベアトリーチェに幾度となく敵として道を阻んできた。……でも、今ばっかりは、信じられると思うわ。彼女の離反はトライアウトジェネシスにとってかなりの痛手になるはず。リスクも分かっていての合流だと思っているけれど」

 

「それも、オレからしてみりゃ不明なんですよ。コロニー、ルーベン。入港してから先、敵の襲撃の予兆もない。ある意味じゃ、不気味過ぎるほどに静かっす。それもどうかと思うんですよ」

 

「そうね。私だって、軍警察の一部組織の離反だから、何かしらトラブルがあるかと思っていたくらいだけれど、そう言ったゴタゴタもなし。DDが上手くやってくれている、という事を加味したとしても出来過ぎているほどに。……そこに何らかの意思の介入を疑うのは自然な事よ」

 

「何者かが……いいや、ここで濁すのもズルいな……。軍警察と、統合機構軍、黒だったのはどっちだって同じ事でしょう? 実際、ピアーナが仕掛けてきたんです。騎屍兵身分まで使って……」

 

「どっちに付いたところで地獄なのは変わりなし。オフィーリアもブリギットも危ない橋を渡っているのは同じ。……でもあなたはこうも思っている。ブリギットはもしもの時に軍警察と合流出来るが、オフィーリアは孤立する。前をブリギットで固められて、後ろにはモルガンでは逃げるに逃げられないのだと」

 

 こちらの想定を軽々と言ってのけるレミアには相変わらず舌を巻きつつ、アルベルトは口にしていた。

 

「……そうっすよ。前も後ろも固められてる現状じゃ、安心して休めもしねぇ。それに……もっとあるのは、クラードの機体っす」

 

「《ダーレッドガンダム》に不安要素を覚えるのは分かる。けれど、あれに関して言えばサルトル技術顧問とクラード本人の領分だろうけれど?」

 

「……そういうのも言いっこなしじゃねぇっすか? もう個人の問題だから、で済ませられないでしょ。《ダーレッドガンダム》に搭載されているアイリウムは、クロックワークス社の作り出した《サイフォス》のミラーヘッドジャマーを無効化する。これだけでも充分に驚きなのに、あいつの性能は遥かに上にいやがる……。《ダーレッドガンダム》に関して言えば、そそのかしたのはあんただ。だから、オレはその線を疑っている」

 

「なるほどね。最初から、ああいう忌み名の機体をクラードにあてがって、自滅させようとする魂胆だとでも」

 

「……全面的に肯定は出来ませんが、否定も出来ないでしょう」

 

 レミアは煙い息を吐いてから、泣きボクロを伏せる。

 

「……でもあの状態じゃ、クラードは《疑似封式レヴォル》に殺されていたわ。彼の魂を死なせないためには、《ダーレッドガンダム》が必須だった。こう思って欲しくないのは、アルベルト君。《ダーレッドガンダム》にレヴォルの意志が搭載されているなんて想定外だったのよ。私は、ただ単に現状を打破するだけの性能だと教えられていた」

 

「それも変でしょう。そんじゃそこいらの新型機なら、クラードが乗る意味がねぇ。オレでもよかった。あんたはクラードに乗らせるように仕向けた。それは何故か。……秘密があるんですよね? あの機体には」

 

 詰めたこちらの声音にレミアはフッと笑みを浮かべる。

 

「つくづく……食えない身分になったじゃない、あなた。私はそこまで勘繰って欲しいわけじゃなかったんだけれど、それもカトリナさんのため?」

 

「……あの人は関係ねぇっすよ」

 

「まぁ、そう言うんならそうなんだろうけれど。……察しの通り、《ダーレッドガンダム》は特別な機体よ。不確定情報だけれど、あの機体はかつての《レヴォル》と同じ……いいえ、それよりもなお色濃い、そういった存在である可能性が高い」

 

「……モビルフォートレス……」

 

「逸らないで。結論は……まだ出ていない。限りなくその可能性が高いだけなのよ。私が知っているのは、《ダーレッドガンダム》がこれまで出てきた新型機を凌駕するだけの性能を持っている事だけ。これに関して言えば信じて欲しいの。嘘を言おうにも、ブリギットごと拿捕されたあの状態じゃ、言えるわけがないでしょう?」

 

「……あんたは強かじゃないですか」

 

「私なら言えるって? 随分と見られたもんじゃない。けれどまぁ、仕方ない、か。とは言え、私の結論もあなたと同じ。クラードに無為に傷ついて欲しくない。彼と交わした約束は、まだ有効のようだから」

 

「その約束って奴なんですけれど、何なんですか。あいつは言いたがらないんですよ。艦長と交わした約束って言うの……」

 

