機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第160話「鏡像殺し、再来」

 

「もういいって聞きました」

 

 病室を訪れたシャルティアに対し、身を起こしたユキノは首肯していた。

 

「うん、心配かけちゃったわね……」

 

「その……色々あったみたいです。あの騎屍兵の鹵獲から先……よく分かんない事ばっかりで……」

 

「さっきヴィルヘルム先生から聞いたけれど、レジスタンス勢力がこっちに集合してきたんだって? それはカトリナさんが?」

 

「いえ……何だかシンジョウ先輩もちょっと……おかしいって言うか」

 

「おかしい、か。カトリナさんはでも、一生懸命でしょう?」

 

「それはそう……! ですけれど……そうじゃないって言うか……。シンジョウ先輩、クラードさんと、何かあったみたいで……」

 

「まぁ、カトリナさんはクラードさんの専属窓だから、私達には関知できないものがあったっておかしくはないわね」

 

 シャルティアはぎゅっと書類の束を抱き留める。

 

「……それでも、信用ないんですかね、私……。シンジョウ先輩の直属の後輩で、委任担当官なのに……」

 

「たとえ身分が同じであったとしても、分け合う痛みは違うはずでしょう。……ま、私に言えた義理じゃないけれど。小隊長にいつまで経っても遠慮している身じゃ、ね」

 

「そんな……! ユキノさんはしっかりやっていますよ! 私、このオフィーリアの大人でもユキノさんほどちゃんとした人って居ないと思っているんですから……」

 

「ちゃんとした大人は考えるよりも先に身体が動いたりしないって」

 

 それは、と口ごもるシャルティアにユキノは微笑みかける。

 

「なんてね。私も大人じゃなかったってだけの話なのよ。それに、クラードさんも小隊長も私なんかじゃ及びもつかないレベルでの戦いを行っているはず。もっと強く……ならないとね……」

 

 拳をぎゅっと握り締めたユキノはシャルティアの報告の声を聞いていた。

 

「……現状、レジスタンス組織の艦隊は目立ちすぎるとの事でして……。何だって急に集まってなんか来たのかは不明なままなんですが、それでもフロイト艦長の方針として少しでも戦力があるのなら利用したいとの事でして」

 

「一手でも先に行けるのなら……か。レミア艦長らしいわね」

 

「ですが、ほとんどが旧型配置の《アイギス》です。中には《エクエス》や《マギア》のような旧式機も採用していますし……。それにトライアウトジェネシスとの密約上、このコロニー、ルーベンにおける作戦行動は慎重を期す必要があるのですが、軍警察からしてみれば統合機構軍の新鋭艦、すぐにでも出航するように、とのお達しが来ています」

 

「世知辛いわね。表向きはレジスタンスとの渡りなんて付けたとは言いたくないし、誰かに勘繰られたくもない。こうなった以上、清濁併せ呑むのにしてはあまりにも苦味が先走る……。ダビデ中尉は?」

 

「あの人の考えも似たようなものらしいです。レジスタンス組織を抱き込むのは半分は賛成ですが、こうして裏港に集まっていると格好の的だと」

 

「……艦隊勢力を率いようにも、今のままじゃ隊列としても甘い……。こういう時、レジスタンスと軍警察はまるで水と油。どれだけ共闘の道が拓けたと言っても、やっぱり基本的なところでは拒む、か。それは感情面でもそうでしょうし」

 

「レジスタンスの方々は、何故、シンジョウ先輩が軍警察と組んでいるのかと勘繰っている者も居る様子です。このままでは、軋轢は酷くなる一方かと……」

 

「レジスタンスとして戦うのか、本戦力として戦うのか……。どっちつかずは嫌われるわね。……って言ったって、私には決定権はないのに、何でシャルティア委任担当官殿は相談を?」

 

 問い返すとシャルティアはもじもじとする。

 

「……ユキノさんの意見が聞きたいんです。今のままじゃ、トライアウトネメシスから来た方々に、ジェネシスの方々のほうが決定権もある。こんなの……マトモじゃないですよ。だから、ベアトリーチェで三年間戦ってきたユキノさんの意見が欲しいんです」

