機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第174話「鏡の領域」

 

 直撃を確認してから、ジオは散開を命じていた。

 

「これより、爆心地へと侵攻。王族親衛隊直属の者達は、領空圏を維持しつつ敵を包囲。怠るな。相手は聖獣である」

 

『了解。大佐の《ラクリモサ》を戦端とし、砲撃仕様の《パラティヌス》を展開します。対熱核アーマーを分離。その後に爆心地へと警戒を厳として射線に入れます』

 

 赤い大気圏の手痛い応酬を受け流した者達は分離型の熱核アーマーを排除し、機体を晒していた。

 

 楕円状のカプセルが段階的に排出され、内側に収まっていた《パラティヌス》がその手に携えたのは長距離ライフルである。

 

「ライセンス品である。敵への着弾速度、威力共に申し分ない」

 

 王族親衛隊のライセンスを施されたライフルを突き出した《パラティヌス》編隊は、光背の如くエネルギーホイールを展開していた。

 

 余剰エネルギーの余波が「∞」の形状を取り、今も蒸発の途上にある爆心地を照準する。

 

『照準、構え。トリガーを確認。MFの爆心地においての生存反応、現状認められず。しかし、油断は大敵である。《シクススプロキオンエメス》の充填状況は?』

 

『エネルギー六十パーセントを放出。再チャージまでの試算は七時間と推定』

 

『MFを討伐するのには時間が過ぎる。敵影をロック。その後に《ファーストヴィーナス》の金色の帯の攻撃を予見し、各員管理アイリウムを稼働させよ。レヴォル・インターセプト・リーディングを稼働』

 

 降下する《パラティヌス》編隊が円弧を描きつつ、砲口を爆心地に据える。

 

 海面は超重力砲によって水蒸気が噴き出しており、海底火山の噴火を想起させていた。

 

『熱量推測。《ファーストヴィーナス》が全ての権能を防御に回したと仮定しても、その躯体が残存している可能性は限りなくゼロである。しかし、敵は我々の叡智の届かぬ聖獣、心してかかれ』

 

『了解。大佐、どういたします。攻撃を仕掛けた瞬間に応戦が来るとなれば、熟練の直属部隊とは言え、不確定要素が残ります』

 

 ジオは足元に投射されたリアルタイム映像を仮面の双眸で見据えつつ、直通通信を繋いできた腹心へと声を返す。

 

「情況を見たい。敵影は未だに視認出来ず、か。先制攻撃はしかし譲れないな」

 

『それには同意見です。MF01にどれほどの権能が残っていようとも、先の攻撃は同じ聖獣の一撃。如何に敵が堅牢であろうとも、無傷とはいかないはず』

 

 超重力砲で押し潰されたのだと思いたかったが、そう断じるのには要素が足りない。

 

「直属部隊に入電。総攻撃、開始」

 

『復誦、総攻撃開始』

 

《パラティヌス》が一斉掃射を浴びせ込む。

 

 その砲撃網は一機でヘカテ級の艦砲射撃に相当する。

 

 螺旋を描くように光軸が叩き込まれ、海面を叩き据えていた。

 

『命中。しかし反応なし』

 

「続けろ。砲身が溶断するまでだ」

 

『了解。砲手、そのまま砲撃続行』

 

《パラティヌス》編隊は砲身の弾頭を入れ替え、直撃軌道を講じる。

 

『砲身冷却。再掃射まで、60セコンド以内』

 

 こちらは降下しながら敵へと砲撃を見舞っている以上、完全に落ち切るまでに決着を付けたいのが本懐であろう。

 

 だが、その望みが叶うほど相手が容易いとも思っていない。

 

 一本の黄金の帯が照射され、《パラティヌス》編隊へと直進する。

 

 しかし、王族親衛隊に配される実力者達は、通常のパイロットでは回避困難なそれを容易く避けてみせる。

 

『敵より反撃をモニター。しかし狙いは散漫な模様』

 

「ダメージが思ったよりも深刻なのかもしれない。我々はこのまま、砲撃続行。通用していないはずがないのだ、これでも」

 

 ジオはその直後、額で弾けた関知野のスパークを感じ取っていた。

 

 瞬時に命令系統を飛ばす。

 

「いや、待て。《パラティヌス》は降下軌道を取りつつ、別働隊を警戒せよ」

 

『別働隊? 聖獣ではなく、ですか?』

 

「あれも聖獣だろう。こちらで確認したとは言え、あちらから来てくれるとは想定外だ」

 

『モニター班、艦影を索敵。重力下ヘカテ級戦艦と護衛艦を視認いたしました。総数三隻、所属は不明』

 

『三隻……? 妙ですね、重力下の情勢が群がってくるにしてはあまりにも手早い』

 

「即席の部隊の可能性が高い。MF01への砲撃よりも、こちらを警戒せよ。敵は――MF03、《サードアルタイル》である」

 

 先行するヘカテ級甲板に屹立するのは重力の投網などまるで無視したような威容。

 

 黄色い装甲板の各所に虹色の血潮を滾らせ、単眼がこちらの視線と交錯する。

 

『まさか……空間転移した後に追ってくるなど……』

 

「主の思惑とは違うようだが、あれは《サードアルタイル》に相違あるまい。各員、警戒を厳とせよ。敵勢はパーティクルビットによる波状攻撃を仕掛けて来るぞ」

 

『了解』の復誦が通信網を震わせる中で、虹色の波が拡散し、まずは第一陣の攻撃を仕掛けてくる。

 

 その波の凪を狙っての《エクエス》部隊の強襲。

 