「私も他人にぺらぺらと喋るようなクチじゃないし、自ずと、ね。けれど、前にも言ったかと思うけれど、クラードにはトリガーを託している。その約束を、彼はずっと、守ってくれているのよ」

 

 アルベルトはレミアの話し振りを聞く限り、嘘は言っていないと判断していた。

 

 だが、真実でもないのだと。

 

 どこかで、偽りでないにせよ、糊塗された何かを感じ取る。

 

 そこに踏み込むだけの言葉を、今は持たないだけであった。

 

「……それはクラードとあんただけの……特別な約束ってワケですか」

 

「そう、弱い女だと思ってくれて構わないわ。私は……そう器用にも出来ちゃいないのよ」

 

「いえ、弱いなんて、思っちゃいませんよ。あんたは……その強さでベアトリーチェを率いてくれた。そうじゃなければ、オレはあの時……駄目になっちまっていたかもしれません」

 

 それはかつて、愛する人を失った時の痛み――ラジアルが死んだ時、彼女はあえて冷徹に務めた。

 

 その理由が、今ならば分かる。

 

 上に立つ人間が、感情を乱されればそれだけで生存率は下がるのだ。RM第三小隊を任せられてからと言うもの、それを痛感するだけの日々であった。

 

 何人死んだ、何人死なせた、何人――自分のせいで。

 

 そんな益体のない考えに身を浸し、その結果として重い感情を引きずるくらいならば、冷たく見えたところで、血も涙もないように見えたところで。

 

 それは結果論として、彼らを生かす事に直結する。

 

 だから、分かってしまったから、レミアを責められないのだ。

 

 艦長としての職務は何より正しかったのだと、それが嫌でも理解出来てしまうのだから。

 

「……上に立つってのは一筋縄じゃ、いかないんすね」

 

「あなたもそれが分かっただけ、大人に成ったという事よ。でも、私として見れば、あの時の無鉄砲なあなた達が眩しかったのもあるけれどね」

 

「眩しかった? いや、あの時のオレらは……言って反目するばっかで……何にも分かってなかったんだと思います。何一つ……クラードの事だって、オレは……」

 

 レミアは煙管を下ろし、コーヒーメーカーを抽出していた。

 

「ちょっと飲んでいかない? あなた、普段は休憩だってまともにしていないでしょう?」

 

「いや、オレぁ……」

 

「いいから。カトリナさんもそうだけれど、問題なのはオフィーリアを現状預かっている面々なんだから。あなた達が駄目になっちゃえばそこまで。私は所詮、艦長職だけが取り柄の女なんだし、あなた達に防衛網は一任している。それもこれも、信頼してなのよ。これも、嘘くさいかしら?」

 

「あ、いや、オレは……すんません、何だか……言い繕うのも、ちょっと馬鹿っぽいっすけれど」

 

「そのほうがあなたらしいわ、アルベルト君。私を追求しに来て、まさかコーヒーが振る舞われるなんて思っていなかった?」

 

 マグカップを差し出されアルベルトは芳しい香りが鼻孔を突き抜けていくのを感じ取っていた。

 

「……普段は携行飲料ばっかですから、あったかい飲み物って新鮮っすね」

 

「よくないわよ? いくらRMだからって、必要最低限の栄養ばっかりじゃあね。逼塞しちゃう」

 

「……いただきます」

 

 会釈して口にすると、想定外の苦味にアルベルトは顔を歪めていた。

 

「……苦ぇっすね、コーヒーって」

 

「それはあなたがまだ一端には遠いって言う証明よ。一流の人間は、コーヒーの苦味くらい、飲み干せてしまうんだから」

 

 レミアは涼しい顔をしてコーヒーを口に運ぶ。

 

 その雅な様子にアルベルトは冗談めかして返答していた。

 

「艦長、どっかの偉いさんのお家柄とかだったんすか? コーヒー一つにこだわるなんて」

 

 そこでレミアは不意にこちらへと視線を寄越し、マグカップの黒々とした液体に視線を落とす。

 

「……家って言うのは、アルベルト君。あなたもリヴェンシュタイン家だから、何となく分かると思うけれど、血を絶やすのには覚悟が要るのよ」

 

 リヴェンシュタイン家である事をここで言及されるとは思っておらず、アルベルトは当惑する。

 

「……そいつは……艦長の家もワケありって事で?」

 

「わけなんて言うほどの大層でもないんだけれどね。……妹を、家に残してきたのよ。私より一回りも下の妹で……でも、血は繋がっていないの。母親違いの妹でね」

 

 ここに来てレミアが自分の過去を吐露する。

 