 

「私の意見なんて所詮は兵士の一意見よ。あてにはならないと思うけれど?」

 

「そ、それでも……今のシンジョウ先輩とか、アルベルトさんに聞くよりかは、その……」

 

 ごにょごにょと決断を引き延ばすシャルティアにユキノは嘆息をついていた。

 

「……要は、今の委任担当官からしてみれば、私はマトモに見えるって奴か」

 

「情けない話なのは分かっています。でも、それでもユキノさんなら……だってシンジョウ先輩を身を挺して守ったじゃないですか! だったら素直に尊敬のはずなんです!」

 

「兵士なんて尊敬したってしょうがないと思うけれど、でもそうね……。今の一意見として所感を述べるんなら……レジスタンスは覚悟を決めるべきだと思っている」

 

「それは……正規軍に降れって言う……」

 

「誤解しないで欲しいのは、結局誰かの下で所属するって言うのは、その時々の決断と、その時に最適な選択肢の集合体。だから、私には最適解は出せないけれど、でも最善策なら出せる。このままレジスタンス艦隊に、私達と一緒に行く覚悟があるのなら、同行してもいいと思う。逆に、ここまでの人達なら……」

 

「人達なら……?」

 

「いえ、これはやめておきましょう。だって、私はただのMS乗り。一回の兵士に決断なんて投げるものじゃないわ」

 

「……それってズルいですよ」

 

「そうね、とってもズルい。でも……ズルくたって答えを出さないといけない時もある」

 

「経験則ですか?」

 

「いいえ、これはただの……自分のエゴなのかもね。答えなんて明瞭なものなんてなくっても、それでも前進し続ける事しか出来ない、猪突猛進気味な人間の不格好な生き方よ」

 

 シャルティアは視点を自らのつま先に落として、ぽつりと呟く。

 

「……分かんないんです。シンジョウ先輩は確かに、憧れの先輩で、そしてユキノさんもアルベルトさんも私の担当……私は自分の仕事を全うする……それが正しいはずだって分かるのが普通なのに……今はその決断に、何か迷いめいたものを感じているんです。本当にシンジョウ先輩を信じて付いて行っていいのか、とか、アルベルトさんが何を考えているんだろう、だとか……。変ですよね、だって委任担当官は、戦いのための部署なのに」

 

 自嘲気味に語ったシャルティアにユキノは頬杖をついて応じる。

 

「そう狭く考えるものでもないんじゃない? 私はいいと思うな。シャルティア委任担当官にしか出せない答え。それにこそ価値があるんじゃないかって」

 

「私の……価値?」

 

「うん、だって委任担当官としての仕事って、私達が思うよりも大変だと思うから……それは背負えない領域だからね」

 

「……でも、私は前には行けないんです……。でも、シンジョウ先輩が一言、そうだって言ってくれれば、私だって《オムニブス》で……!」

 

「それは駄目。きっと、カトリナさんだって駄目だって言うだろうし……一番きついのは小隊長かな……」

 

「アルベルトさんが? 何故です? 私はだって……姉とは違います。私の境遇と姉の境遇は違うはずです。《オムニブス》の戦闘訓練は受けてきました。少しでも斥候任務程度ならこなせるはずです」

 

「……そういう、ロジックめいた事じゃないんだろうと思う。きっと、小隊長はどうしたって、シャルティア委任担当官を前にはいかせないと思う」

 

「……でもそれって……侮辱と何が違うんですか」

 

 震える拳を握ったシャルティアに、きっと心の奥底からの無力感を覚えているのだろうとユキノは悟っていた。

 

 自分や他の戦闘員が傷つき、摩耗していくのを見ていられない――心根が優しいのだ。だが戦場では優しさで掻き消されてしまう善意なんてたくさんある。

 

 善意のつもりが他人を傷つける悪意になる事も。

 

 だから、優しいのは争いの場においてはただ邪魔なだけの感情なのだ。

 

「……でもシャルティア委任担当官には、最後まで優しくいて欲しい、これもエゴかもね……」

 

