機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第184話「敵について」

 

「アルベルトさん……? ええ、そうですね。ですが、我々は困った事に、現状ではあまり手出し出来ないんです」

 

「手出し出来ない……? ピアーナのモルガンか」

 

「それだけではありません」

 

 咳払い一つでこれまでの憂いを打ち消し、シャルティアは端末に現在状況を表示させる。

 

 そうやって弱さを切り上げて自分なりの強さを出すところも、ラジアルにそっくりであった。

 

「……現海域上のパワーバランスです。これに関して、レミア艦長他、メインクルーが交渉に立ったのがつい三十分前」

 

「……何だってんだ、こりゃあ……」

 

 思わず絶句する。

 

 位置情報に映し出された艦艇の数もそうだが、敵対組織のマーカーを配された相手の情報は驚嘆に値するものであった。

 

「……モビルフォートレス……嘘だろ、聖獣……」

 

「私も嘘だと信じたいのですが、事実のようです。MF03、《サードアルタイル》は反政府組織、ネオジャンヌの旗印として、屹立し、そのパイロットは……私は顔馴染みがないのですが、ヴィルヘルム先生はアルベルトさんなら分かるって……」

 

 続いて克明な映像にアルベルトは息を呑む。

 

「……こいつ……ファム、なのか?」

 

「やはり、知っておられるんですね? この人物は何者なんです? 現状、私にはファム・ファタールと言う名前と、そしてベアトリーチェの、クルーであったと言うログしか許されていません……」

 

「何でファムが……? いや、そもそも……MFのコックピットってこたぁ……」

 

「ええ、現在、MF03は彼女の手のうちというわけです」

 

 全てが不明瞭な中で、ファムが《サードアルタイル》のパイロットである、という確定情報だけが流れていく。

 

 しかし見極めなければいけないはずだ。

 

 そうでなくては、自分達の月航路も意味をなくす。

 

「……シャル。ファムに関しちゃ、オレも知ってる事は少ねぇ。こいつは元々、クラードが拾って来たんだ」

 

「クラードさんが? 拾ったって……」

 

「言葉通りの意味さ。宇宙暴走族気取っていた頃に……こいつが、落ちてきて……」

 

 そうだ、何故これまで疑問に思わなかったのだ。

 

 ――全てはファムが始まりだったのではないか。

 

 軍警察が「パッケージ」と呼んでいた事、そして幾度となくベアトリーチェは数多の勢力に狙われ続けてきた。

 

 それらの原因は全て、ファム一人の確保にあったのだとすれば。

 

 点と点が繋がる。

 

 最初から、ファムは重要人物であった――。

 

「……だが、嘘だろ。ファムが最初から……MFのパイロットだったって、知っていた陣営が居るってのか……?」

 

 そう考えなければ説明がつかない。

 

 だが、どの陣営だ、と思案を巡らせても答えがそう容易く浮かんでくるわけもなし。

 

 アルベルトはファムにしか見えない少女と、そしてその隣で拳銃を構える令嬢らしき少女を認める。

 

「……こいつは? 何者なんだ?」

 

「ネオジャンヌの頭目を名乗っているそうです。情報によると、名前はキルシー。――キルシー・フロイトを、名乗っていますが……」

 

「フロイト……? おい、そいつぁ……」

 

 シャルティアがゆっくりと頷く。

 

「……艦長の血縁者だそうです。これは事実確認済みの情報です」

 

「どう……なってんだ……。ファムがMFのパイロットってだけで混乱しそうなのに、艦長の血縁者……? 意味が……まるで分からねぇぞ……」

 

「それだけではありません。これはアルベルトさんを混乱させるだけと思われるかもしれませんが、既に厳命が下りています。……《ダーレッドガンダム》を、クラードさんをあそこまで追い込んだのは、王族親衛隊所属、《ラクリモサ》。万華鏡の、ジオ・クランスコールです」

 

 後頭部を鈍器で殴りつけられた気分であった。

 

 眩暈の只中でアルベルトは事実確認を行う。

 

「……待て、待ってくれ。ファムがMFのパイロットで、その……《サードアルタイル》はネオジャンヌに与してるのか? その頭目が……艦長の血縁者? んで、クラードをやったのが、あのジオ・クランスコールだと?」

 

「信じられないかもしれませんが、事実です。……でも、疑問はありますね。どうして……王族親衛隊ほどの人間が、この地球圏に降りて来たんでしょう……。その意味がまだ……」

 

「シャル。こいつぁ何だ? 海底火山でも噴火したのか? アンノウンってなってるが……」

 

「これは……我々も関知出来ない領域なのです。走査は行っておりますが、全ての権限を拒んでいて……重力異常が巻き起こっている事と、そして何らかの爆心地だと考えられるんですが……」

 

「爆心地? おいおい、この期に及んで新兵器だとかはなしで頼むぜ」

 

「私もそう思いたいんですけれど……ブリッジから伝令は未だ届かず。という事は、この未確認事象は解明されていない、という事でしょうね……」

 

 アルベルトは一度、壁に体重を預けてから、ふと天井を仰ぎ見る。

 

