機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第171話「絶叫特異点」

 

 不意打ち気味のオフィーリアからの通信の声にアルベルトは完全に虚を突かれていた。

 

「な、何だ? こんなデケェ声で……!」

 

《ネクロレヴォル》の振るい上げた刃が迫る。

 

 奥歯を噛み締めてミラーヘッドの幻像を盾に、《アイギスハーモニア》で銃撃網を見舞っていた。

 

 敵編成は段階加速を帯びて、それぞれ機体を時間差で衝突させてくる。

 

 編隊としての熟練度は明らかに敵のほうが上。それを理解させられて、アルベルトは舌打ちを滲ませていた。

 

「……こいつら……剥がれねぇ……ッ!」

 

『小隊長! 第三小隊のミラーヘッドの火力網で押し切ります! 一旦後退して、艦の警護を。……にしても、何をおっ始めようって言うのやら……』

 

 ユキノの懸念を他所に、アルベルトは敵機より距離を取ろうとするが、その敵がなかなか離れてくれないのだ。

 

「……どこで見つけた因縁だ? こいつ……離れやしねぇッ!」

 

《ネクロレヴォル》を操る騎屍兵に知り合いが居たような事実はない。

 

 だが、うち一機はまるで因果をそそごうとでも言うように、ビームサーベルを抜刀して自機と何度かぶつかり合う。

 

「……野ッ郎! 《ネクロレヴォル》を操るような奴に知り合いなんざ居た覚えはねぇってんだ!」

 

 そのまま斬り払い、上方に逃れようとして《ネクロレヴォル》隊の放っていた網にかかっていた。

 

 敵軍勢は自分をまず撃墜するつもりらしい。

 

 確かにRM第三小隊を預かっている自分が墜ちれば相手の目的は果たしやすくなるはずだ。

 

「……こんの……! やらせはしねぇ……ッ!」

 

 ビームガトリングガンの弾倉を装填し、機体を軸にして火線を舞わせる。

 

 そんな自分と背中合わせに火力を充填させるユキノの機体より接触回線が弾けていた。

 

『……小隊長、どうやらこの声……カトリナさんのようで……』

 

「ああ、それはオレも今聞いたが……一体どういう……オープン回線だと」

 

『クラードさん! 聞いてくださいっ!』

 

「聞いてって……戦闘状態だぞ……、何考えて……」

 

『私……っ、私……あなたにトリガーを預けていた……っ! 甘えていたんです……っ! もう、あなたの宿縁だって……でもそうじゃないっ! そうじゃないんだって、分かったんです! ……クラードさん、あなたの辿る最後の景色を、私は一緒に見たいんですっ! これは約束だとか、綺麗なものじゃない、私のエゴ……っ! だから、クラードさんには……死んで欲しくない……死なないでっ! それが委任担当官として……カトリナ・シンジョウとしての……っ……! 今は、命令です……。クラードさん、死なないで……傍に……居ちゃ駄目なんですか……』

 

「何を考えて……カトリナさん?」

 

『妬けるじゃないですか。クラードさんも隅に置けませんね』

 

「おま……っ、ユキノ……言っている場合かよ! クラードは……さっきからヤベェのに絡まれてんだ! とっとと加勢しに行かなくっちゃなんだぞ! だっつうーのに……死なないでくれって……そんな命令……」

 

 無茶苦茶だ、と思いながらもアルベルトは笑みが自然とこぼれていた。

 

 おかしいと言えばおかしい。

 

 こんな絶対の死地に、死なないでくれ、だの、傍に居てくれだの。

 

 そんな女々しさは持ち込んではいけないはずなのに。

 

「……参ったな。カトリナさん、オレがコクったの忘れて、んでノロケかよ。これって、やってられねぇってもんだよな。でもまぁ、男としちゃ、ケジメが付いたって奴だ」

 

《ネクロレヴォル》の太刀筋へと、アルベルトは刃を添わせ、ビームジャベリンの剣閃を見舞っていた。

 

 干渉波のスパーク光が散る中で、ライドマトリクサーの頭蓋に電流を滾らせる。

 

「そんじゃあまぁ! オレも死んでる場合じゃ、ねぇってもんだよなぁッ! コード、“マヌエル”起動……! オレに従え……ッ!」

 

