機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第162話「問いかけたとしても」

 

「追い討ちが出来ない? 何故です」

 

 その問いかけに通信先のタジマは困惑しているようであった。

 

『月本社に襲撃が与えられましたので、一度補給の見直しを行わなければいけません。オフィーリアの次手を読んでの航路を取る事こそが、最善策かと』

 

「何かあったご様子ですわね。一体何が?」

 

『いえ、リクレンツィア艦長の手を煩わせるような事ではございませんよ。少し……見積もりが甘かっただけの事。計算のし直しですね』

 

 ピアーナは艦長室にて、タジマとの通信ログを取っていた。

 

 モルガンの次の方針とすれば、クロックワークス社よりの補給とそしてオフィーリアへの追撃――そのはずであったのだが、定刻を遅れてのタジマの定期通信は思わぬ結果をもたらしていたと言えよう。

 

「本社への襲撃……? まさか、エンデュランス・フラクタルですよ」

 

『そのはずなのですがねぇ……まさか、エージェント単位での裏切りがあったとは想定外でして』

 

「エージェント……損害率は?」

 

『不明です。しかし、手痛い打撃ではありました。私としてみれば、モルガンに回すだけの余力もない』

 

「では、Bプランの通りに……」

 

『はい。地上に残っていた《ネクロレヴォル》部隊との合流をはかってください。それが最もオフィーリアを追い込む結果となるでしょう』

 

「分かりませんね。こちらは一機鹵獲されたのですよ。それでも戦場へといたずらに彼らを送り込めと言うのですか」

 

『送り狼の役割を果たしていただいているのは重々承知。しかし、モルガンのスタンドプレーでオフィーリアを抑えられれば万々歳、と言ったところでしょうね』

 

「……要は投げられるだけの爆弾の役目でしょう。わたくし達が平然とそこまで実行出来るとでも」

 

『しかし、リクレンツィア艦長からしてみれば、どうしたって墜としたいはずでしょう? オフィーリアは』

 

 こちらの思惑を理解しているのか、あるいはコケにしているのかは不明だが、タジマよりもたらされるはずの追加補給は受けられない。

 

 とあれば、当初の予定通り、別口からの補給路を期待するしかないだろう。

 

「……騎屍兵を集め過ぎれば地球圏における統制のバラつきが起きます。そうなった場合、下手な勘繰りを引き起こす可能性とてありますが」

 

『今は、統制よりも眼前の脅威でしょう。《ダーレッドガンダム》は我々として見ても出来れば鹵獲……いいえ、そこまで我儘は言いますまい。相手の主戦力です。潰せればその機会を逃すべきではない』

 

「……前回の戦闘ログを見ていただければ分かると思いますが、あれはミラーヘッドジャマーを掻い潜りました。それはつまり……かつての《レヴォル》と同じという事。《ネクロレヴォル》の持つ優位性が崩れると共に、世界の秘密である騎屍兵のシステムを崩しかねない」

 

『艦長、少しばかり言葉をお控えなさるよう。どこに耳があるか分かりません。騎屍兵は……《ネクロレヴォル》の統制は完璧です。その絶対優位性が瓦解するなんて事はあり得ない』

 

 そう、あり得ないのだ。

 

 システム上の欠点を知っているのは、騎屍兵達本人と、そして彼らを束ねる自分。統合機構軍の上層部のみ。

 

 騎屍兵の実力を容易く相手に読み取らせてはならない。

 

 そのためならば、少しばかりの強硬策に打って出る事も視野に入るだろう。

 

「……了承しました。では、オフィーリアの航路を先読みしての阻止……それならばいいのですわね?」

 

『ええ。なのでモルガンには《ネクロレヴォル》部隊のさらなる拡充を行っていただきます。騎屍兵の真の実力、引き出せるのはあなただけですから』

 

 よく言う、とピアーナは呆れ返ってしまうが、それも誇張でもないのだろう。

 

 全身RMの自分だけが、騎屍兵のスペックを最大限まで引き出せるはずだ。

 

「請け負いました。……しかし、騎屍兵同士の戦闘になった場合はどうします? 鹵獲されたゴースト、スリーが寝返るとは思えませんが、《ネクロレヴォル》の解析が行われる可能性くらいはあります。そうなった場合、撃つべき、と」

 

『《ネクロレヴォル》はたったの十三機しか存在しない特別な機体。この世界を再構築するのに当たっての必要な駒。よって慎重な動きが求められます。運用に関しては一任しますが、それでもあれは我が社の資産である事はお忘れなきよう』

 

 要はエンデュランス・フラクタルの貴重な資源、せいぜい丁寧に扱えという事なのだろう。

 

 馬鹿らしい、とピアーナは感じる。

 

 戦場に向かう兵器を丁寧になどという妄言。

 

「……分かりました。ではモルガンは騎屍兵の受け入れ態勢を取ります」

 