 全ての事象は重なっている――否、重なるべくしてこの時を迎えた、と考えるべきだろう。

 

 そしてそれら全ての中心軸にあるのは間違いようもなくあの機体――《ダーレッドガンダム》。彼の機体は一体何を暴いたのか。

 

「……オレの出来の悪い頭じゃ、分からねぇ事だらけだが、確かな事ならいくつかある」

 

「大丈夫ですか? ……やはり、まだ無理をすべきでは……」

 

「いや、オレはどうせ出れねぇんだ。なら考えくらいは巡らせておくべきだろ。兵士であってもな、納得出来る戦場で戦いたいのが本音ってもんだ。……しかし、まさかファムが……《サードアルタイル》のパイロットだって……? んなもん、信じろってほうが……」

 

「ですが、事実なんです。……事実だから、性質が悪いのかもしれませんが……」

 

「ああ……そうだな。まるで悪い夢だ。にしたって、MF相手に艦長達は交渉事に移ったって事なのか? それはあまりにも……」

 

 あまりにも報われるものは少ないが、自分が眠っている間に起こった事実としては辛いものがある。

 

 ゆえにこそ、次の戦場に出られないのは歯がゆかった。

 

「艦長達がせっかく、切り開いた戦場に、オレは出られねぇのかよ……」

 

「アルベルトさん、無理だけは、しないでください。これは委任担当官としてだけじゃなくって……その、シャルティア・ブルームとしてのお願いです」

 

 そう言われてしまえば、自分は承服せざるを得なくなる。

 

 つい先刻までの覚悟が逆に足を止める事になるなど。

 

「……それにしても、その爆心地っての、どう考えたって怪しいじゃねぇか。王族親衛隊が出張っているのも気にかかる……。シャル、ちょっと調べを尽くせねぇか?」

 

「……私の権限では、これ以上の捜査能力は……」

 

「そうじゃねぇ。あの爆心地そのものを調べるんじゃなくって、前後関係だ。まず一つ、何故、オレ達は地球重力圏に空間転移……そうだな、空間転移としか思えない事になっちまったのか」

 

「それは……前後の事象を鑑みるに、《ダーレッドガンダム》が何かをしたとしか……」

 

「それだよ。《ダーレッドガンダム》がどれだけ化け物みたいな性能って言ったって、艦隊クラスを空間転移させられるほどの力とも思えねぇんだ。……どこかにカラクリがあるはず……」

 

「そう言えば、地球重力圏に落ちた際に、敵方も友軍も、どちらもアステロイドジェネレーターがダウンしました。これがもしかして……関係があるのかも……」

 

「博打でも賭けるしかねぇってこった。その線で第一の疑問は調べていくか……。あの戦闘宙域に集まった、アステロイドジェネレーターの状態異常……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! まだ疑問点が?」

 

「当たり前だろ。そもそも、だ。《サードアルタイル》が月のラグランジュポイントを離れた理由だよ」

 

「それこそ、空間転移だって言うんじゃないですか?」

 

「理由もないのに、これまで静観を貫いてきたMFが唐突に地上に現れるとは思えねぇ。事が起こる前に、何かがあったはずだ。シャル、報道とかに管制がかかっていないなら、地球圏のニュースは見れるな?」

 

「え、ええ……でもめぼしい情報は既に手に入れた後ですけれど」

 

「それでもいい。何か……情報源があるはずだ……」

 

 シャルティアから端末を受け取り、アルベルトは調べを尽くす。

 

 エンデュランス・フラクタル製の情報集積端末だ。通常の報道では隠されていてもサーチエンジン次第では垣間見える真実もあるはず。

 

 アルベルトはエージェントとして腕を磨いてきたこの三年間を思い返し、MFが出現する要因を探る。

 

「MFレベルの戦力が降りて来るって言う理由は、限られてくるはずだ。何か大きな集まりでもあったか、あるいは政府要人を狙っての誅殺計画……直近レベルの事象を調べてやれば……っと。これ、か?」

 

「何か出ましたか?」

 

 アルベルトは胡乱そうにしつつも、情報を読み上げる。

 

「……貴族階級の地球圏での社交界……? 一昨日の情報だが……」

 

 いや、まだだ、とアルベルトは情報の内海へと潜っていく。

 

「社交界……へとMFが強襲を掛けて来た可能性……何でこれまでは大人しかったんだが、って話だが……この機を狙う理由があったとすれば……」

 

「要人の参加……とかでしょうか?」

 

 こちらの顔色を窺うシャルティアに、アルベルトは脳内で閃くものを感じていた。

 

「いや、だがしかし……あり得るとすりゃあ……。シャル、社交界に参加していた貴族のリストアップ、出来るか?」

 

「……少し時間がかかるかもしれませんけれど……」

 

「出来るんならやっておいてくれ。……もしかしたらオレは……とんでもねぇ見落としをしているかもしれねぇ。それに、因縁の落としどころもな」

 

 こちらの言葉を承服し切っていないシャルティアを他所に、アルベルトはその因果の果てを見据えていた。

 

「……MFが狙う、この地球の頭目が居るとすりゃ……限りなく近い位置に、奴が居るはずだ……ディリアン……!」

 

 

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