 浮かび上がったレヴォル・インターセプト・リーディングのポップアップが赤く染まり、《アイギスハーモニア》が装甲を拡張させて蒸気を噴出させる。

 

 ビームジャベリンの色相が変位し、大出力を帯びた刃が《ネクロレヴォル》の太刀筋を上回っていた。

 

 直後には、跳ね上がる挙動で敵機の背後を取る。

 

「いつまでも――失恋引きずってる場合じゃ、ねぇってこった! クラード! てめぇも男だろ! だったら一人の女にコクられて、いつまでもだんまり決め込んでるんじゃねぇ!」

 

 ビームジャベリンの出力が上昇し、絡みついた敵機の腕を溶断する。

 

 太刀を引き上げてそのままコックピットである頭部を狙い澄まそうとして、割り込んできたのは《パラティヌス》であった。

 

「……こいつ……!」

 

『騎屍兵団は落とさせない……俺も絶対に死なない。死んで堪るかよ! ……誓ったんだ、この胸に……! 俺はまだ、死ねないってな!』

 

《パラティヌス》に搭乗しているのはどうやら前回とは違うパイロットらしい。

 

 挙動は大人しいが、その分、沁み付いた強者のオーラがある。

 

 無茶はしないが、実質的には墜ち辛いタイプだ。

 

「……確実な手を打つタイプってワケかよ。それでも死ねねぇなんて口にするほどだ! 酔狂だって、思ったっていいのかよ!」

 

『どっちだって構わない……お前らは簒奪者だ! 俺から全てを奪っていく……! なら、俺は奪われるばかりはもう御免だ! お前らからも奪う事こそが……俺の叛逆だ……!』

 

 ビームサーベルの軌跡が《アイギスハーモニア》の加速度を重なり、敵機と幾度となくぶつかっては、宇宙の常闇にミラーヘッドの流星を描いていく。

 

 蒼い瞬きが永劫になる前に霧散し、次の瞬間には弾け飛ぶ。

 

 互いに格闘兵装を握らせた幻像を衝突させ、フィードバックが身体を襲うまでのログを縫うのも惜しい両者が、現実の刃を交わらせていた。

 

「……こいつ……!」

 

『こんの、墜ちろ!』

 

「誰が! オレだって男だ! 帰っていいカッコくれぇはしてぇんだよ……それが取り繕いに過ぎなくってもな!」

 

 太刀筋が何度か交錯し合い、もつれ込むように機体同士が弾けていく。

 

《ネクロレヴォル》隊はRM第三小隊と火線を交わしており、自分と《パラティヌス》のパイロットの一騎討ち状態に変移していた。

 

「……てめぇは今の聞いて……何とも思わなかったのかよ。そこまで戦士だって言いてぇのか!」

 

『迷わぬモノ、惑わされぬモノ、それこそが兵士だ! 誓いを打ち立てた俺に……最早、翳りはない!』

 

「……そうかよ。だがそれが兵士だって言うんならなぁ、オレは反吐が出るってもんだぜ!」

 

 ビームジャベリンを叩き落とされる。

 

 アルベルトは即座に腰部にマウントされていたビームサーベルを二本引き抜き、交差させて相手の唐竹割りを防御していた。

 

『兵士に当惑は不要。そう断じている。如何に誰かの声でさえずろうが、誰かの声で鳴こうが同じ……! 俺の見知ったカトリナは……もう死んだのだと、そう決意した!』

 

「分かんねぇな。入れ込みを単純に消し去る事だけが、てめぇの覚悟だって言いてぇのか!」

 

『兵士ならば! ……甘さを消す事も重要だ。俺は甘さに足を取られるわけにはいかない! それは俺をここまで押し上げてくれた中佐殿にも……リクレンツィア艦長にも申し訳が立たない! 俺は俺の戦道を進むだけだ!』

 

「それが偏狭だって、分かってねぇんだな、お前は」

 

 敵の太刀筋にかわす刃を後退させたアルベルトは、《パラティヌス》の宿す恩讐を見据える。

 

 その意志、その復讐心。

 

 それらを全て断ち切るのならば、自分の「今」くらいは賭けよう。

 

「……コード、“マヌエル”。……最大出力値に設定……! ゲインを……思いっきりぶち上げやがれ! 吼えろ、オレの叛逆(レヴォル)!」

 