「ユキノさん……」

 

 その時、戦闘警戒のブザーが鳴り響き、医務室を赤色光が埋める。

 

 何が、と口にする前にバーミットの声が響き渡っていた。

 

『こちら管制室! 各員、戦闘警戒……レジスタンス艦隊に向けての敵影を関知!』

 

「敵影? ……でもレジスタンスは……」

 

 ユキノは起き上がるなりすぐさまパイロットスーツに指をかけようとしてシャルティアに阻まれていた。

 

「駄目です……まだ安静で……」

 

「もう一個、私のエゴだけれど、私は戦士。だから、戦いでしか有用性を示せない」

 

 シャルティアの制止を振り切り、ユキノはパイロットスーツを身に纏って格納デッキに漂っていた。

 

「サルトル技術顧問、状況は……?」

 

「ああ、ユキノか。どうやらレジスタンス艦隊に敵襲らしい。詳しい事までは降りてきていないが……」

 

《アイギス》のコックピットブロックに掴まったユキノはそのまま流れるようにコックピットに入るなり、ヘルメットの気密を確かめる。

 

「気ぃつけろ。何が来ているのかまるで不明だ。敵影って言ったって、前回の戦闘時だって情報の擦り合わせが出来ていないんだ。ぼうっとしていたところを横っ面を叩かれた形さ」

 

「だったら、艦隊の神経は張り詰めないといけないはず。《アイギス》のペダルは?」

 

「ペダルの重さ、加速度を上げておきました。《アイギス》部隊は前回までよりも素早く動けるはずです」

 

 顔を出したティーチの声を引き受け、ユキノはサムズアップを寄越してコックピットハッチを閉ざしていく。

 

『ユキノ嬢、今のところクラードさんはまだ出られそうにないです。《ダーレッドガンダム》の支援は遅れると思っておいた方がいいかもしれません』

 

「上等。RM第三小隊で出られそうなのは?」

 

 通信越しのトーマの懸念をユキノは関知していた。

 

「……私が前衛ってわけか」

 

『アルベルト氏達の機体は若干ダメージがキツイ部分があるっす。今のところなら、ユキノ嬢の機体を最前列に置いての作戦行動が最も相応しいかと』

 

「前を行くのは慣れているけれど、《アイギス》でどこまでやれるか……状況は?」

 

『芳しくはないようっすね……。こっちまではまだ被害は来ていませんが、レジスタンス艦が撃たれたとなれば穏やかじゃないはずっす』

 

「……混戦、いいえ、それよりも酷いかもしれないわけか。先遣隊! 戦局を解きほぐすわ!」

 

『RM第三小隊、《アイギス》リニアカタパルトボルテージへ固定』

 

《アイギス》の痩躯がカタパルトに固定され、射出位置に入る。

 

「システムオールグリーン。こっちは準備完了」

 

『了解。発進タイミングをユキノ・ヒビヤに譲渡します。……ユキノちゃん、無理はしないでいいわ。相手の出方を見て迎撃。敵が強大なら退く事も作戦のうちに入れて』

 

「私は小隊長達ほどの使い手じゃない。だから引き際は潔く行かせてもらいます。《アイギス》、ユキノ・ヒビヤ! 行きます!」

 

 リニアボルテージの青い電流をのたうたせながら《アイギス》が一直線に艦隊の合間へと抜けていく。

 

 続く機体群を率いつつ、ユキノはレジスタンス艦が次々と火の手を上げていくのを目の当たりにしていた。

 

「……敵は少数精鋭? 母艦は見られないって事は」

 

 艦砲射撃を見舞うヘカテ級の弾幕を掻い潜り、直後にはミラーヘッドが行使されていた。

 

 だがその色彩は、平時の蒼ではない。

 

「……赤銅色の……ミラーヘッドの分身体?」

 

 これまで観測した事のないミラーヘッドの色調は本体と同じように射撃網を抜けてゆき、接近戦を主体におっとり刀で出撃した《マギア》のミラーヘッドを射抜いていく。

 

