機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第161話「クロッシングフィールド」

 

「アルベルト。こいつは《オルディヌス》の発展機だ。性能が違う」

 

『ああ、そうみたいだな。ユキノからもたらされたデータ上の名前は《ヴォルカヌス》……。おいおい、勘弁してくれよ。《ネクロレヴォル》だけでも参ってるんだ。その上レヴォルタイプだなんてよ!』

 

 アルベルトの機体がビームジャベリンを駆動させ、《ヴォルカヌス》と打ち合っていく。

 

 こちらの迷いのない殺意に敵影が哄笑を上げていた。

 

『こいつァ……久しぶり、とでも言えばいいのかねェ……! 月軌道決戦で一矢報いようとして必死だった、あのガキじゃねぇか!』

 

『黙っていろ……! 人間のクズが!』

 

『言える義理かね、そいつァ! てめぇらだって大勢の人間の屍の上に成り立っている、ただの人でなしの延長線上だろうが!』

 

『違う、オレ達には……あくまでも目的があった! だが、てめぇのやり方はただの憎しみを増大させるだけの、けだものみてぇなやり口だ!』

 

『そうは言えるようにはなったってワケか! だがそれはてめぇの顔を鏡で見た事がねぇのかってだけだ! 同じ穴の狢なのさ、もうとっくにな!』

 

『ほざいてろ、下種が!』

 

 アルベルトは冷静ではいられないようである。それをクラードは確認しつつ、《ヴォルカヌス》の隙を講じようとしていたが、大剣のような隙の多い武装をメイン軸においていながら、その立ち振る舞い自体は流麗。

 

「……アルベルト。先走り過ぎるとこいつの思うつぼだ。それに、アンカー武装みたいなのをどこに隠し持っているかだって分からない」

 

『けれどよ、クラード! こいつだけは……オレがやらねぇといけねぇんだ!』

 

 やはり冷静さは欠いている。

 

 今のアルベルトは前へ前へと行き過ぎだ。

 

 このままでは敵の発生させる未知のミラーヘッド現象に囚われるのもそう遠くはない。

 

「……挟撃に打って出る。アルベルト、《ダーレッドガンダム》の放つ重力磁場に巻き込まれないようにしてくれ」

 

 返答はない。

 

 敵との戦いにもつれ込んでその余裕さえもないようだ。

 

 クラードは敵の挙動を予見してベテルギウスアームへと右腕を沈ませていた。

 

 アルベルトの《アイギスハーモニア》の交戦によって後退した敵機の潜り込むであろう宙域へとクラードは深紅の瞳で出力調整を行う。

 

「……《ダーレッドガンダム》のパラドクスフィールドは……いや、今は考えまい」

 

 前回巻き起こった不明な現象が脳裏を掠めたが、今は頓着していればこちらの分が悪い。

 

 クラードは照準器に捉えた《ヴォルカヌス》へと収束重力砲を掌底に込め、相手の機動先へと放射していた。

 

 しかし、敵機は赤銅色のミラーヘッドを展開し、その加速度で下方へと抜けていく。

 

 速度は並大抵のミラーヘッドの段階加速を超えており、ブラックホール砲の照準を逃れる。

 

 舌打ちを滲ませたこちらに、敵パイロットの声が響き渡る。

 

『危ねぇ、危ねぇ。だがあわよくば、みてぇな戦い方じゃ、そういうのはイケねぇって言うんだよ!』

 

 アルベルトのビームジャベリンを敵機は大剣で叩き割り、そのまま両断の太刀を見舞おうとして《アイギスハーモニア》は袖口に仕込んだビームサーベルを発振させている。

 

 ビーム刃と実大剣が至近で衝突し、互いの機体の頭部を照らし出す。

 

『てめぇだけは……! てめぇだけは……オレが――墜とす!』

 

『だから、てめぇ勝手なドラマに浸ってんじゃねぇぞ、ガキが! 操縦技術だけでまだまだ青いってワケかよ、てめぇ自身はよォ!』

 

 薙ぎ払われた一閃を回避するも、直後に《アイギスハーモニア》は動きを止めていた。

 

《ヴォルカヌス》の脚部に格納されていたアンカー装備が射出され、アルベルトの脚を止めている。

 

『隠し武装だと……!』

 

『手ってもんはとっておきの機会を巡らせておくもんだ。これだから、戦争童貞ってのは情けねぇまま死んでいくんだよ!』

 