《アイギスハーモニア》に血潮の蒼が宿り、直後にはその蒼の位相が群青へと切り替わっている。

 

 ガコン、と脳髄に弾倉が入る感覚。

 

 これは今までの《マギア》では成し得なかった領域。

 

 そして――戻れない極地。

 

 接続口から逆流してきた電磁の刃が脳天に突き立ち、奥歯を思いっ切り噛み締める。

 

 痺れが走ったのも一瞬、口中に血の味が滲んでいた。

 

 眼球は見開かれ、片目から血の涙が伝い落ちる。

 

 瞬間的に《パラティヌス》の太刀を潜り抜け、《アイギスハーモニア》は敵機の背後を取っていた。

 

 まさか、と相手が振り返ろうとしたその時には、振るった剣閃が《パラティヌス》の装甲を引き裂いている。

 

「オレも覚悟だ……てめぇに喰われるか、オレが喰らうのか……さぁ、二者択一の世界に行こうぜ、《レヴォル》!」

 

 血の涙を拭い、アルベルトは《アイギスハーモニア》が獣の雄叫びを上げたのを感覚していた。

 

《パラティヌス》に斬りかかった刹那に、敵機はミラーヘッドの幻像と分身し、そのタイムラグで回避する。

 

 しかし、こちらの速度は遥かに凌駕していた。

 

 直角に折れ曲がった剣筋が回避したはずの敵の片腕の肘から先を斬っている。

 

『これは……この力は……!』

 

「禁忌、ってもんが、この世にはあるみてぇでな。オレも詳しくは知らねぇし、興味もねぇんだが……コード、“マヌエル”のその先。さぁ見せてもらおうじゃねぇか。クラードがこの三年間……どういう視点で戦い抜いてきたのか。《疑似封式レヴォル》から拾い上げた戦いのログ、その一端でも噛まなくっちゃ、男じゃねぇだろ!」

 

《アイギスハーモニア》は空中分解寸前であった。

 

 それも当然だ。

 

《疑似封式レヴォル》に強いてきたリミッター解除の術、それを行使している以上、如何に《マギア》よりも高次元の機体とは言え、無理が祟る。

 

 だが、クラードの戦い振りを知れなくって、何が盟友か。

 

 何が――彼の理解者か。

 

 そうと断じた神経が迸り、一滴の血潮となって《パラティヌス》の装甲板を一つ、また一つと抉り抜いていく。

 

 獣の思考回路に染まったアルベルトは敵機から蒸発する蒼い血潮を目の当たりにする度に、恍惚が脳髄を溶かしていくのを感じ取っていた。

 

 これが向かい合った敵を屠る――滅殺者の領域。

 

 痺れと末端感覚の消失を味わいながら、意識だけが先鋭化し、宇宙空間を駆け抜ける。

 

 足蹴で《パラティヌス》の王冠上の意匠を叩き潰し、そのまま勢いを殺さずに膝打ちで頭部をひしゃげさせていた。

 

 アイカメラが削がれ、破片が舞う宙域で《アイギスハーモニア》の出力を調整した太刀筋が数度、奔る。

 

 それらが《パラティヌス》のコックピットブロックを引き裂き、露出したのは敵の心の臓。

 

 そのまま射抜く軌道を描く事に、一抹の躊躇いもない。

 

 捕殺者の意識に衝き動かされたまま、アルベルトは《パラティヌス》のコックピットを貫こうとして、直上より迫った《ネクロレヴォル》に気付けないでいた。

 

 意識だけが、その接近を関知するも機体が追従しない。

 

 振り下ろされた刃が《アイギスハーモニア》の腕を両断し、迫っていたビームサーベルによる溶断の太刀が閃く。

 

 遅れた現実認識で宙を舞った鋼鉄の腕を感覚し、ダメージフィードバックが神経を引っぺがす。

 

 まさに脳髄を粉砕する激痛であった。

 

 いやに醒めた表層意識だけが、その現実認識を容認し、そして直後に大写しになったのは《ネクロレヴォル》の爪先。

 

 ハッとしたその刹那に感じ取った意識の層をすくい上げる前に、突き上げた一撃の鋭さが《アイギスハーモニア》の全身痛覚を貫く。

 