 その戦いぶりはまるで敵影に頓着していない。

 

 最低限度の挙動でミラーヘッドの分身体を操り、斬艦刀じみた巨大なる剣を薙ぎ払って旧型機を打ち砕いていく。

 

「……何者なの、あの機体……」

 

 その時、敵影が振り返る。

 

 心臓を鷲掴みにされたような気分であった。

 

 冷汗が伝い落ちる。粟立った神経が告げる。

 

 ――この射程は危険だと。

 

 そう判じた戦闘神経はユキノにミラーヘッド段階加速による後退を選択させていた。

 

 先ほどまで本体が居た空間を引き裂いたのは赤い残像。

 

「まさか……この機体は……《レヴォル》……?」

 

 否、違う。

 

《レヴォル》のようにしか映らない機体の頭部形状は禍々しく歪んでおり、装甲は攻撃的に尖っていた。

 

 より攻撃の要素を強めた、レヴォルタイプの機体――その名を、自分は知っている。

 

 三年前に、相見えた因縁の機体。

 

「……これは、《オルディヌス》……」

 

『何だァ、俺の攻撃を避けやがった。クソ生意気な敵も居るじゃねぇの。にしたって、残飯処理にしてはちぃとばかし、この戦場は退屈だったんだ。少しは綺麗に踊ってくれよ、エンデュランス・フラクタルのMSだって言うんならなァッ!』

 

《オルディヌス》としか思えない敵機であったが、推進剤の加速度はデータ試算以上の代物であった。

 

《アイギス》の躯体を震わせるのは払われる刃の剣風である。

 

 その迷いのない殺意に、ユキノは思わず叫んでいた。

 

「編隊下がれ! この機体は……普通じゃない!」

 

 それを受けて後退機動に移った機体へと、敵機は袖口よりアンカー武装を射出していた。

 

 下がろうとした追従機を引っ掛け、そのまま力任せに振り払う。

 

 二機の《アイギス》が衝突してもつれ合い、動きを鈍らせたところを敵影は跳ね上がり、大剣で二機とも叩き割る。

 

『これで撃墜スコアが上がったな。それとも、どうした? エンデュランス・フラクタルの。ここまで抵抗してきたにしちゃあ、骨がないんじゃねぇの』

 

「貴様……貴様ァ……ッ!」

 

 ビームサーベルを抜刀し、ユキノは大上段に振り下ろす。

 

 相手は刀身でそれを弾き、スパーク光を散らせていた。

 

『いい声で啼くと思ったら女かよ! こいつァ楽しめそうだなァッ、オイ』

 

「黙れ! 《オルディヌス》なんて操ったって……」

 

『――ミラーヘッドメギド、発動』

 

 瞬間、赤銅色のミラーヘッドが発動し、ユキノはその分身体と打ち合っていた。

 

 だが密度がこれまでのミラーヘッドの分身体とはまるで段違いである。

 

 本体と打ち合っているのとさほど変わらないだけの情報量と、そして強靭さは《アイギス》のパワーを軽く凌駕していた。

 

「これは……!」

 

『いい事教えといてやるよ、女ァ……。こいつは《オルディヌス》じゃねぇ。その発展機たる新型――《ガンダムヴォルカヌス》。こいつは俺に馴染んでくれているぜ。火を操る、人類の功罪を背負う悪鬼さ。さぁ、これまで以上の戦場だ!』

 

《ヴォルカヌス》と呼称された機体は一気に大剣を打ち下ろし、《アイギス》の防御を叩き潰す。

 

 姿勢制御をやられた《アイギス》へと、横合いよりの薙ぎ払いの一撃。

 

 それを感覚してユキノは咄嗟のビーム刃による防衛を行う。

 

 しかし、その出力を遥かに超えた膂力で《アイギス》は吹き飛ばされてしまっていた。

 

 まるでぼろきれのように、《アイギス》は宙域を舞う。

 

 その機体へとアンカー武装が叩き込まれ、《ヴォルカヌス》との距離を離す事も出来ない。

 