 大剣が唐竹割りの挙動を取る。

 

 クラードは奥歯を噛み締め、《ダーレッドガンダム》の武装を承認させていた。

 

「……アルベルト! ……《ダーレッドガンダム》……! ミラーヘッドを展開、パラドクスフィールドの臨界出力……設定!」

 

 ミラーヘッドによる段階加速を経て、舞い降りた《ダーレッドガンダム》は右腕の武装より七色の輝きを放っていた。

 

 その鉤爪が軋み、《ヴォルカヌス》を照準しかけて、不意に敵機はアンカー装備を根元から引き剥がし、二機から距離を取っていた。

 

『……何だ、その武装……。すげぇ嫌な感じがしやがるな。ここは深追いしねぇほうがいいか』

 

『待て! オレと戦え!』

 

『戦う? ナマ言ってんじゃねぇぞ。戦いにすらなってねぇってくらいは理解出来るよな? さすがに猪突猛進でもよ。しかし……そっちのレヴォルタイプの新型機の、その右腕……何だ、気持ち悪ィ……。戦場の怖気ってのは大事にしねぇとな。拾える命でさえも捨てちまう事になる』

 

「撤退する気か」

 

『挑発には乗らねぇさ。それに、こっちの目的は達成出来たからよ』

 

 直後、レジスタンス艦隊が火の手を上げ噴煙の中にその艦艇を沈めていく。

 

『レジスタンス艦が……!』

 

『目的はここに集まった反乱分子の排除。これで少しは小綺麗になったってもんだろ。何よりも……今どき《マギア》やら《エクエス》で飛び回られるのは鬱陶しいったらねぇ。言ったろ? 残飯処理だってな』

 

《ヴォルカヌス》を駆る相手は格納されたビーム粒子を牽制銃撃として放ちつつ、そのまま距離を取り離脱挙動に入っていく。

 

 アルベルトの《アイギスハーモニア》はそれを追おうとビームライフルを引き絞っていた。

 

『逃げんなよ……! てめぇだけは、オレが墜とすんだからな!』

 

『そいつぁラブコールだと思っていいのかねェ。まぁ、外見だけ成長したガキなんざお呼びじゃねぇんだよ。ここは退く、それが正しいと判定したのならばな。……そっちのレヴォルタイプ、また会う事になるかもしれねぇな』

 

《ヴォルカヌス》が射程距離から逃れても、それでもアルベルトはトリガーを引き続ける。

 

『逃げんなよ……逃げんな……! オレは、だってオレは、男を通さねぇといけねぇはずなのに……。こんな半端で……』

 

「アルベルト……。今は追撃している場合じゃない。ユキノを含めてRM第三小隊を回収。その後にオフィーリアの航路を決めないと、このままじゃ敵に露見している事が致命的だ」

 

『……ああ、分かってる。分かってるはずなんだがよ……いつだって、真実ってのは残酷だよな……』

 

「……だとしても、俺達が折れるわけにはいかないだろう」

 

 アルベルトはオフィーリアのガイドビーコンに従い、ユキノ達の無事を確かめていく。

 

 クラードは艦隊に仕掛けられた爆薬が連鎖爆発を引き起こし、レジスタンス艦隊が轟沈していくのを視界に入れていた。

 

「……せっかくの友軍が墜ちる、か。統合機構軍の擁するレジスタンスではあのレヴォルタイプ……《ヴォルカヌス》を前にすれば、ただの塵芥……。いずれにしたところで、裏港に停泊しているところを抑えられている。このままでは遠からず、オフィーリアの頭を抑えられるな」

 

 しかし今はその懸念よりも、《ヴォルカヌス》の戦略的脅威度が高い。

 

「……あのミラーヘッドは何だ? 赤銅のミラーヘッド……あんな現象があるなんて」

 

 明瞭にしなければならない物事があまりにも多い。

 

 敵を見据えなければ、世界との協定は結べない。

 

 前に進むのにはこの世界は冷酷が過ぎる。

 

「……だがそれでも俺は、突き進むしか出来ない……いつかの敗北が、俺の道を閉ざす時まで……」

 

《ダーレッドガンダム》の右腕武装から手を離す。

 

 格納されていく特殊兵装を一瞥し、クラードは先の戦闘で消滅させてしまった世界の理を思い起こす。

 

「……未来は誰の手の中にもない、か」

 

 

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