 今のMSとアルベルトは真空に晒された生身の肉体が如きもの。

 

 瞬間的に沸騰した血液、そして蒸発していく意識。

 

 体内の思わぬ激動に、アルベルトはその意識の発端で、聞くはずのない声を聞いていた。

 

『……前に出るからだ。相変わらずだな、ヘッド……』

 

「……トキ、サダ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイブは《ネクロレヴォル》を中破した《パラティヌス》に沿え、接触回線を開いていた。

 

『何してくれるんだ! 俺は……!』

 

『墜とされていた。それが分からぬほどの愚昧でもあるまいでしょう』

 

 ダイキは《パラティヌス》の機体を漂わせ、眼前まで迫っていた《アイギス》相手に悪態をついていた。

 

『クソッタレ――ッ!』

 

『……それだけ吼えられるのならば上出来です。騎屍兵隊、隊列は?』

 

『現状損耗率はさしたる問題ではない。その機体が押し上げていたな』

 

 トゥエルヴの現状認識にファイブは装甲を散らせる《アイギスハーモニア》を見据えていた。

 

『……何だってあんたは……三年前から変わらないんだよ。……ヘッド』

 

『ファイブ、敵の軍勢は撤退機動に移りつつある。やはりそいつが押し出していた』

 

 繋がったイレブンの声にファイブは落ち着き払って応じる。

 

 なんて事はない。これまでの損耗戦に比べれば、この程度、さしたる問題ではないはずだ。

 

『……敵艦、オフィーリアの艦砲射撃を潰す。それから……あの問題な王族親衛隊の機体も拾わないといけなさそうだな。あれだけのマニューバだ。中の人間が生きているとは思えないが……』

 

 超速としか呼びようのない速度領域で、《ソリチュード》の機体名称を与えられた機体と、《ダーレッドガンダム》が打ち合う。

 

 干渉波の火花が幾重にも折り重なる中で、ファイブは先ほどの広域通信を思い返していた。

 

『……何だってそこまで愚直なんだ、あんたは……カトリナ・シンジョウさんよ。これ以上の抵抗なんて無意味だって、物分りはおれ達よりもいいはずなのに……』

 

『ファイブ。敵勢は少しばかり気圧されている。《ネクロレヴォル》による段階加速の準備に移れ。隊列を組みつつ、オフィーリアの戦力を割く』

 

『了解。《ネクロレヴォル》の性能ならば可能だろう。……だが、それにしたってこの泥仕合。噛まされたのはこっちだって言われているようなものだ……!』

 

 レジスタンス艦隊が集結しているとの報はどうなったのか。

 

 オフィーリアとブリギットの二隻だけが宙域で火線を張りつつ、モルガンと護衛艦へと向かってきている。

 

『……敵戦力の温存も視野に入れるべきか。いや、そこまでの余裕はないはず。だったら、これは単純に事実情報不足だったって言うのか? ……それも旨味のない……』

 

『ファイブ、ミラーヘッド段階加速。そのまま敵中枢部を叩く』

 

 トゥエルヴの言葉を受けて、ここで堂々巡りの考えは打ち切っていた。

 

 今の自分は「騎屍兵、ファイブ」という戦闘単位でしかない。

 

 そのままトゥエルヴの機体を軸にして、ミラーヘッドの両翼を形作り、編成を組んで高出力の火線を敵勢に向かって張り込んでいく。

 

『……いい加減諦めてくれよ。あんたらを殺したいわけじゃないんだ』

 

 ブリギットより出撃したのは、新たな編隊であった。

 

『……識別信号、トライアウトジェネシス……! 結託していたと言う情報は嘘ではなかったのか』

 

《レグルスブラッド》を戦端として、敵編成は応戦の火力を充填していく。

 

『総員、怯むな! ここまで戦いを継続してくれたオフィーリア勢の期待を外すような事は許さん』

 

『……トライアウトジェネシスのDD……。噂はどこまでだって話だよなァッ!』

 

 銃撃を押し付ける騎屍兵の編隊に、トライアウトの編成はミラーヘッドの軸を展開し、後部へと無数に分身体を編み出す事で盾代わりと徹底抗戦に打って出る。

 

 だが、それらは所詮、虚しいだけの応戦だ。

 