『我々として見てもこれはイレギュラーです。しかし、イレギュラーは重ならなければいい。リカバリが出来る範囲ならば、それは異常事態と呼ぶのに値しない。頼みますよ、リクレンツィア艦長。オフィーリアに関してはあなたのほうが分かっているでしょうからね』

 

 通信を切り、ピアーナは嘆息をつく。

 

「これが現状なのですよ。笑えるでしょう? メイア・メイリス」

 

 自嘲気味に語ったこちらに対し、メイアは後ろ手に拘束されながらも応じていた。

 

「別に、いいんじゃないの。組織なんてどこも同じだよ。……マグナマトリクス社だって、上じゃ胡乱な動きをしていたみたいだし」

 

「ですが勘繰ればそれだけリスクも高まる。……わたくし達の出来るのは、せいぜい死なない程度の貢献でしょう」

 

「貢献、か。それはエージェントしての自分に集約される価値だと思っていいのかな」

 

「いずれにせよ、モルガンはこれより騎屍兵の補充要員を受け入れる。このままオフィーリアに付いて行ったところで振り切られるか、あるいはまた《ダーレッドガンダム》の阻害を受けます。ならば敵勢の動きを読んでの航路を取るべき。必要最低限の動きで最大のパフォーマンスを目指す」

 

「嫌になっちゃうね。敵は全て封殺すべき、か」

 

 肩を竦めたメイアにピアーナは情報集積端末を弄りつつ、もたらされる新情報を手繰っていた。

 

「……コロニー、ルーベンでの戦闘行為。レジスタンス艦隊への奇襲があったようです」

 

「どこの軍勢?」

 

「貴女に教える義理はない」

 

「義理はないけれど、教えたっていいじゃん」

 

 ピアーナは大仰にため息をついて投射画面を引き寄せる。

 

「……どうやら組織立った動きと言うよりも、少数精鋭による交戦行為だと見るべきでしょうね。レジスタンス艦隊が裏港に集まった理由は依然として不明……しかし、これだけの軍勢です。どこに気取られたっておかしくはない」

 

「分かんないな。レジスタンス組織ってそこまで馬鹿だっけ? 何でコロニーの裏港にわざわざ集合して奇襲してくださいみたいな?」

 

「それも不明……。情報が足りないのです。それでも、こちらは作戦を着々と進めなければいけない」

 

「憂鬱?」

 

「……正直。ですが、騎屍兵の補充に関しては本社の意向です。わたくし達は戦闘行為でのみそれに報いるしかない」

 

「狭い考え方だね。逼塞しちゃいそう」

 

「どれだけ息苦しい考えでも、実行しなければわたくし達の有用性を示せない。……因果なものですね」

 

 ピアーナはその言葉を潮にして椅子よりぴょんと立ち上がり、メイアについているナインと共に艦内を行き進む。

 

「あのさ、艦長。ボク思うんだけれど、やっぱりボクを出してくれればそれ相応の働きはするし、邪魔にはならないと思うなぁ」

 

「またそれですか。貴女はマグナマトリクス社への明確なカウンターとなる。今は、許可出来ません」

 

「それっていつかは許可してくれるって事?」

 

「……揚げ足を」

 

「これは申し訳ない」

 

 メイアも随分と太くなったものだ。ピアーナは格納デッキに運び込まれてくる兵装コンテナを目にしていた。

 

「《ネクロレヴォル》十三機のうち、配備されてきたのは三機ですか」

 

『こちらに残存していた機体を含めると五機編成になります』

 

 ナインの補足にピアーナはポートホームによって転送されてきた騎屍兵四名と顔を合わせていた。

 

『失礼。転属命令が下りましたのでモルガンに現時刻をもって着任いたします。リクレンツィア艦長ですね?』

 

「ピアーナ・リクレンツィア。少佐相当官です。機体と人員の数が合わないようですが」

 

『騎屍兵は常に全員が出撃するわけではありません。我々はMSとの戦闘単位としての数ばかりが優先ではありませんので』

 

「存じています。地球圏での統制、ご苦労様です」

 

 しかし、騎屍兵に続いて歩み寄ってきたのは独特の喪服のパイロットスーツではない人影であった。

 

「貴方は? わたくしは騎屍兵の補充兵しか聞いておりませんが」

 

『ああ、彼は我々騎屍兵の……言ってしまえば新兵です』

 

 真面目腐った挙手敬礼を寄越したのはまだ青年士官という分類が似合う人物であった。

 

「ダイキ・クラビア中尉です! これより“騎屍兵見習い”として、敵性新鋭艦、オフィーリア追撃の任を帯びさせていただきます!」

 

 苦手なタイプだな、とピアーナは第一印象で感じ取る。

 

「“騎屍兵見習い”……? 聞いていませんよ」

 

『そう言った事になったのです。彼の機体は《パラティヌス》を充てていただきたい。オフィーリア追撃のためには一人でも兵士が欲しいはず』

 