 それはどこか懺悔にも似た響きであった。

 

「妹さん……っすか」

 

「ええ。妹は私の事をとても慕ってくれていたけれど、統合機構軍に入る時に随分と家に反対されちゃってね。ほとんど勘当の形で飛び出しちゃったのよ。妹には酷な事を強いていると思うわ。あの子はとても優しい子だったから、今も家柄に縛られているのかもしれないし」

 

「……艦長も、弱音を見せる事ってあるんすね」

 

「私を何だと思っているの? 失礼な事を言うのね」

 

 だが、こうしてマグカップ片手に笑い合えるとは三年前にはまるで想定していなかった。

 

 それだけ互いは遠く、違う世界の人間同士があのベアトリーチェには集っていたのだろう。

 

 自分は偽りのまま、レミアは責任を胸にして。

 

 それでもベアトリーチェの日々は今でも宝石の過去だ。

 

 あのどこか喧噪を纏ったような毎日は、決して嫌ではなかった。

 

「……懐かしく、なっちまいますね。ファムが居て、トキサダが居て……」

 

「ファムに関して言えば、どこに行ったのかはまるで不明なのだけれど、トキサダ君はね……。私の指揮で殺したようなものだわ。どれだけ謗られたって文句はない」

 

「いえ、そんな……。オレもあん時、気張れなかったんです。だから艦長だけで背負おうなんて思わないでください。オレ達は……何だかんだで一蓮托生っすから」

 

「一蓮托生、ね。あなた達らしいわ、その言葉。だって……ずっとそれでやってきたんだものね。私はそれに乗れなかった。だから軍警察と言う逃げ場を作ったようなものなのだし」

 

「でも……艦長は逃げなかったからこそ、こっちに付いてくれてるんでしょう?」

 

「……分からないわ、そんなの。いいえ、分かったからって簡単な答えで満足してはいけないのでしょうね。あなた達が傷ついて、カトリナさんもここまで損耗して、それでいて、矢面に立ち続けると言うのは苦悩のはずよ」

 

 答えなんて出ない。いや、出してはいけないのだろう。

 

「……オレは多分、どっかでカトリナさんや、艦長に答えを出して欲しいとか、そういう事を考えてるんだと思います。だから……嫌な大人なんだって言うのはそういうところなんでしょうね」

 

「それはあなたもきっと、どこかで責任を背負うようになったからなのでしょう。何も失うものなんてなかった頃には戻れやしないのよ」

 

 責任で雁字搦めに成るのが正しいのか。

 

 それとも、責任を取れるだけの人間に成るのが正しいのか。

 

 いずれにしても、自分はまだ立派な意義を見出せそうになかった。

 

 コーヒーを呷り、アルベルトは身を翻す。

 

「コーヒー、美味かったです。艦長、一つだけ聞かせてください。あんたが守りたいのは、クラードとの約束ですか? それともクラード自身なんですか?」

 

 レミアは唇を引き結び、やがて応じていた。

 

「……私はまだ、トリガーとしての彼に焦がれている。それは私自身、答えなんて出せないから。そんな自分がどれほど嫌でも、どれほどに辛くっても、それでもまだ……自分には価値があるんだと信じたい。ううん……信じなくっちゃ前には進めない。オフィーリアとブリギットを預かる以上は、私は責任逃れの言葉はもう吐けない。ここに居るのはレミア・フロイトと言う、弱い女でありながら、艦長職を全うするだけの女でなくてはいけないのよ」

 

「……いずれにせよ、あんたはクラードと一緒に居なくっちゃいけない、か」

 

「ええ。彼は私にとっての全て。だから、もう一度……機会さえ巡って来れば彼への答えを、保留し続けてきたものを、自分の言葉で出せるんだと思っていた……。でもそれも傲慢なのかもしれないわね。私は彼の生き様と、そしてどう生きるのかと言う命題に関して、あまりに無頓着であったのかもしれない。彼は、エージェント、クラードは分かりやすい答えなんてくれないわ。私に……問い続けている。トリガーとしての意味を」

 

「オレはクラードと背中合わせに喧嘩するだけです。……これはカトリナさんにも言いましたけれど、オレにはそれくらいしか能はありませんから」

 

「……そう。カトリナさんも辛いわね。自分が信じたものに裏切られながらも、前に進まざるを得ないなんて」

 

「いつだって、答えなんてそんなもんでしょう。オレは、目の前に差し出された答えらしきものに対し、ノーを言える人間に成りたいんすよ。だってそれは、オレの見出した答えじゃない」

 

「アルベルト君。そう言えるだけで、もう立派に大人よ」

 