『馬鹿馬鹿しい……。《ネクロレヴォル》相手に勝てると思っているのか。生者風情が……!』

 

 トゥエルヴがハンドサインを送って散開し、円弧の軌道を描いてビームライフルを携えた《ネクロレヴォル》が敵軍勢を撃ち抜いていく。

 

 やはり一騎当千の戦力を持っていたのはオフィーリア艦のほうであったようだ。

 

 アルベルト達の気勢が削がれた今、相手の戦力は半減している。

 

『……私達は敗北しない戦いを繰り広げるまでだ。貴様らの反骨精神など……無為と知れ』

 

《レグルス》を光条が貫き、一つ、また一つと編成は崩れていていく。

 

 照準を絞りつつ、ファイブは平時の落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 ――そうだ、これが騎屍兵の戦場。これが正しき「統制」の姿であろう。

 

『既に法は、移り変わっているのだよ。ジェネシスのDD……ッ!』

 

 大写しになった《レグルスブラッド》の抜刀に、ファイブも呼応するようにしてビームサーベルを引き抜く。

 

 だが、出力値が圧倒的だ。

 

 アステロイドジェネレーター本体から出力を概算している《ネクロレヴォル》と真正面から打ち合って、正規採用の《レグルス》では頭打ちが来ると言うもの。

 

『そうやって、戦っている感だけで人員を食い潰していく。そんなもの、ないほうがいいに決まっているのに』

 

『……どうやら貴官とは意見の相違がある様子。私は先ほどの広域通信の女性の言葉に胸を打たれた……そう言った類の人間だ』

 

 ダビデの応戦の太刀筋は確かに実力者のそれであろう。

 

 しかし、機体性能が物を言うのが戦場。

 

 何よりも――騎屍兵に何度も敗走など許されるはずがない。

 

『悪いがここは勝利する。それは我が方のはず』

 

『どこまでも……死人めいた口真似だな。本当のところでは先の通信で……感じ入る心がなかったとは、言わせない……ッ!』

 

『何を馬鹿な。それこそ蒙昧と知れ!』

 

 蹴り上げた一撃で《レグルスブラッド》が硬直する。

 

 今だ、と刃を薙ぎ払おうとした、その時であった。

 

『……高熱源反応……、何だ?』

 

 熱源警告の先に居たのは、この世界の理を乱す機体――《ダーレッドガンダム》が悪夢そのもののような鉤爪を振るう。

 

 まさか、と絶句したのは互いのようで、弾かれ合うように切り抜けた自分とダビデはこちらへと放射された漆黒の高重力砲弾を目の当たりにしていた。

 

『ブラックホール砲だと……!』

 

『《ダーレッドガンダム》……それはまさに、忌み名と言うわけか……』

 

《ダーレッドガンダム》が《ソリチュード》を振りほどき、その腕を大きく中空へと掲げる。

 

 掌より引き出されたのは禁忌の夜明けであった。

 

 白色と黒色を同時存在させる球体が浮かび上がり、磁場を迸らせる。

 

『あれは……何だ? 何だって言うんだ……』

 

 明滅するその球体にこの戦場の誰もが目を奪われている。

 

『……宇宙に在り得るはずのない夜明け……あの反応は……』

 

 途端、アステロイドジェネレーターが臨界に達する。

 

『……まさか、我々の機体のアステロイドジェネレーターが……共鳴していると言うのか……』

 

 この戦場に位置する全てのダレトの外側の叡智が、《ダーレッドガンダム》の掌の上であった。

 

 彼の者はその鉤爪を大きく開き、重力磁場を放出するそれを手に取ろうとする。

 

『……まさか……あれは剥き出しの特異点か? だとすればここに居るだけで……我々の生存は……』

 

 トゥエルヴの声が確証に変わる前に、それぞれの機体へとレイコンマの世界で伝令がもたらされる。

 

『――ピアーナ・リクレンツィアの名において命じます。騎屍兵団、全機体は離脱。繰り返します、戦闘領域を離脱なさい。このままでは……飲み込まれますわよ……』

 

 その言葉の帰結する先を辿る前に、悪魔の機体は禁断の果実を握り締めていた。

 

 瞬間、世界が裏返る。

 

 それはこの次元宇宙を引き裂く、叫びそのものだった。

 

 

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