 しかし、とジオは感じ取っていた。

 

「動きがあまりにも杜撰な、まるで素人のそれだ」

 

 指揮系統に乱れがあるとしか思えない作戦配置にジオは仮面の奥の瞳を細めていた。

 

『大佐、敵機のそれは脅威対象にしては低過ぎます。《エクエス》の動きも統率された部隊と見るに散漫としか……。今は聖獣を討伐するのが先決では?』

 

「逸るな。何も手負いの聖獣だけを狩れと言われているわけでもない。《サードアルタイル》の首であっても、我々の手柄には変わりないのだ」

 

『なるほど、それは納得です。どう仕掛けて来るか分からないMF01は後回しですか』

 

「手負いの獣ならばこちらが下手を打てば喰われる可能性もある。警戒心のないほうを選んで駆逐せよ」

 

『御意に』

 

《パラティヌス》部隊の砲門が《サードアルタイル》へと照準される。

 

 一斉掃射の勢いでの攻撃に《サードアルタイル》は虹の皮膜を構築させて光芒の軸を変移させていた。

 

『ビームを曲げる……!』

 

「うろたえるな。あれはミラーヘッド質量兵装での偏向に過ぎない。何度もやれば本体に命中する」

 

《サードアルタイル》との戦闘経験は既に確立されている。

 

 何も拮抗出来るのは《ラクリモサ》だけではない。

 

《パラティヌス》編隊が速射モードに切り替えた砲撃で《サードアルタイル》へと断続的な砲撃網を咲かせる。

 

《エクエス》部隊はこちらの攻勢が全くの想定外であったかのように重力圏で狼狽し、おっとり刀の銃撃で応戦しようとするがあまりにも児戯だ。

 

『《エクエス》は? 如何にしますか』

 

「撃墜せよ。あれも邪魔だ」

 

『了解。各員に通達。《サードアルタイル》へと味方する不明勢力への攻勢を開始。《エクエス》は撃墜、《サードアルタイル》は鹵獲せよ。繰り返す、《サードアルタイル》は鹵獲目標だ』

 

《サードアルタイル》がパーティクルビットで押し返そうとするが、こちらには三年間の隔たりがある。

 

《パラティヌス》の性能ならば、何度も攻撃すれば壁を突破する事も困難ではない。

 

 そして想定通り――《サードアルタイル》の皮膜は長続きしなかった。

 

 元々、攻撃転用目的のパーティクルビットによる防衛圏だ。

 

 さほど堅牢でもないのだろう。

 

 撃ち抜かれた《サードアルタイル》は僅かに傾いだ。

 

 直撃したヘカテ級より黒煙が噴き出す。

 

 敵の通信網が僅かに入り混じり、うろたえ調子の声が漏れ聞こえた。

 

『さ、《サードアルタイル》に、攻撃が入った……?』

 

「余所見をする《エクエス》は全て墜とせ。残しておく旨味もなし」

 

『《エクエス》は殲滅せよ。敵勢力のリーダー格は残しておきますか?』

 

「構わない。どうせ、烏合の衆だろう。地球重力圏での王族親衛隊の発言力は宇宙ほどではない。地球の流儀に任せるとしよう」

 

『では敵の本丸は』

 

「潰せ」

 

《パラティヌス》の一斉掃射をしかし、防衛したのは《サードアルタイル》が新たに張ったパーティクルビットの虹の皮膜である。

 

「無駄な事をしないほうがいい。ファム。お前の力はそんな事に使うものでもない。もっと成すべき事を理解して行動すべきだ。それこそが自分の見出した力なのだから」

 

『大佐、敵は攻勢を防衛。どういたしますか』

 

「物量戦に打って出ればこちらの勝利は揺るがない。このまま押し返す。しかして、残念だよ。月の聖獣がこうも呆気なく沈むと言うのは」

 

《パラティヌス》の一斉掃射が引き続き虹の皮膜を押し返していく。

 

《サードアルタイル》の防衛網でも維持し切れないのか、いくつかの光条がヘカテ級に突き刺さっていた。

 

 黒煙が上がる中、ジオは手を払う。

 

「《サードアルタイル》の装甲は現行人類では突破出来ない叡智。しかし、その守っている艦隊は紙切れ同然だ。そのまま攻撃を続行。なに、守るものがなくなれば少しは冷静にもなるはずだ」

 

『了解しました。《パラティヌス》、攻撃続行。このまま《サードアルタイル》本体ではなく、艦隊への攻撃として砲撃網を――失礼、何だ、この高周波は……』

 

 不意に通信網に焼き付いてきた高周波の音叉が王族親衛隊の隊列を乱す。

 

 ジオはその高周波が何を意味するのかを理解していた。

 

「いけない。全隊列、警戒を厳に。これは、ダレトからの干渉波だ」

 

『……干渉波……! しかし、これまでモニターされたようなアステロイドジェネレーターへの異常はみられません。これは、どういう……』

 

「遅いか速いかだけの違いだ。――来る」

 

 何が、と言う主語を明瞭化する前に、影がまず現れていた。

 

 続いて影が実像を持ち、そのまま事象平面へと実体化する。

 

 驚嘆すべきであったのは、その総数だ。

 

『……何だこれは……。新造艦に、護衛艦……データ照合……騎屍兵の師団だと……!』

 

 ジオは余剰装甲を払い、出現した敵勢と向かい合う。

 

《ラクリモサ》の赤い装甲が光を照り返し、影より現れた鉤爪を擁する機体を照準する。

 

「生きていたか。――エージェント、クラード」

 

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