「それは実情ではありますが、埋め合わせが出来ない兵力なら……」

 

「――構わないではないか、フロイライン。ちょうど私の《パラティヌス》が空いている。クラビア中尉とやらには修繕したそれを充てればよろしい」

 

 こちらの会話に割って入ったのはヴィクトゥスであり、彼の立ち振る舞いに騎屍兵達は挙手敬礼する。

 

『王族親衛隊とお見受けします。その白装束』

 

 ヴィクトゥスは着地するなり返礼し、フッと口元を緩める。

 

「フロイライン。君の扱う部下達だ。しかし、騎屍兵と共に戦えるのは単純に戦場が引き締まる。よろしく頼もう。ただ、一つだけ条件を付けさせていただくとすれば、鉤爪のレヴォルタイプは私が引き受ける。それだけは了承してもらえるだろうか」

 

『構いません。我々は作戦として、命令された事を実行するのみです』

 

「……なるほど、噂以上に君達は戦士らしい。フロイライン、私は愛機のアイリウムの調整を行っておく。整備班の手出しは無用」

 

「……構いませんが、撃墜されても文句は言えませんよ」

 

「望むところだと言わせてもらおう。私は、自分の手塩にかけたアイリウムで上回られるのならば本望だ」

 

 ヴィクトゥスはそのままハンガーに固定された痩躯の機体へと舞い戻っていく。

 

『あれも新型ですか』

 

「王族親衛隊のとっておきだそうです。わたくしはあまり干渉しませんが、相当なマニューバなのだとか」

 

『して、リクレンツィア艦長。我々は騎屍兵であり、その真価はチームプレイで発揮されます。ですが、最低限のプライバシーとして部屋の一つはあてがってもらえるのでしょうか』

 

「えっ、騎屍兵ってそんな事気にするの?」

 

 思わずと言った様子のメイアの問いかけに、年長者らしき騎屍兵が応じる。

 

『既に死者とは言え、兵士です。兵力の拡充にはそれぞれのメンテナンスは必要不可欠。我々は兵力であると共に、個別の戦力としての意義があるのです』

 

「……メイア・メイリス。失礼であった事の自覚は」

 

「ああ、ゴメンゴメン。そういうの気にする性質なんだ」

 

 ピアーナは騎屍兵部隊へと号令する。

 

「では別命あるまで待機。これより、敵性新鋭艦、オフィーリア迎撃作戦を共にします」

 

『御意に』

 

 挙手敬礼を寄越した騎屍兵達がそれぞれに格納デッキへと漂っていく。

 

 彼らの《ネクロレヴォル》の最終調整であろう。

 

 招かれたのは地球圏の騎屍兵専属のメカニックであり、強い顎髭の整備士はめいめいに声を張っている。

 

「調整開始ー! 《ネクロレヴォル》の空間戦闘用装備を忘れるなー!」

 

「……《ネクロレヴォル》、か。あれってさ、ちょっと思ったんだけれどレヴォルの意志が入っているはずだよね?」

 

「ええ。《ネクロレヴォル》のシステムは世界を欺く。それは《オリジナルレヴォル》と同じもの」

 

「それってさ、嘘……欺瞞じゃないの?」

 

 思わぬところで正鵠を射てくるメイアの言葉振りに、ピアーナは目線を振り向けずに応じていた。

 

「何故、そのような疑念を?」

 

「あのさ、ボク嘘って鼻が利くんだよね。それはもう、特段に」

 

「ですが嘘ではございませんが」

 

「そこなんだよね。嘘っぽい、空気、みたいなのは流れているけれど完全な嘘って感じじゃない。そこが厄介なのかな」

 

 嗅覚があるのだかないのだか分からない言葉を用いるメイアに、ピアーナは明瞭に言いやる。

 

「騎屍兵は勝ちます。その結果さえ揺るがなければいい」

 

「……まぁ、世の中結果論だし、その通りなんだろうけれど、本当にいいの? 彼と戦う事になるなんて」

 

「エージェント、クラード。彼は怪物です。怪物を殺すのは、人の叡智。それはいつだってそうでしょう。《ダーレッドガンダム》という獣の力を手に入れたのなら、わたくし達はより理性的に、理知の力で彼を殺す。それこそが、わたくしの……」

 

 濁したのは脳裏を掠めたカトリナの姿のせいだろうか。

 

 レジスタンスの旗印となっている彼女は、もう自分の知っているどこか愚鈍なカトリナ・シンジョウではない。

 

 ないのだと――規定したいだけ。

 

 そう線を引かなければ、自分は撃つ時きっと迷ってしまう。

 

 鋼鉄のライドマトリクサーの中に残存した、一片の感情の欠片。

 

 そんなものに、足を取られている場合ではないのに。

 

「……迷わない事だけがきっと、手向けになるのでしょうね」

 

 

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