「よしてくださいよ。背丈と年かさだけで大人に成れるなら、もうちょっとマシに出来上がっています」

 

 アルベルトは艦長室の扉を潜ってブリーフィングルームに向かう途上で、書類を抱えたシャルティアと行き会っていた。

 

「……シャル? 何してんだ、ぼさっとして」

 

「あ、ああ、アルベルトさん? いえ、その……私、ちょっと思うところがあって」

 

「だからって委任担当官が廊下でぼんやりしている場合でもねぇだろ。窓の外に何かあんのか?」

 

 シャルティアは茫漠とした宇宙空間に視線を投じている。

 

 並び立つと彼女の背丈の小ささが際立ったが、今は喚き散らす様子でもなかった。

 

「……軍警察の港です。何があるか分かったもんじゃない」

 

「信用しろ、ってのも無理か。悪ぃな。手間取らせてる」

 

「いえ、いいんです。だってそれが……委任担当官のお仕事のはずなんですから。でも、アルベルトさん。ちょっと、分かんなくなっちゃいました。だって、ユキノさんはシンジョウ先輩を庇って、負傷されたって……」

 

「ユキノに大事はねぇ。心配したって仕方ねぇさ」

 

「分かっています、それに関しては。だってシンジョウ先輩は私達のリーダーなんですし、それは重要な局面だった事も……。でも、ユキノさんは大人です。しっかりとした、大人なんです。だって言うのに……この状況が……」

 

「飲み込めない、か。分かんなくもねぇ。オレも、昔はそうだった。凱空龍からベアトリーチェに来た時には、馬鹿みてぇに反目したもんさ」

 

 そう言いやるとシャルティアは少し呆気に取られたように目を見開いていた。

 

「……何だ? いつもだらしがない大人って言っているだろ? その通りなんだからよ、ガキん頃から」

 

「いえ、その……。アルベルトさんが凱空龍の、昔話されるの、初めてのような気がして……」

 

「そうか? そうだったかな。……ま、過ぎたる事は何とやらと言うからな。オレは……でも確かにあの時に、青春の終わりってもんを感じたのは確かだ。ガキで居れる期間ってのは思ったよりも有限で、それはつまんねぇ大人に成っちまってからじゃ取り返しも付かない。そんな事を、誰かが言っていたっけな。……オレは物分りの悪いガキだったよ」

 

 誰かに教えられる前に、大切な人の死で、ようやく自分で実感したのだ。

 

 子供のままでは救えるものも救えない。

 

 取りこぼすばかりの戦場なのだと。

 

 シャルティアは抱えた書類をぎゅっと抱き締め、意を決したように口にする。

 

「……アルベルトさんは、姉と会っているんですよね?」

 

 まるでこうして――かつて並び立って景色を眺めて話していた事を彼女は知っているかのように切り出すものだから、アルベルトは当惑していた。

 

「……ラジアルさん、か……」

 

「私……! 委任担当官ですけれど、それでもやるべき事はきっちりやるべきだと思っています。アルベルトさん! ……ユキノさんが出られない今、戦力として出せるって言うんなら迷わずに命令してください! ……出撃訓練は受けています」

 

 平時ならば、そんな世迷言を聞き入れなかったと思うが、ユキノが負傷し、そして騎屍兵を捕らえた今、少しばかり弱気になっていたのかもしれない。

 

 アルベルトは問い質していた。

 

「……本当に、撃てんのか? お前に、敵を」

 

「……撃て、ます。敵くらい……」

 

「だがその敵って言うのはよ。これまで支援してくれていた統合機構軍であったり、エンデュランス・フラクタルの同朋だったりするかもしれねぇんだ。もういっぺん、聞くぜ。それでも撃てるのか?」

 

「私……は……」

 

 迷いの胸中なのは明らかであった。

 

 それでも、その問いに答えられなければ彼女に銃を取らせるわけにはいかない。

 

 ラジアルとの誓いであると共に、自分に打ち立てた誓いでもある。

 

「……撃てねぇんなら、無理はすんな。それに、オレらだって不屈のRM第三小隊。ユキノの穴くれぇは埋める手立てだってある。シャル、お前はオレ達の委任担当官で居続けてくれ。オレ達を、サポート出来んのはお前だけだ。それは誰にも肩代わり出来るような役職じゃねぇ」

 

 肩を叩いてアルベルトはその場を後にしようとすると、シャルティアは振り返って声を張り上げる。

 

「分かりませんよ、そんなの! ……あと私の名前は、シャルティアです! シャルじゃない!」

 

 吼えられるだけまだマシだ。

 

 アルベルトは片手を振って彼女の声を受け止めていた。

 

 

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