「《ヴォルカヌス》、だって……」

 

『てめぇらみたいなぬるい戦場やってんじゃねぇよ、たわけが! 奴らの教えてくれた通り、確かにここにゃ標的はたくさん居るがよ、どいつもこいつもぼさっとしていていけねぇな。狩られる側にも礼儀ってもんがあるだろうが!』

 

 自分は狩られる側――そうなのだと規定された直後にはアンカー装備で引き寄せられ斬撃が浴びせられようとする。

 

 ユキノは姿勢制御バーニアを用いて機体を反り返らせ、一閃を回避していた。

 

 だが、一手でもまかり間違えれば断絶されていただろう。

 

 その予感に首裏に汗が滲む中で、ユキノは機体を反転させ《アイギス》の脚部に仕舞われているもう一本のビームサーベルを現出させていた。

 

 軽業師めいた挙動でアンカー装備を切り裂き、機体の自由を得てもそれでも相手のプレッシャーは引き剥がされてくれない。

 

 太刀筋が肉薄し、《アイギス》のパワーゲインでは振りほどけなくなっていく。

 

「……何て事を……。そっちの目的は何!」

 

『目的? 眠てぇ事言ってんな。そんなもん決まってんだろうが。――破壊と殺戮、そんでもって、ミラーヘッドの戦場の席捲。そうとも、俺がこのどうかしてる戦局を支配する。それだけだろうが!』

 

「外道が……! 貴様は外道だ……!」

 

『言われ慣れてるよ、女ァ。そっちこそ、俺みてぇな人間と戦場でやり合うにしては、ちぃとばかし力不足ってもんじゃねぇか。《アイギス》なんかじゃ、すぐ壊れちまってつまんねぇだろうが!』

 

 呼気一閃の刃をかわし、ユキノは反撃の嚆矢を見出そうとしたが、既に《アイギス》は出力が落ちている。

 

 機体が太刀筋を振るう前に両腕が切断され、宙に舞った肘から先を大写しの視界に入れた時には、《ヴォルカヌス》のアンカー装備がコックピットブロックへと真っ直ぐに射出されてくる。

 

 咄嗟の習い性で機体をロールさせて直撃を免れようとするも、機体を激震されユキノは相手を睨み据える。

 

 その時には敵機は加速度を上げて大上段に大剣を振り上げている。

 

『終わりだ! じっくり時間をかけるわけにもいかんのよ。残飯処理なんざつまんねぇんだからよ!』

 

 両断される――その予感にユキノは瞼を閉じようとした。

 

 終わりくらいは潔いほうがいい。

 

 それでも、瞼の裏に浮かぶのは三年前に散っていった仲間達の背中。

 

「……ようやく、行けるのかな。グゥエル……」

 

『――まだだ』

 

 不意に割り込んできた通信網に目を見開いた瞬間、ユキノは拡散重力磁場が《ヴォルカヌス》へと降り注いだのを視認していた。

 

 アンカー装備を引き剥がしたのはアルベルトの《アイギスハーモニア》である。

 

『悪ぃ! ユキノ、遅くなった!』

 

「小隊長……いえ、早過ぎたくらいで……」

 

『今は強がるな。オレとクラードであの敵を……《オルディヌス》モドキを迎撃……破壊する!』

 

 そうだ、とユキノは感覚する。

 

 アルベルトからしてみれば《オルディヌス》は怨敵。

 

 それはクラードも同じであろう。

 

《ダーレッドガンダム》が小太刀で敵機の刃を受け流しつつ、鉤爪の武装を軋らせる。

 

 敵意に揺れているのが窺えた。

 

「……小隊長、ですが、お二人では冷静になれない可能性が……」

 

『他人の心配してんな。……大丈夫さ、オレとクラードならやれる。デザイアで散々見てきただろ? オレ達なら――不可能はねぇ!』

 

 加速度をかけたアルベルトの《アイギスハーモニア》の背中を眺めつつ、ユキノはコックピットで手を伸ばしていた。

 

「……でも、ヘッドはそんなに……器用じゃないでしょうに……」

 

 

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